ヤンデレゲットだぜ!   作:デンジャラスzombie

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ポケドル編までが遠い。しかもここから少し長編入れようと考えてる。
外出自粛のおかげで通学時間が無くなった事で続きを書いてる時間が無い。
サーナイトをどんなタイプのヤンデレにするかで悩む。ある程度案はあるけど。

どれだけの人が読んでくれているかは分からないですけど、これからもゆったりと更新していくつもりです。


VS妹なるもの2

『おやすみ、お兄さん。またちゃーんと元気になってね』

 

 屋敷の中で行われるあまりにも気味の悪い茶番劇。その一部始終を見ていたものがいた。

 

『どういうつもりだ……⁉︎ラティアス!』

 

 窓越しに驚愕の表情を浮かべている彼の名前はラティオス。滅多に出会うことの出来ない伝説のポケモンの一体だ。

 ラティ兄妹は光を操って擬態したり自身の姿を隠す事が出来る能力を持つ。今は怪しまれない様に姿を消しているが、彼もその気になれば人の様な姿に見せかける事は可能だ。

 そんな彼が何故自分の能力を使ってストーカー紛いの事をしているのか。それはカブトの家に住み着いた妹ちゃんの正体に関連がある。

 

 妹を名乗る謎の存在の正体、それは今この場で覗き見をしているラティオスと兄妹関係にあるラティアスだったのだ。

 

『何故この様な真似を……』

 

『覗き見だなんて趣味が悪いね、お兄ちゃん?』

 

 首筋に感じた殺気。ラティオスはその場から高速移動で退避する。先程までラティオスが陣取っていた位置には一人の少女が立っていた。

 

『ラティアス……。あの様な真似は即刻やめろ。今すぐ私ととも帰るのだ』

 

 ラティオスに厳しい視線と共に帰還命令を投げかけられたラティアスはどこを吹く風、いつもの様にただニコニコと笑うだけだった。

 

『どうして? 私はお兄さんと一緒に生きる事に決めたの。お兄ちゃんも私が決めたならトレーナーについてっても構わないって言ってくれたじゃない』

 

『ああ、確かに私はそう言った。前言撤回するつもりも無い。だがダメだ。まだお前には早すぎた様だ』

 

 ここで初めてラティアスの表情が変わる。目を細め、不機嫌そうな表情を作った彼女は本物の兄に向かって静かに問いただす。

 

『早すぎた? それってどういう意味?』

 

『そのままの意味だ……。まだ惚ける気か……。ならば聞こう、お前はあのトレーナーやポケモン達に何をした?』

 

『…………』

 

『答えられないのか? ならば代わりに私が答えてやろう。お前はカブトという人間や手持ちのポケモン達にエスパータイプの能力を活用して自分が本物の妹だと誤認する様に暗示を掛けた。そしてお前がやった事はそれだけでは無い』

 

『お前は……、あの人間に毒を盛ったな! しかも致死量を大幅に超えた量を! むしろ何故あの少年は生きているんだ! 普通死ぬぞ!』

 

 そんな彼の叫ぶ様な言葉を聞いて彼女はポツリと呟いた。

 

『だって仕方ないじゃない』

 

『仕方ない?』

 

 彼女の漏らした言葉を聞き咎めるラティオス。その言葉に込められた真意を知る為に問いただそうとするが、その言葉は彼女の言葉によって遮られてしまう。

 

『だって、だって! 全然お兄さんが弱ってくれないんだもん! 追加に追加を重ねていればそりゃ致死量を超えちゃうよ! あっ、でもでもちゃんと死なない様に『いやしのはどう』で調節してるしそこは安心してね』

 

 彼はその言葉を聞いて愕然とする。毒を盛って痛めつけた後、回復させるなど殆ど拷問と変わらない。一般的な常識ポケモンのラティオスにはまるでラティアスの言っている意味が分からなかったのだ。

 

『どういう……事だ? お前はあの少年と共に生きると決めたのではないのか? 何故弱らせるという事に繋がる?』

 

『お兄ちゃん、お兄さんが困っている時助けてあげられるのは誰だと思う? 手持ちのポケモン? キッサキの知り合い? ご近所さん? どれも違うよ。私だけがお兄さんを助けられるんだ』

 

 そう言うと彼女は、まるでそれが楽しくてたまらないといった様な笑みを浮かべる。

 

