東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~   作:騎士シャムネコ

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第四十八話 「転生香霖と七夕祭り(前篇)」

 賑やかな人々の喧騒と、華やかな祭囃子の音色。

 縁日特有のどこか浮足立つような空気を感じながら、僕はたこ焼きを作っていた。

 

「いらっしゃいいらっしゃい! 安いよ安いよ!」

「幻想郷では珍しい海の幸を使った屋台ですよー!」

「と、とっても美味しいので買って下さいですぅ~!」

 

 僕の右隣では、ハスターを助手に叢雲が焼きそばを、僕の左隣では、チャウグナー・フォーンを助手にバーストがイカ焼きを作っている。

 そしてこの場では姿が見えないグロス=ゴルカとミゼーアは、裏方で食材を切り分けたりしていた。

 

 今日は七月七日。

 七夕祭りの日であり、僕ら香霖堂のメンバーは博麗神社で行われる縁日の屋台を三つほど出店していた。

 売り物は海魔の島産の海産物を使った、たこ焼きと焼きそばとイカ焼きの三つである。

 

『―――主よ、そろそろよろしいかと』

「ああ、そうだね。よっと」

 

 僕の助手を務めるクトゥグアが、たこ焼きのひっくり返し時を教えてくれる。

 炎の神だけあって、こと焼き物に関しては最高の焼き加減の時を教えてくれるのでありがたい。

 と言うより、クトゥグアは三つの屋台すべてに触手を伸ばし、その触手から発生させた炎で調理をサポートしている為、三つの屋台の主はクトゥグアであると言っても過言では無い。

 料理がそれほど得意では無い叢雲とバーストが店に立って問題が起こって無いのも、全てクトゥグアのおかげだ。ありがたい。

 

 ―――さて、何故僕たちが香霖堂を留守にして、縁日の出店をやっているのかと言うと、話は数日前に遡る。

 

 

 

 その日の夜、夕食を終えた後叢雲から提案があった。

 

「―――七夕に何か催し物をやりたい?」

「はい。人里の方々に以前から、竜信仰主催で何かお祭りなどをやって欲しいとお願いされていまして。時期的に七夕祭りに何かやるのが丁度良いと思ったのです」

「なるほど。確かに竜信仰は今まで布教ばかりで、催し物の類はやってこなかったからなぁ……」

 

 竜信仰は、去年の秋頃から始まったばかりのとても新しい宗教だが、既に人里全体に浸透していると言って良いほどに広まっている。

 ここで一つ、七夕祭りの様な毎年行う縁日を開催する事で、竜信仰の祭りを人里の住人たちの年間行事として定着させるのも悪くない。

 

 ただ、それをやるには一つ問題がある。

 

「やるのは全然構わないが、場所はどうしようか?」

「はい、わたくしもそこが悩みどころでして」

 

 竜信仰は現在、神社や寺、あるいは神殿の様な拠点を持っていない。

 しいて言うなら竜信仰の本尊の一つである白銀竜、つまりは僕の家である香霖堂が竜信仰の拠点でもあるのだが、白銀竜の正体が僕であることはまだ人里では一般的には知られていないのだ。

 知っているのは、慧音や霧雨の親父さん、それに稗田家の現当主である『稗田阿求』ぐらいである。

 叢雲と共に、毎日人里に顔を出している煙晶竜は、既に親しみ易い存在として人々に知られているが、偶にしか姿を見せない白銀竜は、神秘的な存在と認識されている。出来れば今のイメージをあまり崩したくない。

 

 と、話が逸れたな。

 今問題としているのは、竜信仰の祭りを開催する場所が無いという事だった。

 

「人里の通りの一角を借りるって言う方法もあるけど、今から頼みに行っても七夕までに間に合わないだろうしなぁ……」

「場所を選ぶのにも、当日の為に周辺の方たちに話を通して調整して貰うのにも時間が掛かりますものねぇ……」

 

