『マスター、ちょっといい?』
「……ん、どうしたの」
とりあえず現時点でわかっている事だけまとめた報告書を公安へ送信し、そろそろ寝ようかとパソコンの電源を落として寝る準備をしていた私に、スマホの画面にひょっこり現れたメティスが話しかけてきた。
『警備システムが異常検知。内容は生徒の時間外活動。場所はグラウンド・
「寮生活始まってすぐのこの時期に? 一体誰が……」
メティスが掌握する警備システムの異常検知に一瞬身構えるものの、対象が生徒だと聞いてすぐに脱力する。人騒がせというか、好奇心旺盛なのか何なのか。一瞬、内通者の隠密行動、という言葉が頭をよぎるが、すぐに首を振った。いくらなんでもそれは間抜けすぎる。本当の内通者はさすがに、そんな目立つような迂闊はしないだろう。
そう考えて誰の仕業か訊ねると、画面の中の義兄によく似た美少年は演技がかった仕草でやれやれとため息をついた。
『警備ロボの顔認証システムログには、A組のミドリヤイズクとバクゴウカツキの名前が挙がってる』
「……は? あの二人? なんでまた……っていうか、元気だな……」
メティスの返答に、思わず面食らった。
仮免試験後で疲れてるだろうに、あの組み合わせで夜間に出歩くという状況が謎すぎる。しかもグラウンド・βといえば、最初の戦闘訓練で二人がぶつかった場所では。
「ただ夜歩き……ってわけじゃないよね?」
『喧嘩? っぽいよ。バクゴーが一方的に仕掛けたけど、途中でミドリヤもノッてきた感じ。警備ロボがイレイザーに通報済みだけど、向かってるのはオールマイトだね』
メティスの背後にリプレイのような短い中継動画が流れる。殴る蹴るに爆破、勢いと威力から見て、本気の喧嘩じゃないか……。
「……」
『どうする?』
「……放置で」
数秒考えた後に手を出さないという結論に至った私に、メティスがはぁい、と返事をしながら中継を消した。
『マスターが行ったら余計ややこしいし、怪しまれるもんね』
「君のことは校長先生にしか話してないからね」
私が超高性能AIのメティス、フギンとムニンを所持していること、メティスで雄英のセキュリティ強化をしていることは根津校長にしか話していない。彼らの存在はある意味切り札であり、存在を知られないことこそがアドバンテージだ。ただの一学生がそんなことまで出来はしないという常識による盲目を利用し、情報的優位を相手に悟られないようにするための。
そのため、これだけはオールマイトや塚内さんにも打ち明けていない。オールマイトはうっかり誘導尋問なんかに引っかかりそうだし、グラントリノなど相手を選んでいるとはいえ、私の知らないところで私の事情を共有している場合があるので、どこから情報が漏れたか私が把握できないのが痛い。
塚内さんも似たような理由だ。私の保護者代わりであり、担当刑事とはいえ、上から求められたら情報を開示せざるを得ないだろう。それなら、初めから知らない方がお互いのためだ。信頼していないわけじゃないが……この件はデリケートすぎて明かさない方が得策だと思ったのだ。
また、メティスが管理する警備プログラムを雄英のセキュリティに導入する際に、パワーローダー先生に私がプログラムを開発したことは伝わっても、メティスの存在そのものは伏せることになっている。
根津校長も、「君自身の優秀さだけでなく、自分で判断して情報を掻き集め、ハッキングもできるAIを作れると知られたら、ヴィラン連合だけでなくありとあらゆるヴィラン組織から狙われてしまうからね」と同意してくれた。私のせいで余計に雄英がターゲットになるのは避けたいだけに、彼らの存在はトップシークレットだ。
……公安へは、折を見て話す可能性はあるが、お互いに信頼関係のない今は、伏せておく手札のままでいい。向こうにも内通者がいる可能性が浮上してきた事を考えれば、判断は間違っていなかったのだろう。
というわけで、今の状況でケンカのことを知らないはずの私がひょっこり現れるのは、かなりおかしいことになる。オールマイトや相澤先生に要らない疑念や心配を掛けるのは本意でないし、先生たちに任せておけば、あの幼馴染も大丈夫だろう、恐らく。
そう結論づけたところでストレッチを終え、ベッドへと身体を滑り込ませた。
「おやすみ」
『おやすみ、マスター』
原作だと重要回ですがぶっちゃけ介入する理由がないのでスキップスキップゥ!