ヤンデレゲットだぜ!   作:デンジャラスzombie

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「つよいヤンデレ、よわいヤンデレ、そんなの人の勝手。本当にヤンデレが好きなら、好きなヤンデレに愛され続けるべき」

皆大好きカリン様の名言。この言葉は今も尚多くの人の心に残り、受け継がれている(適当)

つよいヤンデレ、よわいヤンデレの定義だって?それは自分で見つけるんやで(悟り)


VS崇拝

 朝、ミオシティで目を覚ましたカブト。ポケモンセンターの前に転がる風船の残骸に訝しみながらもそれを踏み越え、修行の為に『こうてつ島』へ向かおうとする。

 しかし此処で問題が発覚。カブトはB級サメパニックホラー映画を見てしまったが故にトラウマを植え付けられ、船に乗ることが出来なかったのだ。いざ港までたどり着いたが、これでは修行スポットとして定評のあるこうてつ島に行くことが出来ずに意味が無い。

 カブトはゴースの体重と同じくらい絶望した。メガちゃんに連れて行って貰えるほどこうてつ島は近くに無く、途中でメガちゃんの体力が切れて落下する事は目に見えている。

 

 絶望したカブトはふと手元を見下ろす。その手には釣り親父から分捕ったボロの釣竿が握られていた。此処でカブトに天啓が走る。船に乗れないなら、海を渡れるポケモンを捕まえれば良いんだと。

 心を決めれば後は早い。早速港の近くでワクワクしながら釣り糸を垂らす。何が釣れるだろうか? TVで見た赤いギャラドスなども良いだろう。カイオーガ、ルギアなども良いかも知れない。

 これから訪れるであろう栄光を想像すると、思わず顔がにやけてしまう。しかし釣り糸を垂らす事数時間、一向に釣れる気配が無い。実はこの間にコイキングなら釣れていた。しかしコイキングを頼りにこの海を『なみのり』するなど不可能だ。ビート板代わりにして泳ぐなら話は別だが。

 

 あまりに『なみのり』出来そうなポケモンが釣れなかったので、カブトはおもむろに立ち上がるとボロの釣竿と服を投げ捨てて、最低限の装備を残した状態で海に飛び込んだ。

 海の中は様々なポケモン達が跳梁跋扈する無法地帯。辺りを見渡すだけでも海の幸……いや、『なみのり』が使えそうな強靭なポケモン達がいっぱい溢れかえっている事が見て取れる。通常のダイビングであるならば非常に美しい光景だろう。しかし、カブトはそんな物には見惚れ無い。今、彼の頭には水ポケモンを捕獲する事しか頭に無いのだ。

 

 拳を握り締めると、どうせなら強そうな奴が良いという理由だけで、獲物を追っていたサメハダーに狙いをつけて、紫の液体が漂う水を掻いた。獲物を追い詰め、今まさに食わんとするその無防備な横顔に、カブトの振るった『きあいパンチ』が炸裂する。『さめはだ』でカブトの拳も傷つくが、所謂コラテラルダメージという奴だ、何の支障も無い。

 食事の邪魔をされ怒り狂ったサメハダーが、その大きな顎門を広げてカブトの四肢を食いちぎろうと迫りくる。その口内に見られる鋭利な牙はノコギリを連想させる程鋭く尖り、噛みつかれた際には間違い無く大きなダメージを負ってしまうに違いない。

 普通の人なら此処で横や、上に逃げる事を行うだろう。しかし、今、この場において、カブトの辞書に撤退という二文字は無い。カブトはその右の拳を固く握り締めると、その大きく開かれたサメハダーの口内に向けて、『きあいパンチ』を打ち上げるように突き刺した。

 脳が揺らされる、瞬間における意識の混乱と混濁。一瞬だけ意識が飛んだサメハダーは事態を理解すると、自身の口内に突っ込まれた異物である右腕を噛みちぎるべくその手に牙を突き立てようと勢い良く口を閉じる。しかし、カブトは口が完全に閉じられる前に腕を引き抜き、今度は両手両足を使ってサメハダーに絡みつくことで、口を開けないように押さえつけて攻撃手段を奪った。

 

