生きたい私は貴女を呼ぶ   作:アステカのキャスター

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オリ主設定は久しぶりなので評価次第で続けるか考えます。

ではどうぞ!




プロローグ

 カナ・フローゼ。12歳のちょっとした訳あり魔術師だ。

 

 魔術師らしからぬ振る舞いと現代技術の併用。果ては交友関係まで多岐に渡るとも言える。生粋の魔術師としての生き方はしていない。

 

 少なからずカナの中で人間的に振る舞う自分と他を冷めきった目で眺める自分のギャップに嫌気がさしていて苦手なものは苦手とはっきり言うタイプだ。そして魔術回路は超一級品でフローゼ家代々に引き継がれた。

 

 今やフローゼ家は引き継ぐことにほぼ決定されている。それ自体は問題ないが、フローゼ家はあまりの魔術回路の少なさと質の悪さに没落した弱小な家系だ。

 

 だがカナだけは違ってしまった。

 

 フローゼ家の歴史では過去最大の魔術回路数に質の良さ、そして普通なら珍しい稀少な魔術属性である[属性:空]

 

 だが、没落家系である事に変わりはない。貴族たちはいくつもの圧力を掛けてきた。流石にうんざりし始めていた両親は実績目当てでカナを聖杯大戦に送り込んだ。

 

 

 カナも流石に殺し合いに参加するのは抵抗があった。まだまだ多感な12歳だ。だが現実は非情にも対戦の参加資格である令呪が宿ってしまったのだ。

 

 自暴自棄になりかけたが、エルメロイ教室に通っていたのもあって、同年代のライネスに相談し、カナはライネスに触媒の入手のコネを頼み込んで、日本のサーヴァントの触媒を手に入れた。正当な取引で大分お金が飛んだが、聖杯を持ち帰った実績、或いは聖杯大戦を生き延びた実績さえあれば両親も満足だろうと思い、満足だった。

 

 カナは赤の陣営に選ばれた

 

 赤の陣営と呼ばれているマスターは黒の陣営のサーヴァントを排除してから、最後は赤の陣営のサーヴァント達で聖杯の所有者を決めるのだ。明らかに血生臭い事例にため息を漏らしながらも私はそのマスターが集まる教会に赴いた。

 

 

 それが失敗だったのだと、後に語ることになる。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 バヂヂヂ────!! 

 

 

「痛たたたたたた!?」

 

 

 突如、中指に付けていた指輪から電流が流れたような痛みが走る。すると夢の中にいたような感覚が消えて目が覚めた。

 

 

「ここは……?」

 

 部屋の中を観察した。この部屋は4、5メートル四方ほどの大きさであり、部屋の中心には四角形の机が置かれていた。その机を囲んで座っているのは5人の男女であった。

 彼らは虚ろな表情で、何かを呟いたり、身振りをしたり、中身の入っていないカップを口につけたりとしていた。

 

 

「毒に耐性が多少あったから操られている事に気付けたのね。ライネスに感謝しなきゃ…………」

 

 

 見たところ暗示か何かにかかっているようだが、口元を押さえて周囲を見渡すと芳香のようなものが焚かれている。

 彼らは私と”赤”のサーヴァントのマスター達だ。

 

 恐らく暗示に掛けた後、アサシンに操られてそのままここに幽閉されていたのだろう。令呪がしっかり見える所から、サーヴァントは既に召喚されている。自分もサーヴァントのパスが繋がっているのを感じる。

 

「あの神父、シロウ・コトミネがサーヴァント達のマスターになってるのかも……あの詐欺師、絶対殴る」

 

 

 とりあえずライネスに感謝しないといけないな。暗示にかかった時に役立つ指輪をくれたのはライネスだった。

 サンプ……実験の為にわざわざ用意してくれたらしい。いやあんまり変わんなくない? 

 まあ物理的に痛かったですけどね!! 何で痛みが強いのさ! 絶対あの小悪魔笑ってるでしょ!! 

