東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~ 作:騎士シャムネコ
年末に差し掛かり、更新頻度が落ちていますが、エタるつもりは無いのでこれからもよろしくお願いします。
ところでおばあちゃま、あなたピックアップされる時期間違えてません? 本来実装されるべきなのは、オリュンポス開始してからなんじゃ……。
夕暮れと言うほどでも無いが、日も大分傾いて来た。もうしばらくすれば、空も茜色に染まるだろう。
そんな中、遂に恐れていた相手がやって来てしまった。
「霖之助さん、こんにちは~。今日はたっぷりご馳走になるわねぇ♪」
「えっと、こんにちは霖之助さん。 ……その、本当にすみません! 幽々子様がお世話になります……」
「メェ~!」
現れたのは、幻想郷一の胃袋を持つピンクの悪魔……もとい、妖夢と日輪を連れた幽々子である。
幽々子は常の様に優雅に微笑んでいるが、視線は完全に鉄板で焼かれているたこ焼きにロックオンされている。 また、その幽々子を横目でチラチラ見ながら妖夢は、僕に対して申し訳なさそうに頭をぺこぺこと下げていた。
そして日輪は……うん、突撃して来たりなどはしないようだが、物欲しそうに僕を円らな瞳で見ながらメェメェと鳴いている。蜂蜜が欲しいんだな。(断言)
三人ともぶれないと言うか、至極いつも通りの姿であった。
とは言え、客として来るなら歓迎するのが商売と言うものだ。
確かに幽々子の食欲は脅威だし、普通に販売していたらあっという間に用意した食材を食い尽くされてしまうだろうが……なに、当然迎撃の準備は済ませてある。
「―――いらっしゃいませ、三人とも良く来てくれたね。うちの屋台ではたこ焼きと焼きそばとイカ焼きを作っているんだけど、欲しいものはあるかな?」
「全部いただくわ!」
「……言うと思ったよ」
間髪入れずに幽々子が即答する。予想通り過ぎて驚きも無いよ。
だがまぁ良い、予定通りだ。
対幽々子の為の迎撃用意……それを僕は、既に整えていた!
「では幽々子、君の分の料理は予め用意してあるから、遠慮なく受け取ってくれ!」
言葉尻に力を込めつつ、僕はこんな事になると思って予めコツコツ準備していた幽々子の為の料理、たこ焼きと焼きそばとイカ焼きをそれぞれ百人前ずつの、計三百人前をアイテムボックス内から召喚しつつ、テレキネシスで幽々子の周囲に滞空させた。
「わぁあああ!」
三百六十度、自分の周囲を埋め尽くさんばかりに現れた沢山の料理を前に、幽々子が感嘆の声を上げ瞳をキラキラと輝かせる。
何て良い目をしているんだ、まるで恋する乙女の様じゃないか。(瞳に浮かぶ感情は食欲だけなのだが)
まぁ良い。何にせよ、幽々子用に用意した料理は今出した分で全てと言う訳では無い。
在庫には余裕があるし、これなら十分に幽々子を満足させられ―――
「―――あら、そんなに余裕ぶってて良いのかしら。霖之助さん?」
「うん?」
突然背後から聞こえて来た、聞き慣れた声に振り返る。
そこには思っていた通りの声の主。スキマから上半身だけを出した、浴衣姿の紫がどこか悪戯っぽく微笑みながら僕を見ていた。
「紫? なんでわざわざ僕の背後に? 普通に正面から来ればいいじゃないか」
「正面からって、幽々子の周りに浮かんでる料理が邪魔で通れないじゃない。通行の邪魔になっているから、退かした方が良いわよ?」
「あ、それもそうだね」
呆れた表情で物凄く正論な事を言われてしまった。
そうだよなぁ。幽々子を驚かせようと思って、一気に三百人前を召喚して浮かべたけど、冷静に考えれば道を塞ぐから普通に邪魔だよなぁ。
失敗失敗、邪魔にならない様に屋台側に退かすか、それか上空の方に移動させよう。
なに、冷める心配は無い。最近見つけたゲーム時代の魔法の応用だが、相手の敏捷値を下げる時空魔法の呪文『スロウ』をかけることで、物品の時間の流れを遅くするという事が可能となったのだ。
これを料理にかければ、かなり長い時間料理の温かさや鮮度を保つことが出来るのである。
もちろん、呼び出した料理全てには予めスロウをかけている為、冷めるなどして味が落ちる事はまずない。
「それで紫、さっきの言葉はどういう意味なんだい?」
浮かせた料理の器たちを移動させながら僕は紫にそう訊ねたが、紫は口元を扇子で隠しながら、実に楽しそうに目を細めて笑っている。
「見て居れば判るわ。我ながら、ちょっと性格が悪いと思うけれど、気分が良いわね。これも一種の因果応報かしら? 普段色々やらかしている霖之助さんが、巡り巡った自分の行いに苦しめられることになる何て」
「? それは一体どういう「ご馳走様でした~」っ! なに!?」
のんびりした幽々子の声で聞こえて来たのはご馳走様の挨拶だった。
見ると、既にからの器が積み上げられており、店側や上空に移動させていた分も含めて、全ての料理が食い尽くされていた。
馬鹿な、早過ぎる! 紫と話していたちょっとの間に、三百人前の料理を食い尽くしたというのか!?
