東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~ 作:騎士シャムネコ
本体の僕が、ツィツィミトルたちの後を追って異世界へと旅立ってから、一月ほどが経った。
その間の幻想郷はどうだったかと言うと、まぁ概ね平和だったと言って良いだろう。
細々とした、妖怪たちの起こす小さな事件はいくつか起きたが、いつも通り霊夢や魔理沙が解決したので問題無い。
僕の方も、竜信仰の祭神として人里の住人たちから拝まれるのにもいい加減慣れてきたところだ。
とは言え、あまり多く来られても気疲れしてしまうが……幸いにも僕が普段居る博麗神社は、滅多に人が来ない幻想郷の辺境だ。
一日に数人から十数人程度の参拝客を相手にするだけで済むため、大分気楽である。
もっとも、その程度の人数でも参拝客が沢山来たと言って、霊夢は大喜びしていたが。
この一か月ほどの僕の日常は、態々博麗神社まで僕を拝むためにやって来た参拝客の相手をし、それ以外の時間は無縁塚で見つけた後積み本状態だった魔導書を読み進めながら、霊夢や神社に遊びに来る魔理沙やレミリアたちの話し相手をしたりなどだ。
この一か月の間に、僕は『屍食教典儀』という魔導書を読破し、現在は『ニューイングランドの楽園における魔術的驚異』という、些か長いタイトルの魔導書を読み進めている。
『屍食教典儀』を読んだ感想は……うん、あれは山羊では無いな。
などと考えていると、魔理沙が神社へとやって来るようだ。
何故そんな事が判ったのかと言うと……。
「おーい香霖! また新しい魔導書か? 私にも見せてくれよ!」
『魔理沙、僕が読み終わらない内はダメだよ。読み終わった物なら写本してあげるから、それまで待って居なさい』
「えぇー、読み終わっているんなら原本の方を見せてくれよ」
『見せたらそのままいつもの様に、死ぬまで借りて行くつもりだろう? その手は食わないよ』
「ちぇ、香霖のケチ」
『写本を作ってあげるんだから、文句を言うんじゃ無いよ』
「お、なら写本はタダでくれるのか?」
『もちろん、お安くしておくよ』
「あげると言っておいて金取るのかよ!? この守銭奴め!」
『商売人と言いて欲しいね』
魔理沙と僕がそんな会話をしているが、会話をしているのはこの僕では無い。
魔理沙が会話している相手は、魔理沙の肩に止まっている、小さな白いドラゴンであった。
僕の本体が幻想郷を離れて数日。
本体がツィツィミトルらの後を追い、幻想郷に帰還するまで長くなりそうだと判断した時点で、僕は香霖堂の運営の為に追加で写身を召喚した。
とはいえ、白銀竜が複数いるのは人里視点から見て不自然だし、そもそも白銀竜のサイズでは店の中に入れない。
普通に人型の僕自身の姿取れば良いだけなのだが、何となく本体以外の僕を人型にするのは気が引けたため、別の方法を取る事にした。
それこそが、『白銀竜小竜形態』。
手乗りサイズのドラゴンの姿である。
僕の作った彫像を体にしている煙晶竜の姿を見て以前から、巨大化方向のドラゴンの体だけでなく、小さなドラゴンの体での行動にも興味があったのだ。
実際になってみた結果だが、これが意外と快適なものだった。
それに何もかもが自分よりも大きいと言うのは、子供の頃を思い出して、世界がより広く大きく感じられて楽しくもあった。
……楽しかったのだ。霊夢たちにこの姿を発見される数時間前までは。
小さな姿のまま店の中をあちこち見ていると、そこへ霊夢や魔理沙、更に申し合わせたかのようにレミリアと咲夜、紫と幽々子と妖夢、おまけに文と萃香と幽香までもが、一度に店を訪れたのだ。
―――そして、そこからが酷かった。
僕の姿を目にした霊夢は、異変解決時を思わせる凄まじいまでの体捌きで、誰よりも早く小竜の僕を確保しようと動いた。
だが、霊夢が僕を掴み取ろうとした次の瞬間、『ショート・ジャンプ』で転移した魔理沙が一瞬早く僕を鷲掴みにして確保した。
しかし、魔理沙が更に次の転移でその場から離脱しようとしたその時、一瞬早く咲夜が時間を停止させ、停止した時間の中を悠々と歩いて魔理沙が握り締めた僕を奪い取った。
僕を奪い取った咲夜は、そのままレミリアを抱えて逃走しようとしたが、いつの間にか楼観剣を抜き放った妖夢が黒刀を煌めかせながら咲夜に迫った。どうやれ時空結晶の組み込まれた楼観剣の能力で、咲夜が停止させた時間に介入して来たようである。
魔理沙にしろ、妖夢にしろ、僕の改修した道具を良く使いこなして来ているなぁ、と感心している間に、妖夢の接近に驚き時間停止を解除してしまった咲夜に幽々子が忍び寄り、そのまま妖夢に注意を向けた咲夜の意識の隙を突き、するりと僕を抜き取った。
と、今度は物凄い力で僕の体が萃香の元へと吸い寄せられた。どうやら僕自身に対して萃める能力を使用したようだ。
驚きの吸引力で引き寄せられた僕は、萃香の手に収まる寸での所で、同時に伸ばされた二つの手によって弾かれてしまった。二つの手の持ち主は、それぞれ文と幽香である。
同時に掴もうとして、しかしお互いの手が勢い良くぶつかって掴み損ね、その時思いっきり弾き飛ばされた僕は、高速回転をしながら宙を舞う事となった。
ああ、回る。世界が廻る。
普段認識する者はあまりいないだろうが、世界と言うものは常に回転の中にある。
惑星の自転と公転、そして僕たちの住む太陽系もまた、銀河の中を回っている。
回転と言う力は、人類や妖怪、そしてあるいは神々が生まれるよりも前から、僕たちと共に常に在り続けた大いなる力なのだ。
ああ、見える。見えるぞ! 直線と曲線の織り成す、美しい黄金比の図形が。
それは二次元的な平面から、三次元的な立体へ、そして四次元的な奥行きを持つ超常へと昇華する無限の螺旋。
ああ、理解した。今こそ僕は理解した。黄金の如き美の真理を。
それは過去、現在、未来を通し、全ての芸術家が……いや、美しきものを美しいと感じ追い求める、全ての生命が辿り着くべき場所。
黄金長方形によって導き出される、無限回転の螺旋―――ッ!!
