「遠距離はこれで全員! あとは近接主体ばかりだよね」
「何したのかさっぱり分かんねえ!」
「すり抜けるだけでも強いのに……ワープとか……! それってもう、無敵じゃないですか!」
「よせやい!」
一瞬で半数を倒した先輩に気圧される近接隊。その言葉に、壁から離れないタマキ先輩の表情が曇ったように見えた。
「(無敵か……その一言で君らのレベルは推し量れる。例えば……素人がプロのボクサーなんかの技術を見ても、何がスゴいのかすら分からないように。ミリオがしてきた努力を感じ取れないのなら、一矢報いることさえ――)」
「何かからくりがあると思うよ!」
諦めムードが漂う場を、張りのあるイズクの声が切り裂いた。その声に諦念など微塵もなく、むしろ先輩の個性を読み解こうとする意欲に満ちていた。
「『すり抜け』の応用でワープしてるのか、『ワープ』の応用ですり抜けてるのか……どちらにしろ直接攻撃されてるわけだから、カウンター狙いでいけばこっちも触れられる時があるはず……! 何してるかわかんないなら、わかってる範囲から仮説を立てて、とにかく勝ち筋を探っていこう!」
必死に思考を回しながら皆を奮い立たせるイズクに、私は流石、と呟いた。
戦闘で一番ダメなのは諦めによる思考停止だ。そうなったら最後、待つのは敗北か死だ。当然だ、思考停止すれば動きが鈍る、隙が出来る。圧倒的な実力差を前にそうならないことは難しいが――それが出来なければ、生き残るのは難しい。
「おぉ、サンキュー! 謹慎明けの緑谷スゲー良い!!」
「だったら、探ってみなよ!」
駆け出した先輩の身体が、フッと地面に吸い込まれるように沈む。ズボンがその場に置き去りにされながらも、その屈強な体躯が完全に地面の中に隠された。
「!! 沈んだ」
そして再び現れるのは――イズクの背後。反応できずに腹パンで沈むかと思いきや、先輩を見ることなく、イズクは片足を後ろに振り上げた。
「(反応じゃない……俺がここに現れるのを予測した!?)」
「(なるほど、さっきの攻防で先輩の得意パターンが最後尾の人間を背後から一撃で倒すものだって分かった上で、上手く引きつけたな)」
振り返るよりも、視線で捉えるよりも速く振り抜かれた右足。先輩の顔面を狙ったその一撃が当たる、と思われた瞬間、その足をミリオ先輩の腕が突き抜け、ぐんとその身体が急激に低く沈んだことで、蹴りは空を切った。そして、伸ばされた腕はイズクの顔面へ吸い込まれる。
「だが必殺! ブラインドタッチ目潰し!!」
目のすぐ近くに物体が迫ってくると、人間は本能的に、眼球という人体の中で表面に出ているやわらかい急所を守るため、反射的に目を閉じてしまう。ミリオ先輩が本気で目潰しをすることはないのだが、頭で分かっていても人間は本能的な反射を押さえ込むことはできない。それが身体の保護機能だからだ。
目潰しをされると意識ではなく本能で反応してしまったイズクの瞼と頭部を指がすり抜ける。そして、すり抜けた指とは逆の手が、素早くイズクのみぞおちを打ち抜いた。
「グッ……!!」
「ほとんどがそうやってカウンターを画策するよね。ならば当然! そいつを狩る訓練! するさ!!」
「緑谷くん!?」
「通形さぁー、ねえ、ねえ聞いて通形さー。強くなったよね」
「ミリオは子どもの頃から強かったよ。ただ……――加減を覚えた方がいい」
振り向いたら、さっきまでそこには居なかったはずの人影がある、というのは中々ホラーな図だ。次々とクラスメイトたちが腹を抱えて、くの字に倒れ込んでいく。
迅速かつ的確に、残っていた全員を腹パン一撃で伸していく先輩が、最後の一人の砂藤くんに拳を入れたと同時に、私はつま先に力を入れ、地面を蹴った。
「!」
「(……相変わらず音もなく滑らかに移動しやがる)」
一拍遅れて、ビュン、と駆け抜けた風が相澤先生と轟の髪や服をはためかせる。二人の間に居た人物が一瞬のうちにその場から消えたのを見て、視線は自然とミリオ先輩の所へ静かに肉薄した私へと戻った。
背後の死角から首への上段蹴りを仕掛けるが、す、と小さく息を吸い込む音が聞こえた。あぁ気付かれてるな、これは。
「最後に君が来ると思ってたんだよね」
その予想通りに、足の甲がその首筋を通過して空を切った。同時に半身で振り返った先輩が笑顔で、私のがら空きの胴へと拳を叩き込んでくる。その拳が胴に触れる直前に、庇うように滑り込ませた左手から『
