東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~ 作:騎士シャムネコ
でもやっぱり続きが気になる終わりなんじゃぁぁぁ!!
―――カランカラン
「こんにちはー。霖之助さん、居る?」
その日店を訪れたのはアリスだった。
異変終結の日に素材を売って以来会っていなかった為、少し久し振りに感じる。
そう言えば、神社の宴会にも来ていないみたいだったが、体調でも崩していたのだろうか?
「いらっしゃい、アリス。今日は何をお探しかな?」
「お探しと言うか、ちょっと霖之助さんに相談があって……」
アリスにカウンター前の席を勧めると、彼女はそこにちょこんと座ってから相談の内容を話してくれた。
どうやら以前彼女に売った素材だが、その加工や利用に難航しているらしい。
有用な素材だと彼女自身も理解しているが、それを利用出来る段階までは至れていないので、僕から色々話を聞きたいのだそうだ。
「それなら丁度良い。実はこれから紅魔館で僕の持つ素材の説明や利用法の実演をする予定なんだが、アリスも来ないか?」
「紅魔館と言うとパチュリーの所? 彼女にも素材を売っていたの?」
「まぁそんなところだね」
正確には、魔理沙が盗んだ魔導書のお詫びとして渡したのだが、追加で欲しいと言われればその時は普通に販売するつもりだし、些末な事だろう。
「咲夜からの依頼で、咲夜の使う装備の製作を僕とパチュリーの共同で行う事になっているんだよ。実際に素材がどんなふうに使われているか、どんなふうに加工されているかを見た方が参考になるだろう。一緒に来ないか?」
「ええ、そう言う事なら是非ご一緒させて貰いたいけど……私が行ったら迷惑にならないかしら?」
まぁ技術流出の事を危惧するならそうなのだろうが、今日はあくまで僕がそれぞれの素材の特徴や加工方法を説明するだけで、本格的に共同開発を開始するのは次回からだ。
今日に限っては彼女が居ても問題無い。
とは言え、パチュリーがOKを出すかが判らないな。
「そうだね。本格的に共同開発を始めるのは次回からだから、今日参加する分には大丈夫だと思うが……パチュリーに確認の手紙を出すとするか」
「今から書いて出すの? 返事が帰って来るまでに時間が掛かり過ぎるんじゃ……」
「なぁに、直ぐだよ。 ……そう言えば、この機能についてはまだ説明していなかったね」
僕は手元に呼び出した紙にパチュリー宛の手紙を書きながら、倉庫で整理を行っているクトゥグアを念話で呼び出した。
『戻りました、主よ。如何なる御用で?』
「来たか。早速だがこの手紙をパチュリーのランプに送ってくれ」
『承知しました』
書き上がった手紙を店の奥から出て来たクトゥグアに向けて放る。
その手紙をクトゥグアは伸ばした触手で掴むと、そのまま身の内に取り込んだ。
「よし、これで手紙がパチュリーに渡してあるランプに届いたはずだ」
「ランプに?」
「ああ、最近クトゥグアの眷属である炎の精たちが出来る様になった小技でね。ランプ同士の間で手紙やちょっとした荷物なんかの受け渡しが出来る様になったんだよ」
僕がそう説明すると、アリスは腰に付けた炎の精のランプに手で触れた。
春雪異変、そう名付けられた冬が終わらない異変の際、僕は炎の邪神であるクトゥグアの眷属である炎の精を宿したランプ、『炎の精のランプ』を暖房器具として叢雲経由で人里の人々に配ったり、アリスを始め親しい者達に人里で配った物よりも素材にこだわった特別製を手渡したりしていた。
人里で配る際、叢雲はこのランプを人里で信仰されている僕のドラゴンとしての姿である『白銀竜』の配下となった炎の神の眷属が宿るありがたい道具、として広めたそうで、その結果クトゥグアも人里で信仰されるようになり、眷属である炎の精たちも力を増す事となった。
そうして力を増した炎の精たちが新たに出来る様になった技能と言うのが、炎の精同士での物品の転送だったと言う訳だ。
今回僕は、それを利用してクトゥグアからパチュリーに渡したランプの炎の精の元に、手紙を転送して貰ったのだ。
その事を説明すると、アリスは得心が行ったとばかりに頷いていた。
「なるほどね。便利なランプだし、普段から重宝していたけど、そんなことまで出来たのね」
