東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~   作:騎士シャムネコ

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今回は前後編です。


第三話 「転生香霖と完全で瀟洒なティータイム(前篇)」

 以前拾って来た外の世界の道具であるストーブがしゅんしゅんと音を立てている。

 このストーブは僕が前世の記憶を取り戻す前から愛用していた物で、前世基準で考えるとかなり旧式の物なのだが、これはこれで趣きがあるため気に入っている。

 幻想郷では灯油が容易には手に入らない為、以前は燃料の枯渇が大きな問題となっていたが、幸い今は前世のゲーム内で手に入れた原油を魔法で精製する事で賄えるため、向こう十年ほどは燃料問題で悩まずに済む。

 ……十年後のその後の事は、その時になってから考えよう。その時はその時で、暖房用のマジックアイテムでも作成すればいいさ。

 

 ―――カランカラン

 おや、誰か来たようだ。

 悲しい事に、この店に来る者はその大半が騒ぐだけ騒いで碌に買い物もしない様な連中ばかりだが、覚えのある気配から察するにどうやら今回は真っ当な客が来てくれたようだ。

 

「誰かいます?」

「いらっしゃいませ。ようこそ香霖堂へ、何かご入用かな?」

「ええ、丁度良いティーカップを探しているんだけど、ここに置いているかしら?」

 

 やって来たのはこの店の数少ないお得意様の一人であるメイド姿の少女、『十六夜咲夜』であった。

 

「あぁ、ティーカップね。それならいくつか在庫があったはずだ、どんなものを探しているんだい?」

「えぇそうね。ちょっと小さめで、可愛らしくて、白くて……。紅い液体でカップの白が引き立つような。それでいてそんなに重くなくて、一番重要なのは形なのだけど……それは見てから決めるわ。それを二組欲しいのだけど?」

「ふむ、複雑な注文だね? カップ類は纏めてこちらに置いてあるんだが、お気に召すものがあるかどうか……」

 

 予想外に細かな注文をされてしまった。

 古道具屋、言い換えればアンティークショップの店主である以上、目利きの鋭さを見せたい所ではあるが、生憎前世を含めて、芸術的な審美眼に関しては些か自身の無い僕である。

 こんな事なら前世で『審美眼スキル』を取得しておくべきだったか。まぁ、来世で古道具屋の店主になる事等欠片も予想していなかったのだから、無為な考えではあるが。

 

 気を取り直してカップ類を纏めて置いていた一角を見回すと、一つのアンティークケースを発見した。

 確かこのケースには、僕のお気に入りのティーカップが二組入っていたはずである。

 前世の僕の拠点である、召魔の森の城で使われていた物と似通ったデザインの為気に入った物だ。これなら自信を持ってお勧め出来そうだ。

 

「あったあった、これなら気に入って貰えると思……う?」

 

 言葉が途中で疑問形へと変わる。

 ケースを開けるとそこには、思い描いていたティーカップでは無く、無残な残骸へと成り果てた可哀そうな元ティーカップが存在していた。

 

「粉々じゃ無いか、何があった?」

「どうしたんですか?」

「あ、いや。実はね……」

 

 砕け散ってしまった元ティーカップを見せながら事情を説明しようとすると、途中でケースの中に一枚の和紙が入っている事に気が付いた。

 何だろうと思い手を伸ばしたのだ、が。僕が手に取るよりも先に横から伸びてきた手がひょいっとその紙を手に取ってしまった。

 

「!? 嘘、今能力を使ったはずなのに……」

「? どうしたんだい?」

 

 紙を手にした咲夜は、何故か僕を愕然とした表情で見つめながら、ぶつぶつと呟いている。

 一体どうしたんだ、急に。

 

「能力は確かに発動した、ならどうして動けたの? 能力の無効化? いいえ違う、無効化したというよりも、そもそも能力の影響を受けなかったかのような……」

「咲夜? 聞いているのかい、咲夜!」

「ッ!」

 

 聞こえていない様子の彼女の肩に手を変えながら大きな声で呼びかけると、咲夜はようやく僕が呼びかけている事に気付いたようだ。

 

「あ、えっと。店主さん……?」

「ようやく気が付いたか、急にどうしたんだい? 様子がおかしかったけど」

「いえ、その……店主さん、何かしましたか?」

「? いや、何もしていないし、急に様子がおかしくなったのは君の方だろう?」

「そう、ですか……」

 

 訳が分からないという表情で僕が返すと、咲夜は釈然としない様子ながらも気を取り直したようだった。

 

「すみません、失礼しました。もう大丈夫です」

「そうかい? ならいいが」

 

 一体どうして彼女がこの様に取り乱したのか、まるで見当がつかないが、余り掘り下げようとするのも迷惑だろう。

 何より彼女は、この店の貴重なお得意様の一人だ。彼女の気分を害するような行動はしたくない。

 

「それで、その紙は一体何なんだい? 何か文字が書かれているようだが」

「あ、えぇっと、これはですね……」

 

 咲夜は、僕が指摘して初めて手に持ったままの紙の存在を思い出したようだ。

 少し慌てた様子でそれを確認する彼女の姿を眺めつつ、内心で苦笑する。

 霊夢や魔理沙たち、僕が良く知る少女たちに比べて、咲夜は随分と落ち着いた大人びた少女だと思っていたが、こういったふとした拍子に年相応の可愛らしさを感じてしまう。

 その感想を口にしてしまえば、へそを曲げられてしまいそうでもあるから、あえて口には出さないけどね。

 

「えっと、これは魔理沙の字かしら? 『すまん』って書いてあるわね。どういう意味かしら?」

「ああうん、大体分かった」

 

 犯人が特定出来た、妥当過ぎて驚くに値しないほどである。

 しかし参ったな、お勧めしようとしていた商品が砕け散っているとは……。

 

「やれやれ、魔理沙には後できつくお灸を据えるとして、だ。咲夜、君はどうするんだい? ティーカップを買いに来たんだろう?」

「ああ、そう言えばそうでしたね……」

 

 おいおい、買い物に来た本人が当初の目的を忘れてどうする?

