人魚姫は英雄の夢を見るか?   作:一星

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合宿編の前に幕間として、ちょっと数話挟みます。

リクエストボックスで頂いた「雄英教師陣が秘書嬢の名前を付けるシーン」です。
タイトルはリリギヨ様(http://8b724a.webcrow.jp/)よりお借りしております。


Extra:幕間
このばらに名を憑けるとしたら


「名前を付けてほしい?」

 

 

 薄い教科書を山ほど腕の中に抱えた少女が頷くのをみて、職員室に居た雄英高校が誇るプロヒーローたちは一様にきょとりと目を瞬かせた。

 

「日本じゃどういう風に名前をつけてるかわからないので……。漢字とか」

「ああ、なるほどね……」

「好きなの付けていいっつっても、確かに迷うわな」

「普通は親から苗字をもらったり、名前の一字をもらったりするけど、それとはまた勝手が違うし」

 

 心底困り果てたといった表情の理由を聞き、大人たちはああ……と納得顔になった。

 腕の中の数冊の本の端を指でなぞり、それに目を落としている少女の肌は、黄色人種(モンゴロイド)にはない、よく磨かれた石英のように青みを帯びた白色だ。ほっそりとカーブを描く顎の輪郭、高い鼻すじと長い睫毛は濃く、目元の陰影が形作る彫りの深い顔立ちはセクシーさを醸し出しており、彼らが知る実年齢よりずっと大人びて見える。どこからどうみても少女の容姿は色白ではあるがラテン系のコーカソイドのそれで、とどのつまり、明らかに日本の血が混じっていなさそうな外人顔なのだった。白皙の美貌から出てくる、ひどくなめらかな日本語が逆に違和感を煽るほどに。

 

 クリスティアナ・I・スターフェイズという名前を持つ彼女が、何故日本語の名前を必要とするのか。それは、つい先日までとある国際的なヴィランに母国から拉致監禁され、ようやくその魔の手から逃れたばかりの彼女の今後の生活を守るため、自衛のためにまずは偽名を作ろう、という理由があってのことだ。……表向きは。

 本当は、異世界から不運にもやってきた、数か月前以前の公的な記録が全くない彼女が、怪しまれずに周囲に溶け込むための嘘だ。真実を知るのは、彼女を拾ったオールマイトと塚内、そして校長の根津だけ。

 実は目の前の少女が、中身は25歳秘密結社勤務なOL、見た目は15歳という事情持ちとは露とも知らず、偽名で生活するのを勧めた教師陣は、座学の時間だからとスナイプの個人授業に向かったクリスを見送った後、うーん、と首をひねった。

 

「クリスちゃんといえば氷と水よねぇ」

「名前に個性にまつわる漢字入ってるやつって多いよなぁ」

「お前はちょっと違うけどな」

「まあな!一般論てヤツよ」

 

 「抹消」の個性を持つ相澤が無愛想にツッコミを入れるが、プレゼント・マイク……本名山田ひざしは気にした風もなくからりと笑い飛ばした。

 

「鶏が先か、卵が先かってやつだな」

「片方の親の個性か、両方の個性が現れるのは遅くとも5歳まで。生まれた直後じゃ異形型はともかく、発動型は分からないのにね」

「それでも案外的外れじゃないのがすげぇよな、親の勘ってやつ?」

「名は体を表すとも言いますしね、名前に個性が引っ張られるのもあながち間違いじゃないかもしれませんよ」

「そこんとこどうなんだろうな、教えて子持ち」

「残念ながら今職員室にいるメンバーで子持ちは居ないわよ……」

「……スターフェイズノ名前ヲ考エルノデハナカッタカ……?」

「脱線してますよ、皆さん」

 

 ブラドキング、ミッドナイト、プレゼントマイク、セメントスらがわいわいと盛り上がる中、どんどん話が逸れていくのを止めたのは、じっと考えるような表情で会話に参加していなかったエクトプラズムと13号。

 

「んーっ、意外と名前考えるのって難しいのね!親って偉大だわァ」

「苗字もどうしたもんか……」

 

 議論が進まないまま膠着してしまったのを見て、それまで我関せずを貫いていた相澤が、手にした書類から目を上げないまま、ぼそりと呟いた。

 

「……いちから考えるのは難しいんなら、スターフェイズの今の名前を元に考えるってのはどうです」

「ナイスイレイザー!!」

「それは盲点だったわ!少しひねりを加えれば、外国のヴィラン相手なら偽名として十分通用するでしょうし!」

 

 座っていた事務椅子を蹴飛ばすような勢いで立ち上がったプレゼントマイクとミッドナイトに、向かいに座る相澤は眠たげな眼を一瞬だけ驚きに丸めつつも、はぁ、と生返事を返して黙々と仕事に戻る。

 

「それでは、クリスティアナから連想すると……やはり、変換しやすいのは水晶(クリスタル)、でしょうか」

「他にも、名前で検索したらキリスト教関連の情報も出てきましたよ」

「綴りの中に入ってるもんなァ、救世主(クリスト)が」

「スターフェイズは、スターとフェイズに分解してみては?」

「スターはそのまま星だとして……」

「星がついた苗字ってーと……お、これなんかいいんじゃないか」

 

 相澤の一言を呼び水に、教師たちがああでもないこうでもないと額を寄せて真剣に悩む姿に、職員室に足を踏み入れた生徒はなんの話し合いだろう、とその異様さに度肝を抜かれつつも首を傾げるのだった。

 

 

 

 夕方、座学を終えて職員室へと戻った少女に、一枚の紙が手渡された。

 そこに書かれていたのは4つの漢字。

 ふりがなのないそれを、大人顔負けの博識であっても、経験の浅さゆえにどう読めばいいのか分からなかった少女は尋ね、大人たちは額を打った。

 