透過が間に合わなかったのだろう。先輩の拳が、あまり硬度を重視させていない、割らせる前提の氷の盾をぶち破る。八枚のうち二枚を一度に砕かれるが、三枚目からその拳が透過するのをいちいち見届けるような悠長なマネはしない。地面に仕込んでいた血を発動させ、先輩の両足に
が、そう簡単に捕まってくれる先輩ではない。透過させていない両足を囚われそうになっても、慌てず騒がずだ。にまっと笑って全身を透過させることで捕縛を逃れ、地面に沈む先輩に、私もバックステップで拳の軌道から身体をずらしながら、ほほえみ返す。
「ほんっと、気配も音もなさすぎるよね! 君は!」
「先輩も相変わらず、ゾッとするほど精密な個性操作なことで。心臓に悪いです」
「そこはお互い様だよね!」
私から少し離れた地面からにゅっと顔を出した先輩の腕が、地面に置き去りにされていたズボンを掴み、飛び出てくるのを察知して目を逸らす。
お互いにある程度、手合わせで相手のパターンを知り尽くしているので、この後10分ぐらい千日手状態になるのが分かっている以上、手合わせを続行したりはしない。
というか続行すると、私が必然的に先輩に透過を
……うん、私自身は育った環境が環境だし、なんならザップを愛人のところから引きずり出すために、あの愚弟の全裸など何度か見てるわけで、そこら辺の羞恥心が変に死んでいるのか特に何も思わないとは思うのだけど。
そうはいってもミリオ先輩は気にするだろうし、見られるのは個性の都合上、多少承知の上でも嫌な気持ちにならないわけがない。あと普通に、クラスメイトたちが地面に沈んでいるとはいえ、ミリオ先輩を露出狂にするわけにはいかないので。
ミリオ先輩が普通の体操服じゃなく、肉体と一緒に透過できるヒーローコスチュームの下だけでも履いていてくれたなら、まだしばらく読み合いとスパーリングができるのだが。まぁ、授業の残り時間的にこの程度が限度だろう。
「ねえねえすごいねえ千晶ちゃん、通形と近接でやり合えるのすごいよー! どうやってるの!?」
ミリオ先輩の着替えと、あと地面に伸びているクラスメイトたちが起き上がるのを待ちながらぽけっと考え事をしていたら、壁際で見守っていたねじれ先輩が飛びついてきた。人なつこいねじれ先輩に抱きつかれるのは嫌じゃないのだが、ぎゅむぎゅむと抱きつかれると話しづらい。やんわり束縛をほどきつつ、ネタバレになるんでその説明はあとで、と先輩を宥めた。
全員が腹を押さえつつ立ち上がったところで、すっかり服を着たミリオ先輩がにこやかに笑った。
「ギリギリちんちん見えないよう努めたけど! すみませんね女性陣! ……とまぁ、こんな感じなんだよね!」
「わけもわからず全員腹パンされただけなんですが……」
こんなにA組が全員揃って顔真っ青のグロッキー状態なのも珍しい。ミリオ先輩加減ゼロだったから無理もないけれど。
先輩は個性が個性なので、攻撃力は先輩の身体能力依存になる。ビッグ3に数えられるほど努力を重ねた先輩の、鍛え抜かれた全身から放たれる鋭いブローは、かなり効く。私もノーガードで食らったら彼らと同じ状態になっただろう。牙狩りなので肉体のポテンシャルは一般人より遙かに高いのだが、一番ガリガリだった時期に戻されているので私自身はかなり紙装甲である。生身に攻撃が届く前に避けるか
「俺の個性、強かった?」
「強すぎっス!」
「ずるいや私の事考えて!」
「すり抜けるしワープだし、轟や千晶みたいなハイブリッドですか!?」
わっ、と一斉に喋りだした瀬呂くん、トオル、ミナの言葉に、ミリオ先輩は「いいや、一つ!」と軽く手を振った。
「一つ……!?」
「私知ってるよ通形の個性! ねえねえ言っていい!? トーカ!」
「波動さん、今はミリオの時間だ……」
はいはーい、と元気よく挙手したねじれ先輩が無邪気にニコッと微笑む。そのまま説明したがるねじれ先輩を、未だに緊張するのか後ろを向いたままのタマキ先輩が制した。
「そう、俺の個性は『透過』。君たちがワープと言ったあの移動は、推察された通りその応用さ!」
「どういう原理でワープを……!?」
全部説明出来なくてムッとするねじれ先輩にごめんて、と軽く謝っているミリオ先輩の言葉に、イズクが手でメモを取るような動きをしながら、「どういう原理でワープを……!?」と訊ねた。
「全身に個性を発動すると、俺の身体はあらゆるものをすりぬける! あらゆる! すなわち、地面もさ!」
「あっ、じゃあ……あれ、落っこちてたってこと……!?」
「そう! 地中に落ちる! そして落下中に個性を解除すると不思議なことが起きる!
