ヤンデレゲットだぜ!   作:デンジャラスzombie

20 / 23
みんな大好き赤い妹だぞ!やったね!

個人的に好きなヤンデレ(?)は好きな人の前で自殺して自分以外見えなくさせるタイプ。

そんなやつ出さないけどな!


VS妹なるもの

「ユキメノコ、戦闘不能! ダークライの勝ち!」

 

「僕が負けた……」

 

 観客席から湧き上がる歓声。それと同じくらいの諦観の声。誰も彼もがジャイアントキリングを期待していたのだ。そしてそれが出来るのは他ならぬカブト以外あり得ないとも考えていた。

 だが、それは叶わぬ夢。案の定カブトは伝説のポケモンの圧倒的な力の前に破れ去ってしまった。

 

「ごめん、みんな……」

 

 敗者に掛けられる言葉は無い。カブトは対戦相手に礼をしてから静かにスタジアムを去っていったのだった。

 

 一体カブト達に何があったのか? 

 

 

 時間を遡ること数時間前……

 

 

 

 今回のシンオウリーグは例年と比べ異様な空気に包まれていた。それもその筈、何と今大会には伝説のポケモンダークライを連れたトレーナーが参戦しているという。

 

 最年少参加者として注目されていたカブトにもその噂は届いていた。

 正直、カブトには素直に信じられなかった。記憶改竄の結果、朧げになってしまったとはいえあれ程強力な力を持ったポケモンを使役するトレーナーがこの世に存在する事に。

 もし噂が真実で、いざ戦う事になったら負けるかもしれない。そんな弱気な考えが脳裏に過るほどだ。それでも幻のポケモンと戦えるのはとてつもない幸運だ。ある種の喜びもそこには混じっていた。

 

 そして、噂は真実であったと直ぐに知る事になる。

 

 件のトレーナーは噂に違わぬ圧倒的な力で参加者達を蹂躙し続けた。あらゆるトレーナーのポケモンをダークライ一匹で仕留め、他の手持ちを一切晒さずに準決勝まで勝ち上がってきたのだ。

 

 いよいよ対戦の時、カブトは緊張しながらも少しワクワクしていた。野生であれ程の強さを誇っていたダークライがトレーナーに育成されて強化された状態で戦えるのだ。トレーナーなら一度は戦ってみたいと思う筈に違いない。

 恐ろしい強敵である事は間違いないが、カブト達もあれから成長している。自分達の成長を確認する意味でも良い戦いになるとも考えていた。

 

 

 相手のトレーナーは一見すれば何処にでも居そうな普通のトレーナー。あれ程のポケモンを手に入れれば傲慢になってもおかしくないのに、丁寧な物腰が特徴的な好青年だったがその威圧感は間違いなく本物。相当数の場数を踏んでいる事が窺える。

 

 そんな彼を前に高揚したカブトは気合を入れ直す。自分達はいつも通りの戦いをするだけだと。

 

 

 だが、そこで待っていたのはカブトの完全敗北だった。

 

 

 ダークライをメガちゃんとルカちゃんの二人がかりで何とか倒したものの、続くラティオスに奮闘虚しくルカちゃん、ポリさんと敗北。

 ラティオスとカマさんのマッハ対決はカマさんが意地で相討ちへと持ち込んだ。

 ヒードランを激戦の末トリさんが討ち取ったが、四体目に繰り出されたクレセリアの前に破れ去った。

 もう後の無いカブトが最後の希望を託したユキちゃん。だが、クレセリアの『みかづきのまい』で復活したダークライに成す術なく敗北してしまった。

 

 一見すれば接戦。しかし、直接対峙したからこそ分かる圧倒的な力の差。どんな奇策を使おうと完全に対応された。波導パワーで先読みしても更にその先を行かれた。ここまで徹底的に潰されればぐうの音も出なくなる。ポケモンだけの差じゃない、トレーナーとしてのレベルにも差が大きかった。

