人魚姫は英雄の夢を見るか?   作:一星

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security off②

「遅かったな。……何話してたんだ?」

 

 走り出してすぐ、混乱する群衆の中でもあの特徴的な髪型を見つけることができた。飯田くんや私ほどではないが、クラスでもかなり足の速い方に位置する轟は、私が追いついたのを見て走るスピードを上げる。

 

「自己防衛のための個性使用許可を取ってた。……もし相手がヒーロー殺しなら、逃げて応援を呼ぶことすら出来ない可能性もあるから」

「……なるほどな」

「忘れてただろ、君」

「……」

「おい問題児」

 

 そっと視線をあらぬ方へ逃がす轟に苦言を呈する私。これから対人戦闘になるかもしれないのに緊張感が無いと言われてしまうかもしれないが、人型だろうが異形だろうが人外だろうが戦い慣れている私は、血界の眷属相手でもない限り極度に緊張することはない。轟も緊張しすぎるようなそぶりがないのは、エンデヴァーとの訓練の賜物だろうか。そう言ったら、本人は嫌がるだろうが。

 

「地図は頭に入ってる?」

「ああ、おかげさまでな」

「オーケー、二手に分かれてイズクの居る細道を捜そう。情報がアバウトだけど、近くにさえ行けば戦闘音で分かるはず」

「おう」

「私は上から、轟は地上からで」

「上?……ああ、あれか」

 

 

 数分後、私は打ち合わせ通り轟と一旦別れ、階段やエレベーターを一切使()()()ビルの屋上に居た。方法は簡単だ、某蜘蛛男なヒーローよろしく血糸を駆使してビル屋上に移動し、ビルとビルの合間は素の身体能力だけでパルクールの要領で飛び移って移動していた。

 

 躊躇いもなくコンクリートの地面を踏み切り、宙に身を躍らせる。一瞬の浮遊感の後、自由落下する身体。

 飛び込むのはビルとビルの合間の僅かな路地で、眼下にはビルの壁に凭れるようにして座り込んでいるインディアンを思わせるコスチュームの男に、地面に倒れ伏すイズクと飯田くん。

 そして飯田くんを今にも手にした日本刀で斬らんとする、ぼろぼろの赤いマフラーと目出し布をつけた男――ヒーロー殺し・ステインが居た。

 そしてその先に、今にも路地裏に踏み込んで氷結と炎を繰り出そうとする轟の姿が見える。一瞬轟と視線が交差する。足から落下する私を見て少し目を瞠る彼に、任せろという意味を込めてひとつ頷いた。自然のものでない風が私を受け止めるように吹き、足元にクッションのように渦巻く。

 

 

 意外に思われるかもしれないが、実は今の今まで一度も、轟とまともな共闘をしたことがない。中学時代は個性の使用は基本禁止だったし、雄英に進学してからは敵対することは何度かあったものの共闘は一度もない。USJ事件では轟が到着する頃にはこちらは脳無から手傷を負って連携どころでは無かったから、この職業体験でやっと一緒に戦ったことが少しあると言えるレベルだ。

 

 

 けれど、それはさしたる問題にはならない。打ち合わせなど無くとも、連携を取れる自信はある。

 ――なにしろあの霧の街での戦闘では、たとえ初対面同士だったとしても打ち合わせ無しの同時行動で連携を取ることは必須技能だったのだから。

 日々を、生き抜くために。

 

 

 

 予想通り、轟の初手はヒーロー殺しを飯田くんから引き離すための氷と炎の同時攻撃だった。完全な不意討ちだったにも関わらずヒーロー殺しはどちらも避けてみせた。なるほど、素早い。室外機の上に音もなく降り立ちながら、絶好の機を窺う。

 

「次から次へと……ハァ、今日はよく邪魔が入る……」

「緑谷、こういうのはもっと詳しく書くべきだ……遅くなっちまっただろ」

「轟くんまで……」

「何で君が……!?それに……左……!!」

 

 驚愕する飯田くんとイズクに対し、左腕に炎を纏わせたまま轟はヒーロー殺しを見据えた。

 

「何でって……こっちの台詞だ。数秒“意味”を考えたよ、一括送信で位置情報だけ送ってきたから。意味なくそういうことする奴じゃねえからな、おまえは」

 

