ヤンデレゲットだぜ!   作:デンジャラスzombie

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やっとすぎてもうブームを逃してる感あるけど是非も無いよね。


VS狂気

 ———何となくだがチーム内の空気がおかしい。

 

 ポケモントレーナー、カブトがその事に気がついたのはつい最近だった。事情を理解できる第三者視点から見ればカブトの手持ちは皆おかしいのだがそれはこの際置いておく。

 

 だが、カブトは自身が手持ち達から異常な程の偏愛を受け取っている事やユキメノコのユキちゃんがラオウでは無かった事に今更ながら気がついた訳ではない。いい加減気付けよ。

 

 ただ、7つ目のジムバッジを手に入れた後から、いつもと比べてなんとなくポケモン達の雰囲気が違うのだ。

 

 カブリアスのカマさんはカブトをさり気無く避け始め、メガヤンマのメガちゃんが一人で血塗れになりながら帰ってくる事が多くなり、ルカリオのルカちゃん、トリトドンのトリさん、ラオウのユキちゃんは平常運転、そしてポリゴン2のポリさんは元々少なかった口数がより一層減り、明らかに何か悩みを抱えている様に見える。

 

 これはどう考えても放っておいてはいけない、そう考えたカブトは彼女らとコミュニケーションをとりに行く。しかし何という事でしょう、物見事に全員から振られてしまったのだった。

 

 カマさんからは『何でもねーよ、……何でもねぇんだよ』と意味深に拒絶され、メガちゃんはメガヤンマのスリーサイズとか誰得極まりない情報は幾らでも答えてくれるのに血のことははぐらかすだけ、ポリさんに至っては『これは私自身が解決しなければならない問題なので』といった具合に取り付く島もない。

 

 これにはカブトも大困惑。こういった場合どうすれば良いのか10歳の少年にはサッパリ分からなかった。無理矢理聞き出しても事態を悪化させるだけの可能性もある。故に、彼は取り敢えずそれとなく彼女らとコミュニケーションを取りながら事態の原因を聞き出していく、といった消極的積極策を取る事に決めたのだった。

 

 

 その策は決して間違ってはいなかったが、事態の解決を図るのには些か即効力が足りていなかった。惜しむべくは悩めるポケモンの心を開く事に少々時間が足りなかった事だ。その僅かばかりの時間でカブトは仲間の一人を失う事になる。

 

 

 ★★★★★★★★

 

 ———勝てない。

 

 何度も自分が弱い事を思い知らされた。

 

 結局のところ場所が変わっても、力になりたいと幾ら願っても、彼女は役に立つ事ができなかった。トレーナーであるカブトから見れば十分に役立っているし彼女にもその事を伝えたのだが、彼女が、ポリさんが、自分自身の事を役立たずだと認識しているせいで聞く耳をまるで持ってくれない。

 

 そこまでの自己否定を決定的にしてしまったのは間違いなく彼女が決意を固めてからの4つのジム戦にある。彼女はそのジム戦に於いて四分の三出場している。しかし、その3戦いずれもチーム事態は勝利したものの彼女は敗北して『ひんし』の状態に追い込まれてしまっていたのだ。

 

 幾らポリゴン2が耐久向きとはいえ、ジムリーダークラスの相手となると『しんかのきせき』を持たないポリゴン2では中々に厳しい戦いとなっていたのだ。

 さらに加えるなら、彼女の後から来た新人であるカマさんの存在も中々に大きい。カマさんは当初レベル上ではポリさんより下回っていたにも関わらず、たった数週間でチーム屈指の実力者へと成り上がってしまったのだ。先に手持ちに加わっていたポリさんを追い抜いて。

 

 恐らくそれらがポリさんの劣等感を刺激する結果になったのだろう。

 

 自身が何の役にも立てないという焦り、一人だけ周りに置いていかれているという恐怖、そして何より、大切なトレーナーの期待に応えたいという重圧、それらが彼女を異常なまでに追い詰めていた。

 

 勝たなければ、強くならなければ、期待に応えなければ、そんな想いがポリさんの中で渦巻き降り積もる。

 

 彼女はギンガ団研究員からカブトの手に渡った時からずっと隠し持っていたある道具を確認する。明らかに正規品ではない雰囲気を醸し出している怪しげなアイテムをその手で弄び溜息をついた。

 

 そのアイテムは、彼女を作り出したギンガ団研究員が彼女に手渡していた物だ。曰く、「これを使えば1000%強くなれるよ!」だとか。1000%ってなんだよ。

 

 藁にも縋り付きたいポリさんは、この『あやしいパッチ』を使用するかどうか悩んでいた。強くなりたい、役に立ちたい、そんな想いは間違いなくあるが、こんな明らかにウイルスとか仕込まれてそうな訳のわからない物を使用する事を躊躇っていたのだ。

 そして何よりも…………

 

(使い方が分からない……)

 

 そう、彼女はこれの使い方を何一つ教わっていなかったのだ! 