 戦った彼はポケモンリーグ自体には優勝したものの、チャンピオンを倒して新チャンピオンへと至る事は無かった。それがより一層惨めさに拍車をかける。今のお前では逆立ちしたってチャンピオンには勝てないんだと突きつけられた様なものだ。

 

 この大会で得たものは完膚なきまでの敗北。祖母以外に敗北した事がないカブトにとっては実質初の敗北。今まで勝ち続けてきたカブトにとって敗北は辛い経験だった。

 だが、カブトにとって自分のポケモン達を敗北へと導いてしまった事が何よりも耐えられなかった。彼女らの戦いを見る限り、持っているポテンシャルは対戦相手に数歩劣るもののトレーナーの指示次第では決して追いつけない差では無かったのだ。勝てずとも無様な姿を晒させてしまう事にはならなかった筈だ。

 

 そこでカブトは再び旅に出る事にした。本来、カブトのポケモンはとんでもなく強いのだ。だからこそ、敗北の原因にはそれを上手く引き出せなかったトレーナーサイドに問題がある。故にトレーナー自身のレベルアップを図る為、カブトは自分自身を鍛え直す事に決めたのだ。

 

 再起の旅については今はまだ語るべき時では無い(雰囲気作り)。ただ、今まで育てたユキちゃん達を一時封印してコイキングで地方を制覇する様な無茶苦茶な旅だったということのみ記しておく。流石カブト、やる事が極端。断じて褒めてないからな。

 

 ★★★★★★★★

 

「あれから本当に色々ありましたね」

 

『貴方は頂点に立つのは早いけど滑り落ちるのも早いって事はここ数年で嫌というほど分かったわ』

 

 カブトはユキちゃんを膝の上に乗せて、その綺麗な姿をより一層美しくするために丁寧に毛繕いを始めた。ユキちゃんは膝の上で気持ち良さそうに目を細めている。

 

 今となってはカブトの実力はかつての比ではない。かつてシンオウリーグで惨敗を喫してからそれなりに月日が流れていた。その間本当に色々あったのだが今回は割愛させてもらう。まさかチャンピオン初の防衛戦で敗北するなんて……。一年天下とか言われて恥ずかしく無いの?

 

『お兄さん! ご飯できたよー! 早く屋根の上から降りてきてください!』

 

 ユキちゃんの手入れが終わり、一仕事終えた感を出すカブトに一つの声が届けられる。二人きりの時間を邪魔されたユキちゃんは不機嫌に、カブトはご飯を食べる事を考えて楽しそうに一緒に屋根の上から飛び降りる。

 ユキちゃんの『サイコキネシス』もあり、安全に地面に降り立った二人はそのまま自らを呼ぶ声の元へと歩いていった。

 

『もう、お兄さん! 病み上がりなんですからそんな危険な事しちゃいけません!』

 

「あはは、ごめんね妹ちゃん」

 

 ぷくー、と頬を膨らませてカブトに詰め寄るのは妹ちゃんと呼ばれた謎の美少女。長い赤毛と金色の瞳が特徴的で何故か日中メイド服を着ているよくわからない子だ。多分、コスプレのつもりなのだろう。それなりに似合っている。

 

 そんなコスプレ大好きな少女と同居している事についてもそれなり深い訳があるのだ。

 

 それは遡る事暫く前…………。

 

 

 ある日長期の出向から解放されて自宅に帰る途中で出会ったご近所さんにこう言われた。

 

「あら、カブトさん。あんな可愛らしい妹さんがいるなんて貴方幸せ者ね」

 

「え? 僕に妹さん何ていませんけど?」

 

 妹の存在を否定したカブトを冗談だと思ったのかご近所さんは笑いながら去っていった。誰かと勘違いしてるんじゃないだろうかと首を捻りながら帰路に着くと、その途中で出会う人々皆から同じことを言われるのだ。

 

(え? 何これ怖っ……⁉︎)

 

