東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~ 作:騎士シャムネコ
今年も残り二か月ちょっとなんだなぁって考えると、感慨深いものがある。
ミニ八卦炉を作ったのが僕だと知った紅魔館の住人たちから次々に質問が飛び交い、最終的にパチュリーから来た「どうやって作ったのか?」という質問に魔理沙も含め、霊夢を除いた全員が興味を持ったので、アイテムボックスから当時材料に使った素材を取り出して解説をする事となった。
まぁ、魔理沙だって自分が使っている道具の事を知りたいだろうし、否は無い。
商品のプレゼンの様な物だと思えば良いか。どれもこれも、幻想郷では手に入れるのが面倒な非売品ばかりだけど。召魔の森さえ取り戻せればなぁ、いくらでも手に入るんだがなぁ。
「―――さて、皆の聞きたいミニ八卦炉は、魔理沙に依頼されて修復、改良して以降の物だろうからそれを基準に話すが。まず、ミニ八卦炉に使った材料の一つは『緋々色金』だ。これは魔理沙も知っているね?」
「ああ、それを使って直してくれって依頼したのは私だからな」
『緋々色金』、ミニ八卦炉のコーティングと骨組みとなる合金の素材として使用した、朽ちる事の無い稀少金属だ。
とは言え、こちらは既に在庫が無いので、概要を説明するぐらいしか出来ないのだが。
「緋々色金なら知っているわ。以前から知っていた物だし、現物だって少しだって持ってる。コーティングに使われているのを見て目を引いた事は記憶に新しいもの。それより、私が知りたいのはその他の素材よ。明らかに未知の素材がふんだんに使われていたわ。盗んだ魔導書の代わりに寄越すように、魔理沙に交渉するくらいは興味があるわ」
「あれは交渉じゃ無くて脅しだろ? それに、盗んだんじゃ無くて借りてるだけだぜ! それに、最近は少しずつ返してるだろ?」
「うっさい。私は貸し出しを許可した覚えは無いわよ」
悪びれずそう宣う魔理沙をパチュリーは睨み付ける。
まったくこの娘は、新年早々からこの調子じゃあ、先が思いやられるな。
「……魔理沙、君へのお年玉は半分カットだ」
「何ぃ!?」
「あ、霖之助さん。ならその半分は私に頂戴?」
「ああ、賽銭箱に放り込んでおくよ」
「やった!」
「ちょっ!? 霊夢! 香霖も! 酷くないか!?」
「フンッ、良い気味だわ」
酷いのは魔理沙の普段の行いの方だ。
はぁ、パチュリーには御詫びに、この後紹介する素材のいくつかを提供する事としよう。
「さて、それじゃあ話を戻して、素材の紹介の続きをするとしよう」
「さて、じゃない! 香霖、私のお年玉は―――」
「霊夢、取り押さえてくれ」
「了かーい」
「ちょっ、ムグゥッ!?」
霊夢の放った無数のお札に張り付かれ、魔理沙は身動きの取れないままミノムシの様に敷物の上に転がった。
その姿を見て、昔小さな頃の魔理沙があんな風に僕の布団にくるまって遊んでいた姿を思い出した。
と、いかんいかん。昔を思い出してほっこりしている場合じゃない。
魔理沙に反省を促す為にも、ここは厳しい態度を取らねば。
「魔理沙、君はそのまま少し反省していなさい」
「ムグゥー!」
「フフッ、まるで芋虫みたいな姿ね。良い気味よ」
「すまないねパチュリー。お詫びと言っては何だが、この後紹介する素材のいくつかを君に渡すよ」
「あら、本当? なら、遠慮なくいただくわ。本泥棒も、偶には役に立つものね」
そう言って機嫌良さげにパチュリーは微笑んでいる。
貴重な素材を無償で提供する事となったが……まぁ、それほど手痛い出費と言う訳では無い。
これで彼女が機嫌を直してくれるなら、安い物だ。
「では、次の素材を紹介しよう。今度はこれだ」
僕が次に取り出したのは、『オリハルコン』のインゴットだった。
手の平大の金属塊は、日の光を受けて黄金の輝きを放っている。
「……見た事の無い金属だわ。これは?」
「これはオリハルコン。ミニ八卦炉の骨組みや外装に使っている金属だよ」
「オリハルコンですって!? 神話の金属じゃない!!」
パチュリーは目を見開いて、僕の手にあるインゴットを凝視している。
『オリハルコン』、これはパチュリーの言う通り、ギリシャ神話に登場する伝説の金属だ。
とは言え、これはあくまで前世のゲーム内のアイテムだったものだ。この世界のオリハルコンとは別物だろう。
