『第一種目は障害物競争!!この特設スタジアムの外周を一周してゴールだぜ!ルールはコースアウトさえしなけりゃ何でもアリの残虐チキンレースだ!各所に設置されたカメラロボが興奮をお届けするぜ!!』
狭い通路にぎゅうぎゅう詰めになり、ひしめき合う眼下を見下ろしながら、血糸で一人空路を選択した私は、通路から一抜けした紅白頭を見つけた。
他の生徒が追従する所に、轟が踏んだ場所から、氷が這うようにして地面が白く凍りついていく。恐らく、思い切り引っかかった連中は轟の個性を知らない普通科やサポート科、B組の一部生徒だろう。
「ってえー!!何だ凍った!動けん!!」
「んのヤロォオオ!!」
そんな哀れな生徒たちの頭上を一気に駆け抜けて2位に着くと、後ろからも追従してくる気配がした。
「甘いわ轟さん!!」
「そう上手くいかせねえよ半分野郎!!!」
ちらりと振り返れば、それぞれの個性を使って氷結を逃れ、次々と生徒の頭上を飛び越えてくるA組メンバーの姿があった。……私のように初っ端から糸で大胆に空路を行くことはしなくても、通路入り口で団子になった生徒を最短で抜けるには、頭上を飛び越えていくのが一番だからだ。成績優秀者が集まるだけあって、考えることは皆同じである。
「クラス連中は
幾ら長時間戦闘に慣れているとはいえ、一応体力温存を考え、風除けに轟の真後ろを走る。私が機動力で勝ることを知っている轟は、ぴったりと真後ろをキープしてくる私を肩越しに微妙な顔で眺めながらも、余裕のある表情でそんなことを呟いた。まあ、あのふるい落としのお陰で、随分後続がスッキリしたが。
そんな私たちの前に、最初の「障害物」が立ちはだかる。
『さあいきなり障害物だ!!まずは手始め……第一関門、ロボ・インフェルノ!!』
「入試ん時の0P
「マジか、ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」
「多すぎて通れねえ!!」
あ、そういう名前だったんだあのデカブツ。
スカウト実技入試で最後にラスボスよろしく地下から現れた巨大ロボットの紹介をするプレゼント・マイクの拡声された実況と後続のどこかの誰かさんの解説めいた叫びをを聞きながら、心の中でそっと思った。
およそ30m前後はゆうにある巨体を初めて目にした轟が反射的に足を止めるが、初見でもなんでもない、あれを脅威だとは思わない私は軽やかにステップを踏み、ターンで轟との衝突を回避し、その横をすり抜け一気にロボットへと肉薄する。
詰められた距離に対し、ロボは私をターゲットと見定め、その剛腕を振り上げた。
「エスメラルダ式血凍道」
しかし、幾度もの修羅場を駆け抜けてきた者にとって、その攻撃は隙だらけの、愚鈍な動きでしかない。
振り下ろされるその腕に飛び乗り、まるでそこが平坦な地面であるかのように、鉄の身体を踏み、蹴り上げ、あっという間にその頭上へと到達する――その間、僅か一秒足らず。
戦闘を知らない者には一瞬で頭上に現れたように見えただろう。戦闘を知り、辛うじて目で追えた者は、機動の速さ、迷いのなさに驚き、注目することだろう。
重力を感じさせない足取りで敵の肩部分に足を着けた私は、衆目を集めるパフォーマンスのため、このロボットには少々派手に壊れてもらうことにした。
再び空路を辿り、地上に舞い戻るためにロボットの肩から飛び降りる寸前、ヒールで踏み切った鉄の装甲部分に氷の十字架が刻まれる。
すぐそばまで顔を寄せなければ分からないほどの微量な紅が温度を失いながらも、妖しげに煌きを放ち、皮膚に水が馴染んでいくように駆体に吸い込まれ、術者の意思決定を待つ。その全身を、薄く毒のように這い回りながら。
キン、と澄んだ音が他の生徒たちの耳朶を震わせ、同時に十字架の足跡から伸びるようにして、先の鋭い氷の突起が出現する。渦巻く冷気に乗って宙に舞うのは、白くけぶる水蒸気と、光を受けて綺羅やかに輝く透明な氷の欠片。
「
耳慣れぬ異国情緒の響きを聞いた者は、その氷を苗床にして、巨大なロボットが一瞬にしてその駆体を呆気なく氷の剣山に食い破られ、沈黙を余儀なくされる様を目撃した。
「(せっかくならもっとすげえの用意してもらいてえもんだな)」
たった一撃。