 何故か自分の預かり知らぬところで周囲に馴染んでいる正体不明の妹の存在。これには流石のカブトも身の毛も立つ様な恐怖を覚えざる負えない。もしかして、いつの間にか並行世界とやらに移動してしまったのかと心配になる程だ。

 

 そんな恐怖体験に身を震わせながらカブトは自宅の扉に手をかける。何時もならカブトを優しく迎え入れてくれる我が家が、今日に限っては鬱屈とした重苦しい空気に包まれている様に感じられてしまう。

 

「た、ただいまーっす」

 

 恐る恐るドアを開ける。恐怖のあまり妙に舐めた様な丁寧語が口をついて出てきたがそれはこの際置いておく。問題はこの後だ。自身の留守に住み着いた妹を名乗る存在との直接対決も視野に入れなければならない。ゴーストタイプのポケモンの可能性も否定できないので、ユキちゃんをボールから出して側に侍らせる。これでいつでも戦闘できる姿が整った。

 

 一歩、一歩、また一歩とゆっくりと歩みを進めて行く。そして、リビングに繋がるドアに手を伸ばそうとしたその瞬間! 

 

『あっ! お帰りお兄さん! ご飯にする? お風呂にする? それとも……?』

 

「あっ、ご飯でお願いします」

 

『わかった! 楽しみにしててね、お兄さん!』

 

「はーい」

 

 突然ドアから飛び出してきた可憐な少女とナチュラルにやり取りをするカブト。勿論、初対面だ。その余りに自然な光景にユキちゃんは一瞬それがさも正しい光景の様に思えたが、すぐに正気に戻った。

 

『ちょっと待って! カブト、あの子誰⁉︎』

 

 カブトが見知らぬ女と会話した事に怒りを示すよりも、真っ先に浮かんだのがあの異様な光景に対する疑問。ある種のホラー染みた展開にユキちゃんは恐怖した。ゴーストタイプの癖に恐怖した! 

 

 カブトはその疑問に暫く考えると、やがて何かに気がついたかの様に目を見開き大声で叫んだ。

 

「誰だアイツ!」

 

 お前も知らんのかい! 

 

 驚愕を顔に貼り付けたままカブトは妹を名乗る何者かが消えた台所へと飛び込む。そして、彼女と二言三言言葉を交わすと納得のいった様な表情で帰ってきた。

 

「あの子、僕の生き別れた妹さんらしいですよ」

 

 えっ、お前それ信じたのかよ……という雰囲気がリビングに流れる。カブトの手持ちの皆もこれには疑問を持たずにはいられないらしい。というよりも、そんな言葉信じる奴今時いる事に驚愕が隠せない様だ。

 

 だが無い話では無い。カブトの両親は既に二人ともカブトを捨てて行方不明だ。何処で隠し子を作っていてもおかしくは無い。成る程、筋は通っている。

 

 

 そんなこんなで約一年程、カブトは自称生き別れの妹と同居生活を営んでいたのだ。

 ちなみにこの妹ちゃん、カブトが留守な事を良い事にご近所さんに挨拶しにいったり、キッサキの祖母に自身の自己紹介をしたりなど完全に外堀を埋めてきていた。…………恐ろしい子だ。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 回想の終了と共にカブトは夕食を食べ終わる。まだ、屋敷のポケモン達は食べている最中だがカブトは一人で寝室へと向かった。

 

「ふぅー、最近妙に疲れが抜けないな……」

 

 カブトは寝室に入るとすぐ様自分のベッドに倒れ込んだ。彼は最近体調を崩して寝込んだばかり。半分だけとはいえマサラ人の血を引くものが体調を崩すというのはかなりの物だ。マサラの血を引くものに影響を与える病は下手な人間では最悪死に至るケースもあり得るだろう。

 

 それが年に一回程度なら普通と言えるかも知れない。だが、キッサキにいた頃風邪などろくに引いた事もない健康体カブトが、ここ数日で何回も倒れるまでに至っている。これはどう考えてもおかしい。

 

「でも病院行ってもなんとも無いんだよなぁ」

 

