東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~ 作:騎士シャムネコ
最近気付いた事だが、どうやらアイテムボックスの中身と容量が増えているらしい。
先日の事だが、無縁塚でアイテム収拾をしていた時に、一冊の外来本を拾った。
その本と言うのが料理雑誌で、内容がカレー特集だった為、僕は無性にカレーが食べたくなった。
だが、僕の店にも、普段使っているアイテムボックスの中にもカレーの材料は無かった為、もう一つのアイテムボックスの中から材料を呼び出そうとしたのだ。
ゲーム時代、僕は二つのアイテムボックスを手に入れた。
一つは僕自身が携帯し、もう一つは拠点に召喚モンスターを配置する呪文『ポータルガード』で召魔の森に配置したモンスターたちが集めたアイテムを保管する為に、召魔の森に置きっぱなしにしていた。
召魔の森に置きっぱなしにしていた方には、召魔の森で採れた作物なども保管されている為、そこから材料を呼び出そうとしたのだ。
そうして呼び出せる材料の量を確認して見ると、明らかにゲーム時代の限界量以上のアイテムが保管されていて驚いた。
どうやら、転生した際にアイテムボックスの保管量の限界が無くなっていたようで、僕が転生してからの数百年の間、配下のモンスターたちは収集したアイテムをずっと、アイテムボックスの中に回収し続けてくれていたようだ。
その量は膨大で、僕一人じゃ一生かかっても使いきれない様な有様だったが、まぁ消費しきれるかどうかは置いておいて、僕は配下達に感謝しながら材料を呼び出してカレーを作った。
作ったカレーの量はとにかく沢山。
甘口、中辛、激辛、インド風、ビーフ、ポーク、チキン、シーフード。
様々な種類の物を学校給食でも作っているのかと言われそうなくらい、沢山作った。
アイテムボックスの中に入れておけば腐る事は無い以上、作りたくなった時に沢山作って、食べたくなった時にいつでも食べられるようにしておくのが良いと判断した上での行動だ。
決して、作っているのが楽しくなって作り過ぎてしまっている訳では無い。
それに……最近は、料理を予め大量に作っておいた方が良い事情がある。
―――カランカラン
「こんにちわぁ」
「こんにちは、霖之助さん」
ドアベルが鳴り、聞き慣れた少女の声と、最近よく聞くようになった少女の声が聞こえて来た。
その声を聞いて、僕は少しばかり頭を抱えたい気分になった。 ……主に最近よく聞くようになった声のせいで。
「……いらっしゃい。紫、幽々子。今日は何をお探しで? って、聞きたいところだけど……」
「今日もお昼ご飯を御馳走になりに来ました。代金はきちんと払うから、お願いね?」
「いつもごめんなさいね、霖之助さん。けど、幽々子ったらどうしても霖之助さんの料理が食べたいって聞かなくって」
「……まぁ、僕の料理が求められているのは嬉しいんだけどね」
店にやって来たのは、申し訳なさそうな様子の紫と、「今日のお昼は何かしら?」なんてマイペースに呟いている幽々子だった。
この二人は、最近は数日おきに連れ立って店を訪れ、僕の作った料理を食べて行く。
一体いつから香霖堂は食事処になったのか? と言われかねない有様だが、二人共食事の後は必ず買い物をしてくれるし、食事の代金もきちんと払ってくれる。
特に幽々子は毎回食べて行く量が膨大な為、幽々子の食事代による収入はかなり多く、その上毎度毎度本当に美味しそうに食べてくれるため、結局断れずに食事を提供し続けてしまっているのだ。
「とりあえず座ってくれ。今日はカレーにしようと思っていたんだが、味は甘口、中辛、激辛、インド風。種類はビーフ、ポーク、チキン、シーフードで用意してあるけどどれが良い?」
「じゃあ、私は甘口のビーフカレーでお願い」
「私は全部でお願いするわぁ」
紫が甘口のビーフで、幽々子が全部っと。
幽々子の注文に苦笑してしまうが、まぁどれか一つを集中的に食べられるよりはマシか。
下手したら、追加で更に作ることになってしまうかもしれないからな。
「了解っと。トッピングは福神漬けの他にチーズやトンカツなんかも用意出来るが、要るかい?」
「なら、私は福神漬けだけ貰おうかしら」
「私はこっちも全部でお願いね」
「毎度あり」
いっそ清々しいほど幽々子の態度は一貫しているな。
まぁ、二人はこの店にとって貴重なお得意様だ。しっかりもてなそうじゃないか。
僕は『アポーツ』で手元に呼びよせたコップ二つを二人の前に置き、水を生成する『リキッド・ウォーター』で水を注ぎ、氷の礫を生成する『フリーズ・バレット』で氷を入れた。
