人魚姫は英雄の夢を見るか?   作:一星

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Trinity①

「あの……マジすか」

「マジだよね!」

 

 所変わって、体育館γ(ガンマ)。体操服に着替えて移動した私たちA組は、コンクリートの岩山地帯を背に屈伸などの準備運動をしているミリオ先輩から、ひとかたまりになって距離を置いていた。

 

「ミリオ……やめた方がいい。形式的に『こういう具合でとても有意義です』と語るだけで充分だ」

「遠っ」

「タマキ先輩、そろそろ壁と話するのやめましょうよ……」

 

 そこから更に離れて、ひとりぽつんと壁に向かってボソボソ喋っているタマキ先輩。

 

「皆が皆、上昇志向に満ち満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」

「え……」

「あ、聞いて、知ってる。昔挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって、問題起こしちゃった子がいたんだよ、知ってた!? 大変だよねぇ、通形、ちゃんと考えないと辛いよ、これは辛いよ~」

「おやめください……」

 

 そのタマキ先輩のこちらを慮る言葉と、挫折前提で話をするねじれ先輩。ねじれ先輩はミナの角をびよんびよんと揺らすように弄りながら喋っているとはいえ、中々に厳しい意見だ。1対20人という状況にも関わらず、「君たちは通形ミリオに勝てない」と言われているようなものだ。

 だから当然、それにムッとする子は出てくる。

 

「待って下さい。我々はハンデありとはいえプロとも戦っている」

「そして、ヴィランとの戦いも経験しています! そんな心配されるほど……俺らザコに見えますか……?」

 

 静かに食って掛かる常闇くんと切島くんに、ミリオ先輩はにこっと笑った。

 

「うん、いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だ!?」

「俺が……! 「僕……行きます!」意外な緑谷!!!」

 

 一番手を宣言した切島くんに被せるように、前のめりで声を上げたイズクにお、と目を瞬かせる。三日分の遅れを取り戻すと宣言した通り、気合い充分らしい。

 一触即発の雰囲気の中、相澤先生が声を張り上げた。

 

「お前ら、良い機会だ、しっかり揉んでもらえ!」

 

「問題児! いいね君、やっぱり元気があるなあ!」

「(雄英トップの人……手合わせ願えるなんて願ってもない話だ、雄英トップと今の僕、距離はどの程度か……!!)」

 

 グッ、と大きく踏み出した足に体重を掛けて低く構えるイズクの周囲に、ワン・フォー・オール発動の緑の電流が走る。

 

「近接隊は一斉に囲んだろうぜ!」

 

 イズクを筆頭に、近接メインのクラスメイトたちがミリオ先輩を取り囲むように少し広がって位置取りし、その後ろに支援メインや遠距離攻撃を得意とする面々が控えた。

 そんな中、私は輪には加わらずに黙って壁際に寄った。近くにいたクラスメイトたちや相澤先生には不思議そうな顔をされたが、気付かないふりをしておく。自分が大多数側だとフレンドリーファイアの危険が高い轟も、とりあえずは様子見なのか、私から数歩離れた壁際に立ったまま、構えもせずに佇んでいた。

 1人対19人の奇妙な構図の中、A組全員がそれぞれに構えを取った。

 

「よっしゃ先輩! せっかくのご厚意ですんで、いっちょご指導ぉー……よろしくお願いします!!!」

 

 が。

 

 切島くんの威勢の良い声を狼煙に、イズクが思いっきり地面を踏み切った瞬間、ハラッ、とミリオ先輩の服が下着を含めて全部、その身体からすり抜けて落ちた。

 

「うわあああ――――!」

「今服が落ちた(・・・)ぞ!?」

「あぁ失礼、調整が難しくてね!」

 

 悲鳴を上げて顔を隠すキョウカ、ツッコミを入れる瀬呂くん。そんな中、いそいそとズボンを履く隙だらけの先輩。そこへ蹴りのモーションに既に入っているイズクの足が先輩の顔面を狙うが――スカッ、と足は頭部をすり抜け、手応えなく空振りしたイズクはミリオ先輩の背後に着地した。