 そうして告げられた新しい名前を耳にして、少女は復唱した。

 一度目は見知らぬ言語の音を呟くように。

 二度目は名前の響きをゆっくりとなぞるように。

 三度目は、自分の身体になじませるように、微笑みを唇にたたえて。

 

 宝物のように、手のひらに収まる程度の小さな紙を胸に押し抱く少女に、大人たちは笑い合い、祝福を口にする。

 

 

 これからの日々が、人生が、健やかで輝かしい物でありますように。

 星のように、陽の光のように、宝石のように。

 過去の悪夢を消すことは叶わなくても、これからを変えることはいくらでも出来るのだから。

 

 

 

 ――たとえ、それがつかの間の夢であったとしても。

 

 

 




▽星合千晶の命名秘話
 元になる英名が決まってから、出来る限り意味を崩さず日本名に直すのに苦心しました。
 スターフェイズはどうも造語ぽいのでスターとフェイズに分解。starはそのまま。phaseは「(変化の)段階、状態」という意味だけでなく「(気体・液体・固体などの)相、状相」という意味があるそうなので後者の意味で、「そう」と読むと「せいそう」になって語感があんまりよろしく無いのと苗字にしにくいので「あい」に変換。ついでに「星合」という苗字が実際にある事、そして「星合」が、織姫と彦星の二星が天の川(別名:星合川、雨川とも言う)で一年に一度巡り会う七夕の故事を踏まえて七夕を指す事から、水の血法を使い、稀有で数奇な巡り合いを果たす秘書嬢にぴったりだと思い「星合」さんに。星合の名字の人は昔は神官が多かったってそれまんま秘書嬢じゃないかと思いつつ。……そしてこのあと諸事情で誕生日も七夕に。

名前の千晶ですが、実は最初、シリーズを突発的に書き始めた時は水晶の晶を取って「晶華(しょうか)」さんでした。ただあまりに捻りがない上に星合晶華ってちょっと字面がキラキラしすぎるかなというか、画数が多いというか。自分の中の秘書嬢像に合わなくてしっくり来なかった。しかも「ショート」に「ショーカ」って並べたら、読んでてちょっと語感がよろしくないなぁ、と思い、再考した時にふと他ジャンルのキャラを見て、そういえば晶って「あき」とも呼ぶなと思い出し(昔の知り合いに晶であきらと読む人がいた)、実際に人名でも使われているのを見てこれだ!と思ったという経緯があります。


そんなメタ視点から見ると情緒の無い由来の千晶さんですが、作品内としての理由はちょっと別。
『DAY DREAM』でも出た通り、欧米出身で日本名のつけ方が分からない秘書嬢が、オールマイトや雄英教師陣に良い名前をつけて欲しいと依頼してできた名前。なので日本名については彼らが名付け親。マイトやプレマイ、ミッドナイトが中心になって、小説版の先生方の話のような感じでワイワイああだこうだと言い合いながら決めた。相澤先生はヒーロー名決定の時みたいに、自分にはセンスが無いからと遠巻きにしつつも、他の面々が変なキラキラネームを付けそうになってたらツッコミで阻止していたと思われる。

そんな彼らが名前にこめたのは、「辛い事が多かった分、これからは普通の女子高生として、幸せに暮らして欲しい」というもの。異世界から来た事を知っているのはマイトと塚内さん、校長だけ(職業体験編でグラントリノ追加)ですが、他の先生方にも孤児であること、長い事ヴィランに拉致監禁暴力を振るわれていた事は伝わっているので、嬢が暗い方向に歪まないように、明るい人生を、人並みの幸せを掴んで欲しいと祈る気持ちが込められています。
晶の意味も、日(星の意味)が三つ=晶( 星のように明るく澄みきって輝く)の意味があること、語感の元になった千秋が「非常に長い年月、永遠、物事の終わり」または千秋万歳という言葉から「長寿を祝う」という意味もあるのが決め手でした。長寿を祝う、転じて「産まれてきてくれた事を祝福する」という、先生方も気付かずに付与した言祝(ことほ)ぎの名前になっています。
この名前によって、十字架の元に生き、特殊な血のせいで苦しんできた秘書嬢が、聖処女として牙狩り組織に使い潰される運命にあった彼女が、それらから僅かばかり解放され、何のしがらみもないヒロアカ世界で、BBB世界ではどうしても得られなかった輝きと喜びを得る訳です。地面に足が着いたというか、超人集団の牙狩りの中に在っても特殊扱いで、神様に由縁のある名と来歴を持っていた彼女が、異世界に来てようやく1人の個人、人間だと認め受け入れてもらえた(本人が実感できた)という感じ。
きっと「ちあき」にしたのはミッドナイトだろうなぁ。


(メタ・システム的裏設定)
名前は魂の器なので、一度“クリスティアナ”に委ねられた名付ける行為=魂を分けて別の自分を作る権利と儀式を、「変な名前を付けたくないから日本流の名付けをしてほしい」という理由で秘書嬢は先生方に譲渡している。先生方も秘書嬢もそうとは意図しないうちに、“星合千晶”は“クリスティアナ”の名前を下敷きにしてはいるが、全く別の、秘書嬢が異世界に受け入れられるための新たな魂の形になった。 “星合千晶”の名に籠められた先生方の「これからは今までの分も、普通の女子高生として幸せな人生を送ってほしい」という祈りによって、新しい魂の器のおかげで新たな世界に馴染みはするものの、名前を呼ばれる度に「普通の女子高生」に近づき、「普通」とは対極にある牙狩りの、野生すら感じる研ぎ澄まされた身体と精神は平和ボケする。祈りと呪いの表裏一体。

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