コップと同様に、カレー皿と炊いた米の入ったお櫃、カレーの入った鍋と福神漬けの入った壺やトンカツの乗った皿とチーズを入れた容器を呼び出せば準備はほぼ完了だ。
後はスプーンとお玉、しゃもじを呼び出して、カレーを盛り付ければ配膳は完了。この間約三十秒ほどである。
「わぁ、美味しそう」
「いつ見ても手馴れているわねぇ」
「なにせ、普段から良く食事をたかりに来る娘たちが居るからね」
手慣れている、と評した紫にそう返す。思い浮かべたのはいつもの紅白巫女と白黒魔法使いの姿だ。
「……毎度幽々子を連れて来ている私の言えたことじゃないけど、霖之助さんも大変ね」
「私は一人でも来れるのだけど?」
「それじゃあ心配だからいつも連れて来ているのよ。放っておいたら、お昼どころかここに住み込んで毎日三食霖之助さんに作って貰おうとしそうだもの」
「あら、それ良いわね! 霖之助さん、お願い出来るかしら?」
「はっはっは。駄目だよ」
「ぷぅ」
そんな風に可愛く口を尖らせても、駄目なものは駄目だ。うちは旅館でもホテルでも無く古道具屋なんだから。
こうして食事を出しているのは、店のお得意様に対するサービスだ。
「まぁなんにせよ、冷めないうちに食べてくれ。何せこのカレーの材料は全て召魔の森産の物だ。どんな高級食材にも負けない物だと自負して―――」
―――カランカランッ
「こんにちは、霖之助さん」
「おーい香霖、来たぞー」
「こんにちは。あの、幽々子様がこちらに来てませんか?」
おや、急に人が増えたな。扉を開けて入って来たのは霊夢、魔理沙、妖夢の三人だった。
三人ともこの店にはよく来るが、三人一緒にと言うのは少し珍しい。まぁ、店の前か店に来る途中で行き会ったとかだろうが。
「いらっしゃい、三人とも。幽々子なら来ているよ」
「あ、居た。幽々子様! また霖之助さんにご迷惑を掛けているんですか?」
「あら妖夢、人聞きが悪いわね。迷惑なんてかけていないわよ。代金だってちゃんと払っているのだし」
「……まぁ実際、幽々子の食事代は結構な収入になっているけどね」
それでも古道具屋であるうちに毎度毎度食事メインで来ている事に思う所が無い訳じゃないが、まぁなんだかんだ僕自身も幽々子が来るのに備えて、大量の料理を作るのを楽しんでいる。
妖夢にはそう説明しておこう。
「あら、紫までいたの。なんだか美味しそうなもの食べているわね。霖之助さん、私にも頂戴?」
「あ、私も私も! 紫や幽々子にだけこんな美味そうな物を出すなんてズルいぜ!」
「ズルくない。紫も幽々子もきちんと食事の代金を払っているからね。妖夢の分くらいならサービスで出しても良いが」
「え? 良いんですか?」
「食事だけでなく、幽々子は店できちんと買い物もしてくれるからね。幽々子の従者である君の分ならサービスで出すよ」
「あら霖之助さん、主人である私へのサービスは無いの?」
「そもそも君が満足する量の料理を、古道具屋である僕が用意していること自体がサービスなんだが?」
「ふふ、そうよねぇ。幽々子の食事を用意するのは私でも大変だもの。それを食事処と言う訳でも無いのに毎回用意してくれているんだから、これ以上のサービスは無いわよねぇ」
僕の物言いがツボにでも入ったのか、紫はお腹を押さえて笑っている。
笑われた方の幽々子は、軽く頬を膨らませてプイッとそっぽを向いてしまったが、それほど怒っているようには見えない。
随分長い付き合いの友人同士であるらしいし、お互いに対する気安さが感じられた。
「それで、結局私たちはそのカレーは食べさせてもらえないの?」
「えぇー、食わせてくれよ香霖!」
「うーん、普段なら別に構わなかったんだが、代金を払ってくれている二人の前で、同じ物を出すのはなぁ」
いつもなら昼食ぐらい出しても構わなかったんだが、いつもツケばかりの霊夢と魔理沙に、きちんと代金を払っている紫や幽々子と同じ物を出すのは憚られる。
おにぎりくらいなら直ぐ出せるが、かと言ってカレーを食べている横でおにぎりをもそもそ食べさせるのも可哀そうだしなぁ。
「しょうがないわね。じゃあお勝手にある物を使って自分で作るわ。行きましょう魔理沙」
「おう、そうだな」
「待て待て待て、蛮族か君たちは。判った判った、カレーは食べさせてやる。けど、一つだけ条件がある」
「条件?」
店の奥に入り込もうとした霊夢と魔理沙の襟首を掴んで引き留める。
まったく、ご飯を貰えないからって、人んちの食材と台所を使って料理を作ろうとするなんて、発想が斜め上過ぎるぞ。
「そう、条件だ。みんなが食べ終わった後の食器、それを洗うのを手伝ってくれるなら、カレーを食べる事を許可しよう」