何気なく足で踏んだ、たったそれだけのモーション。自分の敵では無いとでも言うかのように易々と自分の何倍もの大きさのロボットを打ち倒した少女に、その場の多くの生徒が彼我の間に立ちはだかる圧倒的実力差を目の当たりにして絶句する中。一人思考停止せず、身を低く屈めて指を地面に滑らせるようにしてから、冷気を纏った右手を上に、仮想敵に向けて空を掻いた人物が居た。
彼は、星合千晶という少女がさっさとこの障害物を打ち倒すことに何の疑問も抱いていなかった。むしろ当然と思っている節すらあった。
その華奢な後ろ姿が鉄の身体に遮られて掻き消える前に、轟は怨嗟の声と共に、千晶と同じ冷厳の力を解放する。
「クソ親父が見てるんだから」
その武骨な指先が空気を掻き切ると同時に白い雪煙が鉄の巨体を這い上り、あっという間に2体目の氷の彫像を生み出した。
「あいつらが止めたぞ!!あの隙間だ!通れる!」
襲い掛かろうとした体勢のまま、動きを停止させられた通路中央2体のロボットの足元を潜り抜けた轟の後を、数人の抜け目ない生徒が追従しようと足を踏み出した。
しかし、それは身を滅ぼす悪夢の一歩に他ならない。
「やめとけ、不安定な体勢ん時に凍らせたから――」
軋み、頭上の巨体が揺らぐ様を目撃した生徒の絶望はいかほどか。
「倒れるよ」
その言葉を合図にするようにして、白い彫像と透明な氷に縦に引き裂かれた巨体が、轟音を立てて崩れ落ちた。
『1-A星合、轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!!すげえな!!一抜けだ!!アレだなもうなんか……ズリィな!!』
『合理的かつ戦略的行動だ』
『さすがは推薦入学アンドスカウト枠入学者だ!初めて戦った相手をものとも寄せ付けない、エリートっぷりだぁああ!!!』
興奮しきっているせいか、プレゼント・マイクの語彙力が著しく低下している。あんなんで実況は大丈夫なのかと思いながらも、轟と並んで走った先に待ち受けていたのは――断崖絶壁。実だけ食い散らかされた林檎の芯のような円柱状の大地がそれぞれ縄で繋がった、独特な地形が広がっていた。
『早くもトップ二人は第二関門に到着してるぜ~、落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォ――ル!!』
不安定な足場でのバランス感覚と、最初の大岩から伸びる複数の縄のどれが最短ルートなのか……その瞬発的な判断力を問うのだろうが、残念ながらこのステージ、幾つか抜け道がある。
一つは空路。飛べる“個性”の持ち主ならば、一気にゴールまで駆け抜けられるだろう。
そしてもう一つは。
こういう場では地道に縄を通っていくしかない轟が一つの縄を選ぶ中、私は両拳を握りしめ、断崖絶壁を
『ちょっ、うおおお、星合飛び降りた――!!何をする気だぁ!?そのまま落ちたらドロップアウトだぞ!?』
「血法・
針が皮膚を裂き、拳の間から血が滴り落ちる。
その一筋の流れは、重力に引かれて長く伸び――明確な輪郭を持って液体から半固形の、自在に形を変えられる血の縄と化す。その末端を、鎌のような赤く輝く血刃に変貌させた私は、軽く手を横薙ぎに振るうことで手近な岩石に
不安定な足場と空中戦における身体制御には、蹴り技の使い手として一日の長がある。高層ビルの屋上から飛び降りて
『1-A星合が“個性”をフル活用!!断崖絶壁が続く地形を利用して宙を舞ってるぜ!!その姿はまさにビル群を駆け抜けるスパイダーマンもビックリだぜオイ、楽しそぉお~~~~~~!!』
「……オールマイトが興奮しそう」
あの人アメコミヒーローも大好きだからなあ、と、手は止めずに呟く。オールマイトの映画好きに当てられて、私もすっかり映画に詳しくなってしまった。ハリウッドのアクション系の有名作品はそろそろ網羅しそうな勢いだ。こちらの世界の映画って、元の世界に比べて“個性”で色んなことが出来る分、効果音やらエフェクトをなんでもかんでもCGでせずに“個性”で補ってしまうので、臨場感が恐ろしいことになっているのだ。
第二関門の最終地点になる大きな岩石に両手を振るって鎌を深く突き刺し、壁を思い切り蹴って血糸を縮める反動でぶわんっ、と岩石の頂上まで上昇する。難なく着地すると同時に血を体内に戻した私は、次のステージに向かうべく、立ち止まることなく走り出した。