「……とりあえず、お代わりはあるけど要るかい?」
「まだまだ前菜にも足りないくらいよ。じゃんじゃん出して下さいな?」
「………了解」
再び先程と同じようにたこ焼きと焼きそばとイカ焼きを三百人前。いや、ここはその倍の六百人前を出しておこう。
今度は先程紫に注意されたことを踏まえて、予め大半を通行の邪魔にならない上空に漂わせておく。
何か、水族館で頭上の水槽を泳ぐ魚の群れを眺めているみたいだな。
って、それは置いておいて、今は紫から詳しい話を聞かなくては。
「紫……もしかしてこれが」
「ええ、そうよ。幽々子の食欲だけど、以前よりも大幅に強化されているみたいなのよ……」
衝撃の一言だった。
今までも怪物染みた食欲の持ち主だった幽々子の食欲が更に強化された……?
馬鹿な……それが事実なら、幻想郷は直に過去最大級の食糧難に見舞われるぞ!!
「大変な事じゃないか! ……一体どうしてそんな事に?」
「どうしても何もあなたのせいよ?」
「え?」
「霖之助さんがレミリアにアマルテイアを貸し出して、幻想郷に豊穣の乳が出回る様になったでしょう? あれを飲んで能力やらなにやらが強化されるって言う事例がいくつか報告されているのだけれど……幽々子の場合は、どうやら食欲が強化されてしまったようなのよ」
「えぇ……」
マジかよ……そんなアホな事があって良いのか?
内心だけ昔の口調に戻りながら、改めて幽々子へと視線を向ける。
気付けばまたしても出した食べ物が全滅しかけていたが、今度は幽々子の食べている姿を見ることが出来た。
「……幽々子、その食べ方できちんと味わえているのかい?」
「もちろんよぉ。タコもイカも歯ごたえが良くて濃厚な味わいだし、ソースも絶品だわ。それに、たこ焼きと焼きそばに使われている小麦粉自体も風味が良くていくらでも食べられそうよ♪」
「食材は全て僕の拠点で獲れたものだからね。味は当然自信があるが……歯ごたえ?」
幽々子の食べ方は、どう見ても咀嚼抜きで吸い込んでいるようにしか見えないんだが……胃袋にマイクロ・ブラックホールでも入っているのかな?
食べている時の擬音が「モグモグ」でも「パクパク」でも無く、「ヒュォォ~!」って言う、風が吸い込まれている音なんだよなぁ。「ゴクン」って言う嚥下する音も聞こえないし。
「……まぁ、味わってくれているのなら作った甲斐があったと言うものだが」
「お代わり~」
「もうかよ……どうぞ」
「まだまだあるのね! 流石霖之助さんだわ!」
再び六百人前を召喚した僕を幽々子はそう言って称賛した。
「幸せ~」などと言いながら嬉しそうに笑っている姿は、見ているこっちも思わず頬が緩みそうになるくらい魅力的だったが、あいにくそれ以上に幽々子の食べるペースが尋常じゃ無さ過ぎて、僕の頬は引きつりっぱなしだ。
既に千人前以上食べているのに、まだ食べるペースが落ちていないだと? ……真面目に幻想郷が滅ぶんじゃないかな?
