しかも、そいつらがヒロインだという。萌えもんでも無ければ擬人化もしていないのに。
よく読者さんついて来れますね……
ユキちゃんの活躍で見事クロガネジムを突破したカブト一行。彼らは次なる町、ミオシティを目指していた。
カブトは、コトブキシティで売り出しをしていた最新式のポケッチを無料で貰えるキャンペーンを無視してミオシティへと一直線に走り抜ける。その姿はまさしく猪突猛進。道中で見かけたボロの釣竿を持った釣り親父に対して
「僕、釣り、好き。貴方、私、ベストフレンド。フォースの導きが有らんことを」
と言ってボロの釣竿を強奪し、コトブキシティからミオシティへと向かう為の橋を渡ろうとする。ジュンサーさんこいつです。
しかしここでトラブルが発生。何と橋が壊れていてミオシティへと渡れなくなっていたのだ。
普通の人ならここで『なみのり』を使えるポケモンを連れてくるか、『そらをとぶ』でミオシティまで飛ぼうと考えるだろう。
だが、カブトは違った! 逆にッ! 海の上を走ろうと考えたッ!
そしてここで突如として入る回想シーン。最早顔も覚えていないカブトの父親が全体的にぼんやりとしたイメージで現れる。顔は覚えていないので、へのへのもへじで代用済みだ。
なにカブト? ウツボットが恍惚の表情を浮かべながらカブトをくわえてはなさない? カブト、それは無理矢理脱出しようと考えるからだよ、逆に考えるんだ。
「食われちゃってもいいさ」
と考えるんだ。
じゃ、お父さんパチンコ行ってくるから後は頑張れよー。
クズ親父じゃねぇか! 余談ではあるがこの後無事脱出する事が出来た。
父親の格言? の様な何かで、何かいける気がするという凄くフワッフワした感じで水の上に一歩足を踏み出すカブト。当然の如く足は水に沈む。だが完全に沈みきる前に足を前に出せば如何だろうか? こうやってただひたすら前に進めばいつかは向こう岸に辿り着く筈だ。何せ前に進んでいる訳だしね(黄金の意思)
いや、そんな訳無いから(断言)
案の定海に沈んだカブトをメガちゃんが回収し、背中に張り付きミオシティまで運搬する。メガヤンマは一見すると非力に見えるが、実は大の大人を運ぶだけのパワーを持つ。故にカブト一人分くらい運ぶ事は造作も無いのだ。最初から使え。
『ああ、カブトの体温が、香りが、その吐息が、これほどまでに近く感じられるなんていつぶりだろうか! もうボクは1秒でもキミの側から離れると死んでしまいそうだ! そうだ! カブト、提案なんだけどここで他のポケモン達を振り落としてくれないか? そうすればボクとカブトだけになるから、二人きりのランデブーだね! ボクはキミの頼みならどこまででも連れて行ってあげるよ? そう、何処までだってね……』
背中に顔を押しつけて危険な発言をするメガちゃん。恐らく彼女は頼まれればヤルだろう。背中越しでもカブトにそんな『凄み』が伝わってきた。だが一つ言えるなら前を見て空を飛んで欲しい。
「ミオシティまでお願いします」
しかしカブト、メガちゃん必死の告白をバッサリ一刀両断。これが鈍感系主人公の悲しき性。
『はい』
ここまでキッパリと言われては仕方がない。渋々ながらカブトを無事にミオシティまで運んで行った。
遂に到着したミオシティ。見るからに漁業が発展してそうな雰囲気に加えて、意外にもこの地方最大級の図書館があるなどシティと名乗るのに相応しい格を持つ町だ。町には人が溢れて活気に満ちている。キッサキとは大違いだと、カブトは肩を落とす。
だが、カブトはへこたれない。全ては我が故郷キッサキに活気を戻す為