質量のあるモノが重なり合うことは出来ないらしく……
これがワープの原理。身体の向きやポーズで角度を調整して、弾かれ先を狙うことが出来る!」
「……? ゲームのバグみたい」
「アハハハ! イーエテミョー!!」
「攻撃を全てスカせて、自由に瞬時に動けるのね……やっぱりとっても強い個性」
「あ、梅雨ちゃん。多分それは違う」
ミリオ先輩の個性を強い、と言った梅雨ちゃんに、私はやんわりと否定した。え? という顔をしたクラスメイトたちの視線と、相澤先生の遠くから静かに観察する瞳と、先輩たちのどこか満足げな微笑みを一身に受けつつ、ミリオ先輩に視線を流せば、強い頷きが返ってきた。
「うん。星合さんの言う通り、強い個性に
発動中は肺が酸素を取り込めない。吸っても透過しているからね。同様に、鼓膜は振動を、網膜は光を透過する。あらゆるモノをすり抜ける、それは何も感じることが出来ず、ただ質量を持ったまま、落下の感覚だけがある……ということなんだ」
初めての手合わせの後に同じ話を聞いたとき、一歩間違ったらホラーな個性だなと思ったものだ。ミリオ先輩の場合は「弾かれた」からいいものを、地中で個性を解除したときに、その場にあるもの……地中であれば土やコンクリートを押しのけてそこに存在できてしまったら恐ろしい。すぐに透過して抜け出さなければ窒息するからだ。押しのけられなかったら、周囲のものが元に戻ろうとする反動で圧死する可能性もゼロではない。最初に試そうとした先輩の度胸というかチャレンジ精神が怖い。偶然うっかり出来てしまった可能性は大いにあるが。
ミリオ先輩の個性を見た時、私はチェインを思い出した。不可視の人狼という、彼女の種族的能力は自身に関わるあらゆる質量、感覚、存在、因果律を「希釈」するものだが、体調にその精度は左右される。体調最悪の時に、高度な存在希釈で壁のすり抜けをすると、上手くすり抜けられずに「混合死」すると聞いている。
混合死の詳細はチェインが語りたがらず、聞けずじまいだが、人狼局から人員を派遣してもらうために見せてもらったマニュアル曰く。恐らくは身体の一部を――たとえば内臓であったり肉体の一部を、すり抜けようとした物質の中に置き去りにしてしまうか、物質と自分の組織の境界線があいまいになって、混ざり合って抜けられなくなるとか……恐らくそういった類いの事が起きるのだろう。
だから、ミリオ先輩の個性の原理を聞いたとき、すり抜けが不発すると「弾かれる」か「ぶつかる」の二択らしいので、そういう事故の可能性はなさそうでほっとしたが……。どちらにせよ、物凄く精密な個性の扱いをしなければまともに実戦で運用できないピーキーさがあるのは、チェインや私たち牙狩りとさして変わらない。
「分かるかな!? そんなだから壁一つ抜けるにしても、片足以外発動、もう片方の足を解除しながら向こう側に接地、そして残った足を発動させてすり抜けといった具合に、簡単な動きにもいくつか行程が要るんだよね」
「急いでる時ほどミスるな、俺だったら……」
「おまけに何も感じなくなってるんじゃ動けねー……」
「そう、案の定俺は遅れた! ビリっけつまであっという間に落っこちた。服も落ちた。この個性で上に行くには、遅れだけはとっちゃダメだった!
