brutal①
雄英高校にもたらされた爆豪勝己と星合千晶の拉致という凶報は、雄英教師陣を戦慄させた。
襲撃を避けるために急遽秘密裏に合宿先を変更した学校側の対策を嘲笑うように現れたヴィラン。
USJ事件に引き続いての凶事に、雄英、ひいてはヒーローへの信頼を奪われたことではない。
――星合千晶、本名クリスティアナ・I・スターフェイズという少女の極秘であったはずの裏事情が、静かに世に出回りはじめていたことに対して。
とある週刊雑誌が掴んだという、「星合千晶」という少女に隠された“過去”。未成年であること、個人情報保護の観点からも名前こそ伏せられていたものの、そんな配慮は微々たるもの。スクープを掴んだと、書かれた記事には少女への悪意が滲んでいた。
――スペイン・バルセロナにて生まれるが、出生して間もなく同都市のキリスト教会前に捨てられ、同施設に併設された孤児院で育つ。が、国際指名手配されているとある大物ヴィランにその類い稀なる個性の片鱗に目を付けられ、8歳頃、プライマリスクール(日本での小学校3年時)からの帰り道に誘拐に遭い、以後7年間ほどをヴィランに監禁・暴行・敵の犯罪に加担を強要される人生を送る。
敵の目的が身代金目的ではなく、己の信念を受け継ぐ強力なヴィランとして育て上げるためだったため、拉致直後スペイン当局の必死な捜索を潜り抜け、敵は国外に脱出。手がかりも少なく、敵からの連絡も全く音沙汰ないまま数年が経過しているため、死亡の可能性も含めた行方不明者となっていた。
しかし、14歳、夏。東京某所の路地裏に多数の傷を負って倒れているところをオールマイトに保護される。発見された当時、少女Hには多数の暴行痕や、背中に深い火傷跡、刺し傷、切り傷が本人の手の及ばない所にまで無数に刻まれており、現場や彼女の身に纏っていた衣服には少女H以外の血液が少量付着していたこと、そして彼女が数日敵と共に潜伏していたという廃ビルには、少女Hの衣服についていた何者かの血液痕は無かったものの、ごく最近何者かが生活していたような痕跡が残っていたため、自演や妄言の線が薄いと判断した当局により保護、恩人であるオールマイトの監察保護の元生活していた。
警察とオールマイト、そして雄英教師陣しか知り得ぬ極秘情報。
週刊誌の記事は誰かがよりにもよってこのタイミングで少女の情報を売ったことを示唆しており、結果、体育祭でも注目と人気を集めていたために、被害者として同情と心配が寄せられていた民衆の感情を180度回転させた。
こう囁かれ始めるのだ――被害者のふりをして、彼女こそが雄英に忍び込んだヴィラン連合のスパイなのでは、と。
事情を知るオールマイトからすれば、これ以上無い彼女への侮辱である。異世界で世界の均衡と平和を守るヒーローを、よりにもよって悪の手先扱い。
相澤達教師陣からしても、唾棄すべき暴論だった。長年の苦境をその精神性で耐えながらも、どこか不安定さと幼さが大人びすぎた言動の影にちらつくのを見てきた。愛と普通を得られなかった、慈しみ大事にすべき子ども。彼女がスパイ?ふざけるなと出版社に猛抗議したいほどの激情に駆られた。
だがしかし、民衆はそんなことは知らない。星合千晶のかつてなど、心根の真っ直ぐさなど、弱さなど、知らないのだ。
ヴィランに攫われ、長年加担してきた子どもが、まともであるはずないと。断片的な情報をつなぎ合わせた民衆が妄想込みで推理して、義憤と優越に酔うために、自分の信じる価値観の物差しに当てはめて、その憶測がさも当然のように考えたからだ。
悪条件が重なりすぎていたともいえる。
序盤に見せた、森の走破訓練での単独行動。あの時点でヴィラン連合に連絡を取っていなかったと証明できる者は誰もいない。さらに襲撃の際はマンダレイに「ガスと炎を晴らしたらすぐに戻る」と言っておきながら、実際にそれは果たされず、唯一森の中での戦闘中に彼女と接触している緑谷や洸汰も、一緒に合宿所に戻るべきところを、爆豪や他の生徒の身の安全のために単独で森のなかに戻った。
以降、彼女の姿を見たものは誰もおらず――ガスを出していたヴィランに対処していた拳藤や鉄哲でさえも、一瞬不自然なほどの突風でガスが晴れた瞬間はあったが姿は見なかったと証言した――ヴィラン連合に逃走を許したあとに、大量の血痕とバレッタひとつを残して姿を消している。
つまり、森の中での彼女の行動を、不審だと疑えば疑うほど、それが無実だと証明できるほどのアリバイや実況証拠が、少なすぎた。
そしてその日の夜、雄英高校に一枚の写真が投函された。
そこに映っていたのは―――