に、是非ともチャンピオンを下してキッサキの宣伝をしなければならない。と気合を入れ直す。
もう二度と『キッサキシティ、過疎化の最先端』などと言わせない。こんなキッサキの冬より寒いギャグを言わせてなる物か! と。
だが今日はもう遅いので、ジム戦には挑まず休もうと考えたカブトは早めに就寝する。勿論、貰ったタマゴはきちんと布団をかけて温めてから寝た。
そしてカブトが寝静まると同時にボールから飛び出す二つの影。ユキちゃんとメガちゃんだ。ポリさんはこれから何が起こるのかまるで理解していない。
『…………どうしましたか? 何をするおつもりですか?』
殺気立ち互いに睨み合っているメガちゃんとユキちゃんの両方に取り敢えず質問するポリさん。
『何って決まっているでしょう? カブトを氷漬けにするのよ』
『…………は?』
病んでもなければデレてもいないポリさんには、本気で理解が出来なかった。何故ならポリさんの持つ常識では、自身のトレーナーを氷漬けにするポケモンなど存在しなかったからだ。付き合いは短いがポリさんから見て、彼女はカブトに普通のポケモンが抱く感情以上のものを抱いている様に見えた。だからこそ尚更氷漬けにするという言葉の意味がわからない。
『えー、氷漬けにするとカブトさんは死ぬのでは?』
『私はカブトが死んだとしても愛することができるわ! 氷漬けの状態で私がずっとお世話してあげるのよ』
ポリさんは頭を抱えた。言っている事がカケラも分からない。ダメだこの雪女、早く何とかしないと……一縷の望みをかけて視線でメガちゃんに救援を送る。その視線を受け取ったメガちゃんは静かに頷いた。
『全くキミの言っている事は相変わらず意味がわからない』
ポリさんはホッとする。良かった、まだ話の通じるポケモンがいた。何とかメガちゃんにユキちゃんの暴挙を止めて貰おう、そう考えた時だった。
『カブトと結ばれるのはボクだと決まっているのに……。やはり近づく女は全て殺さなければダメか……。カブトの手持ちだから今まで見逃してあげてたんだけどね。ここで死んで貰う』
その鋭い牙でギチギチと不協和音を奏でるメガちゃんを目の当たりにしてポリさんはこの時悟った。常識を持つポケモンは自分だけなのだと。
ここでポリさんは説得を諦めて寝た。もうどうにでもなれ。
一種触発の雰囲気。今、ユキちゃんか、メガちゃんそのどちらかが指先一本でも動かせばこの均衡は崩れ去るだろう。永遠の様な一瞬、先に動いたのはメガちゃんだった。しかし想定していた様な戦闘は始まらない。何故なら彼女たちの視線は宿泊施設の窓へと向けられていたからだ。
『はぁー、折角此処でケリをつけようと思っていたのに……。悪いけどボクはお仕事の時間だ。キミなんかに頼むのは非常に不愉快かつ、不安だが今頼れるのはキミしかいない。そこでカブトを守っていてくれ』
溜息を溢しながらメガちゃんは、心底嫌そうにユキちゃんにカブトの守護を頼む。視線をチラリと窓へ向けて再び溜息を吐くと、今度はカブトに近づきその無防備な唇を貪った。
『ん…………はぁ、行ってくるね、カブト。今からキミに近づくゴミを始末してくるから』
その言葉を告げるや否や、凍りつき始めるカブトを背にすぐ様部屋から出て行くメガちゃん。その後ユキちゃんがカブトの口内を自らの唾液と氷で洗浄した事は言うまでも無い事だ。
私、フワンテ! 花のレベル17! ターゲットにした発電所に住む女の子に毎日会う事で警戒心を消した後、そのまま手を引いてあの世に連れて行こうとしていたら、何と風が吹いて飛ばされちゃった☆
そのまま風に飛ばされてクロガネシティの近くまで来ちゃうなんて私ついてなーい!