 ぐっと上体を落として構える轟と呼吸を合わせるように、上空で息を殺し、意志を殺し、気配を殺していた私は、自分の周囲に路地から見えるほんの少しの空を埋め尽くさんばかりの無数の水の槍を出現させ、弾幕を張らんと攻勢に移る。

 

 

 ――水晶宮血濤道、丁の舞。

 

「――逆巻(さかまき) 驟雨(しゅうう)

 

 

 私が気配遮断を解いた一秒後に放たれた轟の氷結攻撃を躱したヒーロー殺しには、()()()()()()()()()()()に突然人間が現れたように感じただろう。驚愕の表情でこちらを向いた瞬間、待機させていた水の槍があらゆる方向から、身軽なその身体を縫い留めんと一斉に襲い掛かる。

 

「星合さん!?」

「星合くん!?」

「やぁ、大丈夫?助けに来たよ」

 

 わざと気付いてもらえるように、気配を殺していたのを解いたからだろう。生憎ヒーロー殺しにまともに水槍は着弾しなかったが、私が数秒ヒーロー殺しの意識を引きつけたおかげで、轟が氷結と炎熱を上手く使い、身動きの取れない三人を一瞬で背後に移動させ、ヒーロー殺しの凶刃の届く範囲から退避させることが出来たので良しとする。

 思わぬ援軍を警戒し、大きく後ろに後退したヒーロー殺しから視線を離さないよう意識しつつも、地面にひらりと着地した私を見て驚愕の声を上げるイズクと飯田くんを安心させるように笑顔を浮かべた。 

 

「“ピンチだから応援呼べ”ってことだろ。大丈夫だ、数分もすりゃプロも現着する。

 ……情報通りのナリだな、こいつらは殺させねえぞ、ヒーロー殺し」

 

 情報通り、というあたりで意味ありげな視線を頂戴したのに肩を竦める。ずっと値踏みするような視線を向けてくるヒーロー殺し・ステインから目を離さず、靴裏で地面を軽くタップした。空気がざわりと水気を帯びたように揺れる。足元から霧が湧き出て、風が無いにもかかわらず、意志を持つように霧が私の背後へと流れていく。

 

逃水(にげみず)

 

 ヒーロー殺しに避けられた水槍と、轟が手負いの3人を引き寄せるのに使った氷が解けた名残で辺りに満ちていた水気を利用し、水と霧のドームを編み上げる。ヒーロー殺しがこちらの意図に気付いて距離感を測られないよう手早く。体育祭の騎馬戦の時のように、ヒーロー殺しの殺害対象になっていただろう3人をヒーロー殺しの視覚に映らないよう屈折率を弄り、霧の幻覚で覆い隠す。

 

「……」

 

 助けるべき3人はとりあえずこちらに引き戻し、ヒーロー殺しの視覚から消したが、あの機動力はやはり脅威だ。あの速さでは、動けない3人を連れてヒーロー殺しを牽制しながら路地裏を脱出するのは厳しい。撤退は難しいだろう。ならばこちらの勝利条件はプロが現着するまでの時間稼ぎ。さっきエンデヴァーに個性許可を貰って良かったと心から思う。

 

「轟くん、星合さん!そいつに血ィ見せちゃダメだ!多分血の経口摂取で相手の自由を奪う!皆やられた!」

「!」

 

 姿は霧のシェルターで見えなくとも、声は聞こえる。

 イズクからもたらされたヒーロー殺しの“個性”の詳細に、私は眉を顰める。一対一で絶対的な力を持つ個性、という予想が大まかに当たっていたのは喜ばしいが、よりによって血の経口摂取とは。相性が悪いのか、良いのか。

 

「それで刃物か、俺なら距離保ったまま――」

 

 言いかけた轟めがけて投げられたナイフに対し、反射的に彼の前に薄い(エスクード)を張って防ぐ。すぐにガラスが砕け散るような音を立てて割れ落ちるが、ナイフを防ぐためだけに張ったので問題は無い。

 逃水を使ったことで、より厄介なのが私だと悟ったらしいヒーロー殺しは、私の意識が轟に逸れた瞬間、手にした大振りのサバイバルナイフで切りかかってくるが、慌てることなくブーツの脛に仕込んだ鉄板でナイフを受ける。ゴキン、という鈍い音と、押し込んでこようとする強さに、思わず口角が上がった。

