ヤンデレゲットだぜ!   作:デンジャラスzombie

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みんなもダークライ一匹でジムをクリアして、ダークライ一匹で大会を勝ち抜いてポケモンリーグ優勝を目指そう!


VS調教1

 そこは異様な空間だった。1メートル先すらも見えない暗闇の中、辛うじて足元だけが薄明かりに照らされた長い回廊。胸を締め付けるような重苦しい空気。そんな場所でただ一人ポツンと突っ立っていた。いつも身につけている筈のモンスターボールはホルダーに一つもなく、誰一人として彼の呼びかけに応えるものは居ない。

 カブトは混乱していた。何故ならば自分はつい先程まで『はとばのやどや』で宿泊手続きを取っていた筈だったからだ。考えられる可能性として挙げられるのは、何者かに誘拐されたか、これは全て夢かのどちらかだと考えられる。しかし、この場所は夢にしてはやけにリアルな質感を持つ。だが、誘拐だと断ずるには些か無理がある。誘拐について精通している訳では無いが、少なくとも拐った子供を縛りもせずに廊下に放置などあり得ない。何より、荷物がポケモン以外奪われていないのもさらに不審を煽る。ならば此処は何処なのか、何故連れてこられたのか、一体何が目的なのかなどの疑問が溢れ出す。

 

 そして暫く考えた後、カブトは思考放棄した。わからないものは分からない。世の中そんな物だと。だが、ただで思考放棄した訳では無い。自身の身につけた波導パワーを使って探索を試みたのだ。波導パワーなら距離も暗闇も無視して探索できるので頼りにしていたのだが、しかし結果は惨敗。何故か波導パワーが使えなくなっていた。枯れ果てたのなら死んでいる筈だし、封印できるなど聞いた事もない。

 こうして、脳内オーバーフローしたカブトは考える事をやめた。是非もないよね……。

 

 遭難した時は不用意にその場から動かない方が良いと言われているが、彼は左手を壁に添えて出口を求めてこの長い回廊を歩き始めた。救難が期待出来ない以上、彼にはこの場所を探索する以外選択肢は残されていないのだ。

 いくら頭グランデシアとはいえ、訳の分からない現象の起こる、訳の分からない場所に一人放置されたのは中々堪えた様だ。いつものポワポワした顔が今回ばかりは引きつっている。

 

 

 暫く何一つ代わり映えの無い回廊を歩いていると、やがて一つの違和感を覚えた。

 ズルズルと何かを引き摺る様な怪音。何者かが後ろから付いてきている。それだけでは無く、薄らと不気味な赤い霧も出てきた。カブトは一刻も早くこの場から走り去りたい気分に駆られたが、下手に走ると後ろから迫る何者かを刺激する可能性もある。それにまだカブトについてきていると決まった訳では無い。もしかしたら自分と同じ様に連れてこられた人間かも知れない。望みは薄いが……。

 …………この際背中に感じる人ならざる雰囲気は目を瞑る。ちょっとでも後ろの存在に意識を回すと気が狂いそうだった。

 

 

 歩みを止める。

 

 引き摺る音も停止する。

 

 再び歩き出す。

 

 音も再び動き出す。

 

 止まる。

 

 音も止まる。

 

 進む。

 

 音も動き出す。

 

 止まる。

 

 怪音は止まらない。

 

 

 

 

 堪らず全速力で駆け出していた。一瞬だけ視界の端に写った追跡者の姿。およそ生物では有り得ない程ドス黒い赤色の体色をしたそれは、無数に生えた触手を揺らし此方を見ると大きく見開かれた巨大な一つ目を細めてニヤリと笑った。

 

 

 

 どれ程時間が経っただろうか。怪物から出来る限り距離を離す為に常に全速力で走り続けたカブトの体力はもう殆ど底をついていた。幾ら超マサラ人といえど人の形を保っている以上体力には限界がある。遂に地面に膝をつけてしまった。地面に倒れ伏している間に必死で伸ばした距離も徐々に詰められつつある。このままではやがて追いつかれてしまうだろう。

 

 もう、楽になっても良いよね……、思わずそんな言葉が零れ落ちた。無理もない。かなり長い時間、怪物から常に全速力で逃げ回っていたのだ。距離を開く事は出来ても一切見つからない脱出の糸口、怪物の無尽蔵の体力、そして何よりも冒涜的なその容姿。それら全ての要因が合わさり、カブトの精神をゴリゴリと削り取っていく。