あーん、遅刻遅刻! 発電所の女の子まだ待ってるかな? もし帰っていたら家までお邪魔しちゃうぞ☆
ああ、でもお腹空いたなぁ。今、持ち手の部分が木に絡まって動かないからなー、もしかして、私一生何も食べられないままここで死んじゃうの⁉︎そうでなくても、通りかかった山男に私が乱暴されちゃうわ! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに! くっ殺! くっ殺!
1人勝手にフワンテが叫んでいると、そこに救世主カブトが現れる。
「あれ? もしかして、引っかかってる? 取ってあげるね」
はぅあ! 何たるイケメン魂! 貴方が私の救世主だったのですね! 何とお礼を申し上げて良き物か!
「お腹空いてるの? じゃあこのきのみあげるよ。じゃね!」
き、きのみまで貰ってしまった。これはもう、あれですね。お礼に私の命を差し出さないといけませんね! 詰まるところ、一緒にあの世に行くっきゃないでしょ! もうこの際あんな小娘などどうでも良い。
任せちゃって下さい。貴方の魂は私のこの風船の中にずっと留めておきますからね! 実質結婚ですね!
そうと決まればレッツゴー! 善は急げ!
そしてフワンテはカブトの後を追ってふわふわ風に流されながら、ミオシティに到着するのだった。
へっへっへ……いくら肉体の匂いが消滅しようとも、あの人の魂の匂いが微かだが道中に残されているのだよ。この追跡のプロである、漆黒のチェイサーこと、フワンテ様に見つかったのが運の尽きだな!
あの人が泊まっているのはポケモンセンター二階の7号室だ! 間違い無いね! よーし、先ずは窓からお顔を拝見っと。
『おほー、何たるイケメン! これはここまでやって来た甲斐があったってもんですよ!』
『うんうん、そうだね。キミ、見ない顔だね。ここら辺に住んでるポケモンじゃないでしょ?』
助けて貰った恩返しに、魂を取り込もうとするフワンテの失敗は
『あ、分かります? 私この人の魂を何としてでも取り込まなくちゃって思いまして、それで遠路遥々ここまでやって来た訳ですよ』
『へぇー、そうなんだ』
部屋を覗き込む不審な自分に気軽に声を掛けて来たポケモンに警戒心を抱かなかった事、
『それでですね! 今からこの人の魂を奪っちゃおうと思ってまして……』
『うんうん、それで?』
『もうこれ実質結婚なんじゃないかなって!』
自分の欲望を抑えずに大っぴらにした事、そして…………
『へぇー、そうなんだ……じゃあ、さよならだね』
『ええ、サヨナラです! 今から私、集中して魂を奪うので邪魔しないで……………………』
狙う相手を間違えた事だ。
フワンテがその言葉を言い終える事は終ぞなかった。深夜のミオシティに響いたのは乾いた破裂音。そして少し遅れてから、フワンテの中に閉じ込められていた魂の絶叫がミオの空にこだました。
深くは語らない。だが、発電所の女の子がフワンテによって、あの世に連れ去られる事は無くなったとだけ記しておこう。
カブト
頭のおかしい子(直球)まだ水の上を走れないあたりポケモンマスターは遠い。釣竿強奪の前科がついた。
ユキちゃん
氷漬け中毒者。まだ氷の手錠が効果を発揮していて嬉しい。朝起きると氷を全て溶かされるのはそろそろ諦めた。
メガちゃん
いつまで経ってもブレない子。
ポリさん
常識人。いつまで正気で居られるかな?
ウツボット
ヤンデレポケモンの一体。体の中で溶かしてしまう事で、愛する人と一つになろう系ヤンデレ。まだ一応ご存命です。
カブト父
顔など覚えてない。
フワンテ
今日の犠牲者。フワンテは犠牲になったのだ、犠牲の犠牲にな。
次回予告
雑に増える手持ちヤンデレ。以上