予想以上に舞台のビルが崩壊してしまったせいで、お次の対戦カード……Bチームの轟・障子ペアとIチームの葉隠・尾白ペアの訓練は別のビルで行うことになった。
……正直、この建物も次のペアが使えるとは思えない。だって一人パワーバランスがおかしい人混ざってるからね。半分能力封じてても効果範囲の規模がチート以外の何物でもないと私ですら本気で思うのだから……敵チーム、南無三。
「星合、どうした?スゲー微妙な顔になってんぞ?」
「うーん……いや、一瞬で決着つく未来しか見えなくてちょっと……」
「え?」
微妙な顔をしていた私を心配してくれたらしい、赤髪の男子生徒――切島くんだったか、彼が声を掛けてきてくれたが、私はもにょもにょと返事することしか出来ない。ハッキリと言葉にするのも憚られて言葉を濁している間に、ヒーローチームが建物内に侵入した。
大柄な体躯の障子くんがパラボラのように触手を広げ、何かを探っている。先端に耳やら口がついているあたり、索敵能力が高いと見た。……ますますヴィランチームが不憫でならない。
そしてこちらの予想通り、障子くんは建物の外へ。……きっと轟にそう指示されたのだろう。一人建物内に残った轟の姿に、クラスメイトが一体何が始まるのかと疑問の声を上げる前に――次の瞬間、ビル全体が氷の結晶に包まれた。範囲を思い切り広げたせいか、私たちの居る地下室にまで僅かに氷が及び、急激に室内温度が下がっていく。
吐いた息が白くなるまで下がった室温に、あーぁ……と思っていると、隣のモモが寒そうに二の腕をさすったのが見えた。それを見た私は迷わずボタンを外してジャケットを脱いで詰襟姿になると、モモにジャケットを羽織らせる。背丈がほぼ一緒なのでサイズは問題ないはず。……まぁ胸囲に差はあるかもしれないが、問題なくボタンも閉められるはずだ。
「!千晶さん」
「コレ、着てたやつで悪いんだけど、羽織ってるといいよ」
「ですが、それでは千晶さんが……」
「No problem. 私も氷の個性持ちだから極寒には強いの。それよりモモが身体冷やす方が心配」
このくらい、エスメラルダの修行中の寒さに比べれば可愛いものだ。
私のジャケットが肩からずり落ちないよう手で押さえつつ、何故かこういう時だけ日本人の特性:遠慮が出たモモに、私は白い息を吐きながら、少し悪そうにニヤッと笑ってみせる。モモは私の言葉に少しだけ目を丸くしてから、「では、お借りしますわ」と少し恥ずかしそうな顔をしながらも私のジャケットに袖を通した。
……というか言った後に気付いたけど、私が貸さずともモモが個性を使ったら何か羽織る物を作れたのでは。……まぁでも、力を使うにも体力なり何なり減る可能性もあるし、モモがちょっとだけ嬉しそうな顔をしているから、お節介だったとしても良いか、と思えた。
そんなやりとりをしている間(モモ以上に寒そうな格好の切島くんに物凄くキラキラした目で「星合今のカッコよかったぜ!」と賞賛された、むずがゆい)に、轟は4階の核がある部屋に辿り着いたようだ。アー、ちょっとだけ悪い顔してら。
「仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず、尚且つ敵を弱体化!」
「最強じゃねぇか!ったく、マジで星合の言う通りになった……!」
ガタガタと震えながらもモニターをきちんと見ているオールマイトと切島くんの言葉に、私は肩を竦めた。モニターに映る上の階では、動けない尾白くんの隣を堂々と歩き、核にタッチした轟の姿が映し出されていた。うん、ちょっとレベルが段違いすぎるな。
封じている熱を唯一氷に包まれていない手のひらから放射し、ビル全体を覆うほどの氷を溶かし終えた轟は、帰ってくるなりジャケットを脱いだ私の姿を見てきょとんとしていた。いや、君の所為だからね?
4階から遠く離れた地下室はまだ熱が伝わりきらず、微妙に肌寒いのでモモには上着を羽織ってもらったままにしている。
私自身はそもそもスーツ自体が能力の関係上、それなりに耐寒仕様なのでジャケット無しでも全く問題ない。氷属性の血を持つ兄はたまに
そういうわけで、赤面することも鼻を垂らすこともほぼない私は、組んでいた腕を解いて嘆息した。
「いくらなんでも地下室まで凍らせるのはやりすぎ……モモとか切島くんみたいに薄着の人も居るから」
「……おう、悪い」
「分かったならよし」
意外にも素直に謝った轟は、モモや切島くんにも言葉少なに謝っていて、二人とも面食らったような顔で私と轟を見比べていた。何だその目は。
その後、轟の手によって適正室温まで上がったモニタールームで講評が行われ――ただしあっさり決着がつきすぎて一言二言で済んでしまったが――その後、次々と好カードの対戦が続き、私以外の全てのクラスメイトの個性を多少なり把握したところで、いよいよ私の番となった。
「では、星合くんと戦うヴィランチームは――こいつらだ!」
モモから返してもらったジャケットに再び袖を通し、ボタンを留めて詰襟を調整している私の前に突き出されたのは――“B”。うわ、と同時に私と轟がうめき声を上げたのは、もうしょうがないと思う。嫌そうな顔は一瞬で消し、互いの視線が交差する。
「容赦はしねえぞ」
「ま、お手柔らかに頼むよ」
「星合くんと轟くん……まさか、同じ中学出身の二人の戦いを、入学二日目にして見られるとは」
「うわぁ……あの二人を一人で……が、がんばってな、千晶ちゃん!」
「千晶さん、健闘をお祈りしてますわ」
「ん」
先ほどの轟のチートっぷりをまざまざと見せつけられたせいか、若干私に向けられる視線が同情めいた生温いものになっている。それらに苦笑しながら、先に建物内で待機するために出ていった二人の後を追うように、私もまた地上に上がった。