 ナイフで斬りかかって来たのと同時に頭上に投げられていた日本刀は、自由落下する際に狭い路地裏の空間に張り巡らせた、目でギリギリ捉えられないほど細い水の糸の結界を、蜘蛛の糸にかかった水滴のように、その一部分だけ氷結させることで防ぐ。

 ぎりぎりとブーツとナイフが不協和音を奏でて拮抗した瞬間、ナイフを受け止めていない足裏で血法を発動させた。

 

絶対零度の剣(エスパーダデルセロアブソルート)

 

 ヒーロー殺しの足元から串刺しにせんと地面から青い氷の剣が生えるが、素早く跳躍したヒーロー殺しの足に軽い切り傷を作っただけで離脱されてしまう。お返しとばかりに、ヒーロー殺しが飛び退ると同時に、私と轟目がけて投げられる数本のナイフ。その凶刃を瞬時に編んだ血糸で絡めとるように叩き落とし、そのうち数本は間合いを取るための牽制に投げ返す。

 

「良い友人を持ったじゃないか、インゲニウム」

「(こいつ……強え。一つ一つの動きが二択三択を迫ってくる……)」

 

 轟がヒーロー殺しを捕らえんと足から氷結を繰り出すタイミングから、()()()数秒遅らせる形で空中に逃れて一瞬無防備になるヒーロー殺しに向けて血法を発動させるが、僅かな氷結の間隙や凍っていない地面を足場にする技量には舌を巻く。そこらにいるチンピラレベルのしょうもない殺人鬼かと思いきや、中々に強い。一対多に持ち込めば捕らえるのは難しくないだろうと思っていたのだが、認識を少し改めなければならないようだ。

 

 

「何故……二人とも……何故だ……やめてくれよ……」

 

 息もつかせぬ、瞬きすら惜しいほどの攻防の最中、逃水のドームの内側から打ち震える声が聞こえた。

 茫然としたような、それでいて怨嗟に満ちた、独りよがりの声が。

 

「兄さんの名を継いだんだ……僕がやらなきゃ、そいつは僕が……」

 

 一人称が元に戻っていることにも気付いていない、吐露された本音は完全に昏い感情に囚われていた。地面を引き掻く指先が、絶望にこけた頬が痛ましい。

 

「継いだのか、おかしいな……」

 

 一足飛びで突っ込んでくるヒーロー殺しを牽制し、血を舐められて飯田くん達の二の舞にならないよう距離を取るために、体育祭で見せた最大規模には及ばずとも巨大な氷壁を打ち出す轟は呟く。心の底から不思議がるような声だった。

 

「俺が見たことあるインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな。おまえん家も、裏じゃ色々とあるんだな」

「……!」

「……何故、なんて野暮なこと言うなよ、飯田くん」

 

 背を向けているせいで彼がどんな表情をしているかは分からないが、きっと混乱しているだろう同級生を想う。そして、悠長な会話も油断もさせてくれない目の前の敵に、思わず不敵な笑みが口元に浮かんだ。

 

「救けたいから、自分がそうしたいから、私も轟もイズクもここにいる。それだけだ。私が知ってるヒーローは、いちいち救うための理由なんて考えない」

 

 脳裏をかすめる金髪と赤髪の巨躯。私の尊敬するヒーローたち。

 それに。

 

 

「ヒーローが一人では戦えない事、君だってよく知っているだろう?」

 

 

 インゲニウムは65人ものサイドキックを雇うヒーロー。それだけで、インゲニウムが他を頼ること、多くの仲間との連携を重要視していたことは想像して余りある。弟の飯田くんならばよくその話を聞かされていただろう。こんな風に復讐に囚われて、何も見えなくなるぐらい思い詰めるほど慕っていたのなら、尚更。

 自分の手に負えることなんてほんの少しだ。何かを救うなんて大それたこと、たかが一人の力で出来るわけがないことを、私もよくよく知っている。

 

 

 ぼろぼろの刃こぼれした日本刀が、轟の氷壁を豆腐でも切るかのように鮮やかに切り崩していく。

 

「己より素早い相手に対して自ら視界を遮る……愚策だ」

「そりゃどうかな」

「――ッ!」

 

 不敵に憎まれ口をたたきながら左腕に炎を灯し、氷壁を乗り越えて突っ込んでくるであろうヒーロー殺しに構えを取る轟だが、切り崩された氷の壁を目隠しに放たれた2本のナイフが、轟の腕目がけて飛んでくるのを察知した私はとっさに轟の前に庇うように腕を突き出した。

