孤島の風は荒野に靡く    作:αの名酒

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よくよく考えたら評価無色ロスオーバーなんて地雷を硬梨菜先生が踏む訳ないわ……χ鯖の如くひっそりと傲慢の謝罪更新です




ver.Anonymities

「うっそだろ、いつの間に後ろ取られた?」

「ジャミングいかれてんのか?!」

「んなコトあるかよちゃんと機能してるわ! 不安なら自分の端末見てみろ!!」

 

 個人戦を華とするバレット・オブ・バレッツ(Bullet of Bullets)とは異なり、少人数による団体戦を企画主旨として開催された第二回スクワッド・ジャム(略してSJ2)。その最中で、とあるチームが混迷を極めていた。

 

 チームの名は『POMC』。Pioneers Of Machine Craft、直訳すれば“機械製作の先駆者”。彼らはこのゲームでは珍しいプレイヤーメイドの銃や機械を造る集団である。GGOに限らず基本的にVRMMOにおいて生産職は不遇職とよく呼ばれるが、彼らは特段の劣等感に苛まれているわけではないし、面倒な資格のいらない機械工作ができて満足もしている。

 

 ただ、如何せん金が掛かってしまう。材料とて無料ではない。『POMC』は商人ロールをしているのではなく、新たなビックリドッキリメカを造りたいのだ。普通のプレイヤーなら狩りやPKで稼いで武器弾薬と相殺、あわよくば利益を出しているところ、彼らは引き篭もってガリガリ鉄板削ってはんだ付けて部品を組み立てての日々。(マネー)が鉄へと早変わる逆錬金術とでも言わんばかりに着実に金が消えていく。

 

 そんな資金難の連中が、降って沸いた賞品獲得イベント(スクワッド・ジャム)を逃す訳がない。お手製の銃(たまに弾詰ま(ジャム)る)と秘蔵の秘密兵器を携え、意気揚々とこの大会に参戦した。

 

 それなのにこの様はなんだ?

 

 秘密兵器こと通信妨害機(オブストラクトジャマー)はしっかりと仕事を果たしている。現に先ほどは二手に分かれて包囲しようとしてきた敵チームを完全に分断し、撃破につながるベストなアシストで貢献した。無線による通信を断ってしまえば、少なからず連携に乱れが生まれる。その脆弱性を突けば、ミツバチがスズメバチを生態系ピラミッドから蹴落とすように、強大なチームでも数で鏖殺可能な個人に成り果てる───はずだった。

 

「なんだよこいつらの連携!」

「もしテレパシーとかなら対応できんわ……」

「現実から逃げるな」

 

 この均一的なコンクリートジャングルの舞台の上、気がついたときには既に逃げ道を塞がれていた。どこかが手薄になればどこからかスナイプが飛んでくる。分厚い土嚢を積んでいるわけでもないのに、真綿で首を絞められるような心理的圧迫感。さらには通信網をズタズタに引き裂かれた状況で、原始的な狼煙すら上げずに遂行される完璧なまでのコミュニケーション能力の異常性が、彼らの精神をじわりじわりと虐め倒す。

 

 『POMC』のメンバーはしきりに首を捻るが、もしも孤島(サバイバル・ガンマン)出身者が一人でもいれば、相手のチーム名を確認して大いに納得がいっただろう。

 

 敵の名は『THETA(θ)』。そりゃあジャミングが効かなくて当然だ。ぶぶ漬けを美味しく食する外国人が日本古来の奥ゆかしい罵倒を理解できないように、そもそもの文明が、文化が違う。無線なんて天上の神具が無くたって、孤島では生活ができていた。

 

 口より速い腕がある。

 一を話す間に百を伝える指先がある。

 

 他人に理解されなくてもいい。ただ、オフゲ(ぼっち)にいたくないだけ。故に音声が消失し、代わりに固有のハンドサインが発達した哀しみのサイレントアイランド、それがθ鯖である。

 

「そういやさっきから何であいつらは囲むばっかで、全然攻めて来ないんだ?」

「チキってるって訳でもないだろうし……もしかして、あいつら俺たちの装備を狙ってる?」

 

 現状を見れば分かるように、独自のハンドサインを保有するθ鯖の生還者だけで構成された『THETA』には、電子的なジャミングが一切の効果を示さない。視界を遮る発煙筒でも焚いた方がよっぽど有効だろう。

 もし仮に『THETA』が通信妨害機を壊さずに強奪できたのなら、それは後々の敵にだけ悲惨なディスアドバンテージを課す、相対的に自分たちは莫大なアドバンテージを得られるボーナスアイテムになる。

 

