東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~   作:騎士シャムネコ

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第三十五話 「転生香霖と萃夢想」

「霖之助さん! 今夜異変解決のお祝いの宴会をするから、お酒と料理をお願いね?」

「……はい?」

 

 古馴染みである萃香と再会した数日後。いつもの様に唐突にやって来た霊夢は、開口一番そう言い放って来た。

 え、異変? あったの?? いつの間に???

 

 頭の中が疑問符で埋め尽くされるが、霊夢が嘘を言う訳も無いし、異変があったのは事実なのだろう。僕が気付いていなかっただけで。

 とりあえず、どんな異変だったのかだけでも聞いておくか。

 

「異変なんて起こっていたのかい? 気付かなかったよ。一体どんな異変だったんだ?」

「ここの所、何度も何度も宴会が開かれていたでしょう? あれが異変だったのよ。ていうか、霖之助さんは気付かなかったの? あんなに妖気や妖霧が幻想郷中に広がっていたのに」

 

 妖気や妖霧、だって? あれは萃香が自分を拡散させていた物だったから特に気にしていなかったが……もしかして異変の犯人は萃香だったのか?

 

「……霊夢。その異変の犯人って、もしかして鬼の伊吹萃香だったのか?」

「ええ、そうよ。何よ霖之助さん、あいつと知り合いだったの?」

「ああ、まぁね」

 

 何をやっているんだあいつは。

 久しぶりに地上に顔を出したと思ったら、まさか異変まで起こしているとは。ある意味鬼らしい傍迷惑さだが、古馴染みとしては頭の痛いものがある。

 ついこの間会ったばかりの古馴染みが異変を起こしていたとは……全く持って申し訳ない限りだ。

 

「……悪かったね霊夢、あいつが迷惑を掛けて」

「別に霖之助さんが謝る事じゃないでしょ、やったのは萃香なんだから」

「まぁそうだけどね。 ……だが、あいつとは数日前に会っていたから、その時あいつが異変を起こしている事に、僕が気付いていたらと思うとね」

「確かにそうかもだけど……萃香がやった事って、宴会を開く様に誘導し続けたことくらいで、別に変な悪さをしていた訳じゃないから、霖之助さんが気付かなかったのも仕方ないわよ」

「そうなのかい? あいつ、というか鬼って連中は生まれつきのトラブルメーカーみたいな連中だから、もっと色々悪さしているかもと思ったけど……」

「うーん。まぁ本人は鬼を忘れた今の幻想郷で暴れ回って、自分たち鬼の存在を思い出させてやる。みたいなことも考えてたみたいだけど」

「あんのチビ鬼ぃ……!」

 

 やっぱり暴れようとしてたんじゃねぇか! これはちょっと話を付けに行かなきゃじゃねぇのか?

 

「……霊夢、当然今夜の宴会には萃香も参加するんだよな?」

「え、ええ、そうだけど……霖之助さん、怒ってる?」

「あぁん? 別にお前には怒ってねぇよ」

「喋り方が荒っぽくなってる……!」

「おっと」

 

 いかんいかん。萃香の奴をどうしてくれようかと考えていたら、ついつい喋り方が昔の元に戻ってしまった。

 粗野な喋り方は霊夢たちにはあまり聞かせたくないんだがなぁ。教育に悪いし。

 これも全て萃香のせいだ。どうしてくれようか?

 

「―――とにかく、今夜の宴会に酒と料理を用意すれば良いんだろう? 任せておきなさい」

「だ、大丈夫なの? 霖之助さん、顔は笑っているけど目が笑ってないわよ」

「大丈夫大丈夫。これから大丈夫じゃなくなるのは萃香だけだからな。ハハハ」

「うわぁ……」

 

 そんなに引かなくても良いじゃないか。別に霊夢をどうこうしようって言う訳じゃないんだから。

 さて、それじゃあ準備しないとな。萃香の奴、覚悟しとけよ。

 

 

 

「おいテメェ萃香! 異変起こしてたとはどういう了見だコラ!」

「イダダダダダ! 食い込んでる! 斧足、指が食い込んでるって!!」

「うるせぇ! 制裁だオラァ!!」

「ウギャァーーー!?」

 

 ピチューン!