『さあ一気に先頭に躍り出た星合は難なくイチ抜け!それに少し遅れて堅実に縄を渡ってきた轟、爆風を利用して一気に距離を詰めてきた爆豪が続いて第二関門突破だ!!』
「一位の子、圧倒的だな」
「一位と二位の二人……最初は同じ“個性”かと思ったが、あの赤い縄を見る限り違うみたいだな」
「“個性”の強さもあるが……それ以上に素の身体能力と判断能力がズバ抜けてる」
「最初の地点で縄を使って渡ることを考えがちなこのステージで、どう個性を使ったら一番早く到着できるか考えられる、型にはまらない柔軟な判断能力。実際に“個性”で移動するときは、いちいち上に上がって確認するタイムロスを防ぐために、最初にしっかり最短ルートを覚えてから、自分の位置を常に俯瞰で考えて次はどの岩に飛び移ればいいか、一瞬も躊躇うことなく行動できる……あの不安定な岸壁と空中での姿勢制御といい、一瞬も崩れない冷静さといい……あの子、既に高校生のレベルを超えてるぞ」
「二位の奴も一位の子の凄さに隠れてるが、彼も高校生とは思えないレベルだ……即戦力として期待できるくらいの完成度だ」
「そりゃそうだろ……あの子、フレイムヒーロー『エンデヴァー』の息子さんだよ」
「ああ!道理で!オールマイトに次ぐトップ2の血か、早くも
スタジアムのプロヒーローが盛り上がる中、私たち上位3人は最終エリアに差し掛かっていた。
『先頭集団が一足抜けて下はダンゴ状態!上位何名が通過するかは公表してねえから安心せずに突き進め!
そして早くも最終関門!!かくしてその実態は――……一面地雷原!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と脚酷使しろ!
ちなみに地雷!威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!!』
『人によるだろ』
「なんてものを体育祭に使ってるんだこの学校……」
プレゼント・マイクの説明でこのフィールドの内容を把握した私は、トンと地面を靴底でノックし、地面の水分に干渉し、感覚を地面に広げる。戦闘で鍛えられた目でも十分避けられるのだが、保険の意味も含めて一応仕込んでおく。正確な位置さえ把握できれば、あとはエスメラルダ式血凍道で鍛えられたステップでノーダメージ通過が確実になる。もしもうっかり踏んで爆風でバランスを崩せば、それだけでタイムロスだからだ。
走り出しながら後方を見れば、鬼気迫る表情で猛追をかけてくる爆豪と轟の姿があった。うわ、怖。第二関門でかなりアドバンテージを稼いだとはいえ、気を抜けば追い抜かされるだろう。
「……まぁ、ミッドナイト先生が“第一種目”って言ってたから、無理に一位を狙う必要もないんだろうけど」
まだ序盤も序盤、予選の第一競技なのだから、今もこうして全力疾走はせず、ほどほどの速さで走っているのだ。その証拠に、私の息はほとんど切れていない。舐めてるわけじゃない、この後のプログラムが一切予想できないからこそのペース配分だ。
本戦は毎年順位を決めることだけは確定しているようなので、恐らく一対一のバトルのようなモノをするのだろうから、最悪予選落ちしない程度の順位を保つという戦略もある。
「……今までの雄英のやり方を見てると、ここで一位になると色々面倒そうな予感しかしないし」
あの鬼畜入試を私は絶対に忘れない。あんな鬼のような難易度にしたのは、元々義務教育の内容を頭に叩き込んでもらう傍ら、体が鈍らないように先生方に手合わせしてもらった時のデータをもとに、試験で実力を十分に見れるように私に合わせてレベル設定が為されたからだろう。とはいえ、手合わせで
雄英のモットーは「
「(でも下手に手ェ抜いたら、後ろの二人絶対気付いて怒るよなー……相澤先生にもバレるだろうし)」
ああ言った手前、覆すような下手は踏みたくない。
どうしたものか、と地雷を避けながらも頭を回していたその時、「待てや雪女ァァアアア!!!」というガラの悪い叫びが思いのほか近くから聞こえ、しかもそれがすさまじいスピードで近づいてくるのに気付いた私は、反射的に自分の身体の左側に薄い氷の壁をぶち上げた。咄嗟に手が出るならぬ足が出る。一秒遅れて、爆風を巻き起こしながらターボで飛んできた爆豪が、器用に左右の爆破を調整して一歩前に躍り出た。
氷の壁のお陰で爆風をまともに喰らわずに済んだ私の右側からも、ぬっと紅白の色彩が視界を掠める。
