あまり出来はよろしくないですが許してください何もしませんけど
ダークライの悪夢から抜け出した次の日、カブトはいつもの様にユキちゃんが凍らせた自身の身体を起床と同時に解凍して目を覚ました。
自身の寝ていた凍りついたテントを爆散させて這い出たカブトは、大きく伸びをするとある違和感を感じて周りを見渡した。前を確認し、右を見て、左を見て、後ろを見て、そしてもう一度前を見る。そこまでして漸く気がついた。
「何で辺り一面雪景色なんですか⁉︎」
そう、世界が真っ白なのである! 懐かしき故郷、キッサキシティを思い出させる様な大雪原。だが、此処はまだミオシティからそう離れていない場所。ましてや今の季節は冬では無い。となると真実はただ一つ、ポケモンの仕業である。しかし、この様な大雪原を作り出す事は並みのポケモンではほぼ不可能。自ずと絞られてくる。
カブトの近くにいて強力な氷タイプの技が使えるポケモン。此処まで来れば知能指数に『むらっけ』があるカブトでも答えを容易く導き出せるはず……。
(どんとこい超常現象……何が起こったかさっぱりわからないデスゥ……)
いかにも、「そうか! 分かったぞ、犯人が!」みたいな顔をしているカブト少年10歳。その実何も分かっていなかった。どうやら今日は知能指数が低い日らしい。うっそだろお前!
しかし、答え合わせはあっさりと行われる事になる。カブトが起床と同時に粉砕した凍りついたテントから一人のポケモンが這い出してきたのだ。
『み、見誤っていたわ……。まさかカブトが起床するだけで半径20メートルの『ふぶき』と『あられ』が消滅するなんて……』
這い出して来たのはユキメノコのユキちゃん。カブトの手持ちであり、カブトに異常な程の愛情を持つポケモンだ。
彼女が今までの様にカブトのみを氷漬けにするのでは無く、これ程までに大規模な凍結を行った訳。それはダークライによる悪夢が関係している。カブトがダークライによって幽閉されている間、彼女たちカブトのポケモンも同じ様に悪夢に囚われていた。そこで彼女が見せられた悪夢はカブトが彼女の側から居なくなってしまう夢だった。
彼女は常々カブトを氷漬けにしてずっと側にいて欲しいと考えている。そんな彼女にとって、ダークライが見せた悪夢はクリティカルヒットそのもの。まさに『急所に当たった!』と表すのに相応しい代物だったのだ。
悪夢を見せられてカブトが側から離れていく事を恐れた彼女は、元より無かった周囲の存在への配慮を更に投げ捨てて氷漬けの範囲を広げる事にしたのだ。しかも、それだけでは飽き足らず氷の三重結界を構築するまでに至った。さらに加えて、他のポケモンの入ったボールを凍らせて開閉できなくした後に川に投げ込む徹底っぷりだ。タマゴはカブトが抱きかかえていたので奪う事は出来なかったが。
彼女も伊達に毎日失敗しているわけでは無い。成長しているのだ。その成長方向が根本的に間違っているのだが、それを指摘できる人は此処にはいない。結局、半マサラ人であるカブトの熱放射に打ち勝つ事が出来なかったのだが。
「おはようございます。ユキちゃん。何でテントの下に潜ってたんですか?」
能天気に朝の挨拶を交わすカブト。お前がテントを粉砕したからだよ! そんなツッコミを入れる事の出来る人は此処には居らず、辺りには気不味い沈黙だけが流れてしまう。
「どうしたの、ユキちゃん? もしかして体調悪いの⁉︎」
彼は心配そうな声をユキちゃんへとかける。しかし、ユキちゃんはその言葉には応えずフルフルと震えていた。そして……
『どうして……、どうしてなの? 何で貴方は私を置いて何処かへ行ってしまうの? 私の事が嫌いなの? 私には貴方しかいないのよ? なのにどうして大人しく私の物になってくれないの⁉︎どうして私だけの物になってくれないの⁉︎』
そう叫びながら彼女はカブトに縋り付いた。ひんやりとした感触を楽しんだカブトは、何か得心のいった様な表情を浮かべて彼女の頭をわしゃわしゃと撫で回す。
「ああ、怖い夢でも見たんですね。しかし、意外だな。あの『覇王は一人、このオレだぁ!』系のユキちゃんにこんな一面があるなんて。前々から少し思ってたけど案外寂しがり屋なのかな?」
何やら頓珍漢な事を言いながら彼はユキちゃんを励ましにかかる。中々覇王系ユキメノコとしての勘違いが解けない。しかし、噛み合わないのに噛み合っている事に定評のあるこの二人。ユキちゃんの返事はこの返答の更に上を行く。
『貴方は私だけの物。他の何者にだって渡さない……。だから貴方は早く私を受け入れて心の底まで凍りついて欲しいわ。大丈夫よ、安心して、氷漬けにしたらきっと動いていた時よりもっとずっとカッコよくなれる筈よ』