 

 なにか変な音が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

 夜、博麗神社に酒と料理を持って来た僕は、宴会会場となっている境内で萃香を見つけた瞬間、速攻で近付き問答無用でアイアンクローをかけていた。

 

「うわぁ、香霖があんな風に怒っているとこ、始めて見たぜ」

「そうよねぇ? 霖之助さん、何だかんだ優しいもの」

「あの鬼、結構本気で抵抗している様ですけど、ビクともしてませんね?」

「あの伊吹萃香を一方的に何て……流石霖之助さんです!」

 

 魔理沙、霊夢、咲夜、妖夢の順に、僕が萃香にアイアンクローをかけて居る姿を見て、次々に感想を口にする。

 聞けば彼女たちは、萃香を倒して(体を複数に分けて同時に戦っていたらしい)異変を解決に導いたそうだ。

 萃香と戦った時は、僕が普段付けている稽古が役に立ったと言ってくれたので、稽古をつけている側としても嬉しいものがあった。

 

 しかし異変解決の戦いで単なる弾幕ごっこではなく、武器戦闘や格闘戦まで必要になるとは。やはり仏像シリーズや神霊の化身などの人型モンスターとの戦闘も稽古の内容に追加するべきか。

 問題は場所だな。一番条件が良いのは香霖堂地下のダンジョンか。屋外での戦いもバリエーションとして欲しい所だが、そちらの行う場所の選定は、後で紫に相談するとしよう。

 

 霊夢たちが割と朗らかに話している一方で、どんよりとした雰囲気の一角も存在した。

 

「片手で鬼を封じ込めてる……霖之助さんって、もしかして滅茶苦茶強い?」

「そりゃ強いでしょうね、半竜な訳だし」

「やっぱりドラゴンって最強なのね。嬉しい様な、悔しい様な……」

 

 暗い雰囲気の者同士で集まっているのはアリスとパチュリー、レミリアだった。

 この三人も、萃香の分身と戦い、そして負けてしまったらしい。

 しかも戦った時、萃香から色々言われたため気落ちしてしまっているそうだ。うちの店のお得意様たちに何してくれてんだコラ!

 

「モグモグ、やっぱり霖之助さんの料理は美味しいわぁ」

「幽々子ェ。 ……それにしても、萃香には容赦ないわねぇ霖之助さん」

「メェ~」

 

 僕の用意した料理をマイペースに食べ続ける幽々子と、その隣で酒を呑む紫。二人は幽々子のペットである日輪をソファーにして寛いでいる。

 どうもこの二人は、異変の事やその犯人である萃香の事を、知っているか察した上で、他の者達が解決するのを静観していた節があるそうだ。

 まぁ異変解決は本来、博麗の巫女である霊夢の仕事な訳だし、そのこと自体に文句は無いが、少なくとも紫は僕と萃香が古馴染みであるのを知っているはずなのだから、教えてくれたって良かったと思うんだけどなぁ。

 

「あら、しょうがないじゃない。萃香が異変を起こして居るなんて教えたら、霖之助さんなら直ぐに飛んで行って今みたいに萃香を締め上げていたでしょう? それじゃあ博麗の巫女の意味が無いわ」

 

 仰る通りで。

 ナチュラルに心を読まれたが、能力を使われたのか、それともただ単に察せられたのかは判別出来ない。

 どうにも僕は、昔から周りの女性たちに考えている事を看破される事が多かったからね。

 ホント、何でだろう?

 

「―――ていうか斧足、そろそろ本気で放して? ちょっと意識が遠のいて来た……」

「おい、誰が寝て良いと言ったこの野郎」

「私はやろうじゃな、アイタタタ!」

「痛みだけじゃ足りないなら、シェイクも加えてみるか?」

「まぁまぁ旦那様、もうそれくらいに」

 

 痛みだけだと意識が飛ぶようなら、思いっきり振って意識が飛ばない様にシェイクすべきかと考えていると、叢雲が萃香を掴んでいる僕の腕に手を添えて止めて来た。

 

「萃香も反省していると思いますし、ここはわたくしに免じてもうお止め下さい」

「ふむ、叢雲がそこまで言うなら考えなくも無いが、どうして叢雲が萃香の為にそこまで?」

「何と言いますか……萃香はわたくしの妹みたいなものですからね」

「何ィ!?」

 

 萃香が、萃香が妹? 叢雲の!? 馬鹿な、有って良いのか? こんな事が!