 無能かよ研究員。使い方くらい教えてやれって。

 この中に入っているデータを取り込むのだろうという事は分かるのだがパソコンを経由してデータを取り込むのか、それとも直接差し込めば良いのか、ポリさんにはさっぱり分からなかった。

 

 だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。多少のリスクは承知の上でポリさんはこの『あやしいパッチ』の使用を決断する。使い方はググっても当然ながら出ないので、人類の英知の結晶たる彼女が導き出した最先端かつ最新式のデータの取り込みを適応する事にした。

 

 それ即ち直挿し! 原始的……。

 

 ポリさんはその短い手足で器用に『あやしいパッチ』を拾い上げると、思い切ってそれを直接自身の心臓部へと突き刺した! 

 どっからどう見ても間違った運用方法にしか見えないが一応の効果はあったらしい。可視化される程に膨大な怪しすぎる不正データがどんどんとポリさんの中へと吸い込まれていく。

 

『ぐっ……うう……人類を……滅亡させる……。あれ? もしかして何か違うとこと接続して……うわぁぁぁぁ!! 違う、私の仕事は『しんかのきせき』を持って耐久する事だから‼︎うわぁぁぁぁ‼︎』

 

 違うよ? 君の仕事はタイプ一致と『てきおうりょく』で威力を爆上げした『はかいこうせん』を撃ちまくる事だよ。

 

 思ったより楽しそうだなこいつ。もしかして全然余裕なんじゃないかな? 

 

 しかし、そんな事を思っていられたのも束の間。『あやしいパッチ』から流れ出した膨大なバグデータの奔流が彼女の余裕を消し飛ばしたのだ。先程までのいかにも余裕そうな表情とは一転、一瞬にしてその顔が苦痛に歪む。

 

『あやしいパッチ』により齎された異常なデータの数々がポリさんの体を蝕みまるで性質の違う物へと変質させていく。その影響はポリさんの肉体にも顕著に現れていた。規則的に整えられた流線的なフォルムは生物としてあり得ない様な構造へと変貌を始め、理知的な瞳は狂気に染め上げられてしまった。

 

『ああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!』

 

 絶叫。引きちぎられる様な苦痛がポリさんの全身を襲う。時間が経つとともに彼女は自身の人格が悪意に塗り潰されて書き換えられていくのを感じる。そして、全身の形態変化が終わる頃にはポリゴン2だった頃の人格はほぼ消滅してしまっていた。

 

(カブト……さん……)

 

 もはやポリゴン2のポリさんは存在しない。ここにいるのはポリゴンZ。ポリさんと同じ体、同じ記憶を持ちながらもかつての彼女とは似ても似つかない存在へと生まれ変わってしまったのだった。

 

 新しく生まれ変わった彼女は暫くその場に止まっていたが、やがて明らかに正気を感じさせない動きで自身のトレーナーの元へと戻るのであった。

 

 ★★★★★★★

 

『カブトさん! 大好き! 愛してる!』

 

「……」

 

『……』

 

 行方不明になっていたポリさんを見つけたカブトとトリさん。他のメンツは、行方不明のポリさんの事などカケラも気に掛けずに互いに潰し合いに興じている。

 やっと出会えたにも関わらず、彼らは彼女の変貌っぷりに声も出せない程驚愕していた。しかも、今までそんな素振りをかけらも見せていなかったのにいきなりのラブコール。そりゃ驚くわな。

 例えるならば、今まで地味系を貫いてきたクラスの女子がいきなり派手派手しい格好で登校してきた様なものだ。しかも常に目の焦点が合ってない状態で、手足がそれぞれバラバラの方向に勝手に動いている姿で、さらに凶器をブンブンと振り回しながら主人公に告白してきたぞ。それなんてB級ホラーパニック映画? 