 

 

「――“八重に咲く氷盾(フロラシオン・デル・エスクード)”」

 

 

 指輪から咄嗟にひねり出した血液を、クラウスが用いるガンドレッドのように肘下まで覆うように纏わせ氷に変える。本来一枚(というか一塊)の盾であるエスクードを、防御の範囲を絞る代わりに枚数を重ねることで強度を増させる派生技だ。

 花のように重なったその盾が、目の前で数枚音を立てて砕け散る。……咄嗟に張ったとはいえ半分も割られるとは予想外だ。個性もなしにどんな投擲威力だ。轟の氷を日本刀で切り伏せる技量といい、ヴィランにしておくのが惜しいほどの執念と鍛錬を感じる。

 本当はアリギュラ特製の数トン級のモンスタートラックすら傷一つ付けずにトスする牙狩り最硬の『絶対不破血十字盾(クロイツシルトウンツェアブレヒリヒ)』を発動できれば良いのだが、ブレングリード流は普段滅多に使わないこともあり、術式を組んで発動するまでに時間がかかりすぎて間に合いそうにないのと、血液の消費量が半端ないので断念した。そもそもラインヘルツの血脈に居ない私が、自分用に術式をアレンジした上で奥義の一端とはいえ発動できる時点でおかしいのだが(この特性のせいで研究が激化した)。さすがに最終奥義である密封は使えないのだが……本当になんで発動できるのか。

 

 ――と、一瞬だけ遠い目をしたのが良くなかったのか、再び氷に紛れ込ませて放たれた投げナイフの一本が、残りの盾を砕いて前腕に突き立った。深々と刺さった傷口から少なくない量の赤が飛び散るのを見て、痛みに一瞬顔がゆがんだ。ヒーロー殺しに利用されないよう、すぐに傷口から溢れる血液を体内に戻し、宙を舞った血煙を氷の欠片に変えつつも、やられた、と舌打ちした。

 

「星合!」

「星合さん!」

「っ……大丈夫」

「お前らも……良い」

 

 悲鳴じみた声を上げる轟とイズクに問題ないと返しながら、妙な、どこか恍惚とした笑顔を浮かべてこちらに頭上から日本刀の切っ先を突き立てんと降ってくるヒーロー殺しを血法で迎え撃とうとしたその時、ズダン!と勢いよく地面を踏み込む音が背後から聞こえた。

 反射的に振り返ると、逃水の効果範囲から抜け出たイズクが、ビルの壁を蹴って方向と勢いを調節しながら、絶賛私を眼下に見据えて落下中のヒーロー殺しの首根っこを掴んで空中から引きずり下ろすのが見えた。その足さばきはどこか見覚えがあって、それでいて馴染みのあるそれとは少しちぐはぐで、私はパチパチとまばたきを繰り返す。え、なにその機動。私と爆豪を2:8ぐらいで混ぜて割ったみたいな動きは。

 職業体験前や体育祭の時とは見違えるようなキレのある動きに、彼が数秒前までヒーロー殺しの個性に掛かっていたことも忘れてあっけにとられた。

 

「緑谷!」

「なんか普通に動けるようになった!」

「ということは、時間制限か」

「いや、あの子が一番最後にやられたはず!俺はまだ動けねぇ……」

 

 血の経口摂取で自由を奪うという、タイマンでは全能にも思える個性も、やはり効果の限界はあったらしい。経緯的に一番最初に襲われたであろうプロヒーローからの情報に、私は考えを巡らせる。

 逃水の発動中は術者である私しか隠した対象を見られない。飯田くんも動こうとヒーロー殺しの個性に抵抗しているのが見て取れるが、まだ動けない様子だ。イズクが一番最後だったにもかかわらず、拘束が解けるのが早いということは、それだけで考えられる条件はかなり絞られてくる。

 

 そのまま地面まで無様に引きずり降ろされ叩きつけられるようなヒーロー殺しではなく、奴は首根っこを掴まれたままイズクの背中に肘鉄を入れた。突き落とされてイズクが地面と衝突する寸前に、路地裏に張り巡らせた血を媒介に“籠目”の血のネットで受け止める。うっかり調整をおろそかにして、受け止めた人間が後頭部を打ち付けるだなんてどこかのSSのような雑な仕事はしない。