 うーん……と、叢雲と二人で頭を悩ませていると、解決手段は意外な相手から提示された。

 

『―――それならば、巫女の住むあの神社で開けばよいのではないか? 人が集まるなら巫女も文句は言わんだろうし、正月に叢雲が神社で手伝いをしていたのは人里の者たちも知っている。それほど違和感は感じないじゃろう』

 

 そう言ったのは、話し合いを僕たちに任せて今の自分の体と同じサイズの煎餅を食べていた煙晶竜だった。

 最初は勝手が違うと困惑気味だった手乗りサイズのオリハルコン像の体だが、最近はこの姿だと色々な食べ物が自分と同等かそれ以上に大きくて食べ甲斐があると言って、今の体を楽しんでいる。

 食道楽な所はまるで変らない煙晶竜であったが、こうして自発的に発言する時には、役に立つ事を言う事もあるのだ。

 まぁ、大抵の場合全く関係無い食べ物の話だったりもするが。

 

 それはそうと、煙晶竜の提案は非常に良いアイデアであった。

 竜信仰が主催とは言え、縁日を開いて人が集まるのであれば霊夢は文句を言わないだろうし、竜信仰と博麗神社は良好な関係であるというアピールにもなる。

 別に信仰の奪い合いをしている訳では無いのだから、寧ろ共同で開催した方がお互いに取って良い結果となるだろう。

 

「確かに、それなら今からでも十分人里の方々に楽しんで貰える祭りが開けるでしょう。煙晶竜様の言う通り、博麗神社での開催をお願いしてみてはどうでしょうか、旦那様?」

「ふむ、確かに良いアイデアですね。丁度本人も居ますし、今ここで聞いてしまいましょうか。 ……と言う訳で霊夢、そんな感じになったけど、どうかな?」

「……どうかも何も、寝込んでいる横で商売敵たちの話なんて聞かせないで欲しいんだけど」

 

 僕らは香霖堂の居間で話し合っていた訳だが、襖一枚隔てた先の寝室では、霊夢が布団で横になっており、霊夢にも僕らの話が聞こえるように襖は開いていた。

 何故霊夢が神社では無く、香霖堂の寝室で横になっているのかと言えば―――

 

「うぅ、お腹痛い……霖之助さん、助けて」

「冬の妖怪でも氷の妖精でも無いのに、彼女たちと同じ様なペースでかき氷をがつがつ食べるからそうなるんだよ。今夜は大人しく反省して寝てなさい」

「うー、霖之助さんの意地悪」

「意地悪で結構。ほら、きちんと布団は掛けなさい」

「寝苦しいんだもん、仕方ないじゃない」

「それで体を冷やしたら、更に体調が悪化するよ。良いから温かくして居るんだ」

「はーい」

 

 霊夢はしぶしぶと言った様子で頭から布団を被り直した。

 霊夢が居る理由はなんて事無い。ただ単純に、かき氷の食べ過ぎでお腹を壊したから、温かくしてじっとしているだけだ。

 

 魔理沙もそうだが、霊夢は昔から体調を崩すと、時にはわざわざ神社から香霖堂まで来て僕に看病をさせる事がある。

 チルノと一緒にかき氷をドカ食いした霊夢は当然の様に腹痛となり、神社に帰れず香霖堂に泊って行く事となったのだ。

 まぁ神社で体調を崩して倒れられたりするよりは、目の届くところに居てくれる方が心配が減るから助かるが。

 

 ……しかし、今回は香霖堂で体調を崩してそのまま居残ることになったから良い物の、もし神社で急病を患って動けなくなるなり、意識を失うなりすると最悪手遅れになる可能性もある。

 魔理沙の場合はミニ八卦炉が自動召喚する精霊たちや、英霊たちが様子を見てくれているから良いが、霊夢は基本的に神社では一人きりなのだ。

 今は神社の周辺に萃香が住み着いているし、紫たちも霊夢の様子は気にかけているだろうが、常に神社の様子を見ていると言う訳では無いし、何かしら対策をしておいた方が良いかも知れない。