 しかし此処でカブトは一瞬躊躇する。もしかしてこれは最近話題のポケモン虐待という奴なのではないか、と。だが、ポケモンを捕獲する為に相手にダメージを与える事は必要不可欠。今回の場合は水中で戦えるポケモンがいない為にトレーナーが戦っただけに過ぎない。しかし、世間の評価というのは中々難しいもので、自分が正しいと思っても世間ではそうではない事などありふれている。その為、カブトはどう行動するべきなのか分からずに次の行動に移る事が出来ないでいた。

 

 カブトが思考の沼に嵌っている間にも、サメハダーはもがく事で拘束から脱出しようとする。このままもがき続ければカブトは『さめはだ』によって蓄積したダメージで拘束を維持できなくなるだろう。カブトからすれば両手を使ってしまっているので腰につけたボールを取ることが出来ずにジリ貧だ。

 そんなカブトの窮地を救ったのは先程サメハダーに追いかけ回されていたポケモンだった。そのポケモンが放った『みずのはどう』がサメハダーに直撃し、遂にサメハダーは力尽きる。カブトは咄嗟に『みきり』を使う事で難を逃れた。

 

「何かごめんね、サメハダー」

 

 一言謝罪して気絶したサメハダーの口に『げんきのかたまり』を突っ込んだ後、捕まえようとボールに手を伸ばすがもう海中で息が続かない事を自覚し急いで海面へと上昇しようとする。しかし、サメハダーとの激闘で体力を使い果たしたカブトは途中で力尽きてしまう。そんな彼を背中に乗せて岸まで運んだのは、サメハダーに獲物とされていたポケモンだった。

 全体的にぬめっとして質感を持ち、青と緑の体色を持つポケモン、そして、その愛くるしい顔と鳴き声で一部の界隈での人気の高いポケモンでもあるトリトドンだ。海中に漂っていた紫の液体は、トリトドンが外敵に襲われた時に噴出した物で毒性は無いらしい。

 兎も角、目を覚ましたカブトは交渉の末、水タイプのポケモンであるトリトドンを仲間に加える事に成功した。お世辞にも屈強な体を持つとは言えないが、カブトは自分を助けてくれたこのポケモンをとても気に入ったのだ。後はトリトドンの気持ち次第だが、意外な事にトリトドンも快く了承してくれた。

 こうして、カブトは『トリさん』と名付けられた彼女の背中に乗り、新しい手持ちとして彼女を加えて、共にこうてつ島へと向かうのであった。

 

 

 なんやかんやで海を渡りきったカブトは、島の入り口付近で屯していたビークインとガーメイルを使うスキンヘッズの男達をポケモンバトルで倒すと、彼らを仲間にして島の内部へと乗り込んだ。

 仰々しく修行と言っても、道中現れる野生のポケモンや、同じく修行に来ているトレーナーと手合わせする程度の簡単な物。カブトは出会ってからの経験が浅いポリさんと、トリさんをメインにして上手く連携が取れる事に主眼を置いた修行を行なっていた。

 こうてつ島のトレーナーも粗方倒しきり、残るは最深部に居た、ゲンという名を名乗るルカリオ使いの男のみ。波動を使った攻撃を繰り出すルカリオに酷く苦戦させられるも、ずっと着いてきていたスキンヘッズの応援や僅かな間ではあったが修行の成果もあり、カブトはゲンとの激戦を制する事が出来たのだった。

 

 戦いを終え、一息をつくカブト達。スキンヘッズや、ゲンだけでは無くそこら辺にいたトレーナーをも巻き込んでの夕食とする。カブトが、長時間の戦闘で干からびかけていたトリさんに『美味しい水』をかけて元の柔らかな姿に戻そうとしていると、そこにゲンの連れていたリオルが近づいて来た。このリオルはまだレベルが低いのか、戦闘参加はせずに戦いを遠巻きに見守っていたポケモンだったとカブトは記憶している。お腹が空いたのかと思いきのみを何個か渡すと、そのきのみを持ってリオルは何処かへ行ってしまった。

 暫くすると、リオルはゲンを連れてカブトの元へと戻ってきた。曰く、カブトの事を気に入ったから旅に連れて行って欲しいそうだ。何処に気に入られる要素があったのか甚だ疑問だが、兎も角ゲンの了承も取れた事で新しくリオルの『ルカちゃん』が仲間に加わった。

