人魚姫は英雄の夢を見るか?   作:一星

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miscalculate③

「切島コラァ! お前名前! ヒーローニュースにヒーロー名! 載ってるぞスゲェ!!」

「梅雨ちゃん麗日ぁ、すごいよー、名前出てる!」

「わ、マジじゃん」

「うへえー嬉しいなァ、本当だ……!」

「どこから撮ったのかしら」

「すっごいねー! もうMt.(マウント)レディみたいにファンついてるかもねえええ!」

 

 翌日、朝から大賑わいな教室に足を踏み入れると、どこか疲れた様子で顔から覇気が抜けきっている切島くんに、スマホを持って詰め寄る上鳴くんと、お茶子と梅雨ちゃんに同じくスマホのニュース記事を見せているらしいミナの姿が目に入った。自分の席に鞄を置いて彼らに近づくと、キョウカと一緒にスマホを覗き込んでいたモモがこちらを振り返った。

 

「千晶さんは……記事はありますが写真はないですわね……?」

「カメラ避けしてたからね」

「避けれるもんなの、それ……」

「見られてるのバレバレだったから。個性使えば撮られても記事に使えないぐらいピンボケさせられるし」

 

 色々と優先事項があるのと、自分の人気にほとんど興味が無かったのも相まって、ネットニュースでわざわざ調べてはいなかった。キョウカに見せてもらった記事には確かに、エンデヴァーやサイドキックたちに交じって活動するニューフェイス(ネレイド)についての話題が載っていたが、カメラ避けと新しく着けたゴーグル、そして解決に関わった事件が短期決着だったためか、お茶子たちほど詳細な内容ではなかった。

 

「仮免といえど、街に出れば同じヒーロー。……素晴らしい活躍だ……! だが、学業は学生の本分! 居眠りダメだよ!」

「おうよ飯田! 覚悟の上さ! なァ緑谷!?」

「うん!」

「おまえ勉強やべーっつってたのに大丈夫かよー」

「先生が補習時間設けてくれるんだってよ」

「俺も行きゃーよかったなァ。両立キツそうでさ……」

「学ぶペースはひとそれぞれですわ」

()いことをおっしゃる!」

 

 わいわいと賑やかなクラスメイト達を眺めていると、和気あいあいとした空気の中、硬い表情でわずかに俯いたイズクの姿が目に入る。昨日からふとした瞬間に見せる心ここにあらずの様子に、ぽんとその肩を叩いた。

 

「イーズク。どうしたの、悩み事?」

「あ……星合さん。えっと……」

 

 困惑、躊躇、煩悶。一瞬だけ視線が合った瞬間の目の動きと表情の移り変わりから、そんな感情を読み取って、言葉に詰まったイズクに苦笑する。

 

「その感じだと、インターンがらみかな。守秘義務もあるから難しいだろうけど、抱え込みすぎずにお互い頑張ろうね」

「! うん……!」

 

 予想が当たったのか、ひとつ大きく瞬きをした後、こくりと頷いたイズクの目に少しだけ光が戻ってきているのを見てほっとする。ミリオ先輩やオールマイトがついているのだ。誰かに頼ることを忘れなければ、思いつめすぎることもないだろう。

 スパーン、と今日も小気味よい音を立ててドアを開きながら登場した相澤先生の「席につけ、ホームルーム始めるぞ」という言葉を聞きながら、私も席に着くべく一歩を踏み出した。

 

 

**

 

「協力要請?」

 

 放課後。帰りのホームルームで相澤先生からかけられた「この後個人面談室に来い」の言葉に、最近呼び出しされるの多いな……とデジャヴを感じつつ、私は面談室に来ていた。

 そこで相澤先生から告げられた予想外の話に、思わず目を瞬かせる。

 

「そうだ。情報提供がメインとはいえ……本来インターン生に対して、プロヒーローから名指しで協力依頼が出るなんて異例も異例。だが、今回はお前の個性の性質と、お前自身も無関係じゃないってことで白羽の矢が立った」

「ええと、先生。全然心当たりがないんですが……一体どなたから指名が?」

「依頼主はサー・ナイトアイ……緑谷のインターン先だな。実際には、ナイトアイが協力を要請したグラントリノからの推薦だが」

「グラントリノから?」

 

 イズクのインターン先であるナイトアイから話が来たのも驚きだが、グラントリノからの推薦という部分に片眉を持ち上げる。グラントリノといえば、保須事件以降はヴィラン連合の捜査に協力しているはずだが、どこをどうなると相澤先生の「お前自身も無関係じゃない」という話に繋がるのか。

 

「グラントリノとは保須事件で既に面識はあると思うが……ナイトアイが現在追っている極道が、お前がインターン先で遭遇した『個性を一時的に消す銃弾』に関係する可能性が出てきたそうだ」

「! ……ん? どうして先生がそのことをご存知で……?」

 

 基本的にインターンの内容は学校側にも共有されるのだろうが、それは基本方針や活動内容の概要と報告であって、事件の詳細は含まれない。インターンで知った事件内容を第三者に口外するのはヒーローとしての守秘義務違反にもなるため、仮免の取得に伴って発生する遵守義務のひとつだ。

 エンデヴァーから昼間の内にメールが来て、ワックスの個性も無事戻ったと聞いている。相澤先生の言う通り銃弾の効力は一時的なもので、完全に個性を消すものではないことは分かっている。