 あまりにも体調不良が続くので一度病院へ行って診てもらった事もある。だが、結果は異常無し。こうなると病気では無くゴーストタイプのポケモンの仕業である可能性が高いらしいが、カブトに害意を向ける様な存在をカブトのポケモン達が許しているとは考えにくい。

 

「なんなんでしょうね……」

 

 迫りくる睡魔に身を任せてカブトは深い眠りへと落ちていった。

 

 

 そして、その姿を妹ちゃんはじっと見つめていたのであった。

 

 

 ★★★★★★★★★

 

 

『はい、そこを動かないで!』

 

 次の日、カブトは妹ちゃんに介抱されていた。朝起きたら指一本動かす事ができなくなっていたのだ。そして今、ベッドの上から逃げ出そうとしていたカブトは妹ちゃんに押さえつけられている。

 

「妹ちゃん、苦労かけちゃってすみませんね」

 

 彼女が運んでくれる朝食を嫌々ながらも口にしながらカブトは感謝の意を示す。

 体が重くてろくに動く事も出来ないカブトの為に、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる妹ちゃんにはカブトも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

 だが、申し訳なさそうな表情をするカブトを意に介さず妹ちゃんは楽しそうに介護を続ける。

 

『大丈夫、お兄さんに早く元気になって欲しいから。これくらいなら全然大丈夫だよ』

 

「妹ちゃんには本当に感謝しています。けどね……」

 

 献身的に看病してくれている妹ちゃんには感謝してもしきれない。だが、カブトはそんな彼女に一つ不満点を持っていた。

 

「ご飯くらい普通に食べさせてくれませんか? 病気移っちゃいますよ?」

 

 そう、彼女は食事を口に運ぶ時に毎回毎回口移しで食べさせていたのだ。流石のカブトもこれには辟易している。

 

『大丈夫、絶対に移らないから。お兄さんだって逃げないって事は満更でもないんでしょ?』

 

「動かないんじゃなくて動けないんですよ。妹ちゃんも拘束してくるし」

 

 その言葉を無視して彼女は次の食事を口に含む。そして、病で本来の力がまるで出せないカブトを無理矢理その場に固定すると、自身の口からカブトの口へと料理を流し込んだ。

 

『ん……』

 

 艶かしい水音を奏でながら妹ちゃんは必要以上にカブトの唇を貪った。もうとっくに料理はカブトの胃の中に流し込まれているにも関わらず、彼女はカブトの口内を蹂躙する事を止めない。

 

 暫くして満足したのか彼女が唇を離すと、ニコリと微笑んでまた新しい料理を口に含む。彼女はこの行為を料理が無くなるまで何度も繰り返し、全ての料理がカブトの胃の中に消えるまでにかなりの時間が経過していた。

 

『ぷはぁ! どう? 美味しかった?』

 

「そうですね。料理自体が美味しかった事は間違い無いですが、次からは普通に食べさせてくれるとありがたいです。痛切に。これは絶対兄妹間の距離じゃないですよね!後、いつも思うんですけど妹ちゃんの肌触り何かおかしく無いですか?もふもふしてて羽毛みたいな……」

 

 それだけ言うと、急にカブトはその場で倒れる様に再び眠ってしまった。何か薬でも盛られたのだろうか。そんな彼の顔を愛おしげに撫でると、妹ちゃんはその場を後にする。

 

『それ以上はだーめ。おやすみ、お兄さん。またちゃーんと元気になってね』




カブト
なんか知らん間に月日が経っていた。話の都合や、許せ。家に見知らぬ人物が家族名乗って出入りしている事実って客観的に見てホラーでしかない。

ユキちゃん
出番少ない!

妹ちゃん
勝手に家に出入りしちゃうけどとっても良い子なんです!ほら、病気のカブトくんを甲斐甲斐しく世話してるし!これは間違いなく本物の妹ちゃんだ!

対戦相手のトレーナー

友情出演。多分もう出番の二度と無いモブトレーナー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。