「第一種目は50m走だ」
二つのレーンに、出席番号順……つまり50音順で二人ずつ測定することになった。私は“ほ”なので、先程デモンストレーションをしていた爆豪と、入学前から面識のあるイズクの間である。
次々と測定がスムーズに為され、あっという間に私と爆豪の番になった。ブロックに設置された機械にほとんどの人が足を掛け、轟曰くクラウチングスタートという形をとるのだが、それを使ったスタートに全く馴染みのない私は、クラウチングスタートの姿勢を取る爆豪の隣で、右手をポケットに入れ、左足を一歩引いた、エスメラルダ式血凍道の構えを取った。
明らかにやる気がなさそうにしか見えない構えに周囲の生徒がざわつくが、私の戦闘スタイルも能力も知っている相澤先生は何も言わず、じっとこちらを見てくる。
内心ほくそ笑みながら、ヨーイ、で引いた左足に力を込め――
スタート、の声の余韻が終わる頃には、爆豪も、その場の全ての視線も、音すら置き去りにして、私はゴールに到達していた。
……“個性”、つまりエスメラルダ式血凍道も、その派生技術である水晶宮式血濤道も使わず、本来の脚力で。
『1秒02!』
「な……ッ」
まさか女子に置いて行かれるだなんて事態を想定していなかったのだろう。息を呑む音が、爆音に紛れて聞こえる。 驚きながらもきちんとスタートは切ったらしく、どんどん爆豪の気配が近づいているのを背後に感じながら、私は邪魔にならないように――というか、爆発に巻き込まれないよう、走り終わったクラスメイト達の所へ歩き出す。凄い、とかざわめきが聞こえるが、……正直それを喜べない自分が居る。背後に聞いた爆豪の記録は4秒13、クラスの中ではかなりの好成績だろう。
ぐるぐると足首を回していると、体格のいい眼鏡を掛けた男子生徒が近寄ってきた。少し遅れて、お茶子と轟が別の方向からそれぞれ集まってくる。
「1秒台とはすごいな、個性で足の速さには自信があったのだが、俺より早いとは!」
「あ、3秒台の……」
「私立聡明中学出身、飯田天哉だ。よろしく」
「星合千晶です、こちらこそよろしく、飯田くん」
ぴっしりと指の先までくっつけた手をこちらに向けて差し出され、反射的に握手かと思い握りしめたら、何故か固まられた。目を真ん丸にして凝視してくるその顔を見てから、あ、しまったと自分の行動の迂闊さに気付いて、すぐさま握った手を離した。
「あ、ゴメン。握手かと思って反射的に……」
「い、いや、大丈夫だ。少し驚きはしたが……」
「千晶ちゃん、凄かったよー!瞬間移動みたいだった!バビュンって!」
「アハハ、ありがとう」
お茶子の純粋な賞賛の言葉にへらっと笑っていると、近寄ってきた轟がじいっと左足を見ているのに気付いた。先ほどまでぐるぐる回していたそれに注目するということは、やはり彼の目にも“不調”と映ったらしい。
「星合、左足大丈夫か?」
「「え?」」
「ああ、うん、平気。やっぱり慣れない靴使うもんじゃないね、調整できなかった。よく見えたね?」
「速過ぎて最初の一瞬しか見えなかったけどな……左で踏み切った瞬間バランス少し崩したろ」
「随分バッチリ見えてたね……朝廊下で人とぶつかりそうになった時、間違って針をぶすっと踏んじゃって。サポート会社に作ってもらったギミックの針が太いわ、思ったよりぶっすり刺さるわでちょっと痛い」
「それ、お前の個性だと致命傷だろ……大丈夫か?」
「もう止血してるから平気。先生と相談してちょっと調整しないと」
そうしろ、と無表情ながら心配そうに見下ろしてくる色の違う双眸にニッと笑いかけていると、視界の隅でぽかんとしている飯田くん(なぜか彼はくん付けしたくなったので慣れないくん付けで呼んでいる)とお茶子が映った。
「……?どうしたの、二人とも」
「……えーと、二人とも仲ええね……?」
合わせた両手の指を彷徨わせながらお茶子が言った言葉に、私と轟は一瞬顔を見合わせて、真顔で頷いた。
「中学、同じだからな」
「4ヵ月だけだけどね」
