爆豪となんだかんだで昼食を摂り終え、あっという間に昼休憩が終わり、スタジアムには再び観客や選手が戻りはじめていた。
『最終種目発表の前に予選落ちの皆に朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!本場アメリカからチアリーダーも呼んでいっそう盛り上げ……ん?アリャ?』
「なーにやってんだ……?」
『どーしたA組!?』
が、観客や選手たちの注目を集めていたのは、本場から訪れたチアリーダーではなく、何故かチアリーダーの衣装に身を包んだA組女子7人だった。
目立つ朱色の地に深緑で「UA」のロゴが入ったチアリーダー衣装は、プロ集団のものを私が英語で少し見せてほしいと掛け合い、十分構造を観察・把握したモモが“創造”で作ったものだ。チアリーダーの衣装の例に洩れず、ノースリーブに大胆に開いた首元、ウエスト、丈の短いスカートからは、少女と女性の間の過渡期の瑞々しくも肉感的な、危うげな色香を放つ素肌が惜しげもなく晒されている。
――一人、私を除いては。
「峰田さん上鳴さん!!騙しましたわね!?」
「……やっぱり嘘だったのか……」
ひょー、と興奮しきった気色の悪い顔でサムズアップしている峰田と、いい仕事したとばかりに同じく親指を立てている上鳴にモモが非難の声を上げる横で、私は呆れ顔で腕組みしていた。
事の次第は少し遡って昼休憩時間、峰田が「午後は女子全員ああやって応援合戦しなきゃいけねえんだって!」といい出したことに端を発する。
それだけならば、普段から色欲に正直すぎる峰田の下心しか感じない言葉など、微塵も相手にされなかっただろう。しかし、聞いてないと返したモモとキョウカに、上鳴がとある一言を放ったのである。
『信じねぇのも勝手だけどよ……相澤先生からの
そう言われれば人間、疑いながらももしも本当だったら、と少なからず疑心暗鬼に陥るだろう。まして、それを言われたのがピュアで真面目な副委員長であるモモだったのだから余計に性質が悪い。
「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」
「アホだろアイツら……」
「モモ、ドンマイ。悪いのは連中だ、モモは何も気にすることないよ」
ポン、と項垂れるモモの背中を元気づけるように、私とお茶子が撫でる中、一人乗り気だったのはトオルだった。
「まァ本戦まで時間空くし、張り詰めててもシンドイしさ……いいんじゃない!?やったろ!!」
「透ちゃんこういうの好きね」
ぶんぶんと手にしたポンポンを激しく振るトオルに、梅雨ちゃんの冷静なツッコミが入る。
そんな中、私は額に手を当てて溜息を吐きながら、頭痛を誤魔化すように眉間を揉んだ。
「ごめんモモ、インナーとタイツ余計に作ってもらったのに……体力もつ?大丈夫?」
「いえ、そもそも私が峰田さんの策略にハマってしまったのが悪いんです。それに、千晶さんの素肌を衆目に晒すわけにはいきませんわ!!」
モモもこの後に最終戦を控えているというのに、無駄に消耗させたのではと謝った私の手を、モモはむしろ意気急き込んでガッシリと掴んだ。黒い大きな目にはめらめらと何やら使命感のようなものを燃やしていて、私は若干引け腰になりながらも、ありがとうと礼を述べる。
そう、他の6人はお腹や腕、足を大きく露出しているにも関わらず、私はチアリーダーの衣装の下に黒いノースリーブのタートルネックと素足が透けない程度のタイツを着用して、唯一両腕だけ露出していた。
というのも、やはり未だはっきりと残る拷問痕と、左半身を這う赤い刺青を隠すためだ。これら二つが全国放送で衆目に晒されれば、要らぬ憶測を買うことは予想に容易い。そう指摘してくれたキョウカによって、モモにあれよあれよという間にインナーとタイツを作ってもらった私は、こうして一人異質な姿で佇んでいた。
が、欲の権化にとってはそんな事情を知る由もなく。
先程からじろじろとうっとおしい視線を向けていた彼は、あろうことか理不尽に怒り始めた。