と、そこまで思考したところで、空中に開いたスキマに落っこちた僕は、そのまま紫の手の中に納まり抱きしめられた。
「えっと……大丈夫? 霖之助さん」
『……まぁ、何とかね。ありがとう紫』
途中で思考が異次元に跳びかけていた気がするが、僕は元気だ。
そもそも小竜とはいえ、この程度でどうにかなるほどドラゴンの体は軟じゃない。
……とは言え、だ。
『君達……言いたい事が沢山あるから、奥に来なさい』
この後、僕をまるで玩具みたいに奪い合った者達全員に正座をさせてお説教した。
僕がくどくどとお説教をするなんて、相当珍しい事だよ?
が、二時間ほどお説教をしても全員全く堪えた様子が無く、その上で全員が小竜形態の僕を欲しがった。
だから僕は玩具でもぬいぐるみでも無いとあれほど……。
はぁ、まぁ良いか。写身をいくら増やしたところで、僕の力が分散して弱くなるだの、写身たちから送られる情報量のせいで、僕の脳がオーバーヒートを起こすって訳でも無いしね。
そんな訳で、幻想郷には現在あちこちに小竜の姿の写身たちが存在している。
一番大変なのは……アリスとフランの所の僕かな?
フランにせがまれたアリスが日夜小竜の僕に着せるための衣服を作っており、結構な頻度でその衣服の納品の為に紅魔館を訪れている。
そしてその度に僕は着せ替え遊びに付き合わされているのだ。
アリスとフラン、それぞれの所の僕がタキシードとウェディングドレスを着せられて並べられた時は、心を無にして耐えるのに苦労したなぁ……。
ま、そんなちょっとしたトラウマの話は置いておこう。
思い出したくない記憶の一つや二つ、あっても良いじゃないか。
……紅魔館の僕のトラウマは、日常的に増えて行きそうだけど。
そんな事を思い出していると、神社の縁側で霊夢とお茶を飲んでいた魔理沙が質問して来た。
「……なぁ香霖。本体の香霖が居なくなって一月くらい経つが、いつになったら帰って来るんだ?」
「私も気になるわね。いつになったらお土産を持って来てくれるのかしら?」
『いつになったら、か……』
『霊夢……気になるのはお土産なのかい?』
霊夢と魔理沙、それぞれについている僕が答える。
少し不安げに聞いて来た魔理沙と、全く心配していない様子の霊夢が対照的だった。
心配をかけたい訳ではないが、全く心配されている様子が無いと言うのも微妙な気分だなぁ。
『後一か月もしない内に決着がつくだろうから、心配はいらないよ。魔理沙』
『お土産はいくつか見繕っているけど、お勧めは『竜泉』って言うお酒かな? まぁ楽しみにしていると良いよ、霊夢』
僕の本体は今、戦国時代末期頃の東北の山奥に
相手方も多勢に無勢だが、召喚した味方たちも精鋭揃いだ。
そう遠からず決着がつくだろう。
「そうか……何にせよ、早く帰って来いよな」
「『竜泉』? 聞いた事の無いお酒ね。どこのお酒なの?」
霊夢が『竜泉』について尋ねて来る。
まぁ、知らないのも無理はない。
今僕が居る特異点は、この世界には存在しない土地なのだからね。
僕は霊夢に、本体が居る土地の名前を教えた。
『今居る土地の名前は『葦名』だよ』
『大きな城のある雪国でね。こっちは夏だけど、向こうでは普通雪が降るから少し不思議な気分だよ』
小竜形態はデフォルメした『幻龍王・ゼローグ∞』って感じですかね?(前方に湾曲した二本角があるし、翼が六枚あるし)
現在小竜形態の写身たちは、幻想郷に二十体くらい居るので、もしツィツィミトルたちが幻想郷に攻め入ったら地獄を見る事になるでしょうねw