二葉あおいは懊悩する【完結】   作:草陰

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7話 立てたフラグは回収しないとね

 

 

 

 

 一色家にて勉強会を開くことになった。

 あかねが小テストで赤点をとったことから、みんなで勉強を教えることになったのだ。

 もちろん、それだけではすまなかったりもしたのだが。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「じゃあね、みんな!」

 

 そういってエアバイクで去っていくあかね。

 放課後。校門にて3人娘はそれを見送ったところで、あおいはつぶやく。

 

「みずはさん、どこまでやってくれるかな」

 

 勉強の方は自分たちがどうにかするけど、それとは別にあかねへ給与を払ってくれとみずはに要求したのだ。苦笑するわかば。

 

「まさか中学生の身で賃金交渉やることになるとはおもわなかったよ」

「しかたないよ。このままじゃあかねくんが潰れちゃうもん」

 

 憮然とあおい。

 わかばとひまわりも神妙な様子であおいの言葉にうなずく。

 

「そうだね。それはわたしもおもうよ」

「うん」

 

 朝イチでバイトして、学校挟んでまた夜までバイト。それに加えてアローンとの戦闘である。いつかどこかで破綻する未来しかみえない。いくらあかね自身がそれを是としていても、来るべき破綻を黙って見過ごせるほどあおいたちは薄情ではないし、大人でもなかった。

 昼夜問わず月月火水木金金の勢いで戦わされているのだ、給与を要求する権利くらいあるはずだ。みずはも思うところはあったのだろう。「わたしの一存では決められないけれど、上に問い合わせてみるわ」と真摯に答えてくれた。

 

「あかねくんも、もうちょっと自己主張していいとおもうんだけど……」

 

 目を伏せるあおい。あおいたちのやりとりを当惑の面持ちでみていたあかねを思い出す。もっとも、アローンとの戦闘で給与をもらおうなんて考えもしなかったのだろうが。いつの世も実直な人間ほど割りを食ってしまうものなのかと悲しく思う。

 なんにせよ、あとはみずはをたよるしかない。うまいことやってくれることを祈るあおいであった。話が一段落したところで、わかばが口を開いた。こころなしか言いづらそうなようすだ。

 

「でさ、こんどの勉強会のことなんだけど……黒騎さんも誘わない?」

 

 ぽかんとするあおい。

 

「なんで?」

 

 マジでわけがわからなかった。

 文系科目はあおい。理系科目はひまわり。加えて校長が太鼓判を押すレベルの才媛であるわかばがいるのだ。あかねのバックアップとしてこれ以上の陣容はないだろう。わかばは続ける。

 

「ほら、サマースクールじゃめいわくかけちゃったからさ。おわびもかねて誘ってみよう、って」

「ことわられそうな気もするけど」

 

 言外に「ムダじゃない?」とほのめかすひまわり。むすっとした顔。できることなら関わりあいになりたくない。そんな意思を感じる。あれから何度かドッキングしたことで、ようやくれいが脅威だと気づいたようだった。

 わかばはどうなのかわからないが、さっきいいづらそうにしていただけに、あおいたちのれいに対する敵対心は敏感に感じ取っているのだろう。

 それでも根っこの部分では義理人情の人物だ(※ただし剣と酒が関わらなければ)。サマースクールの一件は博士の暴走で片付けることも可能だが。自分たちビビッドチームの強化が目的でもあり、そこに巻き込んでしまった責任を感じたことは想像に難しくない。

 

「まあ、それでも、ね? おねがい!」

 

 そういって苦笑と共に両手を重ねるわかば。

 わかばにしても断られる可能性は高いと思っているらしい。

 それでも誘おうというのは、責任感と、おせっかいもあるのだろうと思う。

 孤立しているクラスメイトに手を差し伸べようというおせっかい。

 こんなことに付き合ってやる義理もないのだが――きっと想い人も同じような行動を取るのだろうと思う。であるならば。あおいに選択肢はなかった。

 

「やるだけのことはやってみるけど……」

「わかばのおねがいなら……」

「ありがとう! あおいちゃん! ひまわりちゃん!」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 黒騎れいは学校の中庭にいた。

 なにやら植え込みに向かってしゃがんでいたが、あおいはとりあえず声をかける。

 

「黒騎さん」

「!?」

 

 背中から声をかけられたからか、びくりとれいの身体が跳ねた。

 おそるおそるといった様子で振り返るれい。

 

「な、なにかしら……」

 

 いつもの無表情だが、なんだか様子がおかしい。

 まるで必死に虚勢を張っているようなビクついた気配。

 はて、こんな小動物キャラだっただろうかと首をかしげるあおい。

 なんにせよ、やることをやるだけだと気を取り直して。開口一番。

 

「こないよね?」

「え?」

「こないよね? ね?」

「え、あ、ええ……」

「だよね! さすが黒騎さん! じゃあね!」

 

 しゃがんだまま呆然としているれいを横目に、あおいは手を振って去っていく。

 やるだけのことはやった。

 

(あとは明日の勉強会の準備しなきゃ! まっててねあかねくん!)

