一週間後。
各々が勉強やトレーニングなどを重ねて迎えた筆記試験。中間で雄英の「テスト」とはどういうものかを見たおかげで、万全に対策が出来ていた私は特に問題もなく終えられたし、ちょっと心配だった上鳴くんやミナも、テストが終わった瞬間サムズアップして駆け寄っていたところを見るに、多分問題なかったのだろう。
そしてその翌日。演習試験のために、私たちA組はヒーローコスチュームを着て、指定されていた中央広場に出ていた。ずらりと居並ぶ先生方はある意味壮観だ。
「それじゃあ演習試験を始めていく。この試験でも当然赤点はある。林間合宿行きたきゃ、みっともねえヘマはするなよ」
「先生多いな……?」
「諸君なら事前に情報を仕入れて、何をするか薄々分かっていると思うが……」
「入試みてえなロボ無双だろ!?」
「花火!カレー!肝試──!」
早くもテンションが上がっている二人だが、その時相澤先生の首に巻いている捕縛武器がもぞもぞと動いた。ぴょこ、と顔を出したのは───え、校長先生?
「残念!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
「校長先生!変更って……」
上鳴くんとミナが石化する傍ら、ざわつくクラスメイトの言葉を代言するようにモモが質問した。
「これからは、対人戦闘・活動を見据えた、より実践に近い教えを重視するのさ!
というわけで……諸君らには、
「先……生方と……!?」
まさかの試験内容変更だが、ある意味妥当とも言えた。敵連合の襲撃、ヒーロー殺しとの接触……激化するヴィランの脅威に対抗するには、生徒自身が強くならなければならない。先生方からの愛の鞭というべきか。
もちろん、二人がかりでもプロヒーローとの実力の壁は厚く高い。何らかのハンデはあるだろう。そうでないと、私たち生徒に万一の勝ち目もない。
「なお、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度……諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表していくぞ。まず、轟と八百万がチームで、俺とだ」
いきなり指名されたのは推薦組の二人。実力的にも優秀な二人を組ませるあたり、ペアごとの実力の不均衡よりもペアの傾向や親密度優先か。……とすると、このテストの目的は……。
「そして緑谷と爆豪がチーム」
「デ……」「かっ……」
案の定、私の推論を裏付けるように、相澤先生に指名された次のペアは、A組でも最悪と呼べる組み合わせ。予想外に見えて、ある意味予定調和。あの相澤先生が、この幼馴染の不可解なまでのこじれっぷりを放置するわけがなかった。荒療治でもするつもりか。
「で……相手は────」
「私がする!!協力して勝ちに来いよ、お二人さん!!」
ならば、相手をするのは一人に絞られる。イズクの師匠、爆豪の目標である、オールマイトだ。
……いや、あの、うん。ぶっちゃけ私の実力とか後見人関係とかを考えると、私の相手がオールマイトになるかもとちょっと焦ったのだが。この二人が組むとなったらオールマイトしか相手は務まるまい。……でも、良かったという安堵よりも、このペアの相性が最悪すぎて、テストになるのかという心配の方が強い。ナンバーワンヒーローの圧力を二人に掛けるオールマイトに、私は目を細めた。
次々と発表された組み合わせは、このようなものだった。
根津校長VS芦戸・上鳴
13号VS青山・麗日
プレゼント・マイクVS口田・耳郎
ミッドナイトVS瀬呂・峰田
スナイプVS葉隠・障子
セメントスVS砂藤・切島
パワーローダーVS飯田・尾白
エクトプラズムVS蛙吹・常闇・星合
エクトプラズム先生が相手……正直なところ、ホッとした。オールマイトでないのなら、私が不利になる、というか大体の人間にとって厄介な、防御が役に立たない音の個性のプレゼント・マイクか、眠りに誘う香りのミッドナイトのどちらかに当たるかと思ったが、ことごとく予想が外れた。
「制限時間は30分さ!君たちの目的は『このハンドカフスを先生に掛ける』or『どちらか一人がステージから脱出』!」
「戦闘訓練と似てんな」
「逃げてもいいんですか!?」
「うん、何しろ戦闘訓練とはわけが違うからね!」
校長先生の出したクリア条件に、驚きの声が上がるのに、校長先生はにこにことしている。さっきから準備運動めいた動きをしていたプレゼント・マイクが、静かにしていた口を開いた。
「相手はちょ──格上」
「格……上……?イメージ無いんスけど……」
「ダミッ!ヘイガールウォッチャウユアマウスハァン!?」
キョウカの気持ちは分かるが、本人の前で言うとは……度胸あるな。確かに普段の様子を見ていると、格上という威厳を忘れてしまいそうになる。でも、あの人敵に回すと厄介なんだよな……。水で耳栓して鼓膜破裂のリスクを和らげても滅茶苦茶うるさいし、集中が削がれるから血法のコントロールも不安定になるし、どうしても後手に回ってしまう。おまけに音を収束させたら岩とかモノを破壊することもできる。音でエスメラルダの氷壁をぶち割った人なんて彼ぐらいだ。
あと久々にマイクの怒ったとこ見た。言葉には気を付けろ小娘とか、普段に比べると英語が荒い。
「今回は極めて実践に近い状況での試験。僕らをヴィランそのものだと考えて下さい」
「会敵したと仮定し、そこで戦い勝てるならそれで良し、だが……」
「実力差が大きすぎる場合、逃げて応援を呼んだ方が賢明。轟、飯田、緑谷、星合。おまえらはよくわかってるハズだ」
先生方の説明に、小さく頷く。相澤先生に名指しされた私たちに、クラスメイトの大多数はハテナを頭に浮かべるが……少し考えればすぐにどういったメンバーか分かるだろう。先日、ヒーロー殺しと会敵したメンバーだ。あの時は逃げるのが賢明だが、それが出来ない状態だった。今回も似たような状況になる、という意味で名指しされたのだろう。でも、私の時だけやたら念押しするような視線だったのは何故ですか相澤先生。
「戦って勝つか、逃げて勝つか……」
「そう!君らの判断力が試される!けど、こんなルール逃げの一択じゃね!?って思っちゃいますよね。そこで私たち、サポート科にこんなの作ってもらいました! 超圧縮おーもーりー!!」
お昼時の通販番組のレポーターのような、コミカルな口調で説明しはじめたオールマイトが取り出したのは、手のひらサイズの輪っかだった。外側に重りになるのだろう、分厚い鉄板が取り付けられている。
「我々教師は、こいつで体重の約半分の重量を装着する!ハンデってやつさ。古典的だが動きづらいし、体力は削られる!……あ、ヤバ、思ったより重……
ちなみにデザインはコンペで発目少女のが採用されたぞ」
「戦闘を視野に入れさせるためか、ナメてんな」
なるほどと首肯する私たちの中で、爆豪が舌打ちする。
いや……舐めてはいないだろう。むしろこれは温情だ。特に爆豪のペアにとっては、体重の半分のハンデがあってなお、絶望的なまでの実力差が立ちはだかる。一筋縄ではいかないだろう。
「HAHA!……どうかな!」
その証拠とばかりに、オールマイトの影になった眼窩の中央で、いつもは大衆を明るく照らす天上の青が、怪しい光を放った。