 ……うん、やっぱりイズクに直接蹴りの指導した方がいいな、踏み切りから着地まで、筋肉の使い方がなってない。OFAの出力でいつまでもあんな蹴りをしていたら、そのうち筋を傷める。

 

「(やっぱり……すり抜ける個性! すごい個性だ、どうする――)」

「顔面かよ」

 

 遠慮のない先制攻撃に呟いた先輩の顔面に、瀬呂くんのテープ、ミナの溶解液、青山くんのネビルレーザーが迫るが、ミリオ先輩の顔面に到達した途端、マジックのようにすり抜けていく。目標を失った個性たちが地面に激突して土埃を上げ、ミリオ先輩の姿が一瞬見えなくなった。

 

「!? いないぞ!!」

「まずは遠距離持ちだよね!」

「!?」

 

 さっきまでいた場所から先輩の姿が消えたかと思いきや、一番最後尾にいたキョウカの背後へ突如現れた先輩。再びキョウカの悲鳴が響き、前方に伸ばしていたイヤホンジャックを素早く巻き取って先輩にぶつけようとするが、それより速く先輩の拳が腹部に沈む。

 

「ワープした!?」

「すり抜けるだけじゃねえのか!? どんな強個性だよ!」

 

 初見で説明のつかない個性の使い方を見せられ、動揺が広がりながらも前衛にいた近距離の面々が後方へ走るが、その間にミリオ先輩がワープしてどんどんとモモ、障子くん、常闇くん、瀬呂くん、青山くん、ミナを沈めていく。

 

「(違う……ミリオの個性は決して羨まれるものじゃない。ひがむべきは、その技術だよ一年坊。スカウトを経て、あるヒーローの下でインターンに励み、ミリオは培った……!)」

 

 遠距離持ち9人を沈めるのにわずか4秒。たったそれだけの時間で、反撃を許さない猛攻でクラスメイトの半分を沈めた彼は、ズボンをしっかり履いてから「POWER!」と近接隊に向けて笑いかける。さあ次は君たちの番だと問いかけるように、どこか不敵な笑顔で。

 

 

「通形ミリオ……あの男は俺の知る限り、最もNo1に近い男だ。……プロも含めてな」

 

 壁際に佇んでいた相澤先生が素直にミリオ先輩を高評価するのに目を丸くする。

 

「一瞬で半数以上が……! あれがNo1に最も近い男……」

 

 ゴクッ、と私の隣で固唾を呑んだ轟だが、動こうとはしない。これまでだったら真っ先に氷結繰り出しに行ってるだろうに、珍しい。

 

「…………轟、星合。お前たちは行かないのか? 轟はNo1に興味ないわけじゃないだろ」

 

 いつまでも戦闘の構えを見せずに静観しているのが気に掛かったのだろう。ちらりと視線を向けられた私たちは一瞬視線を見合わせた。

 

「俺は仮免取ってないんで……」

「(丸くなりやがって)」

 

 何で行かないのかと思えば、そういう理由か。疑問が解けて苦笑する私に、相澤先生と轟がお前は? と目配せしてくるのに気付き、小さく肩をすくめた。

 

「私は何回かミリオ先輩と個性ありで手合わせしてもらってるので。私が今行くと、ミリオ先輩が伝えようとしてることを邪魔しそうなので、ネタバレは後でもいいかなと」

「……そうか」

 

 ミリオ先輩の意図が、他のクラスメイトたちが先輩の個性を評価する素直な感想を聞いているうちになんとなく読めてきた。確証は無いが……おそらく私の想像は間違ってはいないだろう。

 私の理由を聞いた相澤先生が瞑目する。再びミリオ先輩たちへ視線を向けた私を、すぐに目を開けた相澤先生が見ていたことには気付かずに。

 

「(……あえては言わんが、通形ミリオと同様に、お前もNo1に近い人間だぞ、星合)」

 

 

 

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