「いや、みんなって言うかそれ、主に幽々子が食べた食器だろ? あれを全部洗うのか……」
遠い眼をしてそう言う魔理沙。おそらく宴会の時、幽々子が積み上げた大量の食器でも思い出しているのだろう。
あれを思えばかなり厳しい条件だが、代金を払っていない二人にも食べさせるなら、これ位の条件は付けなくっちゃなぁ。
「嫌なら別に構わないぞ。ただし、その時は具の無い塩むすびしか出さん」
「……私はやるわ。魔理沙は塩むすびにする?」
「ちょ、私もやるから! 具無しの塩むすびは止めてくれ!」
「よろしい。では、好きなのを選んで盛り付けると良い」
アイテムボックスから複数のカレー鍋と食器を呼び出し、先に呼び出しておいたカレー鍋やお櫃を『テレキネシス』で浮かび上がらせる。
バイキングスタイルみたいなものだ。と言うか、紫や幽々子に出す時も始めからこうすれば良かったな。
ついでに周囲の空気をコントロールする呪文『エアカレント・コントロール』も使っておこう。店の中がカレー臭くなってはかなわんからな。
浮かび上がった食器の中から大きな皿を取った霊夢と魔理沙は、これまた限界ギリギリを責める様にご飯とカレーを超大盛りでよそっていた。妖夢は二人の後から遠慮がちに普通盛りだった。
ついでに僕の分も自分でよそっておこう。もちろん大盛りで。
「皆に行き渡ったみたいだね? それじゃあ改めて、いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
僕に後に続いて、五人が声を揃える。
ずいぶんと賑やかな昼食になったが、こういうのも悪くない。
と、それで終われば良かったのだが、事件は起きた。
事件と言うか、魔理沙の自業自得だったのだが。
「……っ! ……ッ!?」
魔理沙が悶絶しながらのた打ち回っている。原因は、僕が食べていたインド風カレー(超激辛)だ。
日本で普段食べられているカレーと違い、大量のスパイスを使用し、小麦粉を使ってとろみを出さないインド風カレーは、他のカレーとは見た目がかなり違う。
その事で興味を示した魔理沙が、僕が止めるのも間に合わず、僕が食べていた物をスプーンで一掬い食べた結果、予想以上の辛さでこうして苦しんでいると言う訳だ。
魔理沙はコップの水を必死に飲んで辛味を押し流そうとしているが、それは悪手だ。辛味と言うものは、水を飲むとより強調されてしまう。
こういう時は牛乳とかの方が良いんだが、アイテムボックスの中に在庫があったかな? いや、そうだあれがあった!
僕は新しいコップと、目的の物が入った容器を呼び出して、その中身をコップに注いだ。
「魔理沙、これを飲みなさい。楽になる」
「…! ごくごくごく、ぷはぁー! た、助かったぜ……」
魔理沙が息を吐くのと同時に、周囲に果物のような甘い香りが漂う。
魔理沙に飲ませたのは、山羊型のモンスターである『アマルテイア』から採れるミルク、『豊穣の乳』だ。
本来は生産量が限られるかなり貴重なものだが、数百年分の蓄積で在庫はたっぷりある。
それにこのミルクは、ギリシャ神話においてゼウスがこの乳を飲んで育ったとされる物で、ゲームのアイテムとしての効果は『経験値取得効率向上』だ。育ち盛りの魔理沙にはぴったりの物である。
魔理沙は豊穣の乳の味が気に入ったのか、ゴクゴクと飲み干した後お代わりを要求して来た。
「あら、美味しそうな匂いね。霖之助さん、私も同じ物を頂けるかしら?」
「ああ、構わないよ。沢山あるから、みんなも遠慮せず飲むと良い」
全員に振舞った豊穣の乳の味は大好評だったが、紫だけは飲み干した後に「美味しいけど、またとんでもない物を……」と、呟いていた。
どうやら紫だけは、豊穣の乳の事を知っているようだった。僕の記憶を覗いた時に知ったのだろう。
そうだ、これからは霊夢や魔理沙、妖夢に咲夜の分も豊穣の乳を毎朝届けると言うのはどうだろう?
妖夢は半分幽霊だが、人間である彼女たちは今が育ち盛りだ。豊穣の乳の効果はきっと役に立ってくれるだろう。
その事を紫に相談すると、紫はかなり長い間悩んだ後「橙の分もお願いするわ」と言って許可してくれた。
子供たちの健やかな成長を願う気持ちは、人間も妖怪も半妖も変わらないのだ。
深夜にこの話を書いていたら、お腹が減り過ぎて途中でダウンしてこんな時間の投稿になりました。
けど、一晩寝たらカレー食いたいって言う気持ちが引いて来ちゃったんですよねぇ。
なんで私に気持ち良くカレーを食わせないんだ! (トーマス並感)
そして転生香霖がアマルテイアミルクのデリバリーを開始しましたw
神々の王を育てた食べ物を毎日食べられるようになった訳ですから、自機組は将来有望ですねぇ(白目)