東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~   作:騎士シャムネコ

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まさか着ぐるみパジャマでここまで引っ張ることになるとは……。


第四十二話 「転生香霖と着ぐるみパジャマの流行」

「………」

 

 右を見る、着ぐるみパジャマを着た人里の住人が視界に入った。

 

「………」

 

 左を見る、着ぐるみパジャマを着た人里の住人が視界に入った。

 

「―――まさかこんなことになるとはね……」

 

 人里に、空前の着ぐるみパジャマブームが到来していた。

 

 

 

 日頃付き合いのある少女たちに着ぐるみパジャマをプレゼントし終わってから一週間ほど、人里では平服に混じって着ぐるみパジャマを着た者の姿が良く見られるようになっていた。

 原因と言うかきっかけは、文が自身の発行している『文々。新聞』で、僕がプレゼントした着ぐるみパジャマを取り上げた事である。

 

 外の世界のファッション誌を参考にして作られた着ぐるみパジャマは、斬新かつ子供や女性に喜ばれるデザインをしており、尚且つ僕が作った物は邪神たちの加護も乗っている為、丈夫で着心地が良く動き易い。

 その上、汚れを弾く特性まで持っている為、人里において着ぐるみパジャマは普段着として重宝されていた。

 

 パジャマとは本来寝間着の事であるが、何せ性能が高いためそんな事はお構いなしに、人々は着ぐるみパジャマを着て出歩いている。

 流石に、着ているのは女子供だけであるが。

 

「やれやれ、霧雨の親父さんに販売を委託して正解だったな」

 

 僕が今日人里を訪れていたのは、着ぐるみパジャマの販売委託について霧雨道具店の店主である親父さんと話していたからである。

 

 利益のみを考えれば、全て香霖堂で販売した方が売り上げが伸びるのだが、人里全体で流行する様な品物を香霖堂で取り扱った経験は無く、着ぐるみパジャマを求める客たちが一斉に香霖堂へと集まれば、対応しきれずパンクするのは目に見えていた。

 その為、流行の兆しが見えたのと同時に、人里で最大手の店である霧雨道具店で販売して貰えるように事前に相談していたのだ。

 

 その結果、販売を親父さんに任せながら、僕は人里に十分に行き渡る数の着ぐるみパジャマを製作し、需要に供給を追い付かせることが出来たのだ。

 販売開始からしばらく経ち、売れ行きもひとまず落ち着いたため、今日は霧雨道具店に着ぐるみパジャマの売り上げを受け取りに行っていたという訳だ。

 

「―――しかし、親父さんも言っていたが、これって古道具屋の仕事じゃ無いよなぁ……」

 

 販売委託をお願いする時にも親父さんからは、「古道具屋から呉服問屋に転向か?」と呆れられたが、あくまで香霖堂は古道具屋である。

 まぁ割と何でも置いてあるため、実質何でも屋と言い張って服を販売しても良いのだが、店主である僕が売り物を全て手ずから作るのは、古道具屋の仕事とはちょっと違うなぁと僕は感じていた。

 個人に対して作るのならまだしも、大衆向けに大量生産するなら、それはもはや服屋の仕事である。

 

「とは言え、収入が増えたこと自体は喜ぶべきか。ついでだから、帰りに鈴奈庵で本でも借りて「―――霖之助?」……うん?」

 

 後ろから名前を呼ばれて振り返る。するとそこには青い服を纏い、両手で大きな巻物と手荷物を抱えた少女が立っていた。

 

「やぁ『慧音』、こんにちは。寺子屋の帰りかい?」

「こんにちは、霖之助。まぁその通りだよ」

 

 彼女の名前は『上白沢慧音』。僕と同じ半妖であり、人里で寺子屋を開いて、子供たちに勉強を教えている。

 彼女とは僕が幻想郷に引っ越してくるより少し前からの知り合いであり、今でも時々彼女の家に食事招かれる程度には仲が良い。

 