「そこまで言ってもらえると照れますな。けど、これだけは言っておくので心に留めておいてください。どんな事があろうと僕がユキちゃんから離れる事は無いですよ。この先、どんなに強いポケモンが加入しようと僕がユキちゃんを手放す事はあり得ません。この言葉に嘘は無いです。だから安心して欲しい。はい、大丈夫大丈夫!」
カブトはそうユキちゃんを励ますと彼女の軽い体を持ち上げて抱きしめた。ひんやりとした体に気持ち良さを感じつつも、彼女の後頭部に手を回して優しく撫でつける。
「心配しないで。僕が言うんだから絶対です!」
むふー、と自信満々に胸を張るカブト。ユキちゃんはその体に回された手から逃れようとジタバタしながら叫んだ。
『何よそれ、一体全体その根拠どこから湧いてきたのよ! 後、頭をポンポンするのやめて! いつまでも子供扱いしないでよ!』
「あははっ! 覇王系にイメチェンしても本性は隠せてないですよー」
『やーめーなーさーいー!』
抱き抱えられて頭を撫でられる事が余程恥ずかしいのか、彼女は顔を真っ赤にして手の中で暴れまわる。しかしその後すぐに力尽きたのか、それとも諦めたのかやがて為されるがままにされていた。その病的なまでに白い肌に赤みがさしている辺り本当に恥ずかしかったのだろう。
カブトからの熱いラブコール(圧倒的翻訳ミス)を受けて一先ず落ち着いた(?)ユキちゃん。
致命的にずれているが何故か和解が成立してしまったので、もうこれで良いんじゃ無いかな! (思考放棄)
今日も今日とてユキちゃんとカブトは平常運転です!
★★★★★★★★★
『これで108体目……。まだだ! まだ足りない! こんな程度の数じゃボクとカブトが結ばれない!』
メスのリングマの巨躯が鮮血を撒き散らしながら一匹の虫ポケモンの前に崩れ落ちた。その亡骸に目もくれずにその複眼を文字通り血眼にして次の標的を探す暗緑色の蟲。所々体が赤く染まっているのは返り血だろう。そして、そんな彼女に運悪く見つかってしまったゴローン(メス)。もう死ぬしかないじゃない!
キッサキペアが平常運転をしていた頃、メガヤンマのメガちゃんはカブトから離れた場所にて一人で草むらで野生のポケモンを惨殺し続けていた。
お前だけなんか世界観違うんだよ! こいつの周りだけ彩度が暗すぎる……。
バトルでは無い、文字通りの虐殺である。元々ポケモンの中でも倫理観がズレていて、カブトに近づく女を殺す事に昏い喜びを覚える様なジェノサイダーじみた部分があったものの、今までは暗殺がメインであり此処まで大っぴらにジェノサイドする事はなかった筈だ。
正直、今と昔どっちもどっちだと思うが……。まだ隠れて殺していた昔の方が良かったと言えなくも無い。
そんなジェノサイダーでシリアルキラーな彼女もまた、ダークライによる悪夢の影響を如実に受けていた。
彼女が見せられた悪夢、それはカブトが自分以外の他人と結ばれて幸せになるシーンを延々と見せつけられるものだ。普通の人やポケモンであるならばそれを祝ったりする事が出来るだろう。中には嫉妬したり絶望したりする者もいるかもしれない。だが、カブトガチ恋勢の一人であり、自分がカブトと結ばれて当然だと思い込んでいる彼女は他の有象無象とは格が違った。
彼女はその悪夢を経て、ある考えへと至ったのだ。その考えこそが先程の大虐殺へと繋がる。即ち、自分以外の女がこの世から一匹たりとも居なくなれば自分が結ばれる以外あり得なくなる、という考えだ。
ユキちゃんにボールごと川から流された彼女は、高まりに高まったカブトへの愛の力バフでボールをこじ開けてボールを覆っていた氷を全て破砕した。その過程で一緒に流されていた他のボールの氷も溶けてしまったが……。
彼女はカブトとの繋がりを感じる事の出来る大切なボールを丁寧に回収した後、目についたメスポケモンや女をジェノサイドしまくって今に至るという訳だ。
『お前達が悪いんだ。それがたった1%以下の確率であろうとも、お前達が生きてることでボクとカブトが結ばれなくなる未来ができてしまうのなら、それは生きているお前達が悪い。お前達は生きている事自体が罪なんだ。ボクはさっさと女どもを皆殺しにしてカブトを迎えに行かなきゃならないのに生きてる価値の無いゴミが一々手間掛けさせるなよ!』
呟くにしては大きすぎる声に露骨な苛立ちを含めて手早くゴローンを追い詰めるメガちゃん。彼女の恐ろしい所は、彼女は本心からカブトと結ばれる為には女を皆殺しにしなければならないと思っている部分、そしてそれを何処の誰から止められようとも目的を成し遂げるまでやり遂げかねない狂気的までの意志の強さだ。
そして、哀れなゴローンがメガちゃんの放った斬撃により無残にも打ち砕かれるその瞬間!