そのくせ幽々子の食べて居る姿からは、優雅さや気品が未だに感じられるのが本当に解せない。
なんかもう、色々とおかしな光景だった。
「いえ、幽々子の食べっぷりも大分おかしいけど、それに応えられるだけの料理を予め作っていた霖之助さんも大分おかしいわよ?」
「いやまぁ……作っている間に楽しくなっちゃってね?」
「それ、前にもどこかで聞いた気がするわね」
そりゃぁ、僕が料理を作り過ぎる理由は大体これだからね。
幽々子が居なければ色々と死蔵する羽目になりそうだから助かっていると言えば助かっているが。
「そんなに食材を消費しまくって、備蓄の方は大丈夫なの?」
「寧ろ定期的にこうして減らさないと、備蓄が増え過ぎて訳が分からなくなりそうなくらいだね。元々何百年分の備蓄があった訳だけど、最近向こうでの収穫量が増えたのかどんどん増えているんだよねぇ」
召魔の森側で畑を広げるなりしているのだろうか? まぁそれだけ配下達が頑張ってくれているという事だし、みんなが元気にやっているという証拠なのだろう。
早く会いたいものだ。
「……本格的に私も協力して、あなたの能力を取り戻すのを速めた方が良いかも知れないわね。今の幽々子を養う手段が、あなたの拠点の生産力くらいしか思い浮かばないもの」
「それは心強いね。けど、無理はしないでくれよ? 君には幻想郷の管理者としての仕事もあるだろう?」
「それなら平気よ、大体は藍に任せているもの」
「……今度藍に油揚げを差し入れするよ」
それで良いのか管理者? と言いたい所だが、召魔の森を含め僕の能力を速く完全なものにしたいと言うのもまた事実だ。
すまない藍、せめて特上の油揚げで労わせて貰うよ。
僕がそう心に誓っていると、紫はあっけらかんとした様子で心配無用と言って来た。
「そんなに気にしなくても良いわよ。さっき豊穣の乳を飲んで、能力が強化された事例がいくつかあるって言ったでしょう? 藍もその内の一人なのよ。今の藍なら、私抜きでも余裕を持って結界の調整やらの管理者の仕事を出来るわ」
「そうなのかい?」
「ええ、何せ私の自慢の式ですもの」
そう言って紫は得意気に笑っている。自慢気でもあるようだった。
藍は、紫の式であると同時に『八雲』の姓を与えられた最も近しい従者でもある。
単なる配下では無く、もっと大切な存在であるのは言うまでもない。
優秀さを自慢げに語る辺り、子や妹の様な存在であるのかもしれない。
そう考えると、途端に得意げに笑っている紫の姿が微笑ましく感じられてくる。
「……むぅ、なんだか霖之助さんから生温かい視線を感じるのだけれど?」
「生温かい視線って何だよ? そこは普通に温かい視線で良いんじゃないか?」
「単に温かいと受け取るのは、抵抗を感じる視線だったのよ」
「僕は一体どんな視線をしていたって言うんだ……」
「眼鏡の少年が首長竜の子供を育てるのを見守る青狸の様な視線よ」
「いやに具体的だけど、さっぱりイメージが湧かない」
なんだ、その青狸って言うのは? 何かの妖怪か?
眼鏡の少年と首長竜の子供が同時に出て来るのも良く判らないし……。
もしかしたら、まだ幻想入りしていない外の世界の物語だとかも知れない。
そんな風に考察していると、またしても幽々子がお代わりを要求して来た。
「ご馳走様~。霖之助さん、お代わりはまだあるかしら?」
「ああ、あるよ。好きなだけお食べ」
「やったぁ!」
「いやもうほんと……霖之助さん、一体どれだけ作ったのよ? 作ったのって七夕祭りが決まったここ数日でしょう?」
「七夕祭りが決まってから、毎日寝ずに作っていたんだよ。屋台の料理なんて普段作らないから、練習の意味も兼ねてね」
「料理に関してどれだけ本気なのよ……」
そりゃぁ本気にもなるよ、竜信仰がやる初めての本格的な祭りなんだから。
それに、開催場所が博麗神社である以上、霊夢にやって良かった、楽しかったと思われるようなものにしないとね。
僕がそう返すと、紫は少しだけ頬を膨らませて、じっとりと睨むような目つきとなった。
「……前々から思っていたけれど、霖之助さんって霊夢の事好き過ぎるんじゃないかしら? ツケ払いだろうが、勝手にお茶を淹れて茶菓子まで食べようが怒らないし……」
依怙贔屓していると言いたいのだろうか? まあ確かに、そう言った面があるのは事実だが……。