 

 首が360度前後左右上下に絶え間無く振れ続けているポリさんは、フラフラと酩酊した様な危なっかしい歩き方てカブトの元まで辿り着こうとする。

 そんな彼女を見ていられなくなったカブトは、急いでポリさんの元へと駆け寄り未だおかしな挙動を見せる彼女を抱き上げた。

 

『えへへ、大好き!』

 

「えっと……ポリさん……どうしたの?」

 

 カブトは困惑していた。ちょっと目を離した隙に手持ちのポケモンが明らかにヤバイ姿になって帰ってきたのだ。そもそもポリゴンZの存在などカブトが知っているはずが無い。故に、カブトは何が起こったのかまるで理解できていなかった。

 

『どうしたの? こうしたの!』

 

 クルクルとその場で踊って見せるポリさん。もはやまともな会話すら続かない。そんな彼女の姿にめげないでカブトは質問を続ける。

 

「あの……何でそんな姿に?」

 

 そのカブトの問いを聞いた途端、彼女の踊りは止まりガクガクとバグった様に痙攣を始めた。

 

『見て見て! 凄いでしょ! 私、貴方の為にこんな姿になったんだよ! これならもっとカブトさんの役に立てるね!』

 

 褒めて褒めて、と言うように楽しそうな声色で彼女は叫ぶ。全身がギチギチと音を立てながらあり得ない方向に回転する狂気的なダンスを言葉に添えて。

 

 カブトはより一層困っていた。先程とは比べ物にならないレベルで。どうやら彼女がこんな姿になったのは自分の所為らしい。普通に考えるならばこれはポリゴン2の進化なのだろう。しかし、このおかしな挙動がどうしても真っ当に進化した様には見えないのだ。場合によってはポケモンドクターの元へ連れて行く事も考えなければならない、とも彼は考えていた。

 

 そんな彼の考えを知ったか知らずか、彼女はカブトの腕を伝って彼の頭の上へと乗り上がる。そこで彼女はキャハキャハと耳障りな笑い声を上げながら楽しそうに首を動かす。

 

『ダメです……、カブト様に気安く触れないでください……!』

 

 そこでトリさんがポリさんの狂乱具合に受けた衝撃からいち早く正気に戻る。正気に戻った彼女がカブトからポリさんを引き剥がすべく行動しようと動き出したその瞬間、

 

『種族トリトドン、NNトリさん…………要らない』

 

 一言、カブトの頭上のポリさんが呟くとトリさん目掛けて『はかいこうせん』が発射された。

 

 しかし、咄嗟のことにも関わらず突然の攻撃すらトリさんは読んでいた。既に展開済みだった『ミラーコート』で『はかいこうせん』を反射する。弾き返された圧倒的な破壊の奔流がポリさんだけを狙う。ポリさんの丁度下にいるカブトはかすり傷一つ負わないように細やかに調節されている優れものだ。

 

 自身に跳ね返ってきた『はかいこうせん』にポリさんは何一つ動じていない。いや、もしかしたら反動で動けないだけなのかもしれない。彼女は自身に迫るその光線をただボンヤリと見つめるだけだった。カブトが反射された『はかいこうせん』から彼女を守ろうとして咄嗟に行動するべく動き始めたその時、

 

 跳ね返されたその光線は再び放たれた全く同じものに相殺された。辺り一面に見境なく吹き荒れる破壊の嵐、二本の『はかいこうせん』の激突の衝撃で巻き起こった爆風が彼女らの視界を奪い去る。視界を砂嵐が遮っている隙にトリさんが砂煙に紛れて『じこさいせい』で回復しようとしたその瞬間、

 

 さらに三本連続で同時に発射された『はかいこうせん』が彼女の体を撃ち抜いた。

 

 大きく吹き飛ばされて地面に叩きつけられるトリさん。かろうじて生きているもののその傷は浅くは無い。だが、トリさんのことだからその内回復する筈だ。

 

「ちょっとポリさん! なんて事してるんですか⁉︎」

 

 突然のポリさんの蛮行に驚くカブト。こんな事、貴方のパーティーでは日常茶飯事ですよ? 

