東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~ 作:騎士シャムネコ
明日からは仕事があるので一日に何度も投稿するのは出来なくなりますが、気長にお付き合いください。
―――幻想郷に新たな宗教が生まれ、その宗教の巫女が布教を行う様になった。宗教の名は『竜信仰』、あるいは『ドラゴン信仰』。そして巫女の名は『都牟刈叢雲』である。
「はぁ~」
「どうしたんだい霊夢、溜息なんてついて」
「溜息もつきたくなるわよ。ここ最近、人里の信仰をぜーんぶあいつらに持ってかれているんだから」
「あいつらって?」
「竜信仰の連中よ!」
いつもの様に、買い物の一つもしやしない紅白少女がやって来たと思ったら、そのまま自分専用の湯飲みにお茶を淹れて僕に絡んで来た。
もはやいつも通り過ぎて慣れてしまったが、それでも一言くらい断りがあっても良いんじゃないかと僕は思う。
「竜信仰か。新聞にも載っていたが、随分と人気なようだね」
「まったく、あんな連中が出て来たらうちの商売あがったりよ」
「博麗神社は元から参拝客なんてほとんど来ないだろ? 寧ろ人間より妖怪の方が良く来るから、真面目に参拝しようと思う人間は殆ど居ないって魔理沙も言っていたよ」
「余計なお世話よ!」
かっかしている霊夢を宥めながら、定期購読している『文々。新聞』に目を通す。記事の内容は竜信仰と、その巫女として人里で布教を行う様になった叢雲についてである。
普段の文々。新聞は、もっと記者の主観的な意見が入ったり、明け透けな内容だったりしているのだが、今回の物は随分と真面目で大人しい。
おそらくは記事を書いた記者が、取材対象たちの実力を感じ取ったからだろう。記事の内容には、竜信仰への称賛や宣伝文句が多々あった。
幻想郷で新聞を発行している天狗たちは、強者には下手に出て弱者には強気に出る者達だ。おそらく、他の天狗の書いた記事も似たようなものだろう。
新聞の写真には笑顔を見せる叢雲と、彼女の肩に乗っているドラゴンの彫像が写っていた。
「はぁ~ぁ、やっぱり目新しい物だからみんな飛び付いているのかしら。うちの神社にも何か目玉になる様な物があればなぁ」
「それ以前に、博麗神社の場合はそこに辿り着くまでが大変だからあまり人が来ないんじゃないか? 竜信仰の方は、人里に置かれた像に祈ればいいだけみたいだしね」
「あんな『でっかい金ぴかの像』があれば、誰だってそっちに目が行くわよ!」
ハハハ、すまないね。
霊夢の言う『でっかい金ぴかの像』だが、あれは僕の作った物だ。新聞の写真に写っているドラゴンの彫像も同様である。
両方とも、幻想郷において煙晶竜の仮初の肉体とする為に制作した。但しそれぞれで材質が違うが。
叢雲の方に乗っているのは『オリハルコン』製で目の部分に『蜃帝真珠』を使用しており、人里に置いた方の像は軽量化の為に一度『六道の閂』で骨格を作ってからその上にタングステンで外殻を作り、仕上げに全身を純金でコーティングした物だ。瞳には『色空竜の瞳』を使用しており、二体とも煙晶竜をモデルにしている。
この二つは、ゲーム時代に遭遇した『ゴーレム・オブ・ドラゴン』系統のモンスターに着想を得て製作した物であり、煙晶竜の霊が憑依する事で動かす事が可能となっている。
また、小さい方には『星結晶』を、大き方には大量の『魔結晶』を動力として搭載した上で、状態異常の無効と継続回復の効果を持つ『コルヌー・コピアイ』を組み込んであるので、近くに居るだけで病気や怪我を癒す御利益のある、ありがたい像だと人里ではもてはやされているようだった。
ちなみに、小さい方のオリハルコンの彫像の方は、オリハルコン自体に使用者の魔力に応じて色彩が変化するという特性があるため、煙晶竜の本来の体色と同じやや濃い茶色となっている。
何故こんな事になっているのかと言えば、話は叢雲と出会い煙晶竜と再会したあの日まで遡る。
『叢雲よ。汝にはこの幻想郷で、我らドラゴンへの信仰を集めて貰う!』
僕と叢雲を前に、煙晶竜は高らかに言い放った。
信仰、信仰と言ったのか? 何故信仰を集める必要が?
