「オールマイト、
雄英敷地内、先生方が会議に使う広々としたブリーフィングルームを借りて、警察の人が持ってきてくれた約束の品――公安委員長をゆす……お話ししてもぎ取った、タルタロスでの二人の面会の動画を一通り食い入るように見終えた私の、素直な感想が静かな室内に零れ落ちた。
タルタロスの警備にも関わってくるため、本来ならタルタロスの刑務官と警察上層部ぐらいしか閲覧出来なさそうというか、タルタロスの外にすら出せない門外不出もいいところな映像だ。せめて情報流出のリスクを減らすために警察庁で見せてもらうべきところかもしれないが、私が警察庁の協力者であることはトップシークレット。何事にも絶対は無いので、周囲に理由を隠しながら何度も警察機関に行くのは難しい。どこに敵の目があるか分からない以上、下手に姿を見られて勘ぐられるのも怖い。
そのため、こうして警察官三人体制で雄英内の生徒の立ち入り禁止エリアの施設まで来てもらって、映像を見せてもらった。次の機会があれば今度はこちらが出向くことになるだろうが、お互いリスクもあるので、基本的にやり取りは暗号がメインで、直接接触はできるだけ控える方向でいる。もう少し先になればインターンで外に出るとはいえ、不用意に出歩かない方がいい身なのは百も承知なので。
そんな裏話はさておき、AFOが何のために大人しく捕まったのかの手がかりになるかと思って、良くて実際に面会、手落ちで動画を求めたわけだが……流石は長年裏社会のトップとして暗躍した男だ。面会動画の内容は、オールマイトが質問の主導権を握っているにもかかわらず、話の流れは完全に奴に持っていかれていた。オールマイトは良くも悪くも腹芸が苦手なので仕方ないとしても、こっちが得られた情報と向こうが得た情報の落差がひどい。
「星合くん、どうだった?」
私が動画を見ている間も、離れた席で色々連絡を取り合って捜査の足掛かりを固めていたらしい塚内さんが、私が見終わったと察してこちらへやってきた。なお、動画の運搬役兼、護送役の他の見知らぬ警察官二人は私の監視ついでなのか、私と席を一つ挟んだ両隣に座ったままこちらを静観している。
「……やっぱり無理矢理にでも、私も同席すれば良かったと後悔してるところです」
「面会の日は年に二回だけの仮免試験だっただろう?それを蹴ってでも、ということは……よほど状況は悪いのかい?」
個性によって体格にも大きくばらつきのある個性社会らしい、横にも縦にも大きめの革張りの椅子の背もたれにだらしなく体重を預け、深々と溜め息を吐く私に塚内さんが表情を曇らせる。
「なんというか、向こうが仕掛けてきた側なんで当然といえば当然ですが、神野事件が最悪のケースを回避しただけで、ほぼ奴の掌の上だったと確信が持てて頭が痛いというか……。
ともあれ、やっぱり一刻も早く死柄木とAFOの信者……特に、私が捕まっていた時に協力していた「ドクター」と呼ばれている人物を見つけて捕らえないとマズいことになりかねなさそうですね。AFO的には捕まっても問題ない所まで準備を進めてから、死柄木に合宿襲撃をそそのかしたようですから」
「なに?」
「『
AFO自身はヒーローたちが根城を叩いたことで姿を現しましたが……話に聞く限りの用心深さなら、用意も整えずに表舞台に姿を現し、オールマイトと正面衝突して捕まったとは考えにくい。転送などの個性を使った脱出方法がなくて、追い詰められたから姿を現したとは思えません。さらに言わせてもらえば、捕まった後に奴の信者が誰一人、タルタロスへの護送中に襲撃しに行かなかったのも腑に落ちない。一番厄介なオールマイトもエンデヴァーも、神野に呼ばれたヒーローのトップ勢が軒並み深手を負っていて、奪還のハードルも低いあのタイミングで、です」
では問題です、AFOが裏社会の帝王になり、医療器具に繋がれてないとままならない身体なのに、今の今まで捕まらずに潜伏できていたのはなぜでしょう。
「……まさか」
「死柄木を後継……己の分身にする準備が整ったんでしょう。『弔とは
AFOの強さとは、重ね合わされ、強化された個性群による多彩さと出力の差だ。私のように相手の動きを読みながら動く回避型の戦い方をする人間にとって、何が出てくるか分からないAFOのびっくり箱仕様は相性が悪い。しかも使い手が狡猾なので、凶悪な組み合わせをポンポン使ってくるのが厄介なところ。