 さらに嬉しい事に、ゲン直々にルカリオの戦い方や、波動を伝授してくれるという。

 本日2人目の仲間が出来た事や、新たに師匠ポジの人が出来た事にカブトは喜び乱舞する。手持ちポケモンの約2名は状況次第では抹殺も辞さないと決意し、常識人胃痛ポジは、どうせこいつもロクでもない奴だと諦め、新人さんは、ただ粛々と決定に従った。

 協調性が欠片も無い……

 

 夜、此処こうてつ島に於いては皆が寝静まっても決して安心できない。この島には多様なポケモンが生息しており当然夜行性のポケモンもいる。そしてカブトは今、ポケモンのタマゴを持っているのだ。何時もならポケモンセンターに宿泊していたのでタマゴが野生ポケモンに襲われる事は無かった。しかし今は野宿。当然、狙われる可能性が高い。

 

 そこでカブトは、手持ちの中で最も体力や防御力の高そうなトリさんを召喚しタマゴを守るようにして欲しいとお願いする事にした。勿論、時間制限付きのカブトとトリさんの交代制だ。

 

「トリさん、手持ちに加入してくれたばかりなのに申し訳無いけど頼みがあるんだ。二時間だけこのタマゴを守っていてくれませんか?」

 

 カブトの頼みに対してトリさんは、

 

『承知致しました……。この命に変えてでもこのタマゴを守ってみせます……』

 

 非常に畏まった態度で任務を引き受けた。その態度だけで、彼女がどれほどこの任務に全力を尽くそうとしているのかが分かる。

 

 トリトドンのトリさんは感謝していた。

 今日、何時もの様に浅瀬で食事を取ろうとしたのだが、本来もっとあるはずの餌が何故かいつもより少なかった。そこで彼女は餌を食べる為に、多少なら遠くに出ても大丈夫だろうと考えて沖合に出たところをサメハダーに襲われてしまっていたのだ。ずっと追跡され続けて、体力も限界に近づき、いよいよ死を覚悟した時に彼女に救いが現れた。颯爽(?)と現れて彼女を命の危機から助けたカブトの姿は彼女にどう写っただろうか。英雄? 救世主? それとも神? 

 何にせよ、彼女はカブトに対して狂信とも言える感情を抱いてしまった事に違いは無い。

 

 彼女はカブトの命令を忠実に遂行するだろう。その命令の為ならば同族は愚か、家族すらをも切り捨てる事も厭わず、自身の命すらも省みない。そして、カブトに相応しく無い人物とトリさんが判断する様な存在が、彼に近づこうものならば即刻排除する事に躊躇いも無い。例え、その結果彼女がカブトから嫌われようとも憎まれようとも。

 

 故に彼女は容赦しない。それがこれから共に肩を並べる手持ちポケモンとしての先輩であろうとも。

 

 

 皆が寝静まった夜、タマゴを守る様に立ちはだかるトリさん。そして相対するはメガヤンマのメガちゃん。

 

『ねぇ、そこを退いてくれないかな? ボクはそのタマゴを壊す必要があるからね』

 

『何故その様な事を……?』

 

 防御姿勢を一切崩さないままトリさんはメガちゃんに問いかける。その姿を見てメガちゃんは薄く笑い、羽を不規則に羽ばたかせることで不気味な音を奏でながら言葉を続ける。

 

『そんなの決まっているさ。そのタマゴが来てからカブトはタマゴに付きっきり、そいつが孵ったら尚更だ。それは決して許されない事さ。カブトの一番はボクでなければならない。例えそれが生まれたばかりの赤子であろうとも、ボクからカブトを引き剥がそうと言うならば殺さなければならない。キミはボクの行動を見逃すだけ、簡単な話だろ?』

 

『それは許容しかねます……。私はカブト様にこのタマゴを守る様に仰せつかりました……。この命に替えてでもこのタマゴに手は出させません……』

 

『そうか、ならば交渉は決裂だね。遅かれ早かれ死んでもらうつもりだったから丁度良いや。消えろ』

 

 言うや否や、メガちゃんの羽ばたきから生み出された不可視の斬撃がトリさんを襲う。会話を始めた時からこうなる事を見越していたのだろう。殆どノータイムで放たれたその一撃は、トリさんの柔らかな外皮を貫通し彼女の内臓をぐちゃぐちゃに引きちぎる。

 

『—————‼︎』

 

