ヤンデレゲットだぜ!   作:デンジャラスzombie

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最後の一体加入回。みんな大好き大人気のあの人ですね。


VS自己完結

 全ての手持ちポケモンを回収し、ユキちゃんとメガちゃんの元へと戻ってきたカブト。

 しかし、そこに広がるのは激戦の後。大地は抉れて川は凍り付き、森の木々は悉くへし折られている。そしてその中心地でユキちゃんとメガちゃんは共に地面へと倒れ伏していた。

 

(相変わらず二人とも自主トレーニングに余念がないな。本気でチャンピオン撃破を目指すなら、僕ももっと頑張らないとね!)

 

 明らかにトレーニングの域を超えた戦闘痕があるにも関わらずそんな事にはかけらも気付かないカブト。お前の洞察力どうなってんだよ! 

 

 傷だらけでボロボロの二人を『げんきのかけら』や『きずぐすり』などを使用して回復させていると、カブトはカバンの中に入れておいたポケモンのタマゴが唐突に振動し始めたことに気が付いた。

 

「およ! もしやもしやのタマゴが孵る瞬間ですか!」

 

 生命の誕生の瞬間というのは神秘的だと聞く。カブトは目を光らせてワクワクとその時を待っていた。

 カブトの抱えたタマゴに亀裂が走る。タマゴに走った黒い線はタマゴの全身を覆い尽くす。それとほぼ同時に内側から爆発する様にタマゴの殻が弾け飛んだ。

 

 粉々に砕け散ったタマゴからのそりのそりと現れたのは全体的な深青の体色に巨大な口が特徴的なポケモン。世間一般ではフカマルと呼ばれるそいつはタマゴの残骸から這い出すと、その短い手を片方は天に、もう片方は地に向けて七歩前に出て口を開いた。

 

『天上天下唯我独尊』

 

 コイツ、自分自身が生まれながらの絶対強者だと自覚してやがる……。

 謝れ! 謝れよ! 草葉の陰で涙を流しているフライゴンさんに謝れよ! 

 

 だが私は謝らない。

 

 トコトコと物珍しげに辺りを見回すフカマルを抱えると、何を思ったのかカブトはフカマルを自分の頭の上に乗せ始めた。意味不明な行為だがカブトもフカマルも楽しそうなので良しとする。

 

「この子もメスか……。んー、フカマルなので名前はカマさんにしましょうか」

 

 生まれたばかりのフカマルのカマさんを頭に乗せた状態でカブトが命名する。将来的にはその手にカマの様な形状の武器が生える事を知っているが故の命名法。頭の上に乗せられたカマさんは何のことか分からずにバシバシと無邪気にカブトの頭を叩いている。

 

「これからよろしくお願いしますね、カマさん」

 

 その言葉に応える様にカマさんはカブトの頭をガジガジと齧っていた。

 

 

 ★★★★★★★★★

 

「ああ、あの頃が懐かしい。生まれたばかりの時はあんなに素直だったのにどうしてこんな……」

 

 カブトは嘆いていた。めちゃくちゃ嘆いていた。そう、例えるならば娘から『パパ嫌い』と言われた様な父親の様な状態だった。

 

『情けねぇ奴だな。それでもオレのトレーナーかよ』

 

 何故か地面に五体投地しているカブトをガスガスと爪先で軽く突いているのは成長してガブリアスへと進化したカマさんだ。

 

 彼女は強くなった。ほんの三ヶ月にも満たない間で彼女はガブリアスまでたどり着いてしまったのだ。それは元々のカマさんのポテンシャルの高さにもあっただろうが、大体蹴落とし合いがデフォルトの呉越同舟パーティーに幼少期から所属していたことが原因だろう。何でこんな地獄みたいな環境で生きてるんだこの子。

 

 それ程までにカマさんが強くなったお陰か、その成長に周りも触発されたのか、とんとん拍子に物事が進み残りのジムも残すところあと一つ。因縁のキッサキジムのみとなっていた。いやー、4つのジムは激戦ばかりの名試合でしたね。

 

 しかし悲しいかな。彼女は強さを手に入れた代償に反抗期に入ってしまったのだ。この様な現象はポケモンの育成の中ではよくある事だ。例えば、今まで育ててきたヒトカゲがリザードに進化した途端言う事を聞かなくなったりする事が偶にある。この場合、トレーナーがポケモンに実力を認められていない事が原因になる。対策としては上下関係を叩き込んだり、ジムバトルなどを通して実力を見せつける事などが挙げられる。

 

 しかし彼女の場合は少し特殊で、バトルの時の指示には従ってくれるものの普段の生活では言う事をあまり聞いてくれないというものだ。何か態度もツンツンしているし。

 

「こんなに立派になったのに反抗期だなんて……。お父さん哀しみ」

 