 

「まさかそんな……このがさつで身勝手で大酒飲みでちんちくりんの萃香が、お淑やかで気が利いて頼もしくて見た目以上に胸のある叢雲と姉妹だと? こんな事があり得るのか!?」

「おい斧足。そろそろ私も怒るぞ? と言うか泣くぞ? 良いのか? 山の四天王が、恥も外聞もなく大泣きするぞ?」

「勝手に泣き喚いてろよ」

 

 にべもなく返した僕は、叢雲の言葉もあり萃香をその場にべしっと投げ捨てた。

 

「うわぁーん! 叢雲ーっ!! 斧足の奴が辛辣だよぉっ!!」

「ああ、よしよし」

 

 萃香は僕の方を指さしながら叢雲に泣き付き、叢雲はそんな萃香の背中を撫でながら抱き止めていた。

 こうしていると、確かに姉妹の様に見えるが、付喪神である叢雲と鬼である萃香が姉妹であるとはどういうことなのだろうか?

 

 そう疑問に思っていると、叢雲が萃香をあやしながら教えてくれた。

 

「旦那様もご存知の通り、わたくしは八岐大蛇の尾から生まれた神剣です。そして萃香は伊吹明神、つまりは八岐大蛇の神霊と人間の姫君の間に生まれた娘なのです。ですからわたくしは、萃香は自分の妹のような存在であると認識しているのです」

 

 なんと、そんな事情があったのか!?

 確かにそれなら姉妹と言うのも納得出来るが、まさか萃香が八岐大蛇の娘だったとは。

 僕自身が自分の生まれの事をあまり話したくなかったから、今まで萃香の生まれなど聞こうとも思わなかったが、萃香もまた随分と複雑な生まれをしていたんだな。

 

「なるほど、そんな事情が……しかしまさか、萃香が半人半神の生まれだったとは」

「加えて言うなら、龍神の娘でもあるので半龍とも言えますね。半竜である旦那様と友人で会ったのには、奇妙な偶然を感じますわ」

「確かに」

「グスグス」

 

 叢雲の腕の中でぐずって居る萃香の姿を見る。まさかこの小さな旧友が、自分と似たような出生であったとは思いもしなかった。

 西洋のドラゴンと東洋の龍とで違いはあるし、そもそも僕の由来は元々ゲーム内存在であったドラゴンである訳だが、半竜と半龍がお互いに自覚なく縁を結んでいたと言うのは、どこか運命の様な物を感じるな。

 

 それはそうと、いつまでぐずっているんだ萃香。らしくない。

 

「ほれ萃香、いつまでも叢雲に迷惑かけるなよ。こっち来い」

「うー、何だよ斧足。ってうわっ!?」

「お前はここで、酒でも飲んで大人しくしてろ」

 

 叢雲に抱き着いて居た萃香を引っぺがして抱え、そのまま近くの敷物に胡坐をかいて、その足の上に萃香を抱えたまま座らせる。

 昔からこいつはこの体勢になると大人しくなる。放っておくより、こうして捕まえておく方が安心だ。

 

「お、斧足? みんな見てるんだけど」

「お手本として見せつけてんだよ。お前への正しい対処法をな」

「いや、この対処法斧足以外がやっても意味無いからね?」

「そうか?」

 

 抱えている萃香の頭にあごを乗せながらそう返す。

 この体勢になると、丁度良い位置にこいつの頭が来るんだよな。何と言うか、しっくり来る。

 

 とりあえず萃香が気に入っている八塩折之酒と、自分で飲む用のスラー酒をアイテムボックスから呼び出していると、周囲の視線が突き刺さるのを感じた。

 

「……ねぇ霖之助さん。随分慣れているみたいだけど、萃香の事、そんな風に抱えていたの?」

「まぁね。こいつはこの体勢になると大人しくなるから」

「ほう、そうなのか。そいつは良い事を聞いたな。香霖、ちょっと萃香を貸してくれないか? 私も試してみるぜ」

「ああ、良いよ」

「ちょ、斧足!?」

「あら魔理沙、次は私にも貸してね? その鬼には色々と言いたい事があったから。そう、色々ね?」

「あ、私もお願いします。今こそお祖父ちゃんの言っていた相手を理解する方法を試す時ですから」

 

 霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢の四人がやって来た。全員目が据わっている。

 

「ちょ、止め、私は斧足から離れるつもりは、力強!?」

「良いから来なさい」

 

 抵抗する萃香を、咲夜が以前教えた関節技の要領で腕を捻って引っぺがす。

 咲夜の身に付けているメイド服は、パチュリーやアリスとの共同研究で作った装備の一つで、身に付けた者の筋力を上昇させる『ダイダロスの帯』や敏捷値を上昇させる『エインヘリャルのブーツ』などのゲーム時代のステータス上昇効果を持った装備アイテムを組み込んだ上で、パチュリーとアリスの協力により、その効果を更に高める事に成功した逸品だ。

 流石に鬼並みの筋力とは言わないが、格闘技込みなら鬼の筋力に対抗出来るほどの強化が今の咲夜には施されている。

 

