東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~ 作:騎士シャムネコ
今回は、ゆかりんとのコミュ回です。
「それでね。藍ったら私が目を離すとすーぐに橙を甘やかすのよ……って、聞いてるの? 霖之助さん!」
「はいはい、聞いてるよ」
彼女の話に適当に相槌を打ちながら、先日無縁塚で拾って来た本に目を通す。ちなみに読んでいるのは魔導書の一種で『グラーキの黙示録』と言うタイトルだ。中々に興味深い内容である。
僕が結界の綻びから外の世界へと赴き、直ぐに連れ戻されたあの日からしばらくたったが、気付けば霊夢や魔理沙たちの様に、八雲紫が店に入り浸る様になってしまった。
紫は他の客が居ない時間を狙って訪れている様で、霊夢や魔理沙が帰った後に入れ替わりでやってきたり、逆に霊夢や魔理沙が来るのを察知すると姿を消してしまうのだ。どうやら、自分が頻繁にこの店を訪れている事を隠したいらしい。
客としての態度は霊夢と魔理沙以上、咲夜とレミリア以下、と言った所か。霊夢や魔理沙と違い、毎回きちんと買い物をして行ってくれるのはありがたいが、咲夜やレミリアとは違い毎回毎回長い長い愚痴や世間話をしてくるのだ。まぁ、愚痴はともかく世間話の方は、主に外の世界の大きな出来事などについてなので、聞いていて面白いから良いのだが。
「もう、適当に返事して! 私にここまでぞんざいな態度を取るの何て、霖之助さんと霊夢くらいだわ!」
「それは驚いた。霊夢はやって来ては長ったらしい愚痴を聞かせて来るような相手にも、きちんとお茶と茶菓子を出すようになったのかい?」
「……訂正。霊夢の方がぞんざいな態度を取っているわ」
「だろうね」
愚痴を言おうが絡んで来ようが、ツケばかりの紅白や白黒と違い、目の前の金紫の少女はきちんと現金で買い物をして行くお客様だ。態度がぞんざいになろうと、もてなしを忘れる事は無い。
「はぁ~……実際の所、霖之助さんには感謝しているのよ? 気兼ねなく日頃の鬱憤を吐き出せる相手なんて、今までいなかったから」
「おや、妖怪の賢者様には、愚痴を溢せる友人は居ないのかな?」
「友人ならちゃんと居るわよ! けど、親しき仲にも礼儀ありと言うでしょう? それに友人だからこそ、弱音なんて見せたくないのよ」
「なるほどね。暗に親しくも友人でも無いと言われた僕はどう反応すべきかな?」
「殿方でしょう? 女性が弱音を吐いて甘えているのですもの、甲斐性を見せて欲しい所ですわ」
気取った口調でそう返してくる彼女に苦笑しつつ、「甲斐性はともかく甘やかすぐらいの事はしようじゃないか」と答えつつ、予めアイテムボックスに保管していた菓子を召喚して彼女の目の前に置いた。
先日外来人の女の子を助けるのにも使用した、神霊の桃を使った桃のコンポートである。
「あら、美味しそう。それに随分と貴重な物を使っているようだけど、頂いちゃって良いのかしら?」
「もちろん、君の為に作った物だからね。愚痴は多くても君はこの店では貴重なちゃんとしたお得意様なんだから、このくらいのサービスはするさ」
「まだ通い始めてからそんなに経っては居ないのですけどね」
けれど、そう言う事なら遠慮なく頂くわ。
そう言って紫は桃のコンポートを口にした。味の感想は……花咲く様な彼女の顔を見れば明らかだった。
「ご馳走様。とっても美味しかったわ」
「お粗末様。そう言って貰えて何よりだよ」
紫の食べ終わった器を回収し、お茶のお代わりを淹れる。
どうも最近になって自覚が出て来たが、前世では料理の腕が壊滅的だった反動か、僕は自分の料理を誰かに美味しく食べて貰う事が好きである様だ。
……ふむ、折角だから紫が帰る時にお土産に何か渡そうか。彼女だけでなく彼女の式であるという藍と、更にその式であるという橙の分も含めて。
「―――さて、美味しい甘味も頂きましたし、そろそろお暇しようと思っていたのですが……」
僕の淹れたお茶を飲んで一息ついた紫が、そう口にして店の入り口へと目を向ける。
店の外からは出会ってから、あるいは再会してからそれほど時間が経っていないというのに、もはや共に居るのが当たり前に感じるほどに馴染んでしまった二人組の気配が近づいて来るのが感じられた。
「ただいま戻りました旦那様。それと……いらっしゃいませ、八雲紫。こうして顔を合わせるのは初めてですね」
