人魚姫は英雄の夢を見るか?   作:一星

48 / 152
違う形の結晶体のぼくら

立ち寄る先も用事も、幾ら尋ねても着いたら分かるとだけ繰り返す轟に連れられて着いた先、そこは。

 

 

「……え?」

 

 

 駅前のショッピングモール内にある、ハンドメイドのアクセサリーや雑貨が並ぶナチュラルな内装の店舗だった。

 

 腰より少し高めの台には所狭しとバレッタや飾り付きの髪ゴム、棚にはピアスやイヤリングが並んでいる。店内は当然制服姿の女子中高生から大学生、果てにはOLまでひしめいているが、どう考えても男子高校生が突入する場所ではない。用があったとしても精々恋人へのプレゼント選びか、家族への贈り物だろうが……轟に限って前者は無いし、恐らく後者が理由なら私を伴ってきたのは間違いじゃないとは思うが――違和感が酷い。男性が長居するには、連れが居たとしても居心地が悪いだろう。

 

 しかし、そんな強烈な違和感よりさらに私の意識を引いていたのは……周囲からの視線だった。

 先日、この世界の日本における、旧来のオリンピックに代わる注目度の雄英体育祭でド派手に暴れ、しかも二日前に対戦した組み合わせの二人組が雄英の制服を着たまま居たら、それはそれは目立つ。隣にいるのがまごうかたなきイケメンなので、視線に籠った熱は三割増しである。視線がもはや物理だ。さっきから女子中学生らしき女の子たちがこっちを見てきゃあきゃあ言ってるのが正直いたたまれない。すまない、隣にいるのがこんな年齢詐欺で。

 本日何度目か数えるのもそろそろ面倒になってきた違和感に茫然としながらも、先ほど思いついた理由を尋ねてみる。

 

 さっきまでの会話の流れで、ここに来るというのならつまり。

 

「……え、何、もしかしてお母さんへのプレゼント選び?」

「なんでそうなる」

 

 いい線いってると思ったのだが、ハズレらしい。逆に何言ってんだこいつみたいな困惑顔で見返されてしまった。いやむしろその顔は私がしたいんですけれど。

 

「いや、この流れで轟がこういうところ連れてくるってもうそれしか考えられないから……」

 

 轟がこういうもの好きとは思えないし。もしそうだったらちょっとギャップの衝撃が大きすぎて、印象を改めるのに半日は欲しいところだ。見た目と中身の嗜好が食い違ってるって、マッスルフォーム時のオールマイトとうさぎ柄弁当袋というミスマッチを通り越してもはや自然な図じゃあるまいし。違和感しかない。

 プレゼントってのは合ってるけどな……とぼやく轟に、じゃあお姉さん?と聞いたら違ぇ、とにべもなく一蹴された。えぇー。これ以上は流石に思いつかないんですが。

 私の表情から答えを出せそうにもないと早々と悟ったらしい轟は、私の手首を掴んでスタスタと店の一番外側の台の前へと歩み寄った。一歩遅れて着いていくのと同時に、轟がぽつりとつぶやく。

 

「髪の分、責任取るっつったろ」

「え、あ、あぁー……」

 

 私か。

 それは盲点。朝の発言をすこんと忘れていた。

 なにしろ、あと二日しかない提出期限までに体験先の事務所を選ばなければならないのだ。全部調べていたらきりがないので、イズクやお茶子、飯田くんのアドバイスをもらいつつ目ぼしい事務所をピックアップしてもらって、休み時間はずっとスマホで調べ倒していたのだ。

 

 ようやく轟の意図が呑み込めたが、あまりに意外なチョイスに目を瞬かせる。中学時代、寄ってくる女の子たちをぞんざいに扱っていた、マイペースかつデリカシーが欠けていたあの轟が、こういう店に連れてくるとは。何度でも言う、意外としか言いようがない。いつから君はマイペースさんからジェントルにクラスチェンジしていたのか。たった二日の間で大変身が過ぎるぞ。

 長い睫毛を伏せて、台に並べられた宝石みたいなアクセサリーを見つめて悩む姿は周囲の視線を完全に集めている。こちらの視線も周囲の視線も気を払ってない辺り、相当に集中しているらしい。

 

「星合はどんなのが好きなんだ?」

「ん?あー……そうだね、シンプルなのが好きかな」

「そうか」

「それにしても意外」

「何がだ?」

「轟がこういう店知ってるのが。っていうか責任の取り方がアクセサリーっていう発想自体が」

 

 あくまで個人の意見だが、そういう発想はどちらかというと交際経験がある人やプレゼントを贈り慣れた社交的な人じゃないかなと、これまでの経験上思うのだが。

 HLに居た時、一部の例外を除き、資金繰りとスポンサーの接待は私の仕事だった。誕生日やら何かの節目にスポンサーやその家族に贈る物にはそりゃもう気を使ったものだ。必要ないのではと思われるかもしれないが、むしろそういう小さい好感度を積み重ねておけば、成果に対して大きな損害が出た時でもクレームを小さく抑えられる。

 そう思っての素朴な疑問だったのだが、轟はきまり悪そうに、そろりと横に視線を泳がせた。困っている時の癖が出ているので、図星だったらしい。はて、何に刺さったのやら。

 

「……が、……て」

「え?」

「いや……さんざん迷惑掛けたし、髪まで燃やしちまったし……。なんかしてえとは思っても、責任の取り方が思いつかなかった、から、……姉さんにアドバイス貰った」

 

 間違いたくなかったからな、とぼやく轟に、すとんと納得した。なるほど、お姉さんのチョイスだったか。まぁ女性だったらこういうアクセサリーが妥当っちゃ妥当だ。……女性に対してアクセサリーの贈り物は、好みの問題もあるので今日みたいに相手を同伴して選ぶ方法でもない限り、贈り物としては正直博打だと思うが。