「正確には最近出来る様になった、だけどね。人里にはこの機能の事を叢雲に伝えて貰ったから、次第に広まっていくだろうね。叢雲の話だと、もう既にランプを持つ者同士での手紙のやり取りが流行り出しているらしいし」
「もう単なる暖房器具に収まらないわね、元々そうだったけど。こんな物を広めちゃって大丈夫なのかしら?」
「多分大丈夫だろう。人里に広める前に、紫に確認をして貰っているしね」
「紫に、ねぇ……」
紫の名前を僕が出すと、アリスは疑るような視線を向けて来た。
はて、癒着しているとでも思われたかな? まぁ似たような状態だけど。
「霖之助さんって、八雲紫と仲が良いわよね? 一体どんな関係なのかしら?」
「僕と紫がどんな関係であるか。それを一言で表すのは難しいね。彼女は僕に取って、友人であり、お得意様であり、協力者であり、相談相手であり……頼もしい相手であるし、頼って欲しい相手でもある。ってところかな。まぁ、僕にとって大切な相手であると認識してくれれば良いよ」
「お、おぅ。そう、なの……まさか真顔で大切な相手とまで言い切るとは思わなかったわ」
頬を紅くしながら、アリスはそんな事を呟いていた。
うん、素直な気持ちを吐露したつもりだが、かなり恥ずかしい事を言っていたな、僕。
後から押し寄せて来た気恥ずかしさに苦笑しながら頬を掻いていると、クトゥグアがパチュリーからの返信の手紙が届いた事を伝えて来た。
『主よ。返信の手紙が届きました』
「お、そうか。どれどれ」
クトゥグアから受け取った手紙を広げて見ると、パチュリーからの手紙にはアリスの同行を許可する旨が書かれていた。
「アリス、パチュリーからの許可が出たよ。行く前に何か準備したいものはあるかい?」
「私はこのままで大丈夫よ、霖之助さん」
「なら、早速出発しよう。クトゥグア、店番を頼んだよ」
『了解。行ってらっしゃいませ、我が主』
アリスに確認を取ると、僕はクトゥグアに店番を任せて店を出た。
僕の準備は既に済んでいる。必要なものはアイテムボックス内から呼び出せば良いだけだからね。
店を出てアリスと共にしばらく歩き、森を抜けたところで紅魔館が見えて来た。
相変わらず紅い、周囲の森や霧の湖が目に入らなくなるほど紅い。自己主張の激しい建物だ。
館の外観だけでなく、門から館へ至る道や館の内装まで紅い為、慣れていないと目が痛くなる。
レミリアの趣味なんだろうが、もう少し他の色を使っても使っても良いんじゃないか? と思う事も多々ある。
まぁ、館の主人はレミリアなのだから、僕が口出しするようなことじゃないが。
「相変わらず紅いわねぇ。もう慣れちゃったけど」
「慣れた。と言うと、アリスは良くここを訪れているのかい?」
「ええ、大図書館の本目当てでね。パチュリーとはお茶をしながら魔法について議論をする事も多いわ」
「なるほど、パチュリーの手紙にアリスなら歓迎すると書いてあったのは、元々交流があったからか」
元から意見交換をする事もあったアリスだからこそ、パチュリーもあっさり許可を出したのだろう。
これが魔理沙辺りであれば、にべもなく断られるか、盗んだ魔導書を全て持ってくるようにと書かれていただろう。
むすっとした顔で手紙を書き殴るパチュリーの姿を想像して少し笑ってしまい、アリスから不審そうな目で見られたのはちょっと失敗だったな。
アリスと共に紅魔館の前まで近づくと、門の近くがなにやら騒がしい。
はて、また魔理沙が盗みに入ったとかでは無いようだが、なんだろうか?
「やぁっ!」
「ぐっ! ……ま、参りました」
「ふぅ……よし、次!」
「はいっ、お願いします!」
見ると、人里の住人であろう人間の男たちと美鈴が組み手を行っていた。
そう言えば、美鈴は良く人里の住人から腕試しを挑まれているという話を前に聞いた事があったな。
以前小耳に挟んだ話を思い出していると、僕とアリスの姿に気付いた美鈴が、相手をしていた男を適当に投げ飛ばしてからこちらに手を振って来た。
一見雑な扱いだが、投げた相手が怪我をしないように調整されている。
それを自然に行えている辺り、彼女の徒手格闘の実力の高さが伺えた。
うむ、ちょっと対戦してみたいな!