「言っておくが、ツケにしている分はきちんと帳簿に記録してあるし、後で必ず取り立てるつもりだよ? それと、僕が好きなのは霊夢に限らず、普段から付き合いのあるみんなだよ。だからこそ、料理だって一切妥協無く僕に用意出来る最高の物を提供している訳だし」
「け、結構ハッキリ言うのね……?」
紫は扇子を広げて顔の下半分を隠し、目を逸らしていたが、扇子の端から見える頬が赤く染まっているのが見て取れた。
どうやら恥ずかしがっているらしい。
「嘘偽りない本心だからね。もちろん、紫のことも好きだし、いつも感謝しているよ」
「そ、そうっ……あの、少し席を外しても良いかしら? 何と言うか……そろそろいっぱいいっぱいなので」
そう言いながら、紫は左手で胸を押さえ、右手に持った扇子で完全に顔を隠してしまった。
隠れていない首元や耳が真っ赤になっているのは判ったが。
「そうかい? なら、少し休むと良い。祭りはまだまだ続くからね」
「ええ、そうさせて貰うわ……」
顔を隠したままの紫がスキマの中に沈んで行く。
その時になって、僕はまだ紫に言っていなかった言葉があるのを思い出して呼び止めた。
「紫!」
「? 何かしら?」
「浴衣、良く似合っているよ。普段はドレスのイメージが強いから、和服姿が新鮮でとても魅力的だよ」
「っ!?」
「それだけ、また後でね」
「……はぃ」
消え入るような小さな声の返事を残して、今度こそ紫は去って行った。
やれやれ、キチンと言えて良かった。
そう思いホッとしていると、後ろからどこか悪戯っぽい楽しげな声が聞こえて来た。
「あらあら、流石霖之助さんね。紫のあんな顔、私でも今まで見た事無かったわよ?」
いつの間にやら、幽々子が直ぐ傍まで来てふわふわと浮いていた。どうやら料理は全て食い尽くされてしまったらしい。
僕はもはや言葉も無く、新たに追加の六百人前の料理を召喚したが、驚く事に、組んだ手に顎を乗せた幽々子は、愉快気に微笑んでいるだけで料理に手を付けようとしていない。
「!? ど、どうしたんだい幽々子? まだ満腹と言う訳ではなさそうだけど……もしかして同じ物ばかりで食べ飽きて来た……とかかい?」
声が震えるのを自覚する。
飽きが来ないように味付けを工夫したという思いはあるが、それを差し引いても幽々子が目の前の食べ物に手を出さないなんて異常事態だ。
もしや、何かとんでもない異変が起こる前触れなのでは……?
「あら~? 期待してた反応と違うわねぇ」
「あの、幽々子様……大丈夫ですか? もしやお体の具合が悪いんですか? 霊夢に言って母屋の方で休ませて貰いましょう!」
「メェ~!」
「あ、あなたたちまでぇ!?」
決然とした表情の妖夢が幽々子を抱えて日輪の背に乗せ、日輪もまた普段は見せないキリっとした表情で背に乗せた幽々子を素早く、そして揺れ一つ起きない丁寧さで運んで行く。
幽々子は「別にどこも悪く無いのに~!」と言う言葉を残して運ばれて行った。
幽々子自身に自覚症状は無いようだが、大事を取るに越した事は無いだろう。
何事も無ければよいのだが……。
出店の仕事を出店放り出すわけにも行かないので、僕は料理を作り続けたが、同時に幽々子の無事を願い続けた。
「―――叢雲さん、誰かツッコんだ方が良いんじゃないです?」
「良いんじゃないでしょうか? 今回の場合、幽々子さんの普段の行いからの勘違いですし」
『ていうか、マスターは見れば相手の体調なんて一発で分かるんじゃないかなぁ?』
『それだけ動転していたという事である』
『放っておきなさいよ。別に事件でも何でもないんだから』
叢雲と邪神たちが何やら話し合っている。
実際の所、僕も目で確認したから幽々子が体調不良などでは無い事は判っているのだが……それでも不安にもなる。
何せ、幽々子が食事に手を付けなかったんだからね。もはや天変地異みたいなものだ。
そう言えば、結局幽々子は何が言いたかったんだろうな?
次回こそ七夕祭り編を終わらせてやる(決意)
タダでさえ投稿ペースが落ちているのに、これ以上グダる訳には行かないんでな。
紅魔郷、妖々夢、永夜抄が三部作構成なので、この作品も永夜異変解決の辺りを一つの節目にしようと思ってます。
と言っても、別に完結させるわけではありませんが。
そろそろタグの「FGO」をもっと生かしたいんじゃあ~。