 すばやく体勢を立て直したヒーロー殺しを轟が氷結で牽制する間、刀の間合いから下がったイズクと私は推測を口にする。

 

 

「血を摂り入れて動きを奪う……僕だけが先に解けたってことは」

「考えられるのは3パターン……人数が多くなるほど効果が薄まるのか、摂取量に左右されるのか……血液型によって効果に差異が生じるか」

「血液型……俺はBだ」

「僕はA……」

「血液型……ハァ……正解だ」

 

 

 この世界での戦闘において個性の内容を知ることによるアドバンテージは非常に重要だ。にもかかわらずあっさりと肯定したヒーロー殺しに、私は目を細める。何か考えがあるのか、ただバカなのか、それとも――知られても問題ないと思われているのか。

 

「わかったところで、どうにもなんないけど……」

「さっさと二人担いで撤退してえとこだが……氷も炎も避けられるほどの反応速度だ、そんな隙見せらんねえ。プロが来るまで近接を避けつつ粘るのが最善だと思う」

「そうだね。逃水でアイツに逃走経路を悟らせないようイズクと轟が二人を担いで逃げて、スピードでやり合える私が殿(しんがり)で時間稼ぎ……って手もあるけど、その顔だと許してくれなさそうだしね」

 

 もう一つ、轟が指摘しなかった「最善」を口にしたとたん、二人の表情が険しいものに変わったのに思わず苦笑が洩れる。当たり前だ、と吐き捨てる轟の視線は、未だナイフが刺さったままの私の右腕に向いていた。

 

「血液を操るお前とヒーロー殺しの相性は最悪だ、さっきみてえに防御を掻い潜られて動きを止められたらどうすんだ。即座に止血できるっつったって、一人で相手に出来るほど生易しい相手でもない。……そんなリスキーな手段取らせるかよ」

「確かに応援をすぐ呼べる点ではベストかもしれないけど、流石に危険すぎるよ、星合さん……」

「……そうね」

 

 ……本当は、先ほどヒーロー殺しと鍔迫り合いになった時に放った絶対零度の剣(エスパーダデルセロアブソルート)で負わせた傷口からこっそり奴の体内に絶対零度の小針(アグハデルセロアブソルート)を仕込んだので、いつでも任意で細胞を一つ残らず冷凍することも可能なのだが……流石に、今のこの状況と立場でそれを行えば過剰防衛(オーバーキル)だろう。内側からの(エスパーダ)での攻撃も同様だ。手加減したとしても、殺すに十分すぎる。

 誰かが死にそうになっていたから咄嗟にやってしまった、というならまだ酌量の余地もあるかもしれないが、経歴に傷がつくのは避けられない。後見人になってくれているオールマイトにも迷惑をかけることになる。それだけはなんとしても避けたい。

 ……最悪、この中の誰かが死にそうになってどうしようもなくなったのなら、最後の手を使う覚悟はあるが。

 殺さない程度、やり過ぎない程度に()()()を調節するのも楽ではないのだが、実戦で調節できる機会だと思ってやるしかない。そう自分を納得させて、溜息を飲み込んだ。

 かすかな痛みを伴いながらも腕からナイフを引き抜く。ナイフに付着した血液を凍らせながら、いつでも投擲できるよう、くるりと手の中で回すように刃の部分を指で挟んだ形から持ち手へと持ち替える。傷口はうっかり開かないよう血糸で簡単に縫合を済ませ、皮膚についた血も凍らせたので、これでもう一度ヒーロー殺しに手傷を負わされない限りは血を舐められて動きを止められることは無くなった。

 僅かに目を細めて、ヒーロー殺しを真っ直ぐに見据える。軽く足を開き、靴裏で埃っぽい地面をざらりと撫でる。足先まで神経が通うような感覚は、静かに闘志が高まってきている証拠だった。

 

 

「どちらにせよ危ない橋には変わりないけど……三人で、守ろう」

 

 胸に仕舞った最後の手段に対するほんの少しの迷いを振り切るように、イズクと轟の二人を、動けないままのヒーローと飯田くんを護る意思を固めるように、想いを口に出す。

 

 

「3対1か……甘くは、ないな」

 

 

 ヒーロー殺しの纏う雰囲気が変わる。今までどこか様子見をするような、こちらをほどほどにあしらいつつもターゲットを殺そうとしていた余裕が掻き消える。焦りは見えないが、いよいよ本気で襲いかかってくる予感があった。

 

 

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