『戻ったぞ、キースよ。それから汝は……確か妖怪の賢者とか言う娘だったな。普段は儂らを避けているようだが、今日は一体どういった風の吹き回しじゃ?』
帰って来た叢雲と煙晶竜が、店のカウンター前に用意した椅子に座っている紫に目を向ける。叢雲は若干の警戒心を持って、煙晶竜は純粋な疑問を持って彼女を見ていた。
二人の視線を受けた紫は、その視線を微笑みでもって受け止めると、椅子から立ち上がり優雅に一礼をした。
「御初に御目に掛かりますわ。竜信仰の象徴、煙晶竜様。そして竜信仰の巫女、都牟刈叢雲様。既にご存知でしょうが、私の名は八雲紫。この幻想郷の管理者を務めている者です」
「あれ、おかしいな。僕も竜信仰の側だけど、君からそんな丁寧な自己紹介を聞いた覚えが無いよ?」
「もう! 真面目な時なんだから茶化さないで、霖之助さん!」
僕が指摘すると、途端に紫の余裕ある態度は崩れ去った。
空気の読めていない態度ではあったと自覚しているが、謝りはしない。だってあの雰囲気のまま進めていたら、絶対無駄に回りくどい話し方をして話が前に進まないじゃないか。もうすぐ夕食なのだから、話があるならさっさと済ませて欲しい。
「君の事だ、茶化しでもしなければ中々本題に入れないだろう? 夕食まで時間が無いし、話ならさっさと済ませてくれ。それとも、家で夕食を食べて行くかい?」
そう訊ねると、紫は少し悩む仕草をした後、残念そうに首を横に振った。
「いいえ。藍が夕食の用意をしてくれているし、またの機会にお願いするわ」
「そうかい。なら、僕は夕食の準備に取り掛かるから、話はその間に済ませてくれ。それと、帰る時は一言かけて行ってくれ。夕食と一緒に何かお土産を作っておくから」
「ありがとう、霖之助さん。色々頂いちゃって、悪いわね」
「そう思うなら、どうぞこれからも当店を御贔屓にお願いするよ」
「ええ、そうさせて貰うわ」
お互いに微笑み合って言葉を交わすと、僕は夕食作りの為にお勝手へと向かった。
「むむ、いつの間に旦那様とあんなに仲良く……八雲紫、やはり侮りがたい相手のようです」
『ふむ、随分と気安い仲であると見える。 ……やれやれ、ナイアスめに知られたらどうなる事やら』
心臓に悪い事を言わんでくださいよ煙晶竜! 別に僕と紫は、邪推されるような仲じゃないですよ!
夕食の準備を終えると、丁度三人の話も終わったようであり、紫が挨拶をしに来ていた。
「話し合いは終わったわ。霖之助さんのおかげでスムーズに会話が進んで大助かりよ」
「そう思うなら、普段の会話からもう少し回りくどさを省いたらどうだい? それだけでも大分改善する筈だよ」
「おあいにく様。幻想郷の賢者ですもの、大物ぶった態度は欠かせませんわ」
「そうかい。なら、うちで話す時くらいは肩の力を抜いて行くと良い」
「元より、そのつもりよ。私が霖之助さんにもったいぶった言い方をした事があったかしら?」
「……そう言えば、なかったね」
思えば、紫は出会った当初から僕には感情や言葉を真っ直ぐにぶつけて来たな。逆に霊夢や魔理沙などに対してはもったいぶった回りくどい話し方をしていて驚いたくらいだ。
霊夢や魔理沙以外にも、普段からあの調子で周りに対して煙に巻く様な態度で接しているのなら、胡散臭いと評されるのも納得出来ると僕は思った。
が、それには理由があったようだ。自分の真意を悟らせないような立ち回りは、彼女なりの処世術なのだろう。
「まぁ、それならそれで良いさ。息抜きがしたかったらいつでも来ると良い。また新しいお菓子でも準備して待っているよ。それと、これがお土産だよ。君の従者たちと食べてくれ、後で感想も聞かせてくれると参考になる」
「ふふふ、ありがとう。藍と橙もきっと喜ぶわ。それじゃあまたね、霖之助さん」
「ああ。またね、紫」
お土産の入った包みを手渡し、お互いに別れの挨拶を交わすと、紫は僕に背を向け、中に沢山の目玉が浮かんだ空間の裂け目(スキマと言うらしい)を開いて、その中へと消えていた。
前から気になっていたが、あの沢山の目玉は実際に目として機能しているのだろうか? それとも単なる模様なのだろうか? 機会があれば、何れ訊ねてみよう。
スキマの中へ消えて行った紫の後ろ姿は、どこか楽し気に感じられた。