「君が僕の事情をレミリアから聞いているかは知らないが、一応これは僕がオリハルコンと呼んでいるだけの金属だから、君の知っている物と同じかは判らないよ? まぁ、質の良い素材であることは保証するけどね」
「……その話、まだレミィから聞いてないわね。まぁいいわ。なら、その金属について説明して下さる?」
「もちろん。この金属は、膨大な魔力を内包する特殊な金属でね。加工するにはコツが居るんだが、上手く加工すると頑丈なだけじゃなく、使用者の魔力を増幅する効果を発現させられるんだ」
ゲーム時代で言えば『知力値上昇[小]』と『精神力上昇[小]』の効果だ。
上昇幅こそ少ないが、持っているだけで発揮されるミニ八卦炉の有用な効果の一つである。
「使用者の魔力を増幅する、ですって? ……それ、下手をしなくても魔法使い同士で奪い合いが起きてもおかしくない代物よ。一体どうやってそんな物を……」
「入手先は秘密だよ。さっきも言った通り、これは君に譲るから、好きに研究すると良い」
そう言って僕がオリハルコンのインゴットを手渡すと、思っていたよりも重かったらしく、取り落としそうになったパチュリーの手を掴んで受け止めた。
「あ、ありがとう。 ……でも良いの? こんな貴重な素材を無償でだなんて」
「お詫びの品だからね、気にしなくて良いよ。それに、ちょっと面倒なだけで手に入れようと思えば、いつでも手に入れられるからね」
貴重な物だが、手に入れる方法はある。
入手方法は香霖堂地下のダンジョンの最奥で『ヘパイストスの化身』を召喚して、そのまま倒すというものだ。
ヘパイストスの化身を倒し、そのドロップアイテムである『オリハルコン鉱』を魔法で精錬すれば、オリハルコンが手に入る。
面倒だといった理由は二つ。
一つはヘパイストスの化身が暴れると地下ダンジョンが崩れる危険性があるため、召喚したら速攻でグレイプニルを使って縛り上げなければならない事。
もう一つはオリハルコン鉱を製錬してオリハルコンに変えるのが大変というだけだ。
「これほどの素材を好きな時に入手出来るって言うの? ……ミニ八卦炉の件と言い、まるでびっくり箱ね」
「客を飽きさせないのも仕事の内だよ」
「逆にこっちは胃もたれを起こしそうよ……」
いや、素材の紹介はまだまだこれからなのだが? 序盤も序盤の所で胃もたれを起こしそうになられても困るのだが……。
ふむ、これは一度全部出してから、一通りざっくり説明した方が早いんじゃないか?
(アポーツ!)
そう考えた僕は、アイテムボックスからミニ八卦炉の改良に使ったのと同じ素材を全て取り出した。
これで一気に説明が進むだろう。
「む、むきゅぅ……」
ぐったりしたパチュリーが崩れ落ちている。
ふーむ、テンポを重視したからそんなに時間は掛っていないのだが……体が弱いと聞いているし、外に長く居過ぎたのかもしれない。今は冬だしね。
「いや、パチェがダウンしているのは、霖之助が紹介した頭のおかしい素材たちのせいよ?」
横からスッと入って来たレミリアが、呆れた顔で僕にそう言って来た。
「頭のおかしいとは酷い言い草だな。簡潔に、理路整然と説明したつもりだが、何かおかしな箇所があったかい?」
「全体的におかしいわよ。なに? このオーバースペックな素材たち」
そう言ってレミリアは、僕が敷物の上に拡げた素材の内の一つである『魔結晶』を手に取った。
その魔結晶にしたって、誤解の無いように端的に過不足なく説明したのだが。
「何よこの素材、内包する魔力総量を減らさずに魔力を発し続けるって、要するに魔力の永久機関じゃない。これ一つでも十分おかしいのに、それと同等で頭おかしい素材を湯水の様に使ってミニ八卦炉に組み込んだんでしょ? ……一体、何をどう考えたらここまでやらかせるのかしら?」
「今の僕の全力で、どれほどの道具が作れるのか試したくなってやった。反省も後悔もしていないし、僕は割と満足している」
「発想がマッドサイエンティストとかのそれね」
はぁ、とレミリアは溜息を付く。
いやまぁ、そう言われると僕自身否定出来ない物があるが。
「―――とりあえずレミリア。この素材はパチュリーの代わりに君が受け取ってくれないか? 彼女はしばらく復帰出来なさそうだし」
「そうね。咲夜、素材の方はあなたが運んで。美鈴はパチェを頼むわね。そろそろ帰るよ」
「おや、もう帰るのかい?」
「流石にもう色んな意味でお腹一杯よ。今日の所はお暇させて貰うわ」
どうやら、彼女たちはもう帰るようだ。