「考え事か?余裕だな」
『ここで先頭が変わった――!!喜べマスメディア!!おまえら好みの展開だぁあああ!!後続もスパートかけてきた!!だが引っ張り合いながらも……先頭三人がリードかあ!?』
マイクの実況を遠く聞きながら、私は腕を掴んできて押し合いへし合いしてくる二人に呆れた顔を隠さずぼやく。
「邪魔……っていうか痛いから二人で勝手にやってくんないかな……」
「余裕かテメーは!!そういうとこがムカつくんだよ!!」
「君らは左右だから逃げる余地あるけど、ガタイのいい男子に挟まれて前と左右塞がれてどうしようもない私の気持ちも考えろ」
一歩先で爆破を見舞われたり腕を凍らせたりというやり取りをされて、こちらは避けることも出来ないまま中央で余波ばかり喰らっているのだ。足元の地雷も気にしなければならないのに、目先でそんな事ばかりされて走りにくいったらない。自然とフラストレーションも溜まる。
若干イライラで脳内を駆け巡る英語が荒くなり、脳内で変換されて口をついで出てくる日本語も口が悪くなってくるのを自覚しながら、いっそ回り込んでもう一度前に出ようかと思い始めたその時。背後で起きた大爆発に、固まりながら醜い争いを続けていた私たちは、思わずその手を止めて何事かと振り返った。
『後方で大爆発!?何だあの威力!?偶然か故意か――A組緑谷、爆風で猛追――!!??
っつーか、抜いたあああああああー!!!!』
目に映ったのは、鉄板に乗ってぶっ飛んでくるイズク。振り返ったその時、反射的にぶつかる、と思った私は身を低く屈め、頭上ギリギリを掠めていったイズクを茫然と見送ってしまった。私の斜め前に居た爆豪が珍しく反応しきれなかったのか、軽く頭を打っていたが。
っていうかあの角度で飛んだら、失速して地面に真っ逆さまでは。
「デクぁ!!!!!俺の前を行くんじゃねえ!!!!」
そんな私の斜め上に飛んだ思考をしている間に、我に返ったらしい爆豪がすぐさまブーストを掛けてイズクを追う。轟ももうなりふり構う気はないのか、後続に道を作ることを覚悟で足から氷の道を発生させ、全力疾走できるよう道を確保し、全力で追うのを見送った。
『元・先頭の轟と爆豪、足の引っ張り合いを止め緑谷を追う!!共通の敵が現れれば人は争いを止める!争いは無くならないがな!!』
『何言ってんだお前』
興奮しきったマイクに、相澤先生が冷静にツッコミを入れている。
私は混戦状態となった3人にいつでも追いつける距離を保ちながら、少し離れて開けた視点から、冷静にイズクの様子を見守る。
『むしろ気になるのは――誰もが頭に血ィ上って必死になるこの局面で、星合が冷静に場を見つめてることだな』
相澤先生の言葉を遠く聞きながら、失速した鉄板から投げ出され、宙で逆さまになったイズクと目が合った――必死の形相の中、翠の眼は追い抜かれるものかと、現状を打破するのだとぎらついていた。
それを見て、私はぞくぞくと背筋が震えた。思わず、口角が上がる。
いつだって、イズクは諦めない。どんなに劣勢に追い込まれても、不屈の精神で踏みとどまり、前に踏み出そうとする。
「……やっぱ似てるよ、レオナルドに」
空中で一回転したイズクが、乗ってきた鉄板を爆豪と轟の間に叩きつけたのを見て、何かするつもりだな、と私は血糸を編む。そして地雷原エリアの外、スタジアムに続く通路の壁に鎌を刺し、ぴんと張った糸を一気に収縮。ウォーターバイクに引っ張ってもらってサーフィンするかの如く、地面に這わせた氷で摩擦をゼロにした地面を滑って、イズクがコードをカチカチと何やら弄っている横を、脇目も振らず走っていく轟と爆豪の横をすり抜ける。「ア!?」「くそっ」とか悪態を吐くのが後ろで聞こえたが、すぐにドカン、と大爆発の音と爆炎に紛れて消えた。代わりに、爆風で吹っ飛んできたイズクがゴロゴロ転がっていく。うわー、無茶するなあ。
『緑谷間髪入れず後続妨害!!なんと地雷原即クリア!!そして、お前緑谷の動き読んでたのか!?クールに爆破を避けた星合も続いてクリアー!イレイザーヘッド、おまえのクラスすげえな!!どういう教育してんだ!!?』
『……俺は何もしてねえよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう』
『さァさァ序盤の展開から誰が予想出来た!?今一番にスタジアムへ還ってきたその男――緑谷出久の存在を!!!!』