 

「―――ふむ。となると、神社に住み着いて霊夢の様子を見てくれる者と、後は神社から簡単に香霖堂に移動出来るようにもしておいた方が良いか……」

 

 前者については、幽々子の日輪やレミリアの牧場のアマルテイアたちの様に、僕の能力で召喚したモンスターをペットにするのが良いだろう。どんなのが良いか、霊夢に希望を聞いてみよう。

 後者については、転送ゲートを設置する効果を持つゲーム時代のアイテム『審判の石板』を使えば解決する。これは設置しても大丈夫か紫に確認を取った方が良いな。

 

 よし、案が纏まったし、早速霊夢にペットにしたい動物が居るか聞いてみようと思った所で、霊夢が既に寝息を立てて居る事に気が付いた。

 この子は本当に寝つきが良いな。今の内に呪文で回復させて腹痛を治しておこう。

 反省を促すという意味で今まで使わなかったが、翌日まで体調不良を引き摺らせる意味は無いからね。

 

 そう言えば、結局七夕祭りに関しては博麗神社で開く了承を貰ってないな。

 まぁ、了承を貰った所で準備を始めるのは明日からなのだから、明日の朝また改めて霊夢から許可を貰えば良いだろう。

 霊夢の事だから、どうせ断らないだろうし。

 

「霊夢も寝ちゃったし、話はこのくらいにして僕たちも寝ようか。どっちにみち、本格的に七夕の準備をするなら明日の朝になってからだしね」

「そうですね。では、わたくし達も休みましょうか」

『うむ、そうじゃな』

 

 霊夢を起こさない様に、寝室に僕と叢雲の分の布団を敷く。位置としては僕を真ん中に、右側に霊夢が、左側に叢雲が眠る形となる。

 煙晶竜は眠る時、体に使っている像から抜け出して僕の体に戻って来るので寝具の類は必要としていない。

 クトゥグアを始めとした邪神たちだが、クトゥグアは僕が作った特別製のランプに宿るという形で休み、ハスターは僕が作った小さなベッドで眠る。

 バーストは押し入れで眠る事を好み、チャウグナー・フォーンは部屋の端で本物の彫像の様にその場で動かないという眠り方をする。

 グロス=ゴルカは僕が作った止まり木で瞳を閉じているし、ミゼーアは僕の布団の足元の方で丸まって寝ている。

 

 こうして見ると、眠り方ひとつとってもそれぞれの個性が出ているな。

 そんな感慨を得ながら、僕は部屋の灯りを消した。

 

「それじゃみんな、おやすみ」

『『『『『「「「おやすみなさい、(霖之助さん)(旦那様)(我が主)(マスター)(主殿)(我が君)」」」』』』』』

『(うむ、良き眠りを)』

 

 沢山の声と、自分の中から聞こえる煙晶竜の声を聴きながら瞼を閉じる。

 そう言えば、霊夢の声も混じっていたな。態々寝息まで立てて狸寝入りしなくても良いのに。

 ぼうっとした頭でそう思いながら、静かな微睡みに身を委ねた。

 

 ―――意識が完全に沈む直前に、誰かが僕の右手にそっと指を絡ませたのを感じた。

 

 

 

 と、そんな事があってから数日。

 霊夢からの許可も取り、現在僕たち竜信仰は博麗神社で行われる七夕祭りに、幻想郷では珍しい海産物を使った屋台を出店しているのであった。

 

 ちなみに、煙晶竜は人里に置いてある黄金像の体に入り、自身の体に沢山の笹の付いた竹を括り付けて、祭りにやって来たお客さんたちを歓迎している。

 煙晶竜自身が、七夕のモニュメントとなっているのだ。

 親に連れられてやって来た人里の子供たちが、楽しそうに願い事を書いた短冊を括り付けていた。

 