予測! 周囲よりも早く、時に欺く! 何より予測が必要だった! そしてこの予測を可能にするのは経験! 経験則から予測を立てる!
長くなったけど、コレが手合わせの理由! 言葉よりも経験で伝えたかった! インターンにおいて我々は『お客』ではなく、1人のサイドキック!
それはとても恐ろしいよ、プロの現場では、時に人の死にも立ち会う……! けれど、怖い思いも、辛い思いも全てが学校じゃ手に入らない一線級の経験! 俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ! ので! 怖くてもやるべきだと思うよ、一年生!」
「(経験を、力に……!)」
力強く語ってくれたミリオ先輩に、クラスメイトたちは気迫に飲まれつつも鼓舞されたようだ。
「話し方もプロっぽい……」
「一分で済む話をここまで掛けて下さるなんて……!」
拍手が自然と沸き起こり、武者震いする者もいれば、職場体験のことを思い返す子もいた。
「お客、か……確かに職場体験はそんな感じだった」
「危ないことはさせないようにしてたよね」
「インターンはそうじゃないってことか……」
「覚悟しとかなきゃな……」
「上等だっての!」
「そうだよ、私たちプロになるために雄英入ったんだから!」
「上昇あるのみ」
「Plus Ultra、だね」
「(……早く仮免取らねえと、置いていかれちまう……!)」
インターンの経験を肌に感じたことで、ワイワイと盛り上がるクラスメイトたち。そこから離れた所に立ったままの轟がぐっと真剣な目つきになったのをふと見つけて微笑ましく見守っていたら、にゅっといきなり視界の中にねじれ先輩のどアップが映った。
「わ」
「ねえねえ千晶ちゃん! さっきも聞いたけど通形とどうやって近接で戦えてたの!? ねえねえ答えて、気になるの!」
「先輩、近いですって」
「波動さん、星合さんが困ってるよ」
ずずい、と鼻先がひっつきそうなほど迫ってくるねじれ先輩に、自然と私の背中が反る。同列に扱うのはどうかとも思うけど、夜嵐くん同様、こういう無邪気さとパーソナルスペースの狭さはドグを思い出してしまう。天真爛漫な美少女の顔面の眩しさにたじたじとしていると、見かねたタマキ先輩が声を掛けてくれた。ただし、ねじれ先輩は言葉を掛けただけで止まる人でもないのだが。
これは引いてくれないなと察した私は、助け船を求めてミリオ先輩に目配せした。
「あー……ミリオ先輩、喋って大丈夫です?」
「うん、問題ないんだよね! 何しろ星合さんの方法、説明しても簡単に真似できるものじゃないし!」
にぱっ、と破顔して快くサムズアップしてくれたミリオ先輩の了承も出たので、気になる……! と目を輝かせているねじれ先輩と、A組の皆に向き直った。
「まず前提として、ミリオ先輩に攻撃を当てるためには、透過されるより速く攻撃を当てないとダメですよね?」
ねじれ先輩たちがうんうんと頷くのを確認してから、続きを話す。なるべく手短に喋らないと授業終わるな。
「ただミリオ先輩は純粋な速さだけじゃなく、相手がどう動くかの予測の練度がすごいんで、透過される前に攻撃を当てるっていうのは言うほど簡単じゃないです。単純にスピードで上回っても、予測されて躱されたら意味が無い。
なので先輩に攻撃を当てるための正しい最低条件は『先輩の予測を上回って動く』になる。が、当然そこはミリオ先輩もカウンター殺しなんかで対策済み。
となると、先輩の予測を
私がさっきやったのは、ミリオ先輩の反応が間に合わないギリギリまで引きつけて、先輩の予測してくるだろうタイミングを緩急つけてずらしながら技を出して、反射的に個性のオンオフの選択を迫ってたんですよ」
フェイント、搦め手、ブラフ……そういったものを無限に組み合わせるように駆使して、先輩の透過のタイミングの合間を縫うように攻撃を畳みかける。顔面・胴・足払い、肩……といったように1カ所だけでは先輩に対応されるが、当たるタイミングを絶妙にずらしながら同時に複数箇所を攻撃すれば、先輩は取れる選択肢を強制的に絞らざるを得ない。