「そうなのか、道理で星合くんの不調にも気付けたんだな。それでもあの速さとは恐れ入るが……俺ももっと精進せねば」
納得がいった、と深く頷いている飯田くんに、私は苦笑する。
本来なら、50mの距離を詰めるのに1秒かかっていたら牙狩りとしては遅い部類に入る。レオがライブラに入る切っ掛けになった邪神事件で、ザップと共に1ナノ秒の間に周囲を斬り都市をガレキにし、大暴れした邪神を相手取ったこともあるくらい、ライブラでの機動力お化けが私とザップである。そもそも吸血鬼相手にまともに戦うためには、こちらも人間の反応速度の限界に迫らなければ、気が付いたら首と胴体がお別れしていたなんてことはザラなのだ。
だが、今の私は全盛期でもある元の25歳の10年前まで身体能力が逆行してしまっている。施設を出て、世界各地での任務、そしてあの魑魅魍魎の街での3年間の研鑽も、「なかったこと」にされているのだ。成長期にまで戻されたせいで、自分の感覚に肉体が追いつかずに上手く思った通りに制御できないということが異世界に来てからよくあった。半年を経て、ようやく本来の60%まで取り戻せたものの……HLでの動きのキレには程遠い。……まぁ、1ナノ秒でもしも動けていたら、測定不能で人外扱いされていたかもしれないが。
次の握力では手のサイズに機械を合わせたり、やり方を教わるのにお茶子の手を借りて、まぁ一般女子より強いくらいの記録を出し、第3種目・立ち幅跳びは50m走と同じく、個性を使わずに純粋な脚力でかなりの好記録を出せた。反復横飛びは最初、皆どんなステップで踏んでいるのか、全員やり方やテンポが違うせいでどうにも掴み切れず、出席番号の関係で早めに終わった梅雨ちゃんやお茶子、飯田くんにつきっきりで教えてもらい、何とか乗り切った。反射能力を見る種目で、しかも足を使うのだから得意だろうと思われるかもしれないが、テンポが独特過ぎてしどろもどろになり、ほどほどの結果になった。……多分、慣れれば得意な種目だとは思うのだが。
次のボール投げではお茶子がまさかの
またもや球速に爆風を上乗せして700m以上ボールを飛ばした爆豪の後に(なぜか交代する時思い切り睨まれた、なんでだ)100mほど水平に狙って飛ばし終えた私は、こちらへ向かってくるイズクの、追い詰められた表情に目を細めた。
理由は違えど密かにオールマイトに世話になっている者同士。個人的にも諦めの悪い、自分の信念を曲げずに努力し、その果てに絶望のどん底から雄英合格を掴み取ったイズクは、人間として好ましい相手だ。そして、何よりオールマイトに同じクラスメイトとしてしばらく気を付けて見守っていてほしいと言われた以上、目立った記録のない彼を心配するのは当然だろう。……先程から、そわそわと落ち着かない気配を校舎の影から向けられているし。
ぶつぶつとなにやら呟いている彼にすれ違いざま、「イズク、大丈夫?」と声を掛けたものの、脇目もふらず円の中に入っていく姿を見て、これは聞こえていないなと小さく肩を竦めた。
「知り合いか?」
ギャラリーの中に戻ると、腕組みをしていた轟に手短に尋ねられた。少し考えなくとも、イズクとのことを聞いていると察し、一瞬そっと口を噤んだ。どう答えたものか、考えあぐねたからだ。
轟焦凍は、NO.2ヒーロー・エンデヴァーの息子だ。聞かれたくなさそうだったので詳しい事情は知らないが、実父との確執のせいで、彼は「半冷半燃」という、複合型の“個性”としてはかなり強力なものを持っているにもかかわらず、
氷の能力だけでオールマイトを超える、という彼自身の、歪ながらもあまりに痛切な望みを、私は共に過ごした時間の中で幾度となく聞いてきた。
そんな彼の家族関係を聞きかじっている以上、私はその問いかけに誠実に答えることが出来なくなる。イズクとの関係性を説明しようとすると、どうしてもオールマイトとの関係を明かさなければならなくなるからだ。
……それは、ひいては私の遍歴をも明かすことになってしまう。
相澤先生たちにそうしたように、異世界から来たことは秘密にして、建前である『敵に長年監禁され