 だからこそ、まだニュースにもなっていないあの事件のことを相澤先生が知りえているのが不思議なのだ。

 

「ナイトアイはこの極道に対して調査を進めるために、各地のヒーローに協力を呼びかけている。俺もそのうちの一人ってことで声が掛かった。順を追って説明する」

「お願いします」

「まず、エンデヴァー事務所が昨日の時点でHN……ヒーローネットワークに、個性を一時的に消す銃弾に関する事件内容の報告と、全国のヒーローへの注意喚起の声明文を出した。HNってのはインターン先で教えてもらっているかもしれんが、ヒーロー同士の情報交換と相互協力の活性化を目的としたプロヒーロー専用のネットサービスだ」

「ああ、はい。エンデヴァー事務所でHN経由でチームアップ要請が来ると教えていただきました」

「そうか。で……昨日の夜、大阪のファットガム事務所が解決した事件でも、同様のものと思われる銃弾が使用されたそうだ。両方で得られた未使用の弾丸の鑑識結果もネットワーク上で共有されたが、内容物から弾丸の特殊な仕様まで一致したことで、同一の銃弾が量産されている可能性が高くなった」

 

 ネットワーク内で迅速に交わされていたらしい情報共有に関心すると同時に、ナイトアイ事務所に続いて身近な事務所の関与に気が遠くなる。ファットガムといえば、切島くんとタマキ先輩のインターン先だ。……世間って、狭い。

 

「銃弾を所有していた組織の背後関係の洗い出しを急ぐ方向で一致したところで、両事務所に声をかけたのがナイトアイ事務所だ。迅速な事件解決のため、俺以外にも地方のヒーローにも手広く声を掛けている。……ここまでなら、複数のヒーローでの連携を学べるいい機会なんだが、その極道がヴィラン連合と接触した形跡があるらしくてな」

「…………。ほんとに、行く先々で顔を出してきますね……」

「まったくだ」

 

 まさか、極道にあの死柄木が近づくとは……。連中に見つかる前に叩きたかったのに、既に関わりがあるなど悪夢以外のものでもない。動向が掴めたのはいいが、大人しくしていてくれと思う自分もいる。警察の協力者としては、思わぬ情報源に喜ぶところなのだろうが……毎回毎回影がちらつくのはさすがに辟易としてくる。

 しかし、これで一見関係のなさそうなグラントリノの名前が出てきたことも納得がいく。……ただ、私が警察の協力者であることは極秘事項。連合が関わっていて、私も間接的とはいえ事件に関わっているとはいえ、わざわざプロヒーローが異例の指名協力依頼を出してくるには、理由が弱すぎる気がするが。……察しの良い人なら、背後関係を疑われそうなぐらい強引にも捉えられかねないが……。

 

「連合が関わってくるとなると、本来はお前たちの安全のためにもインターンを中止にせざるを得ないんだが……さっき話した通り、先方からこの銃弾について、事件にも関わったお前の意見を聞きたいと情報提供依頼が来たことで一旦保留になった」

「と、いうと……?」

「鑑識の結果では、銃弾に詰められていた内容物の主成分に、ヒトの血液成分と体細胞の一部が含まれていたらしい」

「血液と細胞……? 検出できるぐらい原型を保ったままであんな効果になるなんて、ちょっと信じられない話ですね」

 

 意外な結果に眉を寄せる。個性を消すような効果が人間由来の素材からもたらされているのは予想の範疇としても、はっきりと正体を検出できるぐらい原型を残したままで、あの効果とは。

 とはいえ、そういう理由なら建前として自然だ。事件にかかわった人間で、なおかつ血液系の個性持ち。しかもヴィラン連合との対敵経験は私が一番回数が多い。ブラドキング先生も同じく血液個性なので意見を求める先としては適役だが、同学年の教師が同日に雄英から離れるのもよろしくないという警備的な事情も微妙に絡んでいそうな気がする。

 

「そういう、話を聞いてすぐに疑問点を挙げられるところをグラントリノに評価されたんだろうな……。俺が『個性を消せる』という点で呼ばれたように、星合には血液系の個性持ちとしての意見を聞きたいそうだ。強制力のある案件でもなし、断ることもできる。参加をするにしても情報共有会議までで、実際の実働部分はヒーローたちに任せることになるが、どうする?」

「……ご期待に添える意見が言えるかはわかりませんが、あの事件の顛末は気になるので……先生の負担にならないのなら、ぜひ」

「俺のことは気にしなくていい。なら、先方にも承諾で返事をしておく。まだ具体的な情報共有会議の日程は決まってないが……恐らく今週末あたりになる。ヴィラン連合の介入を避けるために、会議の日まではインターンも中止とエンデヴァーには既に伝えてあるが、そのつもりで学業に専念するように」

 

 はい、と頷きを返した先の相澤先生の表情が、こないだ職員室に呼び出された時のように、こちらをひたりと観察するようなものだったのが、少し引っかかった。

 

 

**

 

「HEYイレイザー! どうしたよ、そんなどんより顔しちまって」

「……いや。……やりたいと本人が思ってることと、大人の利益と、古傷を抉るような話を聞かせることが、全部両立するってのは難儀なもんだと思ってな」

「ハァン??」

 

 

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