「お前が人里まで出向いて来るなんて珍しいじゃないか。今日はどうしたんだ?」

「霧雨の親父さんと商売の事について話し合った帰りだよ」

「商売?」

「あぁ。 ……今人里で流行っている着ぐるみパジャマってあるだろう? あれは元々僕が個人的にお得意様相手とかに向けて作った物なんだが、新聞で取り上げられたせいで有名になってしまってね。製造から販売まで香霖堂でやったら大変なことになるから、販売の方を霧雨道具店に委託したんだよ」

「あれはお前が作ったのか!? ……何と言うか、その、似合わないな……」

「……美しい装飾を作るのが、武骨な職人であるなんて良くある話だろう? 作り手と作品のイメージが合わなくて悪かったね」

「ああいや、別に悪いって言う訳じゃないんだ! ただ、やっぱり私は昔のあなたの印象が強く残っているからなぁ……」

「ああ、そういう事か……」

 

 懐かしそうに目を細める慧音を見て、僕もまた懐かしい気分になりながら頷いた。

 

 

 

 慧音の言う昔の僕と言うのは、僕が斧足と呼ばれ、実際そう名乗っていた時代の話だ。

 

 当時僕が方々を旅していた頃、日頃くっ付いて回っていた文が僕から離れた時期があった。

 それが丁度、天狗や鬼たちが幻想郷に引っ越した時期だったのだ。

 風の噂で幻想郷自体の事は聞いていたが、僕自身は最初あまり興味が無かった。

 だが、鬼や天狗たちが引っ越し、その手伝いに文もついて行ったことで、何となく、そろそろ腰を落ち着ける場所を見つけても良いんじゃないかという気分になり、とりあえず自分も幻想郷に行ってみようと思ったのだ。

 慧音とは、幻想郷を目指す旅の途中で出会った。

 

「懐かしいね。あの時はまだ、慧音の身長も僕の膝くらいまでしかなかったっけ」

「む、それは聞き捨てならないな。確かにあの当時の私はまだ小さかったが、それでもあなたの腰ぐらいまではあったぞ?」

「そうだっけ? 間の太ももの辺りが有力に思うけど」

「うっ……確かにそれくらいだった気もする」

 

 確か当時の慧音が僕の足にしがみ付いて、僕の太ももで顔を隠していたから、太ももの付け根くらいの身長だったはずだ。

 そう考えると、僕より慧音の記憶していた身長の方が、実際の物に近いことになる。

 やれやれ、あの頃に慧音の第一印象は『ちっちゃな女の子』だったから、過剰に小さな身長だったと思い込んでいたようだ。

 

「……こうして思い出して見ると、慧音の記憶の方が正しいね。確か僕の太ももの付け根くらいはあったはずだよ」

「……ああ、そうだったな。やれやれ、少し盛っていたか」

「僕も結構うろ覚えだったからね、しょうがないさ」

 

 あの頃の慧音は、僕が小さいと言うと過剰に反応して、むきになって否定して来たっけ。今でも小さいけど。

 

「……霖之助、今何か失礼な事を考えなかったか?」

「何故バレる」

「あなたは分かり易いんだ、昔から。というか認めたな、失礼な事を考えたって! 何を考えた!?」

「紳士としては、女性に対して失礼な事を口にするつもりはないね」

「女性と言うか私個人に対して失礼な事を考えたんだろう!? 言え! 何を考えたんだ!? どうせまた私が小さいとか考えたんだろう!!」

「だから何故バレる?」

「やっぱりかぁ!!」

 

 叫んだ慧音は、飛び上がると僕の側頭部に両手を添える。

 次の瞬間、ゴチンッ! と堅い物同士がぶつかり合う音が人里中に響き渡った。

 

 久しぶりに食らったが、慧音の頭突きは半竜になっても痛ったいなぁ。

 

 

 

「うごご……あ、頭が割れそうだ……」

「まるで二日酔いのセリフみたいだね」

「誰のせいだと! っ、いったぁ……」

「ほら、少し見せてみ? 今治療するから」

 

 半竜の頭蓋に、思いっきり頭突きをして痛がっている慧音を連れて、僕は慧音の家までやって来ていた。

 今は慧音の家の居間で座布団に座りながら、慧音のおでこの様子を見ている。

 

(クレヤボヤンス!)

(リフレッシュ!)