「あ、やっと見つけた! おーい! メガちゃーん!」
響き渡る愛しき人の声。それが耳に入ると同時に先程まで悪鬼羅刹の如き形相だった彼女の顔はカブトにいつも見せている優しげな顔(メガヤンマ基準)へと瞬時に切り替わり、ゴローンに掛けていた声色とは比べ物にならない程穏やかな声を愛する人に投げかけた。
『カブト! もしかしてボクを探していてくれたのかい! まだ別れてしまってからそんなに時間も経っていないのにもう見つけてくれるなんて、これはもうアルセウスがボクらを祝福してくれているとしか思えないね!』
メガちゃんは久しぶりに出会う事の出来た愛する人の姿に喜びを隠さず、その六本の黒い手足でカブトを正面から包み込むように抱き抱えその顔に頬擦りした。巨大な蜻蛉に正面から抱きすくめられる幸薄そうな美少年。絵面が酷すぎるが気にしてはならない。
なお、アルセウス氏は『誠に遺憾である』とのコメントを残しており、本事件とは何の関わりも無い事が確認されている。
「メガちゃん! 良かった、そんなに遠くに離れて無かった……。ごめんね、川に流されていた事に気づかなくて。それより、そこに付いているのもしかして血じゃない? 大丈夫ですか? きずぐすり使います?」
カブトは心配そうにメガちゃんに声をかける。自身を心配してくれるカブトの姿を見て嬉しそうに彼女は笑った。
『これかい? 大丈夫だよ。そもそもこれはボクの血じゃ無いし、この血の持ち主はもうどこにも居ないからね』
「? そうですか。じゃあ良かったです」
カブトの持つ波導を用いたガバガバ翻訳能力では大雑把にしかポケモンの言葉を理解できない。その結果、何も良く無いが取り敢えず事件は収束した。でも、それって根本的な解決にはなってませんよね?
兎も角、メガちゃんと合流する事に成功したカブトは彼女に自身と共に他の手持ちポケモンを探す事を依頼する。彼女はそれを快諾し、カブトを抱えて上空から残りのポケモン達を探す事にした。
普段の彼女なら、他のポケモンを探す事を渋っていただろう。だが、今のメガちゃんは違う。今の彼女は使命感に燃えているのだ。
そう、カブトの手持ちポケモンを優先して抹殺する事への使命感にね。だからこそ、彼女にとってもこの提案を受け入れる事に躊躇いは無かったのだ。
メガちゃんにとって、この世界はカブトのみが唯一価値のあるものでそれ以外は等しく無価値。だが、その無価値な存在の中でも特にカブトの手持ちは絶対に生かして帰さないという『覚悟』があった。
(あいつらは少々ボクのカブトとの距離が近すぎる……。見つけ次第即、始末してやる……。でも、念には念を入れてカブトから隠しておくか……)
メガちゃんは、彼女のやる事をカブトは許してくれると思っている。実際には許さないだろうが。だが、その行動の結果としてカブトが少しでも悲しむのであればそれは明らかにすべきでは無いとも考えている。故に、彼女はカブトから隠れてジェノサイドし続けるのだ。
そんな漆黒の殺意に自分の手持ちが目覚めているとは露知らず、カブトは呑気に空の旅を楽しむのであった。
ちなみに、空中でボール越しにユキちゃんと見えない攻防が繰り広げられていた事は語るに及ばない。
カブト
久し振り過ぎて知能指数が著しく低下した男。その代わり身体能力に上昇補正が掛かった。
ユキちゃん
強敵カブトを氷漬けにする為日夜訓練に励む努力の女。報われる日は多分来ない。
メガちゃん
メガヤンマは混乱している!ジェノサイダーでシリアルキラー。この世全ての女を皆殺しにすれば自分と結ばれるしか無い事に気がついた模様。最近『ダークラッシュ』なる技を覚えたらしい。
正直自分から仕掛けるのはヤンデレとしてどうなんだろうという部分はある
リングマ
今回の被害者枠
ゴローン
いつもの被害者枠