たとえ、それが事実と嘘がミックスされた、限りなく事実に近い作り話でも。
「……まぁ、ちょっと」
それらを数秒の内に考えた私は曖昧な言葉で濁し、轟から視線を逸らすと、ギャラリーと共にイズクの初投を見守ることにした。
轟は数秒探るような目でこちらを見ていたが、私がイズクから視線を外さないのを見て諦めたのだろう、彼もまた、正面を向いた。
必死の形相で振りかぶられるボール。そのボールを握る右腕に、秘められた圧倒的パワーがまるで体外に漏れ出したかのように電流が這う――譲渡された“個性”、「ワン・フォー・オール」。その発現と同時に、器に収まりきらないほどの力の行使の代償として訪れる肉体の損傷を示すかのように、電流の下の右腕が内出血したかのように赤黒く染まる――はずだった。
「!」
1ナノ秒の戦闘をも可能にする、鍛えられた超人的な動体視力により、現在のイズクの“個性”行使の際に現れるはずの腕の変化が「まるで途中キャンセルされたかのように消された」のを捉え、私はハッとして、ボール投げを少し離れた場所から見守っている相澤先生に目を向けた。そして、彼の前髪が完全に重力に逆らい、後ろへと流れているのを見て、やはりとくちびるを噛み締める。
『46m!』
「な……今確かに使おうって……」
――“個性”を消されたのだ。相澤先生……抹消ヒーロー・イレイザー・ヘッドによって。
……やはり、相澤先生に目を付けられていたのだ。
合理主義をモットーとする彼にとって、“個性”を制御できず、行動不能になってしまうイズクの今の在り方は、あまりに不合理――ただ周囲に迷惑を掛けるだけのお荷物にしかならないと判断されたのだろう。
クラスメイトが大丈夫かと不安そうに囁きあう中、イズクの身体に掛けられていた拘束と、抹消の“個性”が消える。ぶつぶつと自身の考えに没頭しながら、再び円の中に戻るその姿は、まさに絶体絶命の窮地。二人の間でどんな会話が交わされたのかは分からないが、でも。
「……がんばれ」
思い切り――けれど、先程とは違い、最小限の犠牲……指一本のみを犠牲にして放たれたボールは、空高く打ち上がる。
それを見届けながら、腫れ上がった指を握りしめ、傷みに目を潤ませながらもはっきりとまだ動けることを相澤先生に宣言したイズクのその表情は――彼が憧れる、カッコイイヒーローそのものだった。
何故かイズクにキレて殴り掛かりに行った爆豪が相澤先生に物理的にも個性でも止められた後、こちらに戻ってきたイズクに、私は小走りで駆け寄った。
「指、大丈夫?」
「あ、うん……」
「イズク」
お茶子に声を掛けられ、指を押さえながら弱々しくはあるものの笑顔を浮かべているイズクに声を掛けると、彼は軽く肩を跳ねさせた後、星合さん、と力無く名前を呼ばれた。
「お疲れ、指診せて」
「え?あ、うん」
端的に用件を述べた私に、イズクは一瞬呆けた顔をしたものの、すぐに負傷した右手を差し出してきた。
投げる一瞬、ありえない方向に指先が曲がっていたので恐らく数か所骨折している。内出血しているのは、赤黒く腫れた指を見れば明らか。
……オールマイトに聞いていたとはいえ、得た力の代償としてはあまりに痛々しいそれにそっと目を伏せた私は、手のひらを挟み込むようにして覆い、作りだした水の珠で負傷した指を包み込ませた。簡易アイスノンである。氷にすると後で処置するリカバリーガールの手間になるし、長引くと凍傷の危険もあるので、後始末が楽な水の状態で保持させる。表面はぷよぷよとしたゼリー状に固めているので、皮膚がふやける心配もなく安全である。
「ん、できた。保健室行くまで、これで冷やせばいいよ」
「あ、冷たい……ありがとう、痛いの少し和らいだみたい」
「」
ひら、と手を振って答えれば、イズクとお茶子の二人から、かぁっこいい……!と目をキラキラさせながら興奮した面持ちで言われてしまい、純粋な二対の目に見上げられた私は、輝きを直視できず苦笑いを浮かべるのだった。