 

『あはっ、見て見てカブトさん! 私、こんなに強くなったよ! これでもう役立たずは卒業だね!』

 

 好きな人の役に立てるのが心底嬉しくて仕方がない、といった様にポリさんはクルクルと回転する。

 

「ポリさんは昔から役立たずから程遠かったじゃ無いですか。いや、それより何でトリさんを攻撃したんですか⁉︎同じ仲間ですよね⁉︎」

 

 生憎とキミの手持ちに仲間意識がある奴なんて一人もいないんだぜカブト君。だが哀れにもこの男はそんな事にも気づいていない。頭グランデシアかよ。

 

『仲……間……? あのトリトドンが? ナイナイ、そんな訳ないよね! だってカブトさんの頼れる手持ちポケモンは私だけで十分なんだから!』

 

 相も変わらずその場でクルクル回り続けるトリさん。心なしか回転が先程より早くなった気がする。

 

「いや、トリさんは仲間ですからね! そりゃポリさんは頼りにしたますけど、ちゃんと他にも仲間がいますから!」

 

 そこでカブトは唐突に気が付いた。トリさん回復させるの忘れていた事に。トリさんを助けに行こうと未だ回転を続けるポリさんに背を向けると唐突にその体に衝撃が走った。

 

「うおあああっ!」

 

 カブトはうつ伏せの状態で地面に倒れ伏すと背中に何者かがよじ登ってくる感触を感じた。もはや誰かなど考える必要すらない、十中八九ポリさんだ。

 

『十万ボルトを受けてまだ意識を保っているとかカブトさん本当に人間なの?』

 

「ちょっと驚いたけど段々痺れも取れてきました。流石に悪戯の度が過ぎますよ、ポリさん。これ、僕以外にやっちゃダメですからね」

 

 十万ボルトを受けてもピンピンしている。これがマサラ(キッサキタイプ)クオリティー。半分だけでもこれなら完全体はおそらく化け物だ。多分電気を吸収してエネルギーに変えることくらいはできるんじゃないかな? 

 

『分かったー! 他の人には破壊光線にしておくね! そんな事よりカブトさん、何で私以外のポケモン連れてるの?』

 

 ヒョコヒョコとカブトの顔の前まで回り込んだポリさんは、カブトの目をその焦点の定まらないグルグル目で見据える。流石にカブトも不気味に思ったのかサッと目をそらしてしまう。だが、その行為を気に入らなかったポリさんは『サイコキネシス』を使い、カブトの首を捻り上げて自身と目を合わせる様に調節する。

 

(首の骨の折れる音)

 

「痛っ!」

 

 ゴキッという明らかに危険な音がしたが大丈夫だろう。だってカブトだし。お前は人間じゃねぇ! 

 

『ねぇ、カブトさん。どうして目をそらすの? ちゃんとコッチ見てよ。私、貴方の為にこんなに頑張ってるんだよ? カブトさんの為にこんな姿になった様なものなんだよ? なのに何でカブトさんは私以外のポケモン使ってるの? それっておかしくない?』

 

「おかしくないと思いますけど」

 

 その答えを聞いた途端、彼女はカブトの体に『十万ボルト』を流し込む。カブトの顔が苦痛に歪むがポリさんは気にした様子もなく会話を続ける。

 

『安心して、カブトさんは絶対に絶滅させないよ。ただそこで暫く動けなくなってもらうだけ。ただ他のポケモンには絶滅してもらうね。カブトさんのポケモンは私一人で十分なんだよ』

 

 倒れ伏すカブトにそう告げると、ポリさんはその両腕を広げて空へと羽ばたこうとする。お前、飛べたんかい! というツッコミも程々におそらく彼女は、未だにいがみ合っているカブトの手持ちポケモンを上空から『はかいこうせん』で強襲するつもりなのだろう。成功すればそれは間違いなく強力な攻撃になるに違いない。

 

 ただし、成功すればの話だが。

 

「ちょっと悪戯の度が過ぎますよ、ポリさん。ちょっとお説教しますから四十八時間くらいは覚悟しておいて下さいね」

 

 地べたに体を這いつけていたカブトが、突如として麻痺から復帰してポリさんの体を地面に引き摺り落としたのだ。発狂しているポリさんもこれには驚愕。声も出なかった。

 

『えっ、やだー。絶滅させるのー! 私だけがカブトさんの役に立てて頼れるポケモンなんだって証明するのー!』

 

 カブトに掴まれてもジタバタと暴れるポリさん。

 

「ポリさんが頼れる事はよく分かっているのでそんな事しなくて大丈夫です。さぁ、行きますよ」

 

 こうしてカブトはポリさんを引っ張って説教コースへと入っていってしまった。ちょっと強靭過ぎないかこの男。




カブト
今回だけで十万ボルトを食らわせられたり、破壊光線をスレスレに打たれたり、サイコキネシスで首の骨折られたりと散々な目にあった。

ポリさん
ようやく進化成功。
おめでとう、おめでとう、おめでとう!
狂気系にしたかったけど周りの奴らが既に狂気すぎて相対的に良い子になってしまった。

トリさん
今回の被害者枠。

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