東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~   作:騎士シャムネコ

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ハーメルンよ、私は帰って来た!


第六十五話 「転生香霖の統べる空」

「わっと……はは、すごいですね! ちょっと怖いけど、風が気持ちいいなぁ」

「ふふ、楽しんでいただけているようで何よりです。ですが立香殿、はしゃぎ過ぎて落ちない様に気を付けて下さいね?」

「はい!」

 

 

 はしゃいだ調子の立香の声とそれを嗜める巴の声が響くも、それらは直ぐに風に流され掻き消えた。

 それもそのはずだ。何故なら立香たちは現在、特異点『葦名』の空を高速で飛行しているのだから。

 

 

 

 霖之助に召喚された『剣豪降臨』のサーヴァント、巴御前との挨拶もそこそこに、立香たちカルデアメンバーは霖之助の用意した移動用の大型モンスター『ロック鳥』の背に乗り込み飛び立った。

 ライダー系のサーヴァントたちの持つ、様々な騎獣に同乗した経験のある立香であったが、ここまで巨大な鳥の背に乗った経験は無く、ロック鳥の羽毛の感触と空から見下ろす『葦名』の景色を純粋に楽しんでいた。

 とは言え、警戒を怠っている訳では無いが。

 

 

「……それにしても、天気が悪いな」

「全くよ、こっちの気分まで滅入りそうだわ」

 

 空を見上げながらポツリと呟いた立香の言葉をジャンヌ・オルタが拾う。

 事実、葦名の空は暗い曇天に覆われ、時折ゴロゴロと言う音が響き、稲光が走っていた。

 雷でも落ちて来そうだな、と心配する立香に対して、巴が微笑みながらその心配は無いと説明した。

 

「天気の事でしたら心配は無用ですよ。何せこの雷雲はキースが作り出した物ですからね」

「霖之助さんが?」

「はい……おや、これは丁度良い。皆様、あちらをご覧ください」

「「「「「?」」」」」

 

 

 丁度良い、と言った巴が彼方へと指を指す。

 その先には、立香たちが乗っているロック鳥よりも一回りか二回りほど小さなドラゴン達が数匹一塊となって飛んでおり、ドラゴン達は立香たち目掛けて飛んで来ているのが見えた。

 

「襲撃っ、アーラシュ!」

「おう、任せな!」

 

 その姿を見るや否や、立香は瞬時に弓兵であるアーラシュに指示を出す。

 向かって来るドラゴンは全部で五頭。

 どれも立香が初めて見る種類の物であり、その大きさは現在背に乗っているロック鳥に比べると幾分小さい。

 それでもなお人間なら一度に複数人を飲み込めるであろう程の巨大さだったが、立香は臆することなくドラゴン達を見据え、冷静に観察していた。

 

 その姿を見て、弦一郎は「ほう…」と感心した声を上げる。

 弦一郎から見て立香は荒事とは無縁の、ごく普通の青年であるように感じられた。

 だが、いざ敵を前にした立香は恐れる事も油断する事も無く、敵と周囲の状況を観察しどのような指示を出すべきか冷静に考えている。

 その姿にはある種の風格が感じられ、彼が歩んで来た道のりが決して楽なものではなかった事と、そこで培われた経験の深さを察せられた。

 

 戦場での立香の姿を見た事で、頼もしい味方が来てくれたと喜ぶ弦一郎。

 また、召喚時に与えられた知識によって『東方の大英雄 アーラシュ・カマンガー』の伝説を知っている為、同じ弓使いとして生まれた時代も地域も異なる異境の英雄の腕前を見られる事を楽しみにしていた。

 

 立香たちが乗るロック鳥と、迫りくるドラゴン達の距離はまだかなり離れており、ドラゴン側からの攻撃が届く事は無い。

 しかし、ドラゴン達にとっては射程の範囲外であろうと、アーラシュにとっては余裕で届く距離だ。

 赤い弓につがえられ、引き絞られた矢は瞬く間にドラゴン達を射抜くだろう。

 今まさにアーラシュの矢が放たれんとする中、しかし彼を止める者が居た。

 

「お待ちをアーラシュ殿、手出しは無用でございます」

 

 そう言って巴が、弓を構えるアーラシュの腕にやんわりと手を置く。

 ドラゴン達から視線を外さないまま、横目を向けて何故と問い返そうとするアーラシュに、巴は柔らかく微笑みながらこう続けた。

 

「先ほど申し上げた通り、この葦名の空は今やキースの支配下です。その下を敵対している者が不用意に飛べば、ほらあの様に―――」

 

 

 言葉の途中で立香たちの視界が真っ白に染まる。

 それに驚く間もなく、一瞬の後には大気を(つんざ)く様な雷鳴が鳴り響き、視界が回復するとそこには落雷に打たれて黒焦げとなったであろう五匹のドラゴンが、断末魔の叫びを上げる事すら出来ずに、黒煙を上げながら墜落している所であった。

 

「――と、このように葦名の空を堂々と飛べるのは我々キース側の勢力の者のみです。ですので皆様方は、安心して空の旅をお楽しみください」

 