まぁ今日は別の用事で来ているし、何となく事故が起きそうだからやらないが。
それはそうと、美鈴に手を振り返しておこう。
「こんにちは、霖之助さん、アリスさん。ようこそ紅魔館へ、パチュリー様から話は聞いてますので、どうぞお通り下さい」
「こんにちは、美鈴。楽しそうな事をしているね、僕も混ぜて貰いたいくらい」
「こんにちは、美鈴。って、霖之助さん。あなた格闘技なんてやるの?」
「ああ、もちろん。これでも結構得意な方なんだよ?」
「やっぱりそうでしたか!」
僕がアリスの質問に答えると、美鈴が僕の手を掴みながらキラキラした目で見つめて来た。
「以前から立ち振る舞いを見て、霖之助さんはかなりの実力者だと思っていたんですよ! 宜しければ今度手合わせして頂けませんか?」
「ああ、良いよ」
「即答なのね」
食い気味、とはいかないまでも間髪入れずに答えた僕にアリスが呆れたように呟いた。
もちろん即答だとも。まともな格闘戦が出来る機会なんて久しぶりの事だからね。
鬼たちが地上に居た頃は相手に事欠かなかったんだが、今だと地下ダンジョンの底でレッドオーガ相手に暴れるくらいしか出来ないからなぁ。
そもそもレッドオーガにしろ鬼たちにしろ、まともな武術なんて使えなかったし、格闘家の対戦相手が見つかったのは僥倖と言えるだろう。
「ともかく、今日はパチュリーに用があるから、この辺で失礼するよ。美鈴、またね」
「私も失礼するわ。頑張ってね、美鈴」
「はい、霖之助さん。また機会があればお願いします! アリスさんも、パチュリー様をよろしくお願いします」
美鈴と別れ、僕たちは門をくぐって館の玄関まで歩いて行く。玄関の前に着くと、咲夜が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、霖之助さん、アリス。今日はよろしくお願いしますね」
「こんにちは、咲夜。これ、お土産のお菓子だから後でみんなで食べてくれ」
「こんにちは、咲夜。私は付き添いと言うか見学で来たのだけれど、ともかくよろしくね」
「はい、ありがとうございます霖之助さん。パチュリー様がお待ちですので、二人ともどうぞこちらに」
挨拶と一緒に、お土産に作って来たお菓子の入った籠をアイテムボックスから呼び出して咲夜に渡す。
中身は召魔の森で採れた、様々な果物を使ったタルトだ。
味は例の如く、最高の物であると自負している。どうにも召魔の森産の食材を使うと、気合が入り過ぎてしまうのだ。
そのせいでまたアイテムボックス内にストックされているお菓子が増えたが、まぁ大体は幽々子の胃袋に消えてくれる事だろう。最近作り過ぎた料理やお菓子を『幽々子ストック』と呼んでいるのは内緒だ。
幽々子が食べるから料理を沢山作っているのか、幽々子が食べてくれるから加減せずに料理を沢山作っているのか。果たしてどっちなんだろうな? きっと両方なのだろう。
咲夜に案内され、紅魔館の長い廊下を歩き続けてようやくパチュリーの居る大図書館へと辿り着いた。
扉を開いて中に入ると、幻想郷最大と言って良いであろう蔵書量を誇る沢山の本棚たちが姿を現す。
僕も個人的に読書が好きだし、幻想郷中を見ても人一倍多く本を持っていると自負しているが、流石にこの大図書館と比べれば雲泥の差だ。
今回は仕事で訪れた訳だが、仕事など関係無く長居してしまいたくなるな、これは。
今なら魔理沙の気持ちも、少しだけ判る気がする。かと言って、大切なお客様から何かを盗もうだなんて思わないが。
「パチュリー様、お客様方をお連れ致しました」
「ありがとう咲夜。後はこっちで対応するから、お茶を淹れて来てくれる?」
「はい、かしこまりました」
お茶の用意の為に咲夜が退室して行く。
その姿を見送ってから、改めて僕とアリスはパチュリーに向き合った。
「こんにちは、パチュリー。今日はよろしく頼むよ」
「こんにちは、パチュリー。突然の申し出なのに、同席を許してくれて感謝するわ」
「いらっしゃい、霖之助、アリス。依頼を受けて頂いて感謝するわ。それからアリス、あなたたちならいつでも大歓迎だから、気軽に来てくれて構わないわよ」
パチュリーはアリスに薄く微笑みながらそう告げた。
パチュリーからここまで言われるとは、アリスはやはりパチュリーから好ましく思われているようだ。
それに引き換え魔理沙ときたら……はぁ、何だか本当に申し訳ない。
「立ち話もなんだし、二人ともこっちに座って。咲夜がお茶を淹れて来るまでの間に、軽くお話でもしましょうか」
そう言ってパチュリーが席を勧めて来たので、僕とアリスは腰を下ろし、咲夜が戻って来るまで僕らは軽く世間話をした。
世間話と言っても、話す内容は最近の自分の研究や手に入れたマジックアイテムの話などが主だったが。
話に上がった中で、特に興味を持たれたのは僕が無縁塚で定期的に拾って来るクトゥルフ神話関連の魔導書の存在だった。
アリスもパチュリーも読んでみたいと言って来たが、正直お勧め出来ない。
あれらは読んでいるだけで正気が削られる呪われたアイテムの類だ。僕の場合は全耐性スキルで防御出来ているが、二人の場合はどうなるか判らない。
一先ず精神防御用のマジックアイテムを共同で作成するまでお預け、という事で決着が着いた辺りで咲夜が戻って来た。
お茶菓子には僕が持って来た果物のタルトが出され、味の方は大好評だった。
また次回も作って来て欲しいと言われたので、次回は同じ物と、それとは別にまた新しいお菓子を用意しようと思う。
結局その日はお茶やお菓子を楽しみながら、僕がゲーム時代の素材の特性や利用方法を説明するだけで終わったが、次回以降もアリスが共同開発の依頼に参加する事が決定した。
ゲーム産のアイテムの利用方法を実地で学びたいと言うのもあるだろうが、どうも僕が作って来るお菓子も目的の一つの様である。
女の子はお菓子が大好きだ。これは全世界共通の様である。
転生香霖のライフワークに魔女たちとの共同開発+お茶会が追加されました。
美鈴との対戦も近い内に追加されるかな? 事故が起きそうだけどw