 

 

「令呪が繋がってない……魔力パスは通用してるのに、この場所自体が阻害してるのかな。多分」

 

 

 サーヴァントを令呪で呼ぼうにも、令呪が働いてくれる気がしない。なんとなくわかる。毒とかそう言う理由ではなく単純に呼べる気がしない。理由は普通に考えてこの芳香から逃れたら令呪を使ってサーヴァントを呼ぶ事を恐れているのだろう。

 

 

「逆に言えば、この場所ではなければ令呪も働く。念話は無理だし、他の人を起こして抜け出すのは無理そうだし、とりあえずこの場所が工房みたいだし、逃げてサーヴァント呼び出したら考えよう」

 

 

 ゆっくり音を立てずに扉を開ける。廊下と言うには広いし、まるで城のようだが、兵どころか人の気配すらしない。まあ魔術工房に人を配置する馬鹿はいないだろう。恐らくあのアサシンがキャスター並みの力を持っていて、見つかれば工房内の私は手玉に取られる。

 

 だが、城であるなら逃げる範囲は広いとも言える。幸いにも触媒以外のものなら宝石が5つと携帯電話、お財布など必要なものは取られていない。指輪もそうだが、サーヴァントだから普通の魔術師では歯が立たないと思い、敢えて何もしなかったのだろう。まあ物理的な痛みで暗示を解くなんて力技は魔術師らしくないし……

 

 

「魔力パスが伸びてるのは……あっちか」

 

 

 幸い、魔力パスを繋いでいるおかげである程度の方向は分かる。私のサーヴァントは日本の英霊の中でも最強の力を持つサーヴァントだ。本来なら今回の聖杯戦争で東洋のサーヴァントは召喚されないはずだが、恐らく呼び出したのはキャスターかキャスター並みの能力を持つアサシンが手伝っているのだろう。遠隔で更には本人ではないマスターがサーヴァントを召喚させるなんて並みの能力じゃない。

 

 まあ召喚できなかったら他に呼び出せる候補はあったが、逸話的に能力が強いか分からないので出来れば日本のサーヴァントを呼び出せれるようにするつもりだった。

 

 光が見える。暗い中で慎重に走っていたカナにとって外の手がかりになる場所だ。柱に身を隠しつつ、光が差す場所に足を踏み込んだ。

 

 

「っ…………!」

 

 

 そこはまるで劇場、ある意味コロッセオのような配置の空間、真ん中には王が座るような椅子がある。ここは多分、アサシンにとって重要な場所だ。アサシンが王に関する者と言う事が分かる。

 

 

 ガコン!! 

 

 

「なっ…………!?」

 

 

 その空間に入った瞬間、後ろの扉が閉じていた。

 扉を力尽くで開けようしても扉が開くことは無い。強化の魔術でも無理だ。恐らく宝石も無意味だろう。

 

 

「っっ!! 閉じ込められた……!」

「ここは我の空間、閉じ込めるなど造作も無かろう」

 

 

 カツカツとハイヒールの靴の足音と黒いドレスをした女王を連想させるサーヴァントが、反対側の扉からこちらに歩いてきた。

 

 あの時、神父の側にいたサーヴァント。キャスター並みの能力を持つ神代の魔術師。

 

 

「まあ我の暗示の香を逃れたのわ我も少し予想外でな。よくぞここまで来たと褒めてやりたいところよな」

「……赤のアサシン」

「如何にも、我はこの城の女王。しかし監禁していたマスター達をサーヴァント達に気付かれずに御しねばならぬからな。我直々に出向いてやったのだ。光栄に思うがいい」

 

 

 閉じ込められた状況で戦うのは明らかに不利、と言うよりサーヴァントと戦うのは愚策だ。魔術師とは言え人間がサーヴァントに勝つなんて、現代では指で数えれるくらいしかいないだろう。戦場での殺し合いをする戦士ではなく、直接戦闘を嫌う魔術師であってもそれは変わらない。

 

 

「我も少し暇でな。せめて退屈凌ぎくらいにはなってもらうぞ小娘。では、踊るがいい」

「っっ!! 『固有時制御(リミットアウト)第五階梯(クインデ)』!!!」

 

 

 アサシンが指を鳴らすと鎖がカナを束縛しようと射出されるが、カナは()()()()()()()()()()()()()()、それを防ぐ。

 

 

「ほう……」

 

 

 アサシンも少なからず自分が放った魔術が防がれた事に驚いている。更には荊は自分の魔術に利用した魔力を吸収していくのだ。

 

 カナの魔術は固有結界を利用した限定的な起源展開だ。

 

 カナの起源は『吸収』と『封印』。

 カナの家系は植物に関連したものを使うのだ。それは大地があるから人が存在すると言う意味を逆手に取り、大地こそが人間を超越する力を持つならそれを操った先に根源が存在すると言う逆説の理由から家系は代々、それを研究していた。