 

 一応透視魔法で骨に異常が無いかを確認してから、回復と状態異常の解除を同時に行う呪文で慧音を治療する。

 うん、骨は大丈夫そうだ。クレヤボヤンスの方はさっさと解除しよう。

 

 透視の効果無くなった通常の視界で確認すると、赤くなっていた慧音の額は元の肌色へと戻っていた。

 

「……痛みが無くなった。今のは魔法か?」

「まぁね、簡単な治癒魔法だよ。それよりも、もう大丈夫かい?」

「ああ、大丈夫だ。それにしても……相変わらずあなたは引き出しが多いな。以前はこんな魔法使っていなかったと思うが?」

「前に話した事があるだろう? この魔法も前世で修得したものだよ」

「前世か……阿礼乙女が居るのだから、他に居てもおかしくは無いのだろうが……まさかあなたがそうだったとはな」

 

 慧音には、僕が前世の記憶と能力を取り戻した事や、竜信仰関連の事情を既に話している。

 人里に住む者で他に知っているのは、霧雨の親父さんや今代の阿礼乙女である阿求くらいか。

 

「しかし、あなたが半竜であると聞いた時は、心底驚くのと同時に納得もしたぞ。そりゃあ強い訳だと」

「それと似たようなことを阿求や妹紅にも言われたよ。自分が半竜だって自覚する以前は、半竜としての力は全く使えなかったんだけどね」

「……それはそれで、半竜の力無しであれだけ強かったんだから、やっぱりあなたはおかしいよ」

「おかしいな。人間だった前世でも似たような事を言われた気がするよ」

「じゃあもう、種族云々では無く魂の問題だな」

 

 何に納得がいったのか、慧音はうんうんと頷いている。

 まぁ実際、転生しても根っこの部分は変わっていない自覚はあるから、否定し辛い所ではあるが。

 

「……とりあえず、その話は置いておいて。君にもこれを渡しておこう」

 

 そう前置きしてから、僕は手元に慧音の分の着ぐるみパジャマを呼び出した。

 デザインは白い獅子に近い姿であり、ゲーム時代の白澤の姿をモデルにしている。

 ワーハクタクである慧音には、ピッタリであろう。

 

「これは……着ぐるみパジャマか。人里で見かける物とはまた随分と違う見た目なんだな?」

「そりゃあ販売用に量産した物と、君専用に作った物じゃ違うさ」

「そ、そうか……私専用かぁ」

 

 慧音専用と僕が言うと、慧音は受け取った着ぐるみパジャマを嬉しそうに抱きしめていた。

 そして何やら思いついたのか、顔を真っ赤にしながら少し大きな声でどもりながら言って来た。

 

「……せ、折角だから! 試しに着てみても良いか!? あなたに是非、み、見て欲しいのだが……?」

 

 最後だけしりすぼみになったように声が小さくなったが、慧音の提案は寧ろ望むところだった。

 慧音の体格なら良く知っているが、やはり実際に本人が着ている所を見ないと、細かな調整が出来ないからね。

 

「むしろこっちから提案しようと思っていたところだよ。細かな調整は、実際に着て貰わないと出来ないからね」

「……判っていた。判ってはいたが……あなたは殊物作りに関して、職人意識が強過ぎるのではないか? 霖之助」

「一点物を作るのに、こだわりを持たないようじゃ技術者は名乗れないよ」

「駄目だ、目が完全に職人の目になっている……」

 

 はぁ~、と慧音は大きなため息を付きながら、がっくりと崩れ落ちた。

 

「……まぁ着て来るが、似合わなくても笑ったりしないでくれよ?」

「僕が慧音の為に作ったんだぞ? 絶対に似合うし可愛いに決まっているだろう」

「……っ! き、急に可愛いとか言うな!」

 

 再び顔を真っ赤にした慧音が、白澤着ぐるみパジャマを抱えてどたどたと居間を出て行く。

 取り残された僕は、裁縫道具を準備しながらお茶を淹れて、慧音が帰って来るのを待った。

 勝手に他人の家の道具でお茶を淹れるのは、霊夢みたいで余り行儀の良い行動では無いが、何せ慧音の家は昔から訪れているので、この辺はなぁなぁになっている。

 逆に慧音が香霖堂に来た時に、僕の了解無しにお茶を淹れたとしても、僕が腹を立てる事なんて無いしね。まぁ、慧音はその辺しっかりしているから、必ず僕に予め了解を取るが。

 しっかりしていると言えば、妹紅も普段は自堕落な生活をしているが、マナーは結構しっかりしているんだよな。確か良いとこのお嬢様だったはずだし、染みついた礼儀作法が今でもしっかりと残っているんだろう。

 今度妹紅に会ったら、霊夢と魔理沙に礼儀作法を教える時の参考になる話が無いか聞いてみようかな?