 声にならない絶叫。メガちゃんの持つ圧倒的な力の前にトリさんの柔らかい体は一瞬にして千切れ飛んだ。こうてつ島のゴツゴツした大地に先程までトリさんだった物が飛び散り、辺りに鉄臭い匂いが立ち込めた。トリさんは決して弱くは無かった。しかし、今回は相手が強過ぎたのだ。彼女はその短いポケ生を此処で終わらせてしまう。だが、彼女に任務を達成できなかった事に対する後悔はあれども、カブトについて来た事に対する後悔は無い。彼女は最後までカブトから与えられた任務を喜んでいたのだ。

 

 心優しきトリさん、此処に眠る。

 

 

 

 そしてトリさん殺害の犯人、メガちゃんは上機嫌に体についた血潮を拭っていた。カブトに近づく邪魔者が一人消え、そして今夜もう一人消えるのだ。これを喜ばずに居られるものか。

 

『あはは! やっとあの目障りなタマゴを破壊できる! あの新入りももういない。ならば壊す事など赤子の首を捻じ切るより楽な作業だ! この調子であの雪女も殺そうか。きっとカブトも褒めてくれるさ』

 

 機嫌よく独り言を呟くメガちゃん。彼女の頭の中では近づく女を抹殺すればカブトに褒めてもらえるらしい。流石ジェノサイダー。

 

『汚れも取れたし、じゃあ、いよいよタマゴを粉砕しようかな』

 

 悠々とタマゴに近づくメガちゃん。それは勝者の余裕が感じ取れる堂々たしたものだった。しかしその歩みは意外な存在によって妨害される事になる。

 

 突如として横から湧き上がった、全てを押し流す汚れた流水、『だくりゅう』。メガちゃんは咄嗟に『みきり』を使い攻撃を躱す。

 

『ッ! 誰だ! …………! お前はっ!』

 

『どうしたの……? 幽霊でも見た様な顔して……』

 

 メガちゃんの視線の先、そこには死んだ筈のトリさんがその体を脈打たせながら立っていた。のそりのそりと移動し、タマゴが背後になる様に位置取りをする。

 

『何で! 生きて……ッ!』

 

『そんなに死んだ筈の女が生きているのが珍しい……? 一回死んでみれば貴方も生き返れるかも知れませんよ……』

 

『冗談……ッ!』

 

 何故死んだ筈のトリさんが生きているのか。それは至極簡単な話だ。トリさんは、トリトドンの持つ高い再生能力と自己再生を使用して細切れの状態で一から自分の体を再構築したのだ。いくら再生力に長けたトリトドンとは言え誰しもができることでは無い。体を回復させる度に感じる激痛と、死への恐怖。普通ならこれらの要因で途中で復活を諦めてしまう。本当に恐ろしいのは瀕死からでも元に戻れる再生力ではなく、どんな時でも揺るがないトリさんのカブトへの信仰心。カブトから与えられた任務を遂行する、それだけの想いで彼女は現世に再び舞い戻ってきた。

 

 

 これより交代までの約二時間、タマゴを庇い続けたトリさんはメガちゃんによって、ただひたすらに殺され続けた。

 全てはこの世で最も崇拝するカブトの願いの為に。彼女は何度殺される事になろうとも決してブレる事は無い。例え彼女に彼の愛が向けられずとも、それでも彼女は彼を愛し続けるのだ。

 




カブト
動物愛護法違反者。ギャグ補正が無ければポケモンと戦うとか考えちゃダメ絶対。新興宗教の開祖になる。

ユキちゃん
出番無し。序盤に見せ場あったし是非も無いよね……

メガちゃん
カブトとの中に割り込もうとするならば、このメガちゃん、例え赤子であろうとも容赦せん!

ポリさん
涅槃の境地に達した。どうせ新人も頭おかしいに決まっている、と頭ではなく心で理解した。ある意味真実。

タマゴ
まだ生きていた奇跡に感謝。生まれるのはシンオウヤンデレポケモンとしては外せないあの子。

トリさん
狂信者であり、その実態はデンジャラスゾンビ。命は投げ捨てるもの。
ダイブボール入り。

ルカちゃん
皆大好きあの方。伝説ポケモン詐欺の進化前。ゴージャスボールに入れ直す。

サメハダー
今日の被害者。再登場を震えて待っておけ。

ゲン
手持ちのリオルを何処の馬の骨とも知らない奴に取られた可哀想な人。師匠ポジになる。

スキンヘッズ
波動崩しだか波動殺しだかよくわからない奴ら。舎弟。

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