 彼らは妨害を受ける文化圏には生息していない。が、それは価値を把握していないこととイコールでは結びつかない。むしろ物資が常に枯渇していた孤島の()住民だからこそ、そのありがたみはよく知っている……今この場をお借りして、週1で物資を掻っ攫って(いただいて)いた、お隣のι(イオタ)サーバーの皆様には感謝と弔辞と謝罪の3点盛りを贈りたい。

 

「……どうする? このまま膠着状態を続けても埒が開かないぞ」

「なら、あちらが通信妨害機を撃つのを躊躇った瞬間に強行突破か。それが一番成功率が高そうだ」

「躊躇わなかったら?」

「その時はその時だ。こんな戦況に追い込まれた時点で戦術眼は敵さんの方が優れてる。最期は最高傑作でもぶっ放して死のうぜ!」

 

 戦う銃鍛冶屋(ガンスミス)たちは背を預けあい、そして決死の覚悟を決める。次のチャレンジが失敗すれば後はない。丹精込めた愛銃の安全装置を解除しながら、少しでも成功の可能性を引き上げるためにせめて敵の首魁の大まかな最新位置は確認しておこうと配布されたサテライト・スキャン端末を覗き込み──後悔することになる。

 

 『POMC』と『THETA』のマーカーが完全に同じ座標に重なっていた。それはつまり。

 

「…………上?」

 

 大空を仰げば、三階建てのビルの上に直線的な建築デザインには相応しくない余計な影が見えた。逆光で細部は不明、しかしその輪郭は銃を構えた兵士のように見えなくもない。

 

 そしてその影が、落ちる。

 

「野郎! 自殺覚悟の特攻か?!」

 

 嗚呼、これが錯乱した馬鹿の独断専行ならどれだけよかったか。慌ただしく上空に銃口を向ける彼らは忘れてしまったのだろう。

 

 この争いはチーム戦(スクワッド)であり、歴戦の敵は卓越した連携を使うのだと。

 

「しまっ」

「そっちが本命か!」

 

 γ鯖のトリガーハッピーのような密林抜きヘッドショットはさすがに無理でも、強制的に意識をずらされた(まと)のこめかみをブチ抜くくらいは造作もない。隠密性を追求したサイレンサー付の銃口から漏れた微かな発砲音と共に、数ミリの鉄屑が頭蓋を食い破る。

 

 お優しいことに屋上から飛び降りた()()()囮担当を自殺かと心配してくれたらしいが、巨大フクロウ先生の指導下で夜間フリーフォール訓練に励んだ孤島民にしてみれば、三階建てのビルなんて少し高めの段差に毛が生えたようなものだ。

 

「誰かは道連れにしてやるッ……!」

 

 血に沈む同胞に庇われた最後の一人が敵を討つ為に再び銃口の向きを切り替えるが、それもまた術中。

 

 もう一度繰り返すが、ギリシャ文字鯖を生き抜いた連中はビルの三階から落として死ぬタマではない。

 

 すなわち、囮と本命が入れ替わる。

 

「ぐっ!?」

 

 偉大な落下エネルギーに背中を押され、同郷の者に銃を向ける不届き者を上から押し潰す。言葉にすれば容易いが、実際は「灼熱に熱した毒針を隠し持つ糞塗れの臼」レベルの凶悪度。そもそも成人一人分の加速した質量を受け止められる筈もなく、殿兵はあえなく地面へと叩きつけられる。

 

「くたばれ!」

 

 それでも最後の意地で地べたから襲撃者へ一発食らわせようと引き金に指を掛け……そこまでだった。

 

「…………」

 

 沈黙の内に最適化された動作で振るわれるナイフと啓かれる喉。流れるのはドロドロとした昏い血ではなく、鮮やかなポリゴンなのは少し興醒めだが、それにしてもあまりにもあっさりとした終幕。しかし端役の引き際など大抵こんなものだろう。

 

 斯くして『POMC』は物言わぬ敗者に成り下がった。だが勝者も声高らかに勝利を誇ることはない。粛々と次の戦闘から生還するために足掻くのみ。一々浮かれていては簡単に獣の餌になると先人が証明している。

 

 彼らはθの民。己が静寂を何よりも愛する者たち。有名人なんて最初からいない、ただの捻くれ者の集団。きっとこれからも彼らの存在が流布されることは無いだろう。

 

 それでも彼らは、そこにいる。

 

   『θ(シータ)サイン』:(人ではなく文化)

 




……弁明させてほしい。基本シャンフロは一人称、なのにそれを三人称で、しかも不明瞭なキャラでやるのはいくらなんでもキツかった……。あゝ他のサバイバーの詳細が欲しいぃ。希望としてはζ。

これにて一時ネタ切れ
次回更新は未定です
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