「煙晶竜、ドラゴンは神と違い信仰を必要としませんよね? 何故それを集めさせる必要があるんです?」
『うむ、それはじゃな―――』
煙晶竜の説明によれば、そもそも僕が能力を十全に獲得出来なかったのは、能力の内容そのものがこの世界との縁を持たなかったからだそうだ。
『信仰などの人々の認識によって、架空の存在であろうと力を持ち顕現するのがこの世界のルールだが、儂を含めキースの能力はこの世界とは縁も所縁も無い別世界の架空の力じゃ。だというのに、能力の規模は神話として広く多くの人々に認識されているのを前提とするレベルのもの。一つの能力として定義することは出来ても、実際の能力として確立するには下地不足だったんじゃよ』
なるほど、だから煙晶竜は僕の記憶と能力を一度に戻せる時まで機会を窺っていたのか。
僕が『召喚術を操る程度の能力』があると認識し、実際に行使出来なければ、能力の存在を周囲に広めて行く事も出来ない。
妖怪を見たと誰かが認識し、それを聞いた他の誰かもそれが事実だと認識する事で妖怪が生まれるのと同じ理屈だ。
『これでも、汝が能力を取り戻してから大分やり易くなったんじゃよ? 汝一人が認識した事でゼロが一になった訳じゃからな。後は認識する者の数を増やして行けば、おのずと全てを取り戻すことが出来るじゃろう』
「なるほど。その為にドラゴンへの信仰を集める訳ですか」
認識を増やすだけなら、僕が『禁呪』の変身呪文『メタモルフォーゼ』を使ってドラゴンに変身して暴れ回るという方法もあるだろう。
しかし、ドラゴン達は妖怪とは違い人間に畏れられなければ存在出来ない怪物と言う訳では無い為、その方法は好まないだろう。
それに、単なる怪物への恐怖では効率良く認識が広がるとは思えない。信仰の対象として、正しく名指しで認識されのが、最も効率が良い方法だ。
「判りました。なら、信仰の為の偶像兼、煙晶竜が幻想郷で活動する為の肉体の代わりになる様な物を僕が用意しましょう。叢雲、本来信仰される側の君に信仰集めなんて言う下働きをさせる事になってしまうが、頼めるかい?」
「お任せ下さい、旦那様。わたくしにはお二方の話している内容を十全に理解することは出来ませんでしたが、信仰を集める事が旦那様のお役に立つことは十分に理解出来ました。元よりこの身は神霊である以前に貴方様の剣、存分にお使いお役立てください」
「そうか……ありがとう、叢雲。頼りにさせて貰うよ」
「はい!」
なんて事があり、現在に至る訳だ。
すまないね霊夢、今君が散々愚痴をぶちまけている僕は、表立って活動していないだけで、裏ではガッツリ竜信仰側なんだ。
まぁ、そうでなくても愚痴を聞く以上の事をするつもりは更々無かったけどね。
結局、霊夢はその後愚痴を言いつつお茶を何杯もお代わりし、茶菓子を貪り尽くしてから帰って行った。
ふむ、今度霊夢や魔理沙の対策に激辛煎餅でも用意しておこうか? ……いや、二人が残した後処分に困りそうだし止めておこう。食べ物を粗末にしてはいけない。
まぁ、霊夢の場合は構わずばくばく食べそうではあるがな。あの腹ペコ巫女め。
「ただいま戻りました。旦那様~」
『キースよ、今戻ったぞ』
霊夢が帰った後、夕食の準備が終わった辺りで叢雲と煙晶竜が帰って来た。元々、二人の帰宅時間に合わせて作り始めたから当然ではあるが。
「お帰り。夕食の準備が出来ていますが、直ぐ食べますか?」
『おお、いつもすまんな。早速頂くとしよう!』
「いつもありがとうございます。本当は、お夕食もわたくしが作れたら良いのですが」
「なに、二人共毎日朝から晩まで働いてから帰って来るんだ。家にいる時くらいゆっくりすると良いよ」