 

 

 

 しばらくすると、着替え終わった慧音が戻って来た。

 顔を赤らめながら腕を組んで立つその姿は、堂々と言うか若干自棄になったような雰囲気を感じる

 

「さぁ! 着て来たぞ霖之助! 感想の一つでも言ったらどうなんだ?」

「ふむ、見た感じ概ね大丈夫そうだな。ただ、袖と裾は少し調整した方が動き易いか……」

「……もうお前服屋にでもなれよ」

「断る。僕はあくまで古道具屋だ」

 

 慧音にその場で動かないように頼んで、話しながら最終調整を行う。

 調整が終わったので慧音に具合を確かめるように言うと、軽く手を振ったりその場で歩いたりして動きを阻害されないか確認してくれた。

 

「……うむ、動き易いな。問題は無いぞ、霖之助」

「それは良かった。これで完成だね。うん、思った通りに合っているし可愛いよ。慧音」

「ばっ……! ふ、不意打ちは卑怯だぞ!」

「何の不意打ちだい?」

 

 あーもー! と叫びながら、両手で顔を抑えて畳の上をごろごろ転がり出す慧音。

 相変わらず、面と向かって褒められるのが苦手なようだ。彼女の両親が存命であった頃から、こういった反応はあまり変わっていない。

 

 いつまで経っても子供っぽさを失わないこの小さな友人の姿に苦笑しつつ、僕は慧音の気が済むまでごろごろするのを見守った。




ざっくりとした、転生香霖と慧音の出会い。


ヤング時代、天狗と鬼が幻想郷に引っ越すに伴い、文が天魔の元に戻ったのでヤング香霖がしばらく一人旅になる。

 ↓

数百年ぶりに一人旅をした結果寂しさを感じるようになり、風の噂で幽香も幻想郷に引っ越したと聞いたので、自分も行くか。となる。

 ↓

幻想郷に向かう旅の途中、自分と同じ半妖である慧音が、両親に庇われながら村人たちに囲まれている現場に遭遇する。(先祖返りなのか、神獣の気まぐれなのか、突然ワーハクタクの力を幼い慧音が手にして見た目が変わった事と、丁度日照りが続いていた為、半妖である慧音を生贄に雨ごいをしよう。みたいな感じになっていたらしい)

 ↓

村人たちを文字通り薙ぎ倒して慧音とその両親を助け出したヤング香霖は、行く当てがないという慧音らの話を聞いて、放っておくのも寝覚めが悪いと判断して、慧音ら一家を連れて幻想郷に向かった。

 ↓

旅の途中、ヤング香霖が慧音たちを攫っていると勘違いした妹紅と出会い、しばらく戦った後で誤解であったと判明し、その御詫びとして妹紅も護衛として旅に同行する事となる。
ヤング香霖と出会った妹紅は、ヤング香霖に対して「昔何処かであった事は無いか?」と質問し、それ以降もちょくちょく同じ質問をするようになった。どうやら昔出会った人物に、転生香霖が非常によく似ているらしい。

 ↓

幻想郷に到着したヤング香霖一行は、人里の有力者であった当時の阿礼乙女や博麗の巫女に慧音ら一家を受け入れて貰い、晴れて慧音は家族そろって安住の地を得ることが出来たのである。(なお、この出来事により半妖であろうと我が子を守ろうとする慧音の両親の姿を見たり、慧音らの生活が安定するまでは、と人里に留まった結果、当時の阿礼乙女に幻想郷縁起を編纂する為の手伝いとして、妖怪の取材に行く際の護衛を頼まれたりして交流を深めた事で、徐々にヤング香霖の人間嫌いが直って行った)
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