 

 そして8代目のカナはその教えから固有結界に至る心象が確立され、8歳にして固有結界を展開できるようになっていた。俗に言う天才であり異端とも言えるのだが。

 

 

 カナの固有結界、『呪われし薔薇の楽園(ラウダルク・スエルテ)』は家計の思想から作られた荊の世界。荊が魔力や呪い、毒を吸収し薔薇を咲かせる。更には荊で縛った相手を封じると言う規格外の力を持っている。

 

 だが、欠点として固有結界は展開時間が明らかに短いのだ。

 

 それは世界を侵食した自分の心象で世界の在り方を塗り潰す為、世界は抑止力によって展開出来る時間が決められている。それを無理に伸ばそうとすればカウンターとして掃除屋を寄越してくる程だ。

 

 そこでカナは考えたのは固有結界の侵食範囲の制限だ。

 

 固有結界を展開する範囲を7段階まで設定し、完全開放をしなくても固有結界と同じ力を魔力消費を少なく扱えるようにしたのがカナの我流魔術『固有時制御(リミットアウト)』だ。

 

 展開出来る範囲は7段階で約半径50メートルの範囲までだ。大体1階梯ごとに7メートルの範囲だ。階梯ごとに魔力の消費も大きいが、世界を塗り潰さなくても固有結界よりメリットは大きい。

 

 第五階梯は約半径35メートル。その範囲なら荊を自在に操ることができる。因みにカナ自身、その心象を持っているせいか毒や呪いが効きにくい。アサシンの毒でも、「あっ、これ夢だわ」と割り切っていたが暗示が結構強かったせいか体を動かせなかったので物理的な痛みで覚醒していた。

 

 

「ならば、こんなのはどうだ?」

 

 

 アサシンが指を鳴らすと今度は天上から巨大な術式が現れる。そして亜空間から召喚されたかのように、魔獣が召喚された。と言うよりアレは神話とかで誰もが聞いた事あるような

 

 

「……まさか、竜?」

 

 

 神話に出てくる竜とは言い難い。ファブニールやティアマトのような悪竜や神話に綴られた存在と言う訳では無い。竜種を持つ存在、ワイバーンと言ったところだろう。

 

 だが、それが6体も出されたのだ。少なからず絶望視してしまうほどだ。吸血鬼や竜種の存在は神秘の薄れたこの世界で驚異的だと言うのに、それが6体。カナも流石に泣けてきた。

 

 

「ヤバっっ!?」

 

 

 こちらに飛んできたワイバーンを荊で縛り付けるが、力をある程度封じて魔力を吸収しているにもかかわらず、膂力で荊が引き千切られる。

 

 しかもワイバーン一体に翻弄されて他は待機している。カナを殺さない為の配慮だが、ワイバーンが出てきた時点で遊びを超えてると愚痴りたいカナ。

 

 

 

「っっ! 仕方ない……! ––––––Anfang(セット)

 

 カナはポケットに入っていた宝石をアサシンに向けて投げる。アサシンは当然のように障壁を張るが、カナが投げたのは攻撃用では無い。

 

 カッ!!! 

 

 

「くっ……!」

 

 

 目眩し用の閃光術式。

 アサシンの視界を少しだけ潰す。対サーヴァント用に作ったものでは無い為、そこまで効力は無いが、その一瞬さえあれば十分だった。ワイバーンもアサシンの統率がなければ動く事が出来ない。

 

 

Es ist gros(軽量)Es ist klein(重圧)…………!!」

 

 

 カナは眼鏡を外し、扉に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……小癪な真似を……!」

 

 

 アサシンの目を潰せたのは、ほんの数秒だ。

 だが、アサシンが目を開けるとその光景に驚愕する。

 

 

「何っ……! 扉が……!?」

 

 

 そこにはカナが居なく、扉はまるで()()()()()()()()かのような大きな穴が空いていた。

 

 急いで扉を開けるとカナが出口まで走る後ろ姿が見えている。

 

 

vox Gott(戒律引用)Es Atlas(重葬は地に還る)……! ────!」

 

 

 カナが詠唱しているのを見たアサシンが鎖で捕縛しようとするがもう遅い。進行方向に荊の壁で遮られ、鎖は届かぬままカナは城の外へ飛び込んでいた。

 