二人は朝早くから人里に出かけ、煙晶竜を始めとする名持ちドラゴン達の話やドラゴンの生き方についての話を語り、人里の住人たちの相談に乗るなどを夕方まで続け、日が暮れたら煙晶竜が大きい方の像に憑依して人里周辺の上空を炎のブレスを吐きながら飛び回り、ドラゴンが人里を守っているというアピールをしてから帰宅すると言うのを毎日繰り返している。
その効果は、煙晶竜によれば上々であるらしい。僕の記憶と能力が戻るのには数百年かかったが、このままの勢いなら十年以内に全ての力を取り戻せるかもだそうだ。
とは言え、幻想郷の住人たちの数には限りがあるため、いずれその勢いは低速化する事だろう。それでも、世代交代などを考えれば百年以内には目標を達成出来る筈だ。焦らず気長に待つとしよう。
『それでキースよ、今夜の夕食は何だ?』
「今日は普段頑張ってくれている二人の為に『グリンブルスティ』の肉を用意しました。一頭丸々バラしたから、お代わりも自由ですよ」
『うぉおおおお! そうか! 早く食わせろー!』
叫んだかと思えば、煙晶竜はそのまま食事の用意してある居間に突撃してしまった。
煙晶竜の体は現在オリハルコン製の彫像だが、食事を摂り栄養を摂取し、食べたものの味を感じることも出来る。
これは煙晶竜の体となる彫像を五行を当て嵌めて製作したからだ。
まず主体となるオリハルコンの体、これは五行で言う所の金気に当て嵌まり、瞳に使われている蜃帝真珠は水気、動力部である星結晶は土気に相当する。
これに加えて、木気に相当する神樹石と火気に相当する『迦楼羅鳥の翼』を組み込むことで五行を体現させているのだ。
五行は体の各部位司っており、例えば舌は火気、胃は土気、大腸は金気が司っている。
五行を当て嵌めた体であるから、煙晶竜の彫像は生身に近い性能を持っているのだ。なお、これは大きい方の像にも同じ加工がしてあり、大きい方の場合は瞳が木気に相当する色空竜の瞳である為、神樹石の代わりに水気に相当する素材が組み込まれている。
「あらあら、煙晶竜様ったらすごい勢いでしたわね。そんなに美味しい物なのですか?」
「ああ、僕が用意出来る肉類の中では、間違いなく最上級の逸品だよ」
「まぁ! それは楽しみですね」
グリンブルスティはゲーム時代のモンスターで、『金耀猪の肉』と言う食材アイテムの中でも最上級の物をドロップする。
今回は闘牛同様、全ての肉を得るためにダンジョンの奥に結界を張った状態で能力を使って召喚してから、速攻でグレイプニルを使って縛り上げてからそのまま仕留め、捌いて食卓に並べたのである。
ちなみに、血も含めてグリンブルスティから得られたものは一切捨てていない。食材としても貴重な物だが、元より神獣の類である為、全身が稀少素材で出来ている様な物なのだ。捨てるなんて勿体ない!
『二人共、いつまでそこで突っ立っているつもりなのだ! 早くしなければ冷めてしまうでは無いか!』
居間から煙晶竜の声が飛んで来た。どうやら律儀に食べるのを待ってくれているらしい。
僕と叢雲は顔を見合わせて、お互いに苦笑しながら居間へと向かった。
ちょっとした団欒回、気付けば三人暮らしになっていた転生香霖でした。
そして人里の守護神『ゴールデンゴーレム・オブ・スモーキードラゴン』の爆誕である。
後に幻想入りする早苗さんが興奮しそうな、黄金のドラゴン型ゴーレムです。これには神奈子様も苦笑い。
関係無いですけど、アニメのバトルスピリッツで見た「神造巨兵オリハルコン・ゴレム」って言うのが名前含めてやたら格好良く感じた記憶があります。