 そう言いながら、五体投地していたカブトは立ち上がって彼女の肌を優しく撫で回す。当然、『さめはだ』で手がズタズタに切れるがカブトはまるで気にしない。

 

『おい馬鹿! 止めろ! お前の手が傷だらけになっちまうぞ!』

 

「こんなの全然大した事ないですよ。多分みんなやってますし」

 

『なんかそれはそれで苛つくな』

 

 どんな世界であろうが『さめはだ』を撫で回すなんて誰もやっていないし、手が本気でズタズタになるのでマサラの血を引く者以外は決して真似してはいけません。

 

「それはどうでも良いんですけどね。それよりみんなとご飯一緒に食べないんですか?」

 

『そんな小っ恥ずかしい事やってられるかよ。オレはここで一人で食ってっから気にすんな』

 

 フン、と鼻を鳴らすと彼女はソッポを向いてしまう。確かに好みの違いは誰にでもある。斯く言うカブトもあまり大勢の人に囲まれるのは好きでは無くどちらかと言うと静かな空間を好む傾向がある。故に一人になりたい気持ちも理解出来なくはない。しかし、彼女はいつも一人離れてご飯を食べている。その為カブト達と一緒の席に座る事は滅多にない。だからこそ、カブトもたまには彼女と一緒に食べたいのだ。

 

「えー、そんな事言わずに一緒に食べましょうよー。あっ! 僕が食べさせてあげましょうか!」

 

 良い事を思いついたとばかりに目を煌めかせてカマさんに提案するカブト。カマさんが生まれたての時は彼がその口に食べ物を突っ込んでいたのだ。なお、高確率で指ごと食われた模様。

 

 そんなカブトの言葉に一瞬ビクリと肩を震わせたカマさんは、次の瞬間怒鳴る様に声を張り上げてカブトを威圧した。

 

『はぁ⁉︎誰がお前の助けなんざいるかよ! いつまでも餓鬼扱いしてんじゃねぇぞ!』

 

 あまりの威圧感に周囲に潜んでいた野生のポケモン達が逃げ出す中カブトは何処をふく風、彼女の肌から手を離さずにいつもの様にのほほんと彼女を見上げている。

 

「まあまあ、じゃあ僕はこっち来て食べるんでそのつもりで」

 

『だからお前が来ると他のヤツもくっついてきて鬱陶しいんだよ! いい加減自覚しやがれ!』

 

 後ろ手を振りながら食べ物を取りに荷物置き場に向かうその背中に大声で叫ぶも彼は気にも留めない。妙な鼻歌を歌いながらスキップで戻っていくのであった。

 

 

 その後ろ姿が見えなくなった事を確認したカマさんはのそりのそりと歩みを森の方に進める。

 人も立ち入らぬ様な森林の奥深くまで来ると、彼女は並居る巨木の中でも取り分け巨大な樹木に項垂れる様にその頭部を預けた。

 

『はぁ…………』

 

 深く、深く、何処までも深く溜息を溢す。その姿は先程までのカミツキガメの如き凶暴さ無く、ただただ深い自己嫌悪と苦しみに包まれていた。

 

『オレは…………オレは‼︎…………』

 

 彼女が声を震わせる。その鋭利な爪を持つその手を巨木に食い込ませると、彼女の声に引っ張られる様にその身体までもが大きく震え始める。そして…………

 

『何でッ‼︎もっとッ‼︎素直にッ‼︎なれないんだッ‼︎』

 

 ぶつける。何度も何度もその頭部をしがみついた樹木に叩きつける。一撃一撃が重く鋭い。千切れた木の破片に当たり頭から血が流れ出るも彼女は気にすら止めない。もしかすると、気付いていないのかもしれない。並のポケモンならとうに気絶してしまう様な威力を持つその頭突きを、彼女は目の前の樹木が破砕して原型すら残さぬ形にスクラップされるまで続けた。

 

 

 ★★★★★★★★★★★

 

 トレーナーの事がずっと好きだった。それが食べ物と同じ好きなのか、それとも別物なのか。likeなのか、loveなのか。それを気付いたのはつい最近の事であったが。

 

 トレーナーの事は今でも大好きだ。出来る事ならば今すぐにでも彼の元に駆け寄って、昔みたいに彼の頭に噛み付きたい、彼の頭の上に乗っかりたい、彼に撫でまわされたい、彼と一緒にご飯も食べたいし食べさせても欲しい。

 

 だが、彼女は粗暴な言葉遣いに似合わず根は真面目な存在だ。最強のドラゴンであろうとする限りその想いを表に出す事が出来ない。そして何よりもそんな事を彼女の中に眠る性質(ドラゴンの血)が許しはしない。

 