 

「くっ……。遊び過ぎたか……止む終えんな」

 

 

 アサシンは城からカナに向けて大量の術式を展開し始めた。マスターが目覚めた以上、逃せば後々面倒になる為、アサシンは捕縛から殺害に思考を切り替えたのだ。幸いにも令呪を持つマスターが入れば、サーヴァントが消滅する前にマスターを変える事は容易い。

 

 

「さらばだ。現代の小娘よ」

 

 アサシンの展開した魔力砲がカナへと襲いかかった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「––––ぐっ……あぁ…………!?」

 

 空中を飛んでいる間に魔眼の影響がここで発動される。

 カナが最も狙われやすい理由は2つ。固有結界はカナ自身が隠しているのだが、もう一つは隠しきれなかった魔眼にある。

 

 カナは生まれつき魔眼を宿している。ランクは宝石だが、強さ的には虹と言われてもおかしくないらしい。エルメロイ先生にもそれは滅多で無い限り隠せと言われて魔眼殺しの眼鏡をかけていたのだ。

 

 

 

 カナの魔眼は『亜空の魔眼』

 この世界に存在するものを時間の流れがこの世界の数千倍早い亜空間へと飛ばしてしまう魔眼だ。簡単に言えば、カナが見たものはこの世界から時間の流れが早い世界へと飛ばしてしまうものだ。

 

 カナの魔眼は『実際に存在するかもしれない世界が実在してはいけない世界でもあるものと言う曖昧な世界』に接続するのだ。その世界には何も無く、エーテルすら無く、光すらないが時間の流れが異様に早いのだ。一秒に数百年単位の時間が流れている為、カナ自身はこの魔眼が怖いのだ。

 

 暴走でもして人を取り込んだら、その亜空世界でただ朽ちていくしかないのだから怖くて魔眼を出来る限り封じていた。

 

 

「ここで……魔眼の……影響が……!」

 

 

 魔眼だけで魔法の域にあるそれは魔術師にとって根源の研究に喉から手が出る程欲しいものだろう。

 

 だが、欠点として膨大な魔力を消費する。亜空間に接続する為、接続した時間は多大な脱力感に見舞われて、しばらくの間は激痛が走る。当然ながら連続使用も出来ない。消費する魔力は固有結界よりも多いのだ。恐らくカナ以外が使えば死の一歩手前まで逝く事になるだろう。

 

 

「でも……抜け出せた!」

 

 

 現在、空中にいるカナに縛るものはない。重力の術式が乱れるのを抑えながらも令呪のパスを感じる。そして確信する、今なら呼べる。

 

 

「––––令呪をもって命ずる!」

 

 

 しかし、次の瞬間、カナの周りに多大な魔方陣が浮かび上がる。

 これはアサシンの使っていた術式だ。しかもこれは迎撃用だと直感的に理解する。今のカナに防ぐ術はない。

 

 けれど、カナは命令を止めなかった。

 

 

「––––私のサーヴァントよ、我が元に参れ!!」

 

 

 令呪が光り出し、それと同時にアサシンの魔力砲がカナへと射出される。ここまで来たのにあと一歩、間に合わない。

 

 

「…………っ!」

 

 

 轟音が鳴り響いた。

 いくらカナでもこの数から放たれる魔力砲は防ぐ術はない。

 

 しかし……それなのに痛みがない。

 

 

「…………?」

 

 

 突如、魔力砲が切り裂かれる。

 あれだけあった術式を剣で切り裂いている。 それはまるで奇跡を見ているかのような光景だった。

 

 

「一刀三拝。無限を破り零に至る……なんてね」

「……凄い」

 

 

 そういって一輪の花のような笑顔を咲かせた彼女……そう、カナが呼び出したかったサーヴァントは日本の中でも数人しかいない程の剣の実力者だ。

 

 日本史上最強の剣豪として名高い、江戸時代初期の剣術家。

 武蔵が創始したとされる流派“二天一流”を身につけ、大刀と小刀を用いる“二刀流”の達人。

 

 新免武蔵守藤原玄信──俗に多くの物語でこう呼ばれる。

 

 

 宮本武蔵──ーと

 

 

「ってわあああああああ!? 落ちてるうううううううう!?」

 

 

 あっ、なんか思ったのと違うらしい。

 

 

 

 


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