 そう締めくくった巴を前に、カルデアの面々は驚愕と畏怖を禁じ得ない。

 特に雷神の息子である金時は、空に浮かぶ雷雲やドラゴン達を打ち据えた稲妻を通して、それを操る霖之助の力の片鱗を強く感じ取っていた。

 

「……こいつぁおったまげた。マスターやジャンヌの姐さんから色々聞いちゃいたがとんでもねぇな! 下手な雷神よりもずっとゴールデンだぜ!!」

「? そのごーるでんと言うのは良く判りませんが……そうですね。キースは下手な鬼神よりも鬼神染みていますし、その評価は間違っていないでしょう。元はただの人間だったはずなのですけどね」

「霖之助さんは確か人とドラゴンの半妖……何でしたっけ?」

「ええ、そうですよ。半分人で半分竜、今は信仰される側でもありますから、神性まで持っていますね」

「竜と神……だったら、金時とちょっと似てますね」

「おや、そうなのですか?」

 

 巴の説明を聞き、立香は金時の出自を思い出してそう呟いた。

 首を傾げて聞いて来る巴に、立香に代って金時自身が説明する。

 

「ああ、オレっちのダディは雷神であり、龍でもあるからな。神性と竜種、両方の特性をオレも持ってんだよ」

「おや、そうだったのですか。何とも奇遇な話ですね――おや? あれは……」

「? どうしました?」

「―――奴か」

 

 

 話の途中で、巴は何かに気付いた様子で彼方へと視線を向ける。

 つられて見ると、そこには離れて居て尚その巨大さがうかがえる、自分たちが乗るロック鳥とはまた別の種類の巨大な鳥が飛んでおり、その背には何者かを乗せている。

 弦一郎はその何者かを知っている様で、視線を鋭くしてどこか忌々しげに呟いていた。

 そんな弦一郎の姿に、事情を知っている巴は仕方ないなとばかりに苦笑してた。

 

「ああ成程、彼ですか。皆様ご安心ください、あちらの彼もまた私たちと同じ、キースに召喚されたサーヴァントの一人です」

「彼、って事は男の人なんですか? 俺の目だと良く見えないですね……アーラシュは?」

「ああ、見えてるぜマスター。少し煤けちゃいるが、橙色の服を着て腰と背中に刀を差した男が一人乗ってる。どことなく小太郎の服装に似ている気がするな」

 

 立香の質問に、千里眼を持つアーラシュがそう答える。

 アーラシュは服装のデザインを説明する際にカルデアの仲間であるアサシンクラスのサーヴァント、『風魔小太郎』を引き合いに出したが、ある意味で正鵠を射た発言であった。

 小太郎と同じく、彼もまた『(しのび)』なのだから。

 

 

 橙色の服を着た彼も立香たちの存在には気づいていたが、彼は急ぐ用事があった為乗っていた巨鳥の背中を軽くたたいて先を急がせた。

 生身の人間である立香では耐えられないであろう速さで巨鳥が遠ざかっていく。

 彼らがの姿が小さくなる中、巴は気を取り直してみんなに声を掛けた。

 

「さて、彼も行ってしまいましたし、私たちも急ぐとしましょう。皆様、彼について気になるでしょうが、彼については城で顔を合わせた時にでもご紹介いたします。ここで説明すると、弦一郎殿がますます不機嫌になってしまいますからね」

「……俺は不機嫌になどなっていない」

「そんなしかめっ面で言っても、説得力がありませんよ。弦一郎殿?」

 

 眉間に皺を寄せながらそう返す弦一郎に対し、巴は手の掛かる子供を見る様な笑顔で嗜める。

 その笑顔を向けられて、弦一郎はバツが悪そうに顔を背けていた。

 

「えっと……弦一郎さんとあの人? は、仲が悪いんですか?」

「生前の因縁と言う奴ですよ。お互い恨み骨髄と言う訳では無いのですが、和解するまでには至っていないのです」

 

 立香がヒソヒソと巴に訊ね、巴もヒソヒソと返す。

 もちろん直ぐ近くに居る弦一郎にも会話の内容は聞こえていたが、あまり話題にはしたくない為務めて聞こえないふりをしていた。

 

 

 

 

 

 ―――ともあれ、その後は大きなアクシデントも無く、一行は目的地である葦名勢力の拠点『葦名城』へと到着した。

 

 森近霖之助と藤丸立夏、二人の召喚者(サモナー)たちの再会の時は近い。




大分お待たせしましたが、ぼちぼち続きも書いて行こうと思います。

ハーメルンで二次創作を、なろうでオリジナル作品を書いていますが、両方やるのは闇ですね。
この数か月、続きを書こう書こう思っていましたが、オリジナル作品の方が迷走して評価が下がった辺りで、「書いたところで二次創作の方も評価が下がるだけなんじゃ」とか「続きを書いてもつまらないと言われるだけなんじゃ」とか「そもそも私程度が二次創作を書くなんて原作に対して失礼なんじゃ」とか、そんな考えばかり浮かんで書く気力がなくなると言うのの繰り返しでした。

そんな折、読者の一人から直接メッセージをいただきまして、「ああ、私なんかの拙い物語でも、待ってくれてる人が居るんだなぁ」と思い、何とか今回の話を書き上げました。

次回もまたいつ更新出来るかは判りませんが、これからも拙作『転生香霖堂』をよろしくお願いします。
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