紫が帰ると、入れ替わりに今度は叢雲と煙晶竜がお勝手に顔を出した。
「旦那様。八雲紫は帰られましたか?」
「ああ、今帰ったところだよ」
『ならばキースよ、そろそろ夕食にしようでは無いか。儂はもう腹が減って仕方が無いのだ!』
「もう出来てますよ。今持って行きますから、大人しく待っててください」
『うむ!』
「もう、煙晶竜様ったら」
至極、欲望に忠実な煙晶竜の態度に、叢雲は手の掛かる子供を前にしたかのような顔でそう呟く。視線を向けられた煙晶竜は、明後日の方向を向いてその視線を交わしながら、今へと戻って行った。
叢雲も、すっかり煙晶竜の人柄(竜柄?)に馴染んだ様だ。まぁ、毎日一緒に行動しているのだから馴染むのも早いか。
「やれやれ……叢雲、夕食を運ぶのを手伝ってくれ。早くしないと、煙晶竜待ちきれなさそうだ」
「ええ、お任せください」
叢雲にも手伝って貰って、夕食を居間へと運んだ。
今日のメニューは能力で呼び出した海魔の島産の魚介類を使った揚げ物だ。半妖の僕の体は、油っこいものを食べ過ぎても痛風になる事は無い。
体調を気にせずに美味しい物を沢山食べられるのは、この体の大きな利点であった。
「それじゃあいただきます」
「いただきます」
『うむ、いただこう!』
僕、叢雲、煙晶竜の順にいただきますの挨拶をして食事を始める。
僕は食事を進めながら、叢雲と煙晶竜が紫と話した内容を聞いていた。
「八雲紫と話したのは、竜信仰を広めた真意や、広めた後でどのような行動に出るのかと言った内容が主でした。竜信仰を広めた理由については、煙晶竜様が明かしてしまいましたが、宜しかったのでしょうか?」
「構わないんじゃないかな? 別段隠すような理由も無いし、煙晶竜もそう判断したのでしょう?」
『うむ。儂らは別にあの娘と敵対するつもりも、この幻想郷に仇なすつもりも無いからの。隠し立てて余計な不信感を募らせる必要も無かろう』
二人の話によれば、紫はその説明で納得したそうだ。ただ、僕の能力が完全に戻り、僕の配下やドラゴン達が幻想郷に来られるようになったら、事前に必ず連絡して欲しいと釘は刺されたそうだ。
そりゃあいきなりドラゴン達が幻想郷に多数現れたら騒ぎになるからな。事前に連絡して欲しいという事は、その時は紫が上手く調整してくれる事だろう。
『それでキースよ。実は少々お前さんの力を借りなければならなくなったのだが、良いかの』
「僕のですか? 信仰集めで僕が協力出来る事なんてそう多くは無いと思いますが……何をすればいいんです?」
「実は旦那様。人里でこの様な事がございまして―――」
叢雲の話によれば、竜信仰は人里に広く広まり人気を博しているそうだが、そんな中で本物の竜を見てみたいという意見が上がり、その考えを支持する者も沢山出て来たそうだ。
「なるほど、確かに人里にある像や叢雲が連れているのは僕が作った物だからね。臨場感はあれど、いや臨場感があるからこそ、偶像を通して夢想するしかない本物の姿を見てみたい。という事か」
「はい。ですが、これはチャンスでもあります。ここで人々の希望を叶えることが出来れば、竜信仰は更なる支持を獲得出来るでしょう」
『そこで汝の出番と言う訳だ。キースはほれ、確か姿を変える魔法が使えたであろう? それに、今の汝の体は半人半竜、魔法を使わずともドラゴンの姿になれるはずだ。その練習も兼ねてやってみてはどうかの?』
煙晶竜の思いがけない言葉に目を見開く。
そうだ、確かに今の僕は半人半竜。ドラゴンの姿に変身する事も可能だろう。
実際、人里で暮らす昔馴染みの半妖の少女も、満月の夜には半獣の姿に変身出来たはずだ。僕の場合どんな姿になるかは分からないが、実際にやってみる価値はある。
それに、煙晶竜言ったようにいざとなれば、僕には『禁呪』の変身呪文『メタモルフォーゼ』がある。半人半竜の力で完全なドラゴンの姿になれなくても、少なくともメタモルフォーゼを使えば、人里の住人たちにドラゴンの姿を見せるという当初の目的は果たすことは出来るのだ。
そう言う意味では気楽な物だ、失敗しても別の手段が残っているのだからな。
「いいですね、夕食を終えたら早速試してみましょうか。場所は、店の前で良いですかね? この時間なら来客も無いでしょうし」
『うむ、儂が結界を敷くから、その中で試すとしよう。本番前に誰かに見られる訳にはいかないからな』