『お兄さんを傷つけるのも癒すのも、苦しめるのも救うのも、愛するのも愛されるのも。ぜーんぶ私じゃ無きゃダメなの。ほら、その証拠に今この時、お兄さんが一番頼りにしているのは他の誰でも無いこの私でしょ?』

 

 ラティオスは絶句していた。血を分けた実の妹が無辜の少年に毒を盛り、それこそが愛なのだと宣うその精神性に声も出す事ができなかったのだ。何を食べて育てばこんな生物になるのか信じられなかった。

 当初、彼はラティアスを引っ張ってでも連れて帰るつもりだった。しかし、この状態の彼女を本来の住処に連れ帰ったところで果たして少年の事を諦めるのだろうか? いいや、諦めないだろう。恐らく、彼女はそれこそどんな手を使ってでも少年の元へと戻って同じ事を繰り返すに違いない。それどころか自身の命すら危ぶまれる可能性がある。

 

『……分かった。お前が住処を離れて此処に居つく事にはもう何も言わない』

 

『本当! お兄ちゃん大好き! ありがとう!』

 

『……ああ、好きに暮らせ。その代わり私の元へ二度と帰ってくるな』

 

 そしてラティオスは自身の命と見ず知らずの少年の安全を天秤にかけ、自身の命を取ることにした。済まない少年もし今度会うまでに生きていたら菓子折を持っていく、と心の内で謝りながら……。だが、妹ちゃんが怖いので多分もう会いにいく事はないだろう。

 

 こうしてラティオスは妹の元から去っていった。そんな彼の後ろ姿を笑顔で見送るラティアス。ラティオスの後ろ姿が見えなくなると、彼女は踵を返して屋敷の中へと戻っていくのであった。

 

『邪魔が入っちゃったけどすぐ終わったし別にいっか。それよりお兄さんの容態を見に行かなきゃ!』

 

 心底楽しそうにスキップしながらその顔に笑みを浮かべて。

 

 

 ★★★★★★★★★

 

『んー、ゲンさんから『しょうぶどころ』への招待状、エニシダさんからのブレーン勧誘、ポケモン大好きクラブ会長からの会合のお知らせ、ポケモンリーグ公認のエキシビションマッチのお誘い、ポケウッドでの出演依頼、これらは全部左ですね』

 

『……、ファッションショー、空の旅、ライブ、食事の誘い、デートを誘う手紙、ラブレター、贈り物、ぬいぐるみ、温泉旅館の招待券、……全部右ですね』

 

 ラティオスことお兄ちゃんとの会談を終えた妹ちゃんは、屋敷の中に戻るとカブト宛に届いた贈り物を仕分けしていた。当然の如くカブトには無断でだ。余談であるが、彼女は郵便物に対する処理とは反対に電子機器などの連絡装置の確認は一切行わない。何故ならばそれらの類はポリさんが勝手にデータを破壊しているからだ。

 仕分けの基準は至って簡単。送り主の性別、もしくは贈り物の内容でのみ判断している。女性からの贈り物は全て右、男性からの贈り物は左。ごく一部の男性から送られてきたカブトに好意を示すような品も右に分けられる。

 

『さて、と』

 

 一仕事終えた妹ちゃんは、右に仕分けた届け物を手に取り屋敷を出て裏庭へと向かった。何故か屋敷に設置されている時代錯誤な焼却炉の前に立つと、彼女はその手に持った荷物を焼却炉の前に叩きつけた。

 

『…………』

 

 無言で、ただただ無言で何度も何度も地面に叩きつけられた物体を踏みにじる。伝説のポケモンが使う『サイコキネシス』も併用してもはや原型すら残さぬ程にそれらが崩れ去ってもまだ止め無い。

 足で踏み潰されているそれがかつて何だったかすら分からない程に砕け散った時、ようやく妹ちゃんはそれに攻撃を加える事をやめた。

 触れることすら穢らわしいと言わんばかりにサイコパワーでそれらを一纏めにして焼却炉に放り込んだ彼女は焼却炉を稼働させて塵一つ残らないように焼き払う。

 かつて女性達から送られた好意の証が醜く見すぼらしい灰の塊へと変貌したことを確かに確認した彼女は、決してカブトに見せないような冷たい笑みを浮かべてそれらを全て風に乗せて吹き飛ばし、満足げにカブトの元へと向かうのであった。

 

『お兄さん、起きてる?』

 

