人魚姫は英雄の夢を見るか?   作:一星

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黎明は未だ遠く

 神野事件が終息した夜が明け、朝から警察庁はいつも以上の慌ただしさに包まれていた。日本中を揺るがしかねない大事件。現場から次々飛び込んでくる最新の情報を纏め、応援や指示を飛ばすのに上から下への大騒ぎだ。そんな中、とある会議室は重々しい空気に包まれていた。

 

「捕らえた脳無はいずれもこれまで同様、人間的な反応がなく、新たな情報は得られそうにありません。保管されていたという倉庫は消し飛ばされており、彼らの製造方法についても、追って調査を進めるしかありません」

「そもそもその倉庫というのもフェイクじゃねえのか? 生体実験なぞ行える環境じゃねえし、場も安易すぎる。バーからも連中の個人情報はあがってねえんだろ?」

「現在調査中です」

「あのキメラ脳無についてはどうなった?」

「星合千晶が凍らせたキメラ脳無に関しては、あの氷塊を無事輸送はできたものの……どのような手段を取っても氷を溶かせなかったため、本人が目覚めてからでなければ解析は難しそうです。未だ回復していない本人からも無用な手出しはせずに待つよう、シンリンカムイ経由でメッセージが上がっています」

「……んー……」

「大元は捕らえたものの……死柄木をはじめとした実行犯はまるまる取り逃がした……とびきり甘く採点したとして……痛み分けといったところか」

「馬鹿野郎、平和の象徴と引き換えだぞ。オールマイトの弱体化が世間にさらされ、もう今までの”絶対に倒れない平和の象徴”はいない。国民にとっても、ヴィランにとってもな」

「たった一人にもたれかかってきたツケだァな……」

 

「星合千晶に関してもどうしたものか」

「去年の夏に保護した当時からヴィランになるような性格(タマ)じゃなかったが、オールマイトや雄英の指導が良かったのか……普通逸って復讐や仕返しに走るところを、あのAFOと対峙しても頑なに自己防衛の範疇でしか個性を使ってないのには驚くな」

「恐らく、個性使用許可を出したイレイザーヘッドまで連帯責任で処罰されないよう意識して反撃しなかったんだろう……。あんな窮地でそこまで心配してられる余裕があの歳であるんだから驚きしかないよ」

「おまけにオールマイトを思わせるあのヒーローらしい宣言のおかげで、ヒーロー社会への信用の瓦解まではいかなかったが……オールマイトが背負ってきた期待を彼女に全部引っかぶせるんじゃ、ただの二の舞、完全にスケープゴートだしな」

 

 その発言に幹部たちはそれぞれ頭を抱えたり項垂れたりといったリアクションを取った。

 

「あの子は本当に、底が見えんというか、将来有望というか……ウチに来て欲しい人材だよ、つくづく」

「不謹慎だが、正直、彼女ほどの技術者が死柄木に付かずに済んでホッとしたもんだ」

 

 幹部たちの手元にある資料の中には、渦中の人物が行ったプロファイリング資料が混じっていた。唯一神野事件とはあまり関連がない資料ではあったが、今回の議題のもう一つの主題に関わるからと差し挟まれていた。

 エリートコースから上層部入りした者もいれば、現場から叩き上げで今の地位に上り詰めた者、それぞれ違う経緯で今の椅子におさまっているとはいえ──それでも唸らざるを得ない技術の塊が、彼らの目の前にあった。

 妙に弛緩し脱線しかけた場の空気を、警察庁長官の席に座る男は咳払いでもって再度引き締めた。

 

「しかし……馬鹿も集まりゃここまで出来ると、全員が知った。俺は恐れているよ。最初期のプロファイリングじゃ子供の癇癪とまで言われていた、主犯格・死柄木弔の犯行計画は、数を重ねるごとに回りくどく……世間への影響を見据えたものになっている。死柄木は考え、成長している。そしてオールマイトが崩れ、以前にも増して抑圧がなくなろうとしている状況。連合は失敗する度に力をつけていく。こうも都合よく、勢力拡大の余地が残っていくものかね?」

「手の内だと? 結果論じゃないか? ネガティヴに捉えすぎでは?」

「わからん。ただ一つ確実に言えるのは……奴らは必ず捕らえなきゃならん。我々警察も、ヴィラン受け取り係などと言われてる場合じゃない。改革が必要だ」

 

 

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