常人の倍以上の選択肢と、重ねがけによる破格の出力があるからこそ、一手で戦況をひっくり返してこちらに痛手を負わせながら、今まで逃げおおせてきたのだろう。
そんな慎重で狡猾な男がアッサリ捕まったことが、ずっと腑に落ちなかった。
だが、この動画が図らずも嫌な予想のひとつを事実と裏付ける決定打になった。……なってしまった。
オールマイトには分かるまいと高をくくって口が緩んだのか、私の存在すら見越してあえて緩ませたのかは分からないが、ポロポロと余裕綽々に零してくれた言葉の断片を繋ぎ合わせると、AFOの狙いはそれしか思い浮かんでこない。
拉致され、AFOに洗脳されたふりをしてから、ヒーローたちが襲撃してくるまで多少時間があった。その間、気絶と意識の浮上を繰り返しながらも、一応周囲から情報を集めていたのだ。下手に動くと速攻で意識を落とすような攻撃がくるので、洗脳にかかったまま呆然と空を見ているようなふりで。
……流石にズタボロで動けず、動いたら即座に無力化させられるので、AFOが潜伏していた廃倉庫にあったという脳無の格納庫は見られなかったのだが(屈服されかけたあの場所に脳無までいたのは後で捜査資料を読んで知った)、AFOが死柄木以外の人間と通信しているのはうっすら聞こえた。私が居たからだろう、念には念を入れてボイスチェンジャーを通していたので本来の声は分からないが、AFOにドクターと呼ばれていた。会話を聞いた感じでは、奴が脳無の製造を行っているようだ。
私が死ぬほど嫌いなマッドサイエンティストの気配に、ひどく苛ついたのを強く覚えている。目も耳介もない呼吸器付きののっぺらぼう男が暗い空間の中、ボイスチェンジャーした人間とおぞましい会話をしているところを想像して欲しい。ホラーにもグロテスクにも耐性がある私でもぞっとした。
ドクターという呼称を鵜呑みにするわけではないが、少なくともAFOの協力者には確実に医療従事者がいる。そうでなければ、相応の準備と設備がいる呼吸器は使えない。他にも複数ぶら下がっていた点滴も定期的に穿刺する血管を変える必要があるから、間違いなく医療の知識も腕もある人間がバックにいる。
「ドクター」がAFOがストックしている個性を複製なり分裂させるなりできる個性、あるいは技術をもっていたら。……そう考えると、ああも脳無たちが似たり寄ったりな個性をいくつか持っていたことも頷ける。
貴重なはずの再生を複数個体が持っていた上、不可能なはずの複数個性を持てるような人体の改造。AFOが個性を奪い、与えるように、イズクのOFAは人から人へと受け継ぎ、力を蓄積する性質の個性。
そんなイレギュラーな個性の存在を知っている上、案外世界は何でも起こるということを身に沁みて実感するような世界で戦ってきた身としては……個性の複製が出来ないとは、どうしても思えない。
……死柄木の崩壊の個性も厄介といえば厄介だが、触れられなければどうということはない時点で、AFOには圧倒的に及ばない。立ち回りも貧弱で遅い。だが、AFO並みにさまざまな個性を操るようになったら……逮捕は困難を極めるだろう。それなら、AFOが「手を離れた」と言い、アッサリ捕まったのも納得できる。……最後にぽそっと「余生ね」と呟いていたあたり、残りの人生をずっと独房で過ごす気もなさそうだが。
「……もしその通りだとしたら、厄介だな。逃げられないように黒霧の逮捕を最優先に……と思っていたんだが、その間に死柄木が第二のAFOになったら目も当てられない」
「いえ、確実な逮捕のためには黒霧の逮捕が必須なのは間違いないです。奴と、特に連合の中で厄介な個性のトゥワイスは早めに逮捕したいですね。本物だと思って逮捕した連合が、実はトゥワイスの複製体だったなんて可能性を無くすためにも」
「そうだな……」
理想を考えることは出来ても、実際行動に移そうとすると難しい。相手もこちらに気付かれないよう行動しているのだからなおさらだ。
とりあえずヴィラン連合の情報を掴めるよう全力を尽くすよと笑ってくれた塚内さんに頷き、私の方でも