イズクに続き、数歩遅れて私もスタジアムに到着する。頭が割れそうなほどの大歓声を受けて、息を切らせながらも周囲を勢いよく見渡したイズクは、ある一点――トゥルーフォーム姿のオールマイトが居る席のあたりで動きを止め、少し涙を浮かべながらニッ!!と笑った。やったぜ、って感じだろうか。
体育祭の数日前にオールマイトが夕飯を食べに来た時に、彼が次世代の平和の象徴としてイズクが台頭してきたことを世間に知らしめるためにも、いい成績を上げてほしいと少し無理難題にも聞こえる発破をイズクに吹っかけたことは聞いていた。そのままオールマイトは隣にいる私にも視線を向けてくれ、サムズアップ。それに笑ってひらひらと手を振り返しながら、私は肩で息をしているイズクの肩を軽く叩いた。
「イズク、入り口に居ると後ろの邪魔になるから、ゆっくり歩こう」
「ぜぇ……あ、うん。そうだね」
後続が続々とスタジアム入りする中、私たち二人はゆっくりとサーキット中央へ歩を進める。息も絶え絶えなイズクに対し、少し息が上がっている程度の私は観客から見ても対照的に映ったことだろう。
「デクくん、千晶ちゃん……!すごいね……!」
「この個性で後れを取るとは……やはりまだまだだ僕……俺は……!!」
「麗日さん、飯田くん」
「二人とも、お疲れ」
観客席では経営科が飲み物などの売り子や経営戦略などのシュミレーションで盛り上がっている中、ゴールしたお茶子と飯田くんが近づいてきた。
「一位すごいね!悔しいよちくしょー!」
「いやぁ……また近い……」
少しパーソナルスペースの狭いお茶子に近寄られ、真っ赤な顔を腕で覆い隠すようにして謙遜するのを、打ちひしがれている飯田くんの傍で眺める。
「星合くんは流石だな、急な状況の変化にも冷静に対処できていた……」
「うーん、単純に慣れと経験だけどねえ。飯田くんも訓練すればこのくらい多分できると思うよ?そういうの向いてそうだし……」
「本当か?周囲からは一直線すぎて柔軟性に欠けるとよく言われるのだが……」
「あぁ……でも、視野狭窄はある程度訓練で克服できるんだよ。私も最初から出来ていたわけじゃないし……なんなら、後で教えようか?」
「ああ、頼む!」
その後、モモのお尻に個性でひっつき虫になっている峰田を無理やりひっぺがしたり、シンに手を振ったりとしながら後の時間を過ごし、全員が戻ってきたところで結果発表となった。
「ようやく終了ね、それじゃあ結果をご覧なさい!!」
ミッドナイトの言葉に答えるように、スタジアムに複数設置されたホログラムのスクリーンに、大きくイズクの姿と、「A組 緑谷出久」の文字が浮かぶ。2位に私、3位轟、4位爆豪……と続き、42位のサポート科らしき重装備の女の子が映し出されたのを最後に、再びスクリーンはミッドナイトに戻った。
「予選通過は上位42名!!残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい!まだ見せ場は用意されてるわ!
そして次からいよいよ本戦よ!ここからは取材陣も白熱してくるよ!気張りなさい!!
さーて第二種目よ!私はもう知ってるけど……何かしら!?言ってる傍から……コレよ!!」
「……騎馬戦?」
個人競技ではない題目に、予選通過者がざわめく。
「参加者は2~4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ!基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど、一つ違うのは……先程の結果にしたがい、各自に
「入試みてえなP稼ぎ方式か、分かりやすいぜ」
「つまり組み合わせによって騎馬のPが違ってくると!」
「あんたら私が喋ってんのにすぐ言うね!!
ええそうよ!!そして与えられるPは下から5ずつ!42位が5P、41位が10P……といった具合よ、そして……一位に与えられるPは1000万!!」
「……いっせんまん?」
イズクがうわ言のようにミッドナイトの言葉を復唱すると同時に、周囲の視線が一気にイズクに集中する。獲物を狙う肉食獣のようなぎらついた視線に取り込まれるイズクは、全身からだらだらと冷や汗を流していた。
「上位の奴ほど狙われる……下剋上サバイバルよ!!」