まぁ、パチュリーも倒れてしまったし、早めに帰って休ませる方が良いだろう。
レミリアたちが帰り支度を始める中、フランドールが一人だけポツンと取り残されたようになっていたので声を掛けた。
「フランドール。今日はあまり話せなかったから、また今度紅魔館へ会いに行くよ」
「うん。 ……あの、お兄さん。お願いがあるの」
「うん? なんだい?」
「フランって、呼んで欲しいなぁ」
懇願するように、上目遣いで彼女はそう言って来た。
愛称で呼んで欲しいという事か、それくらいはお安い御用だ。
「ああ、判ったよ。また会おうフラン、約束だ」
僕はフランの前で片膝を付いて目線を合わせ、彼女の目の前で右手の小指を立てた。
「うん! 約束だよ、お兄さん」
僕の小指に、フランの小さな小指が絡みつく。
その感触と、指切りをする僕たちの手を嬉しそうに見つめているフランの顔が、僕を何ともくすぐったい気分にさせた。
紅魔館の少女たちが帰った後、僕は霊夢と魔理沙にお年玉を渡し、霊夢の代わりに神社で忙しく働いていた叢雲に声を掛けてから帰宅した。
帰る時に魔理沙に渡すはずだったお年玉の半分を賽銭箱に投入するついでにおみくじを引いたのだが、結果は『大吉』だった。
まぁ、博麗神社のおみくじは元々大吉かハズレくらいしか入っていない為、僕の運が特別良かったという訳では無いだろうが、それでもハズレを引かなかっただけ幸先の良い気分になった。
結局、作り過ぎたおせちの消化は出来なかったな。神社で配ろうかとも思ったが、出店の営業妨害になりそうだったから、配るのを断念することになったし。
明日から知り合いに配り歩いて、少しでも減らしていくしかないかなぁ……。
その日の夜の事だった。
夢を見ている。と、僕は自覚していた。所謂『明晰夢』や『覚醒夢』と呼ばれる類のものだ。
去年にも似たようなことがあった。その時は、夢の中で魔導書に書かれていた邪神である『イゴーロナク』が襲い掛かって来た訳だが、今回は果たして……。
明るい、そして熱いと感じた。
その感覚がした方向に目を向けると、そこにはまるで太陽の如き巨大な火の玉が存在していた。
煮え立つように蠢く紅蓮の炎の球体、その表面からは時折プロミネンスの様な炎の触手とでも言うべきものが伸びている。
それを目にした瞬間、僕は直感した。この巨大な炎の塊は生きていると。
『生きている炎』、そのキーワードにより僕は、とある邪神の存在を思い出した。先日読破したばかりの魔導書『セラエノ断章』に描かれていた炎の邪神『クトゥグア』の存在を。
間違いない。目の前に存在するのは、フォーマルハウトに巣くう炎の邪神クトゥグアに違いない。
「ハハッ!」
思わず笑い声が漏れた。これが笑わずにいられるか。
イゴーロナクに逃げられてから、不完全燃焼気味で燻っていた狂気が一気に燃え上がる。
イゴーロナクよりも更に非生物的なクトゥグアだったが、それでも奴から感じる敵意や害意に肌が泡立つ。
素晴らしいな、最高だ! 初夢でこんなにも強大な敵と戦えるなんて、大吉を出していて良かった!
「ハハハハハハハハッ!!!」
もう我慢出来ないとばかりに、僕はクトゥグアへと襲い掛かった。
頼むからイゴーロナクの様に逃げないでくれよ、クトゥグア。僕を目一杯楽しませてくれ。
「おはようございます旦那様。おや? その人魂はどうされたのですか?」
『ふむ、炎の神性を感じるな。そんなもの、どっから拾って来たのじゃキース?』
「なに、ちょっと初夢でね」
その日から、僕は肩の辺りに赤い炎の人魂を連れ歩くようになった。
名前はクトゥグア。まぁ、見た目は光の精霊である『ウィル・オ・ウィスプ』の色違いの様な物なので、可愛い物である。
転生香霖は、『邪神クトゥグア』をゲットした!
イゴーロナクは転生香霖に何度もボコられて逃げ出しましたが、クトゥグアは逃げずに最後まで戦い、最終的に敗北して服従した感じです。
この作品内でのクトゥルフ系邪神たちは、語られている存在の規模に対して信仰がまるで足りていないので、現実世界で実体を持つことが出来ない程度の力しか持っていません。
ですが、今のクトゥグアは転生香霖の持つ『召喚術を操る程度の能力』によって顕現している為、神としての本来の性能を持って実体化しています。
Q、つまりクトゥグアってどうなったのさ?
A、転生香霖のスタンドになった。(ただし、周りの人から見えるし触れもする)