 カブトの眠る部屋の前に着くと、ノックと共にカブトの現在の状況を確かめる。

 

 ……返事が無い、ただの屍のようだ。というのは冗談で来客にも気がつかない程眠っているらしい。訂正しよう、眠らされているらしい。

 

『もー、お兄さんったらそんな無防備に寝てたら誰かに襲われちゃいますよ? それとも襲って欲しいんですか?』

 

 自分で眠らせておいてとんでもない言い草である。

 

 部屋に侵入した彼女はカブトが深い眠りについている事をいい事にカブトのクローゼットを無断で覗き見た。妹、しかも血が繋がっていないどころか自称に過ぎないという恐ろしい存在が家に住み着いてクローゼットを勝手に開くという状況。ホラーかな? 

 血の繋がった妹でも微妙なラインであるが、完全な赤の他人に自宅を好き勝手にされているのはカブトが真実を知れば卒倒ものである。

 

『ふむふむ、当然といえば当然だけど服に染み付いたお兄さんの匂いがいっぱいする! これだけで一日中過ごせそうだけど今はこれがメインじゃないんだよね』

 

 妹ちゃんはクローゼットの中身を勝手に漁ると、中に入れられた服装の中からお目当ての服を探し当てた。それは最近カブトが購入した服。その服を手に取ると、妹ちゃんはそれに顔を近づけてポケモン特有の鋭敏化した嗅覚を用いて匂いを判別し始めた。エスパータイプならサイコメトリーみたいなエスパーっぽい技使えよ、というツッコミは無しだ。

 

『んー、お兄さん以外の匂いは殆ど無し。女達からの贈り物でも無ければこれを着て他の女と密会してた訳でもないね、良かった』

 

 匂いの判別を終えた妹ちゃんは、その服を持ってきた袋に乱雑に突っ込んで封印する。それを自身の部屋まで持ち帰るつもりだ。

 

『まったく。お兄さんは私が選んだものしか食べちゃダメだし、私の許可なく勝手に人と話すのも、人と会うのも、しちゃダメだっていつも言ってるのに……。勝手に服を買うなんてもっての外だよ。お兄さん、選ぶ服のセンスがイマイチだから……。私が一番お兄さんを綺麗に飾り付けられるんだよ? こう見えてお兄さんの事は一番研究してる自信あるし。間違いなくお兄さん以上にお兄さんの事分かってると思うよ? だからちゃんと言う事聞いてよね!』

 

 そんな滅茶苦茶な事を平気で宣う妹ちゃんはカブトの横たわるベッドに腰をかけると、妹ちゃんの仕込んだ睡眠薬のせいで未だ目を覚さぬカブトの隣へと潜り込んだ。側から見たら兄妹間(大嘘)で同衾した様な形になる。倫理観的にヤバすぎる。

 

 先程からとんでも発言を連発するラティアスこと妹ちゃんだが、彼女は至って真面目も真面目。自らがお兄さんと呼び慕うカブトを本気で愛している。恋愛的な意味で。愛し方に些か難があるが、意中の人にとっての特別になりたいという想いを叶える為に多少の狂行を許容してしまえるだけでその愛情に嘘偽りは無いのだ。

 

 多少独占欲が強いだけでその本質は他のラティアスと変わらないくらい良い子だ。彼女はちゃんと兄であるラティオスも愛している。親愛的な意味ではあるが。

 ただ、彼女の中ではカブト>ラティオスとなってしまっていて変えようが無い格差が出来てしまっているのは否定できない。可哀想なお兄ちゃんだ。

 

『ふふ、お兄さんとの距離がこんなにも近い。近くで見てもやっぱりお兄さんは綺麗だなぁ。これじゃ誰にも渡したくなくなるのは当然だよね』

 

 カブトを起こさない様に静かに呟きながら、彼女は未だ目を覚さないお兄さん(偽り)の鼻を優しく撫で回す。眠っているカブトは凄く苦しそうな表情を浮かべて意味の無い寝言が口から洩れる。

 

「俺が……ゼクロムに……? この装備は呪われていた……? そこに颯爽と現れたデデンネ。ありがとうモルペコ! イヌヌワン……!」

 

 お前は一体何を夢で見たんだ。

 

『お兄さん、魘されてて可哀想。きっと他の女達がお兄さんを苦しめてるに違いない、実に度し難いわ! お兄さんを苦しめるなんて絶対に許せない!』

 