 ドラゴンとは誇り高く何よりも強い生き物だ。その力は圧倒的で他の何者も寄せ付けず、その気になれば空だけでは無く地や海までも容易く支配する事ができる。伝説のポケモンの多くがタイプとして保有している事も根拠として裏付けてくれている。

 そして、彼らはおいそれと人には靡かない。彼らは己が力を貸すのに相応しいとみた人物にのみその力を貸し与える。故に、ドラゴンタイプのポケモンを連れているトレーナーはこの世界に置いて絶大な力を誇るのだ。

 

 ならば彼女からみて彼女のトレーナーは力不足か? いや、そうでは無い。では、何故彼女はあれほどつっけんどんな態度をとるのか。

 

 それは彼女がドラゴンタイプであり、割とめんどくさい性格をしているからとしか言いようが無い。難儀な性格であるが故に自身の気持ちをさらけ出す事が出来ず突き放してしまう。誇り高い生き物であるが故に群れる事を良しとせずに孤高を貫こうとしてしまう。それが彼女にとっては、とてつもなくもどかしくて苦痛なのだ。

 

 現に彼女はトレーナーを認めている。その証拠にバトルにおいての指示はちゃんと聞いている。しかし、どうしても彼女は自身の本心を曝け出すことが出来ない。どれ程トレーナーの事を深く愛していようとも、その胸の内にある言葉を口にする事は叶わない。自分自身の気持ちを言葉にしようにも口をついて出るのはいつも通りの憎まれ口だけだ。

 

 そもそもの話、幾らトレーナーの事を愛していようともポケモンと人間とでは種族が違いすぎる。結局のところ、どうあがいても結ばれる事などありはしないのだ。一部……いや、トレーナーの手持ちの半分程本心から結ばれると思っていそうだが、そいつらは例外極まりないのでこの際置いておく。

 

 苦しかったし辛かった。だからこの想いは全てただの勘違いなのだと彼女は思い込む事にした。

 

 甘えさせて欲しい、甘やかして欲しい、そんな気持ちは全て偽物だ。そんな事少しも考えていない。

 

 トレーナーがメスのポケモンや女性と楽しそうに話している姿を見ても心苦しいだなんて思うはずが無い。だって、トレーナーの実力を信じていても彼を愛している訳では無いのだから。

 

 酷い言葉でトレーナーを突き離してしまっても辛くなんて無い。それが誇り高い孤高のドラゴンとして正しい姿だから。

 

 トレーナーに、カブトに、自分だけしか使わないで欲しいと思う事は否定しない。だが、それは決して断じて彼を愛しているからこその醜い嫉妬や独占欲などでは無い。最強のドラゴンである事のプライドなのだ。

 

 トレーナーが他の女達と一緒に居る姿を見ると無性に腹が立つ。いっそ自分自身の手で群がる女どもを蹴散らしてトレーナーを連れ去ってしまおうか、とすら考えた事もある。何でコイツはワタシだけのトレーナーじゃないんだろうか、と考えた事は何回もある。その想いは全てなかった事にして忘れ去ろうとした。

 だって、最強のドラゴンがただの人間を好きになるはずが無いのだから。

 

 だからこそこの溢れんばかりの気持ちは全て、嘘偽り紛い物勘違い気のせい偽物なのだ。

 そうに違いない、そうでしか無い、それしか考えられない、誰が何と言おうがそうなのだ。

 

 これで良い、これで良いんだと彼女は何度も何度も自身に言い聞かせる。最初からトレーナーの事など愛しちゃいない、likeはあってもloveは無い。周りの奴らがおかしいのであってオレはおかしくなんか無い、と。

 

 そう思いこんで生活すると随分と生きやすくなった。抱える悩みも、胸の奥底の思いも、全部偽物なのだから。何も苦しむ必要なんて無い。

 

 だが、その偽りの想いで本心を塗り潰そうとする行為は間違い無く彼女の心を軋ませていた。

 そうやって自分自身の本心を押し潰し続ける事で彼女の心は現在進行形でドンドン壊れていく。

 仮に今は大丈夫であったとしても、近い将来いつか確実に彼女はガタが来て爆発する。

 もしそうなってしまえば、それこそもう本当に誰にも手が付けられなくなってしまう様な暴走を引き起こしてしまうだろう。これではまるで生きる時限爆弾だ。

 

 そんな大惨事を引き起こさない様に早めにメンタルケアをする事がお勧めされる。

 どう考えても確実にもう手遅れだろうけど。

 




カブト
冷たくあしらわれてもめげないメンタル。最近娘が反抗期になって悲しみ。

カマさん
作中時間がキングクリムゾン!流石生まれながらの帝王だ……!攻撃系と見せかけたまさかの無害系。だが、彼女は後一回進化を残している……、この意味が分かるな?

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