その後、上体起こしで何故か爆豪に一方的に張り合われたり、長座体前屈で軟体動物のような身体の柔らかさを見せたら驚かれるやら気持ち悪がられるやらで注目を浴びたり(エスメラルダの蹴り技を行使するのに、関節がやわらかい方がリーチが広がって有利なので、柔軟は日頃から力を入れていた成果だった。ちなみにI字バランスやY字バランスも出来たりする)、持久走では“創造”を使ったモモと、”エンジン”が個性の飯田くんが怒涛のデッドヒートを繰り広げて大いにクラスが盛り上がったりと色々あった末、全ての種目が終了した。
「んじゃ、パパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので、一括開示する」
最下位は除籍、という宣言の所為か、その場に緊張が走る。
「ちなみに、除籍はウソな。君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」
『は――!!!???』
が、その緊張をぶち壊すように、しれっと相澤先生が放った一言に、最前列のイズク、お茶子、飯田くんが大声で叫ぶ。……君ら、ホント素直だね。モモの「少し考えれば嘘だって分かる」発言にうんうんと頷いてしまった。
「(……ま、イズクはちょっと危なかったわけだけど)」
ソフトボール投げの一件が無ければ相澤先生は本気でイズクを除籍にしただろう。あの時のとっさの判断に、相澤先生は少なからず可能性を感じたのだ。校舎の陰――相澤先生がダルそうに立ち去って行った方角にいるであろうオールマイトも、さぞ安心したに違いない。
自由解散みたいな空気になり、その場でそれぞれ思い思いに友人と連れだって更衣室に戻る。私はお茶子と話しながら、着替えを終えた私は、お茶子や他の女子とはそこで別れた。イズクの手に付けた水を私の手で解除しないといけないからだ。
廊下の壁に凭れてぼんやりしながら待っていると、男子更衣室のドアが開いた。誰が出てきたのかと目を向けた私は、ばっちりと出てきた爆豪と目が合った。
「お疲れ」
「アァ”!?」
なんでお疲れって言ったらメンチ切られるんだ。社交辞令をコンマ一秒とかからず跳ね除けられ、きょとんとする。
もっと迫力も怖さもある脅しを受けたことがあるので、そのヴィランじみた表情のインパクト以外に特に怖いとかそういった感情は抱かないが、単純に疑問である。何かしたっけか、私。
ことん、と首を傾げていると、威嚇してくる爆豪の背中をずいと押しやり、逆立った赤い髪と金髪が特徴的な男子二人が続いて出てきた。
「ちょ、爆豪なに女子にキレてんだよ、短気だな~!?」
「あ、2位の外人女子じゃん。お疲れ~」
「ん、お疲れ」
そう、結果は轟と同点の2位だった。握力や反復横飛びなどパッとしない競技ももちろんあったが、それを補って余りあるほどに50m走や立ち幅跳び、長座体前屈の記録が良かったのである。残念ながら“創造”を使って生み出した道具を使っていたモモには負けたが、能力的にこういった競技には使い道が少ない轟とほぼ身体能力のみで並べたのは純粋に嬉しいものだ。
「50m走とか凄かったよな~、最後まで何の“個性”なのかよく分かんなかったけど!」
「はは……イズ、緑谷まだいる?」
手離しで褒めてくる金髪の男の子の言葉に軽く笑って、お目当ての人物がまだ中に居るか尋ねる。怪我をしていたので可能性は低いだろうが、先に行っていたら時間の無駄になってしまうからだ。
「緑谷……あぁ、ボール投げの。多分いるぜ、もうすぐ出てくるだろ」
「そっか、ありがとう」
「おー、んじゃお先!」
ズカズカと先に行ってしまった爆豪を追うように走っていった二人の背中を見送っていると、ギィと再びドアが開く音がした。今度こそきょとり、と大きめの目を丸くする目当ての人物と目が合って、私は凭れていた壁から背中を離した。
「あ、星合さん。どうしたの?」
「イズクを待ってた。その指、保健室で治療しないと」
「えっ、そうだったの!?ゴメン、待たせちゃって」
「約束も何もしてないし、私が勝手にしたいだけだから、気にしないで」