 長きに渡るデッドエンドチェイスにより力尽きたカブトは、壁に寄り掛かるとそのまま動かなくなる。もはや指一本たりとも動かせない。怪物がその体を引き摺りながら段々と距離を詰めてくる音が聞こえて来る。

 絶対絶命のピンチ。しかし神はまだ彼を見捨てていなかった。

 

 

『貴方の寄り掛かっている壁は扉になっています。中に避難してください!』

 

 突如として響き渡るこの場に似つかわしくない明朗とした声。大きな声を出されると人は反射的に行動してしまうもの。突然の声に驚き、飛び上がったカブトはなけなしの力を振り絞り背後の壁を全力で蹴り飛ばした。人間版『メガトンキック』により壁に擬態していたドアが開かれ封じられていた部屋が解放される、と同時にその中へとカブトは転がり込んだ。

 

 部屋に入ると自動で閉まるドア。少なくとも此処には怪物は入ってこれないと安心し一息つく。そんな彼に何処からとも無く声が掛けられた。

 

『カブトさん、カブトさん、私の声が聞こえていますか? (ファミチキください)』

 

「(コイツ、直接脳内に⁉︎)」

 

 脳内に語りかけると言う無駄のない無駄な行為を披露してくれた謎の声さん。正直色々なことが起こりすぎて何が何やらさっぱりわからない、と言うのが本音だ。特に救いの手となり得る謎の声が脳内に直接ファミチキください、などとほざき始めた日にはもうどうして良いか分からない。脱出系のゲームにおいてナビゲーターは基本、しかしファミチキを要求するのは前代未聞。

 

『この悪夢から脱出する為には私の言葉に従ってください。此処は一見安全に見えますが長居は危険です。早急に立ち去る事が吉です』

 

「ちょっとまって下さい、貴方は誰ですか? そしてなぜ此処が悪夢だと? 追って来る怪物は何者ですか?」

 

 謎の声はこの部屋からすぐに立ち去る事を勧めるが、カブトは一刻も早くこの訳の分からない状況に対する説明が欲しかった。

 

『分かりました。諸々説明致しましょう。先ずは自己紹介を。私はクレセリア。貴方をダークライの作り出した悪夢から救いだす救世主となるべく参上しました』

 

「ダークライ、クレセリア……聞いた事がないです。どんなポケモンですか?」

 

 キッサキシティという辺境の地に住むが故の無知。ミオシティ周辺にしか出没しないマイナーな幻ポケモンダークライや、クレセリアなどカブトは知る由も無かったのだ。まぁ、出現地方はシンオウ全土だぜ! というのはそれはそれで幻としてどうかと思うが。

 

『悪夢を引き起こすポケモンと、悪夢から覚ますポケモンとでも覚えていただければよろしいかと。今は詳しい説明は割愛致しますが、この悪夢の中で死ぬと現実世界でも死にます。この悪夢に長く留まり過ぎると二度と目覚めません。それだけは肝に銘じてください』

 

「え……何それこわっ……」

 

 悪夢で死ぬとかそれなんてホラゲーだよ、と恐れ慄くカブト。特に今は現実世界での身体能力が発揮できない場所にある。これから先もあんな怪物に襲われ続けるのは流石に勘弁願いたかった。

 

『大丈夫、安心してください。私が貴方を必ず現実世界まで導きますから。私を信じてください』

 

 そう言うと、ナビゲーター・クレセリアはカブトに部屋を出る様に指示をする。カブトはこの頭に流れる謎アナウンスを怪しみながらも、今はこれに縋るしかないのでその指示に従った。

 

『そこの壁を押してください』

 

『右方向から怪物が近づいてきています』

 

『ヒメグマのぬいぐるみの手をもいでください』

 

『手を貸して欲しいと言っている料理人に先程もいだ手を渡してください」

 

『そこの扉に先程拾ったガマガルを入れてください。ハブネークの餌にして囮にします』

 

 指示に従うと、先程までと比べて圧倒的に安全に進める様になった。何やら悪趣味な仕掛けが満載だったが。

 手を貸して欲しいとほざく先程の怪物と似た体色をした人型の料理人には、「他の物で代用しろ。例えば自分の頭を使うとかさ!」とアドバイスを送ると何故か突然自分自身の頭を切り落とした。めっちゃ怖い。