「わたくしも姿を変える感覚をお教えする事なら出来ますので、微力ながらお手伝いします」
「ああ、頼むよ」
夕食を食べ終えた後、僕たちは店の前に煙晶竜が敷いた結界の中で僕の姿を変えるためにあれやこれやと色々試していた。
手探りの状況ではあったが、元々ドラゴンであった煙晶竜の意見や、剣と人型の二つの姿を持つ叢雲のアドバイスは大いに役立ってくれた。
そして、試行錯誤を繰り返すこと小一時間。僕は、思いのほか早く、竜に変ずる感覚を物にしたのであった。
視線が高い。空を飛びもしないのに、香霖堂を上から見下ろしていると言うのは、何だか可笑しな感覚だった。
「旦那様……とっても素敵なお姿です!」
『ふむ、中々の男前であるな。儂の若い頃にそっくりだ!』
『ドラゴン男前とか分かりませんけど、まぁありがとうございます』
二人の感想だけでは要領を得ないので、闇魔法の呪文『シャドウボディ』を使って分身体を生み出して姿を確認してみる。流石に香霖堂の店舗よりも大きなドラゴンが二体も並ぶとかなり手狭に感じるが、仕方が無い。
確認してみたドラゴンの僕の姿だが、どうやら配下のドラゴンの最初の一体である『アイソトープ』の種族、『アポカリプスドラゴン』が一番近い様だ。
かなり大きく細身で、アポカリプスドラゴンほどごついという印象は感じない。
全身の鱗は僕の髪と同じ銀色で、長い尻尾の先が二股に分かれている。
頭部から生える、前方へと伸びた湾曲する二本の角と鼻面の小さな角、額の第三の目と言う特徴もアイソトープと酷似していたが、両の目は僕と同じ金色で、第三の目はアルゴスの物を思わせる虹の光彩を放っていた。
そして、更に特徴的なのが背中に生える三対六翼の大きな翼だった。拡げると、ただでさえ大きな体が更に大きく見える。
『……全体的に、アポカリプスドラゴンに似ているみたいですね。アイソトープを思い出します』
『うむ、そうだな。ところで、その姿で自由に飛べるのか?』
『前にドラゴンの姿で飛んだこともありますし大丈夫だとは思いますが……試しにちょっと飛んで来ますね』
「行ってらっしゃいませ、旦那様」
(インビジブル・ブラインド!)
シャドウボディの分身を消してから、透明化の魔法を使って大きく空に羽ばたいた。
予想以上に翼の力が強いのか、一瞬で地上から大きく離れ、気付けば遮るものの何も無い空の上で浮かんでいた。
『思った以上に力が強い。慣れないと色々危なそうだな』
少しずつ全身に込める力を調節しながら、遊覧飛行を開始する。
全身に伝わる風が心地良い。それに、不思議な開放感や爽快感がある。少し癖になりそうだ。
『中々気持ち良いものだな』
「あらあら。ご一緒させていただいても良いかしら、霖之助さん?」
『うん? 紫かい?』
いつの間にか、僕の頭部に紫が腰かけていた。本当に神出鬼没だな、妖怪なのだから当然とも言えるが。
「半人半竜とは聞いていたけど、実際に目にするとすごいわね。勇ましくて素敵よ」
『まだまだこの姿で動くのは不慣れだけどね。しばらく飛んで回るつもりだけど、話し相手になって貰えるかな?』
「ええ、ドラゴンに乗って空を飛ぶなんて貴重な経験ですもの。私も堪能させて貰うわ」
それからしばらく、僕は紫を頭に乗せたまま幻想郷中の空を飛び回った。
その日から毎晩、僕は練習の為にドラゴンの姿で空を飛ぶようになったのだが、その度に紫は僕の頭上に現れ、翌日からは叢雲や煙晶竜も同乗して、僕の頭上でお茶会を開くようになってしまった。
まぁ、仲が良さそうで一安心である。そう思っておこう。
『ドラゴノイド・オブ・ゴッドスレイヤー』
かつて別世界で、人類最初の神殺しを成し遂げた超常の戦士が転生した、半人半竜の存在。
虹の光彩を放つ第三の瞳は、監視者たる巨神の目その物である。
はい。と言う訳で、終始仲良さげな転生香霖とゆかりんでした。
前世の記憶を取り戻したことで人付き合いについて思う所があるのか、転生香霖は付き合いがかなり良い上、友好的な者に対してかなりサービス精神旺盛です。
そして転生香霖のドラゴンフォーム登場!
作者のイメージですけど、ドラゴンに乗って空を飛んだとか、レミリア辺りが羨ましがりそう。
ドラキュラ=竜の子で、吸血鬼とドラゴンは縁がありますし、本人もツェペシュの末裔を名乗ってますからね。