 と言いたかったが、先ほどの狼狽えようを見る限り、あの出来事は彼女にとって余程ショッキングな出来事だったのだろう。

 僕には何が何だかさっぱりなのだが。

 

「……うん、そうね。あなたの言う通り気に入ったわこのカップ。これを頂けるかしら?」

「良いのかい?」

 

 少し時間を置いて何時もの落ち着きを取り戻したかと思っていたが、まだ混乱しているのだろうか?

 それとも、わざわざこの哀れさすら感じる残骸に何かしらの価値を見出したのだろうか?

 

「ええ、可愛いし、紅いお茶にも映えそうだし。お嬢様の注文にぴったりだわ」

 

 砕けた器の諸行無常に可愛らしさを見出すのが、彼女のトレンドなのだろうか?

 

 

 

 ―――カランカランカラッ!

 

「ちょっと! 咲夜、居るんでしょ?」

 

 咲夜の美意識について首を傾げていると、いつもの騒がしいのがやって来た。

 間違ってもお得意様とも常連客とも呼べない、紅白の少女だ。

 

「あら、霊夢じゃない。いつ神社に戻って来たの? それにお嬢様まで……」

「戻って来たの? じゃないでしょ! 人が居ないと思って神社に勝手に上がり込んで! おまけにこいつを置いて行かれたら、何されるか判ったもんじゃない」

「何もしてないわよ。神社に丁度良いカップも無かったし、ティータイムにもならなかったわ」

「勝手に上がり込んでお茶もへったくれも無いでしょ!」

 

 霊夢、君も人の事を言えないと思うのだが?

 日頃の自身の行いを棚に上げて怒りをあらわにする霊夢の隣には、蝙蝠の様な翼を持つ小さな少女が立っていた。

 彼女の名は『レミリア・スカーレット』。咲夜が仕える主人であり、以前にも語った『紅霧異変』を起こした張本人でもある吸血鬼の御令嬢である。

 

「散歩中でも、お茶の時間は必須なの。当然素敵なカップでね」

「レミリア。大体、何であんた昼間にうろちょろしてんのよ。吸血鬼のくせに。棺桶にでも入ってればいいでしょ?」

「私だって日光浴見くらいはするわ。ちなみに棺桶は死人が入る物。あなたは何か勘違いをしているわ」

 

 日光浴見とは、日光浴をしている人を鑑賞する事らしい。初めて聞いたよ。

 

 しかし吸血鬼か。僕の前世の従者にも、吸血鬼は二体ほどいた。

 一人は女性の吸血鬼で名前を『テロメア』、もう一人は男性の吸血鬼で名前を『ヘイフリック』と名付けた。

 二人はレベルアップとクラスチェンジを繰り返した結果、真祖に近い吸血鬼となり日光に対する耐性すら獲得していたが、この世界の吸血鬼はどうなのだろうな?

 まぁ、ゲームのモンスターの性能と現実の妖怪の能力の比べ合いなんて、不毛な事なのかもしれないが。

 

 僕が考え事をしている間にも霊夢とレミリアは言い争いを続けている。

 言い争っているというよりは、霊夢が食って掛かり、レミリアがそれを飄々と受け流していると言った感じだが。

 いい加減止めようかと声を掛けようとすると、ぴしっと不自然なくらい唐突に二人の声が聞こえなくなり、見れば霊夢とレミリアの二人はまるで彫像にでもなったかのように微動だにしていなかった。

 

「これは、一体?」

「―――やっぱり、店主さんは止まらないんですね」

 

 声の方向に振り返ると、そこにはいつの間にか懐中時計を手にした咲夜の姿があった。

 僕は止まらない。そう口にしたという事は、この不可解な現象は彼女が起こしたと見て間違いないだろう。

 一体何をしたと言うのか。

 

「ねぇ店主さん、少しお話をしませんか? お嬢様と霊夢は抜きで、二人っきりで」

 

 二人には聞かせられないという事だろうか?

 何にせよ、彼女が僕のことを酷く警戒しているという事は分かる。

 必死に隠そうとしているが、僕には彼女が僕の事を強く恐れている事が感じられた。

 

「……話、ね。ああいいとも、じっくり話し合おうじゃないか、何か行き違いがあるように感じられるしね?」

 

 彼女は何故か僕の事を危険視しているようだが、僕には彼女を害する意図など毛ほども無い。

 きちんと話し合って、その事を理解して貰う事に努めるとしよう。何より、訳も分からないままお得意様を失うのは嫌だからね。

 しかし、こういった話し合いは前世含めて苦手だった様な気がするが……。

 

 ま、まぁ、きっと何とかなるさ。多分。

 





咲夜「停止した時間の中を動ける、ですって!?」



はい、と言う訳で転生香霖のチートっぷりを最初に味わう事になったのは咲夜さんでした。
何故霖之助に時間停止が効かなかったかですが、これはサモナーさんの持つとあるスキルの拡大解釈によるもので、次回説明する予定です。

一応言っておきますが「俺が時を止めた、そして脱出出来た」と言う訳ではありませんよ? www
流石のサモナーさんも、時間停止は出来ませんからね(加速と減速くらいなら出来そうですけど)
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