 女性に対する贈答品で他を挙げるとするなら花か。花ならばどんな相手でも大丈夫だろうが、学生にはちょっと値段も敷居も高かろう。というか、欧米ほど日本は気軽に花を贈り合う習慣もないようなので尚更手を出しにくいかもしれない。

 しかし、律儀だ。ここまでくれば頑固というか、意志一徹というか。思わず苦笑がくちびるから洩れた。

 

「そんな事言ったら、私だって戦闘訓練やらUSJの一件でさんざん轟に迷惑掛けてるからお相子でしょ。焦げたって言ってもひと房ふた房程度だし、事故だから気にすることないのに」

「それでも俺が納得いかねぇ」

「言うと思った。ま、轟の気持ちは嬉しいし、このままだと絶対平行線だからありがたく受け取るよ」

「おう」

 

 これ以上視線を集めるのは得策ではないので、考え事はやめにして真剣にプレゼントを選ぶことにした。棚の前に居座りながらだらだら喋ってるだけなのも、店にも迷惑だろう。

 それにしても。

 

「可愛いなぁ……目の保養」

「好きそうなのありそうか?」

「ちょっと待って」

 

 雑貨屋でアクセサリーを吟味するのは久々で、つい目移りしてしまう。

 轟の問いかけを受けて、棚の上の商品に素早く視線を走らせていた私は、ふと、何か導かれるような引力を感じて、流していた視線を止めた。引力を感じた方へ視線を少しずつ戻していって、何が琴線に触れたのかに気付いた。轟を伴ってその商品の前まで移動する。

 近くにいた女子高校生たちがチラチラと私と轟を見て興奮気味に囁きあいながらどいてくれるのにぺこんと会釈をしつつも、それまで見ることはしても手では全く触れずにいたのを、初めて手を伸ばした。

 

 手のひらに収まるサイズのバレッタだった。紫陽花のような小さな花をぎゅっと集めて、透明な膜で包んで固めて作ったようなバレッタで、白い花の一つ一つがそのまま結晶化したように、植物特有の細かい網状の葉脈の筋が透き通る膜に固められているさまは、まるでレースのようだ。純白の花の所々に、アクセントとして若芽のようなライムグリーンの小さな葉っぱが瑞々しく、ライトを浴びて光っている。

 他にも葉っぱがついているものではなく、白と薄紅色の花のものや、白に近い薄い青に透明なビーズがちりばめられているような商品もあったが、魅入られるように魅かれたのはその白と緑のバレッタだった。

 

「あぁ……似合いそうだな。お前に」

 

 私の一目瞭然な反応を見た轟は、手からバレッタをつまみ上げ、服を買う時に自分の身体にあてがうのと同じようにバレッタを私の髪に翳してから、ふ、と目を細めて仄かに笑った。珍しく表情筋が仕事したのを、間近で目撃した私が目を丸くしている間に、轟はぴら、と値札をひっくり返して軽く確認すると「買ってくる。ここで待ってろ」とさっさとレジへと歩いていった。何の迷いもなくレジに向かう背中を見送って、少しの間の待ち時間、あらぬ方へ視線を流す。

 今日一日ずっと、ちくちくと違和感と意外性につつかれていたせいか、どうにも心がざわついていた。その根本は()()()()()()()という考えから生じていることだけはハッキリとしていた。なにせ、違和感も意外性も、何かを基軸にして、それから外れたものを感じた時の感情だ。これまで見てきた轟の在り方以外にも、何か別のものを重ね合わせているような奇妙な感覚があったのだ。

 

 

 頑固、天然、無口、冷静だけど瞬間沸騰しやすい、…………、……。

 ひとつひとつ、思い浮かぶ要素を上げていく。

 

「…………あ」

 

 ちん、と頭の中で小さくベルが鳴ったような音がした。

 瞼の裏に映ったのは、広い二つの背中。

 紅と紺色。

 私が、世界で最も信頼し、愛しているひとたち。

 それらに重なるようにしてもう一つの幻が見えたとたん、その場に崩れ落ちそうな心地がした。

 

 

 ……そうか分かったぞ、何で私が轟になんだかんだ甘いのか……

 

 

 

 ――この子、クラウスにそっくりなんだ!!

 

 

 気づきたくなかった新事実に、わっと顔を両手で覆って項垂れる。人目さえなければ、あああ、と言葉にならない呻き声を上げたい気分だった。なんなんだ、スターフェイズの人間は赤毛の天然坊ちゃんなナチュラルヒーローには強く出られない的な遺伝子でもあんのか。なんなんだそれは。

 

 重ねて言うがスティーブンと私は血縁ではない。DNA鑑定をしたことがないので確定ではないけれど、他人なのに他人に思えない兄妹みたいな他人。色々共通点が多すぎてもはや血縁じゃないことを証明する方が難しい気がしてきた。

 レオがイズクと雰囲気や根っこの性質がそっくりなのに引き続き、轟もクラウスに性質が似ていることまで気付いてしまった今の気分は、ブルータスお前もか状態だ。他にも探したらライブラ似のメンバーが揃ったら目も当てられない。ここに来て、「相性が良い」というエンデヴァー氏の妄言があながち間違いじゃなかっただなんて、死んでも認めたくない。

 

 

 ……私は。

 

 

 片手で眉間を押さえてひとり苦悩する。一種の奇行にも見える行動を取ったまま、周囲の奇異なものを見る視線にも気付かず没頭していた思考の海から解放されたのは、程なくして雑貨屋の手提げ袋を提げた轟が首を傾げながらどうかしたか、と真顔で聞いてくるまでのことだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。