 自分の事を棚に上げて謎の決意を抱く妹ちゃん。決意は大切だって魔物蔓延る地下世界でも言っていた。古事記にもそう記されている。でもその古事記、色んな事書かれすぎてて当てにならないんだよなぁ。

 

 そんな訳の分からない決意は置いておいて、妹ちゃんがベッドに潜り込んだのはただカブトを襲うためでは無い。

 ラティオス、ラティアスにはある能力が備わっている。『ゆめうつし』という見たものや考えたものを映像として他者に見せる特殊な能力だ。妹ちゃんは毎夜毎夜それをカブトが目を覚ます直前の微睡み状態で彼の脳内に投影している。

 

 人が目を覚ます直前は一種の催眠状態とも言える状態だ。その為、狭窄した意識に働きかける様に『ゆめうつし』を発動することで妹ちゃんにとって都合の良い事をカブトに吹き込む事が出来るのだ。ちゃんと全て反映されているかは兎も角として。

 

『まだ目が覚めるまで時間があるみたいだし、もうちょっとお兄さんで遊べそう』

 

 妹ちゃんは、抱き枕の様に抱きしめていたカブトから手を離し彼の耳元に口を近づけると彼の脳内に流し込む様に言葉を紡ぐ。

 

『僕は妹ちゃんを愛しています』

 

「うう……『僕は……妹ちゃんを……愛しています』」

 

 愛している、と好きな男の声で告げられて嬉しそうに体をくねらせる妹ちゃんとは対照的に、苦しそうに妹ちゃんの言葉を繰り返すカブト。彼は眠っている最中にかけられた言葉を繰り返す習性を持っているのだ。まさに『オウム返し』。

 

『じゃあ次は……、妹ちゃんは世界で一番可愛い!』

 

「ううう……『い、妹……妹ちゃんは……せ、世界で一番……かわ、いい……』」

 

 きゃあ! と恥ずかしがって彼女は横たわるカブトをペシペシ叩く。カブトはとても苦しそうだ! 自作自演でも照れる事が出来るなんて凄い奴だなこの自称妹。

 

『じゃあじゃあその次は……!』

 

「……何してるんですか、妹ちゃん」

 

 はしゃぎすぎた妹ちゃんは眠らせていたカブトを起こしてしまった。そりゃ、耳元であれだけ騒げば起きるのも当然といえるだろう。

 

『あ、あ、ああ……うわぁーん!』

 

 まだ洗脳用の『ゆめうつし』すら使っていないのにカブトが起きてしまっては意味がない。その為もう一度寝かさなければならない事に加えて、あれだけの痴態を見られてしまったかもしれない事で恥ずかしさがキャパオーバーした妹ちゃんは錯乱してカブトの後頭部を『ドラゴンクロー』で殴打する。

 

 ぶべらっ、という明らか人の出して良い声では無い呻き声を上げたカブトはその場で再び倒れ伏した。

 

 取り敢えず落ち着いた妹ちゃんはカブトを布団の中に収納して証拠隠滅を図る。そしてその後、彼女は気絶したカブトの隣に潜り込むと何事も無かったかの様に彼を抱きしめた。

 

『過程はどうあれ今お兄さんは眠っています。薬によって眠らせる事と殴って気絶させる事、そこにはなんの違いも無いのです』

 

 違うのだ! 

 

 見事に先程までの奇行と暴行を無かった事にした妹ちゃんは、目を回しているカブトを一撫でして彼に自分にとって都合の良い映像を流し込む作業を開始した。

 

『ふふ、お兄さんお兄さん。お兄さんは私さえいれば十分なんだよ? 他に余計な事は一切しちゃダメ。これからも大人しく私に愛されてね?』




カブト
可愛い妹が出来てよかったね。義妹とかその道の人には喉から手が出るほど欲しいらしいっすよ。

妹ちゃん
本名ギガイアス(デタラメ)良い子の片鱗すら無かった子。ハーメルン内にもラティアスは良くヒロインとして出てくる。どの子も可愛らしい。下手したら歴代ラティアスの中でもトップクラスにコイツは薄気味悪いまである。
無理矢理メガシンカするくらいやってのけかねない。

ラティオス
みんなのお兄ちゃん。生きてるよ。常識の枠に囚われている内にはまだまだ未熟としか言いようが無い。
考えてみて欲しい。自分の妹が突然他人の妹名乗って住人を監禁し始めたら誰だってビビる。

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