 その結果に満足していると、咲夜に捕まった萃香がこちらに手を伸ばして助けを求めて来た。

 

「た、助けて斧足! こいつらなんかヤバいって!」

「いや、鬼が人間相手に及び腰になってどうすんだよ?」

「ただの人間相手ならともかく、こいつらって言うか、こいつらの持ってる武器とかがヤバいんだって! こいつらの攻撃本当に痛かったんだから!」

 

 ふむ、霊夢たちの持つ武器か。

 

 霊夢が今右手に持ち、萃香を見ながら左手にパシパシさせているお祓い棒は僕が作った物だ。

 『涅槃の閂』を材料に作った『菩提の杖』に、『冥府の白ポプラ』で作った紙を組み合わせて作ったこのお祓い棒は、重く頑丈で、鋼の刀ぐらいなら簡単に叩き折れてしまうほどの強度を持っている。

 本来はかなり重いのはずだが、霊夢が軽々と振り回しているのは、能力によって重量を軽減させているからか、それとも本来の性能を発揮させているからなのか……。

 

 魔理沙の場合は言わずもがな。手にしたミニ八卦炉も、ミニ八卦炉を修理した時に貸してそのままの『冥府の杖』も僕が作った物だ。

 冥府の杖は魔理沙の地力の底上げに役立ってくれているし、ミニ八卦炉の場合は、全性能を完全に発揮すれば、神だって打倒し得る性能を持っていると自負している。

 意図していなかったが、魔理沙は『英霊召喚』の魔法使いの英霊からの指導も受けているそうだし、これからどんどん力を付けて行くだろう。

 

 咲夜の場合は、僕とパチュリーとアリスの共同で作成したメイド服に加えて、僕が量産した『アポーツの札』を組み込んだミスリル合金製の投げナイフと、オリハルコン合金製の小剣を二振り装備している。

 メイド服に比べて、投げナイフと小剣は間に合わせ感が強いが、こちらもいずれはパチュリーやアリスと共に作る逸品に換装されるだろう。

 何気に咲夜は剣術の才能も有り、今では二刀流同士という事で、僕の稽古以外の時に妖夢と手合わせする事もあるそうだ。

 

 妖夢の場合は僕が打ち直した漆黒の『楼観剣』に加え、元々持っていた『白楼剣』と、僕が贈った『神鋼鳥の小刀』の三本を差している。

 小刀の方は、『白楼剣』が幽霊を強制的に成仏させてしまうという特性上、簡単に抜くことが出来ないという事情を知った僕が、普段使いの為に贈った物だ。

 今では咲夜と共に、二刀流の指導もしているので、中々に楽しい。

 

 うん、改めて見ると、大体全部僕の作品だな。

 

「彼女たちの武器は大体オレが作った物だよ。中々だろ?」

「お前かよ! じゃあ魔理沙のミニ八卦炉を作ったのもお前か!? あれが一番ヤバかったんだぞ!!」

「ほう、具体的には?」

「何か変な爺さんが三人出て来たと思ったら急に能力が使えなくなって、その状態でマスタースパークとか言うのを連続でぶっ放して来たんだからな!? 割と本気で怖かったんだよ!!」

「ハハハ」

「笑い事じゃ無い!!」

 

 いや、笑ったのは嬉しかったからだよ。

 爺さんが三人って事は『太公釣魚』の英霊たちだろう、きちんとミニ八卦炉の性能を魔理沙が発揮出来ているようで何よりだ。

 萃香の場合は、『剛力無双』の英霊である『ヘラクレス』の方が好みだったかな? いや、それはどっちかって言うと勇儀か。

 

「まぁなんだ。ようこそ、オレたちの住む今の幻想郷へ。幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは残酷な話だそうだよ?」

「あ、それ私のセリフ……」

「今まさに残酷な目に遭いそうな私を助けてよ!」

「甘んじて受けろ」

「助けて叢雲!」

「ごめんなさい萃香。こればっかりはあなたがズルかったと思うの」

「そんなぁ!!」

 

 ピチューン! と、また不思議な音が聞こえて来たような気がした。

 こうやって、萃香の存在もまた今の幻想郷に馴染んで行くのだろう。

 

 全てを受け入れる幻想郷は、優しく残酷で……やはりどこか温かい。




次回からは永夜抄までのインターバルとしていくつか閑話を投稿して行く予定です。
永夜抄は八月下旬から九月上旬の間の出来事だから、入る前に夏らしいイベントが色々出来るぞう!
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