 そんな様子を見ながら、次々にやって来るお客の捌いていると、丁度客足が途切れたタイミングで満面の笑みを浮かべた霊夢がやって来た。

 

「霖之助さん、屋台の調子はどう?」

「ああ、中々盛況だよ。霊夢こそ全体を見回って来たんだろう? 今回の祭りは成功と言って良いかな?」

「もう成功も成功、大成功よ! お賽銭もいっぱい入ってウハウハだわ!」

 

 煙晶竜が居るのは、丁度賽銭箱の直ぐ隣だ。

 大抵の客は賽銭を入れてから煙晶竜の元へ行くし、煙晶竜の元に直接向かう者が居たとしても、煙晶竜本人が『先に祭りの場所を提供してくれた神社に挨拶するが良い』と言って、賽銭箱の方に誘導してくれるので、こうして話している間にもどんどんと賽銭が投げ入れられて行く。

 滅多に人の寄り付かない(魔理沙や咲夜などの例外は除く)博麗神社の普段の姿を思えば、正に夢のような光景であるだろう。

 

「こういうお祭りならじゃんじゃんやって欲しいわね!」

「そうだね。竜信仰の神社みたいな拠点はまだ無いし、また何かやる時は博麗神社を頼ることになるだろうね」

 

 語外に、竜信仰の拠点が出来たらそちらでやると取れる言葉で返すと、霊夢は笑顔のまま冷や汗を垂らし、今度は上目遣いで僕を見つめて来た。

 

「ね、ねぇ霖之助さん。竜信仰の御社を作るのも大事だけど、いざ実行するとなると場所選びから何まで大変だし、しばらくは共同開催の形で良いんじゃないかしら? そ、それにいざ御社を作ったとしても、博麗神社より行き来し辛いところしか作れる場所が無い何て事もあるかもだし、それに……」

 

 必死に博麗神社での共同開催の利点をアピールする霊夢の様子が可笑しくて、つい声に出して笑ってしまう。

 

「ハハハッ、そんなに心配しなくても、竜信仰の社が出来ても共同開催は続けるよ。博麗神社と竜信仰は仲が良いって事をアピールして行きたいからね。社が出来たら、今度はそちらに博麗神社から何か出店するって言うのも良いだろうし」

 

 僕がそう言うと、霊夢は目を輝かせて僕の言葉に大きく頷いて来た。

 

「ええ、それ良いわね! うちと竜信仰はこれからもずっと仲良しですもの! お互いに助け合っていかなくっちゃね!」

 

 助け合うというか、霊夢は竜信仰の人気に便乗する気満々なのだろう。今回の集客で味を占めたとも言える。

 まぁ、僕としても昔から知る博麗神社が賑わっているのは、中々嬉しいものであるので否は無い。

 

 元々竜信仰は僕の能力を取り戻すために始めたものだから、本格的な儀式や行事の類は一切無かったので、共同開催とする事で霊夢にその部分を受け持って貰えるとありがたかったのだ。

 竜信仰は人を集める、博麗神社は儀式を執り行う。正にウィンウィンの関係と言う奴だな。

 

「さ、霊夢もあちこち見て回って小腹が空いただろう? 僕らの屋台の食べ物はタダで良いから、好きなのを持って行ってくれ」

「え、良いの!?」

「ああ、共同開催者様への差し入れみたいなものだよ」

「なら全部一つずつ貰うわ。匂いを嗅いでからお腹が鳴りそうで仕方が無かったのよ!」

 

 そう言って霊夢は、たこ焼きと焼きそばとイカ焼きをそれぞれ一人前抱えて去って行った。

 

 さて、まだまだ日は高いが、祭りの本番は日が暮れてからだ。

 夜は夜で、ちょっとしたサプライズも考えているし、竜信仰が行う初めての祭りを、盛大に盛り上げて行こうではないか!




登場キャラが多いから、みんな出したいって考えるとどうしても話が膨れ上がってしまう。
今回も前中後篇になるか、それをオーバーするかなぁ。

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