私はそもそも並列作業は得意中の得意なので、さっきのように蹴りを入れる直前に地面に血液を忍ばせて、蹴りが空振りしても左手で盾を起動しつつ地面の血で籠目を発動、なんて器用なことが出来るというわけだ。
「肺だったり網膜だったり、人間の性質上、ずっと一部分を透過し続けることはできない。だから身体の離れたパーツに同時に攻撃するのを連鎖的に多発させると当然、先輩は――」
「個性発動の息継ぎが多重になるから、当然ミスする時も出るんだよね! というか足縛られたら足を透過しなきゃなんないから、結局地面に落っこちる羽目になって、当然仕切り直しだよね!」
離れた場所それぞれへの攻撃のために、順番に身体を透過させられれば一番だろうが、大体は発動が追いつかなくなるか、虚を突かれた先輩の認識が追いつかなくなって、透過し損ねた部分に一撃は必ず入る。となると、先輩は全身を透過して地面に沈むしかない。定期的に先輩の仕切り直しが入るので、先輩との手合わせはいつも、一方が仕掛けてくるのを、もう一人がひたすらいなしていくというヒットアウェイ形式を交互に繰り返していくことになる。
私も血法に依存気味でなまりがちな体術や躱し方の訓練になるし、ミリオ先輩もめちゃくちゃ頭を使って疲れるだろうに、この手合わせを妙に気に入ってくれているので助かる。
「アハハ! まぁそんなだから星合さんとの手合わせはすごく良い訓練になるんだよね、なにしろ俺の経験を飛び越えた奇襲いっぱい使ってくるし、同じモーションで色んな選択肢持ってるから、瞬間的な判断とピンポイントの透過の訓練になるし!」
「ミリオより星合さんの方がスピードが速くて、手数が多いから出来ることであって、普通そんな攻略法、思いついても実行出来ないけどね……」
「確かに……」
「すごいねー!」
Easier said than done. 日本語で言えば、言うは易く行うは難し、だっただろうか。つまりはそういうことである。
しかし、キラキラ目で見られたり感心されるとむず痒い。照れくささを誤魔化すように愛想笑いをしていると、相澤先生が時計をちらりと見て声を上げた。
「そろそろ戻るぞ、挨拶!」
『ありがとうございましたー!』
体育館に向かうときの困惑とは真逆の、わくわく感を隠せないクラスメイトたち。彼らに混ざりながら、私も負けていられないなとひとつ吐息をこぼした。
夕方、寮に戻ってひと息つく。爆豪がゴミ持って来いやぁあ! と大声で叫んでいるのをBGMに、女子陣で共有スペースのソファーに固まって腰掛けた。
「くー! 通形先輩のビリっけつからトップってのはロマンあるよねえ」
「うんうん!」
「インターンに行くのが楽しみになってきたわ」
「どうなんやろね、一年はまだ様子見って言ってたけど」
「とりあえず相澤先生のGOサイン待ちですわね」
帰りのHRでも、インターンの話で盛り上がるクラスを制するように相澤先生が言っていた言葉を思い出す。
――ビッグ3からインターンの意義を教わったが、お前らがまだプロの現場に行けると決まったわけじゃない。職員会議で是非を決める必要があるし、やるならやるで、マスコミなどへの対応も考えなきゃならん。しばらくは様子見だ。
インターンに行くことへのメリットは多々あるが、事件に幾度となく巻き込まれている私たちが行けるか否か。少しの焦れったさもあるが、焦ってもしょうがない。
「行けるといいね」
ねー! と同意してくれる友人たちに微笑み、話が授業の事へとシフトしていくのを聞いていると、ポケットに入れていたスマホが振動した。バイブのパターンから見て、電話だと分かった私はすっくと立ち上がる。
「ごめん、電話出てくる」
「いってら~!」
「いってらっしゃい」
お茶子たちに断りを入れ、足早に玄関へと向かう。玄関から外へ繋がるドアを開けながら通話をタップし、耳に当てた。その後ろで、誰から電話だろうね、もしかしていい人!? と妙な盛り上がりをしていたのには気付かずじまいだったが。
「もしもし」
耳に当てたスピーカー、そこから聞こえた声と内容に、私は目を見開くことになる。