「なんで星合だけそんなインナーとタイツ履いてんだよぉお!!いやタイツもエロいけど!破りたいけど!普段制服とタイツに隠された星合のほっせえ腰とナマ脚拝みたかったのによぉおおおおおおお!」
「お前の脳味噌の中には色欲しか詰まってないのこのエロチビ」
「ああ……千晶ちゃんが怒りのあまり言葉遣いが乱暴になっとる……!!」
おっと失礼、ついチェインと一緒にザップをけなしていた時の乱暴な口調が出てしまった。
どこかのチビが大声で叫ぶせいで、先程からチラチラと遠慮がちに男子一同から向けられていた好奇の視線が、私に集中しはじめる。
高校生とは思えないプロポーション(とよく言われる)モモと私は特に見られていたし(モモは主に胸、私は腰から足に掛けて)、他の面々も十二分に美少女で、戦闘訓練を積んでいるおかげで適度なくびれがあり、健康的な色香がある。
分散していた視線が徐々に集中し始めたのを、裏世界に身を置いていたせいで無駄に気配と視線には敏感な私は、無視できない量の下心満載の視線に360度舐めるように見られ、心底不愉快だと嫌悪感を前面に押し出した。元々それなりに華やかな容姿を利用して情報収集することもあったので、そういった不躾な視線を送られるのは慣れているし、無視し慣れている。……だが、この大観衆となると話は別だ。視姦されているようで非常に悪寒がする。
未だにぎゃあぎゃあと少し離れた場所で五月蝿くわめいているソレに、私はスタスタと足音を忍ばせて背後から近づいた。少し離れたところで心配そうにこちらを見ていた切島くんやイズクが、峰田の背後に忍び寄る私を見て「あ、」という顔をするが、人差し指をくちびるに当てて黙ってて、というジェスチャーをすれば、二人とも無言でコクコクと頷いてくれた。若干顔色が悪かったのは気のせいだろう、うん。
あと数歩で元凶の元に辿り着くというところで、私は静かに、非常にゆっくりと
まずは足を。
「おゥッ!?」
「うわっ、氷!?」
次に、凍らせた足元から、あえて一気に氷漬けにするのではなく、じわじわと恐怖を煽るようにゆっくりと氷を這い上がらせる。ピシッ、パキパキパキ……とラップ音のように時折音を立てながら、氷がじわじわと身体を覆いつくしていく。
「みーねーたーく――ん、かーみなーりく――ん」
そしてにっこりと顔に満面の笑みを浮かべ、あえて上機嫌そうに、間延びした猫撫で声で背後から呼べば、二人はぎぎぎぎぎ、と油の切れたブリキ人形のようにゆっくりとこちらを振り返った。小刻みに揺れているせいで判然とはしないが、二人とも顔の筋肉があからさまに引き攣っている。
「ほっ、星合……まて、待つんだ、話し合えば分かる……!」
「タンマまじでタンマ、じっくり凍らせてくのやめよ!?な!?」
「あ?」
この期に及んでも往生際悪く騒ぐ二人に、たった一文字を声に乗せる。頬に手を当て小首を傾げ、笑顔のまま見下した目で圧力を掛ければ、冷や汗をだらだら流しながら、二人はキュッと口をすぼめて黙った。その顔はもはや、真っ青を通り越して土気色になり、激しく目が泳いでいる。
「あのさァ、人も動物的な所あるから、別に下心満載の目で見られようが
「千晶さん……!そんな、可愛いだなんて……!」
「千晶いいぞもっとやったれ」
「はわわわわ……星合さんの顔が!真っ黒!怖い!」
「星合ってキレたら口悪くなるのな……」
「そんでもって怒ってる内容が自分の事じゃなくて他の女子の事だし」
「さすが星合……男らしいぜ……!」
「いや切島、星合は女だからな?」
そんな会話がひそやかに行われているのを横目に、その後私に恐怖感を煽られながらじっくり氷漬けになった二人は、氷を引っぺがした直後にキョウカから眼球にイヤホンジャックを刺しての爆音攻撃、梅雨ちゃんには舌でシバかれ、トドメにどこからか持ってきたバットでお尻をぶん殴られていたが、めげずに「ヒーロー科最高……」と遺言を残していたので最早救いようがないな、と女子全員から呆れ顔をされていた。
なお、約一名「星合メッチャ瞳孔かっぴらいてて怖かったけどあれはあれでなんか……イイな……!」と供述しており、開いてはいけない新たな扉を開いた……かもしれない。