 切り離したヒメグマの手を落ちていたアロンアルファで付け直したら現れた幽霊は成仏し、囮に使ったガマガルはハブネークとのバトルの最中にガマゲロゲに進化した。多分道中の生物(?)とバトルさせたから経験値が貯まったのだろう。バトル中の進化は勝利フラグ、当然ハブネークが勝てる道理は無く瞬殺されていた。ガマゲロゲは子供のオタマロと共に水の中へと帰った。今頃家族揃って幸せに暮らしているだろう。

 

「クレセリアさん、ありがとうございます。貴方のお陰でガマゲロゲは家族の元へと帰れましたし、僕もここまで安全にたどり着く事が出来ました」

 

『何か予想と違う結末ばかりでクレセリアちゃんお口あんぐりなんですけど……』

 

 これがカブト君の右手に宿る異能、シリアスブレイカーですか? まずはそのふざけたシリアスをぶち殺す! 

 

 クレセリアとしては、ダークライの悪夢でSAN値がゴリゴリと削り取られて憔悴したカブトを優しく励まし自分に依存する様に仕向ける計画の筈だったのだ。そしてそのままクレセリアの住処で二人だけで暮らすのだ。クレセリアは無理矢理事を運ぶ事を望まない。望む事はただ一つ。自発的にカブトが自分を求めてきてくれる様になる事、それだけだ。本人から求めてきてくれるなら他の女に靡く心配も無く、縛り付けておく手間も省ける。そして何より自分好みのタイプに塗り替える事が出来る。その為に、まず最初に本来ならもっと早く救出できた所を自分の無力さを痛感して絶望し、心が折れるまで放置しておいたのだ。

 絶対絶命のピンチに助けに来るヒーロー、クレセリアちゃん。吊り橋効果も合わさり確実にクレセリア無しでは生きていけない体になること間違い無しの筈だったのだ。

 しかしどう言う事だ! 与える筈の絶望値が少な過ぎる! 特にここ最近。ハッピーエンドルートの構築に入っているじゃないか! SAN値回復し始めたぞ! もっとちゃんと働け、ダークライ。

 

 自分の事を棚に上げて心中ダークライを罵るクレセリア。しかしダークライを恨んでも仕方がないと察して次の計画へと移行する。

 

『ここから先ですがカブトさん、先ずは…………『デテイケ』…………へ? 『ココカラデテイケ』……今更何を言い出すかと思えばそんな……『ココハ私ダケノ庭ダ‼︎』……ちょっ! まっ! ……うわぁ!』

 

「クレセリアさん⁉︎クレセリアさんどうしたんですか⁉︎返事をしてください⁉︎」

 

 だが幾ら呼びかけてもクレセリアからの反応は返ってこない。この状況から察するに恐らくこれからクレセリア抜きでこの悪夢を攻略する必要があるのだろう。カブトの表情は苦々しい物へと変化する。これは厳しい戦いになりそうだ。

 

 しかし、思ったより早く通信は復旧する事になった。

 

『あー、あー、もしもし、聞こえていますか? カブトさん? 私です。クレセリアです。何とか無事ですので引き続き脱出のお手伝いを致します』

 

「クレセリアさん! 無事だったんですか!」

 

 思わず大声を上げてしまう。カブト自身も本人の認識以上にクレセリアに対して依存していた様だ。あと一押しだったかもしれないのに残念な事だ。

 

『はい、クレセリアです。無事です、全然無事です。では早速行きましょう。余り時間も残されていませんし』

 

 カブトはクレセリアの指示に従い再び悪夢脱出への道を歩み始めたのだった。




カブト
悪夢の中でリアル脱出ホラーゲームを体験中。これが最新式のVRなのか……!

クレセリアちゃん
自分に依存させて自分無しでは生きられない体に作り替える系のヤンデレ。カブトに張り込んでいたからダークライの悪夢はある意味幸運だった。悪夢がなければ、夢の中で色々な物を与えて夢から覚めたくないと思わせて閉じ込める予定だった。

ダークライ
まさかのセリフ数回のみ。映画のイケメンダークライをもっと見習ってどうぞ。

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  • 赤い妹『ボクのお兄ちゃんになって!』
  • デオキシリボ核酸『ワタシになって!』
  • 最強抜け殻龍『私だけの英雄になって!』
  • 鬱ロイド『ワタシヲマモッテ……?』
  • 無邪気『何人殺せば好きになってくれる?』

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