「う、うん。ありがとう」
少し顔を赤らめながらも笑顔をみせるイズクに私もうっすらと笑いながら、並んで保健室へと向かう。
途中、背中に視線を感じたような気はしたものの、悪意は含まれていなかったので、いつものことかと特に気にも留めず、まだ校内の構造を覚えていないイズクを連れて、保健室へと歩みを進めること数分。
「失礼します」
「いらっしゃい。……おや、千晶に、入試で大怪我してた子じゃないか」
保健室の中に踏み入ると、書き物をしていたらしいリカバリーガールがくるりと椅子ごとこちらを振り返った。リカバリーガールの記憶にも、イズクの“個性”が暴走したような大怪我は印象に残っていたようだ。
「こ、こんにちは……」
「初日からどうしたんだい?」
「人差し指、“個性”でバキバキに折れてるから連れてきました」
「おやまぁ……利用書はあるかい?」
「あ、これです」
相澤先生から手渡されていたらしい、手のひら大の紙をリカバリーガールに差し出したイズクに、あぁ、相澤先生のクラスなんだね……と少し納得顔で頷いた彼女をよそに、私は消毒液や予備の体操服などが並ぶ棚へ近づいた。救急箱から包帯を取り出し、二人の所へ戻る。
「ふむ……やはり骨が何か所か折れてるねぇ、千晶が下手に動かせないよう固定しながら冷やしているから、内出血もさほどひどくなくて済んでいるけれど」
「あ、それで動かしづらかったんだ……!ありがとう、星合さん」
またもやお礼を言うイズクにふるり、と黙って首を横に振ると、リカバリーガールに視線を投げかけられた。「お願いできるかい?」と問われ、小さく頷いた私は、傷に触らないように左手でイズクの手首を掴み、手を固定すると、空いた右手を宙に翳した。
「……ちょっと痛いけど、我慢ね」
突然手を掴まれたイズクが「ほへぇ!?」となにやら上擦った声を上げて顔を真っ赤に染めるが、私は構わずに右手に意識を集中させた。
「――水晶宮式血濤道、乙の舞」
瞬間、右手の指に嵌めた人差し指と中指の銀環が僅かに紅い光を放ち、僅かな痛みと共にごく少量の赤い、細い糸が宙に伸びる。目を凝らさなければ、見失ってしまいそうなほど細いそれを片手に遊ばせ、私はまるで
「
血糸の先を、
糸が伝えてくる感覚で内部を探りつつ指の関節を折り曲げて糸を操作し、損傷していた血管壁や筋繊維を縫合すると、やはり少し痛んだらしい。びくりとイズクの肩が跳ねるが、大丈夫だと言うように、歯を食いしばって痛みに耐えながらも笑顔で首を振って強がってみせるところは男の子だと、ふと思った。
指なんて神経が集中しているところを骨折なんてしたら、相当に痛いはずだ。それを元に戻しているとはいえ、自分の意思とは別の所で位置を動かされれば、余計痛いはずなのに。
そのまま骨の位置を補整し、ズレないよう簡易的に縫合すると、私はぎゅっと拳を軽く握って端を縛り、繋げていた糸を切った。指先に繋がっていた透明の極細の糸がぷつりと切れる。
「ハイ、終了。後は、リカバリーガールに治癒力活性してもらってきちんとくっつけてもらって」
「……え、え?あんまり痛くなくなった……?」
茫然と右手を見つめているイズクの言葉に私は首の後ろに手を当てて視線を宙に彷徨わせた。
「くっつけた……というより、折れてズレた骨を元の位置に戻した、かな。簡単に固定しただけだから激しく動かすとまたズレて痛くなるよ」
「……それって、皮膚を切開せずに外科的手術が出来るってことじゃ……す、すごいね星合さん」
「いや、リカバリーガールみたいに医学的知識が豊富なわけじゃないから、小さい怪我くらいしか治療できない。自分が指とか足を負傷するとマズいから、たまたま体内の構造覚えてただけで」
「いや、それでもすごいよ!」
「ンン”ッ」
まぶしい。
無邪気に目を輝かせて、尊敬していますとありありと表情に乗せたものを向けられ、褒められ慣れていない私はバッと顔を逸らした。素直ってコワイ。
そんな調子であっという間に初日は終了した。
人生初のハイスクールライフは、中々に波乱万丈そうである。