次なるは①
始業式だけで一悶着あったが、その後は特に絡まれることもなく教室に戻った。
「じゃあまァ……今日からまた通常通り授業を続けていく。かつてないほどに色々あったが、うまく切り換えて、学生の本分を全うするように。今日は座学のみだが、後期はより厳しい訓練になっていくからな」
「話、ないねぇ……」
相澤先生の話の途中、私から見て教室のちょうど反対側、廊下側の列にいるミナが、後ろの梅雨ちゃんにこそりとなにか耳打ちするのがふと見えた。
だが、そんな内緒話を見逃す先生ではない。ぞわり、と相澤先生の髪の毛と捕縛布が宙に浮くほどのプレッシャーが放たれる。
「何だ芦戸?」
「ヒッ! 久々の感覚!」
「ごめんなさい、いいかしら先生」
そんな二人のやり取りの中、挙手してから話しだす梅雨ちゃんに、教室中の注目が集まった。
「さっき始業式でお話に出てた『ヒーローインターン』って、どういうものか聞かせてもらえないかしら」
その一言を皮切りに、静かだった教室のあちこちで声が上がった。
「そういや校長が何か言ってたな」
「俺も気になっていた」
と話すのは、私の隣の瀬呂くんと、その後ろの常闇くん。
「先輩方の多くが取り組んでらっしゃるとか……」
とモモも挙手して発言するあたり、みんな、インターンの話には興味を持っていたらしい。私もその一人ではあったが、相澤先生ならしかるべき時に話してくれるだろうとあまり気に留めてはいなかった。理由も無く話題を口にしない人ではないから。
興味津々です、という生徒たちを前に、「それについては後日やるつもりだったが……そうだな、先に言っておく方が合理的か」と、相澤先生はボサボサの髪をわさわさと引っかき回しながら呟いた。
「平たく言うと、『校外でのヒーロー活動』。以前行ったプロヒーローの下での職場体験……その本格版だ」
「はぁ~……そんな制度あるのか……、……」
相澤先生の説明にあちこちから、へ~と声が上がる中、お茶子が急に勢いよく立ち上がった。
「体育祭の頑張りは何だったんですか!??」
「確かに……! インターンがあるなら、体育祭でスカウトを頂かなくとも道が拓けるか……」
5月に行われた体育祭、その説明時に相澤先生は、プロヒーローから指名を受けられる「計三回のチャンス」と言っていた。だが、インターンという別枠の活動があるのなら、そもそも体育祭での指名はなんだったのか、とお茶子と飯田くんは言いたいのだろう。
私や爆豪、轟のように指名票が集中した生徒はともかく、惜しくも騎馬戦やトーナメントで脱落し、指名が入らなかった子は、雄英が用意したリストのヒーローの下へ行っていた。だが、インターンで自分の希望に近い他のヒーロー事務所を選べるのであれば、確かに体育祭での頑張りの意義は微妙なものになる。
まー落ち着けよ、うららかじゃねえぞと窘めるお茶子の隣の砂藤くんと、しかしぃ! と食い下がるお茶子の様子を見ながら、無理もないと苦笑する。ヒーローになってお金を稼いで、親に楽させてあげたいと思うお茶子だからこそ、体育祭での勝ちたい気持ちは人一倍だった。
有名なヒーローの指名を受けられれば、当然受けられる指導や体験はハイレベル。校外活動の成果によっては、有名ヒーローからのヘッドハンティングや青田買いがあることもあり、その足掛かりになる体育祭は全員が真剣に上を目指したのだ。
職場体験で、ガンヘッドの所で近接格闘を学べたことは無駄ではなくとも、選べる事務所がインターンの方が上なのであれば、5月の体育祭の意味が無くなってしまうが……。
「
そこは雄英、体育祭や職場体験と無関係ではないと相澤先生は説明してくれた。
授業の一環であれば、指名の無い子もきちんとヒーロー事務所で体験できるよう、学校側がきちんとサポートを入れないといけないが、生徒の希望で行われるのがインターンならば納得だ。若干お客様扱いの面が大きかった職場体験とは異なり、インターンの目的は恐らく、「校外で実際の現場に立って、実戦経験を積むこと」だろう。
授業ではないのなら、達成すべき課題も目標もない。それら全てを自分で考えた上で、プロヒーローの下で学びたい者は学べ、という、向上心ある者は更に上を目指せるシステムを用意している所は、さすが雄英。「Plus Ultra」を校訓に掲げているだけある。
体育祭の場で実力をプロヒーローにアピールできなければ、多忙なプロヒーローから「うちにおいで」と誘われる機会は無いに等しい。生徒の希望とプロヒーローからのスカウトが噛み合わなければ、そもそも成り立たないのがインターン、ということだ。
「元々は各事務所が募集する形だったが、雄英生徒引き入れのためにイザコザが多発し、このような形になったそうだ。わかったら座れ」
「早とちりしてすみませんでした……」
「仮免を取得したことで、より本格的・長期的に活動へ加担できる。ただ、一年生での仮免取得はあまり例がないこと、
ふと、相澤先生と視線が合う。すぐに自然に逸らされたので、合ったと思ったのはほんの一瞬だったが、怪訝に思うには十分な一秒だった。
「……?」
「まァ、体験談なども含め、後日ちゃんとした説明と今後の方針を話す。こっちも都合があるんでな。
じゃ……待たせて悪かった、マイク」
「一限は英語だ――! すなわち俺の時間! 久々登場俺の壇上! 待ったか
「はーい」
バーン、と派手にドアを開けたプレゼント・マイクの勢いに流されるまま、英語の授業が始まる。英語のテキストを開き、万年筆のキャップを開けながら、相澤先生のあの視線は何だったんだ? と一人小さく首をひねった。