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 そして勉強会当日。

 畳の上に置かれた座卓を囲むあおいたち。そこには黒騎れいの姿。

 一色家での勉強会。れいはふつうにやってきた。

 どんなトリックを使ったのか、あおいは不思議で不思議でならない。

 隣りに座ったわかばにこそりと問いかければ、あっさりと。

 

「ふつうに誘っただけだよ?」

「ほんとうに?」

「ほんとうだよ。わたしだって、正直ちょっとおどろいてるくらいだもん」

 

 わかばの言葉にうそはなさそうだった。

 

「『土曜にあかねくんのおうちで勉強会をやるんだけど、あなたも来ない?』って訊いたら、『ええ……』なんて」

 

 そういってから、わかばはふとなにかに気がついたような表情をうかべる。

 

「ただ」

「ただ?」

「そのとき、なんかぼうっとしてたような」

 

 合点するあおい。

 ちょうど考え事でもしてて、反射的にわかばの誘いにうなずいただけだなこれは。

 黒騎れい。無愛想な女だが脇は甘いらしい。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 面倒なことになったな。あおいはそう思った。

 トイレに立ったれいを尾行してみたのだが、いきなり家探しを始めたのだ。

 それだけならあおいもたまにやるからとやかくいいはしなかったが。

 台所。冷蔵庫の中の一色博士をみられてしまったのはまごうことなき自分のミスだった。

 

(いや、だってまさかひとの家の冷蔵庫をかってにあけるなんておもわないし)

 

 心のなかで言い訳をするが、現実は容赦なく進行している。

 とりあえずは、悲鳴をあげようとしているれいをどうにかしなければならない。

 

「き……」

 

 ギシリと、あおいはわざとらしく足音を立てた。そのまま物陰から姿をあらわす。

 悲鳴を上げようと口を開いたまま、れいはあおいの姿をみて、目を見開いた。

 

「……!? ふ、ふたばさ」

「人のおうちの冷蔵庫をかってにあけるなんて、ちょっとどうかと思うよ?」

「そ、それは……」

 

 れいも思うところはあったのだろう、しどろもどろになる。

 その姿をみて、ちょっといじわるな気持ちになった。

 テキトーにいいくるめて終わりにするつもりだったが、こういう悪い娘はちょっとおどかしてやらねばならない。あおいは口を開く。

 

「にしても、バレちゃったかー」

「え……?」

「このことはだれにもひみつだったんだけどなー」

「ま、まさか……!」

 

 あおいの顔をおびえた顔でみつめるれい。ガクブルと身体を震わせている。

 

「みられちゃったからには」

 

 一歩、二歩、ゆっくりとあおいは踏み出す。れいは後ろに下がっていく。

 

「口止めしないとね――博士みたいに」

 

 にこり。あおいが笑うと同時にれいはたおれた。

 あおむけに、バターン。

 

「……これくらいで気絶するなんて」

 

 ちょっとおどかしたくらいで大げさな女だ。あおいはひとりごちる。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 台所にて気絶したれいを囲むあおいたち。

 

「すっごくうなされてる……」

「冷蔵庫をあけたらぱっと見死体があったんだもん、うなされもするでしょ」

「だよね」

 

 上からわかば、ひまわり、あおいである。

 あおいが発見した時点でれいは気絶していたとみんなには伝えていた。ひまわりだけは疑わしげな目であおいをみていたが、これといって追求はしてこなかった。

 3人娘の横で頭を抱えるあかね。

 

「うちのクソジジイが、また迷惑を……」

 

 あかねの中で祖父の評価は急落中のようだ。

 博士の抜け殻はとりあえず物置に移動させておいた。

 証拠隠滅も完了したところだし。

 

「じゃ、そろそろ起きてもらおうか。わかばちゃん、おねがい」

「りょうかい」

 

 れいの背に腕を回して上半身を抱き起こすわかば。

 そのまま両肩に手を置いて「はっ!」と喝を入れると同時に目覚めるれい。

 見事なお手並みだった。

 

「え、あ……」

 

 キョロキョロと視線をさまよわせてから、ぼんやりとれい。

 

「わたしは、いったい」

「台所でたおれてたんだけど、だいじょうぶ? 黒騎さん」

 

 実に白々しいわかばの言葉にれいは眉をひそめる。

 

「台所?」

「そう、台所」

「台所……」

 

 寝起きの頭にようやく言葉がしみわたったのかもしれない。

 ハッとした様子で、声を上げる。

 

「冷蔵庫のなかに……!」

「なかに?」

 

 にこにことあおいが笑みを向けると、サーッとれいの顔色が青ざめた。

 理由はまったくわからないが、人の顔をみてそのリアクションはないのではないか。

 あおいは内心の不快感を押し隠すように繰り返す。

 

「――なかに?」

「……なにもありませんでした。わたしのかんちがいだと思います……」

 

 うつむいてそういうれいはいつになく殊勝な様子だった。

 ところで、ひまわりちゃんはなんでわたしのことを呆れた目でみているのだろう。

 あおいは不思議だった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 アローン襲来。

 その情報がもたらされたのは、れいが帰宅してから10数分後のことだ。

 ミーティングでみた健次郎博士はひと回り小さくなっていた。

 昔お気に入りのぬいぐるみをお手伝いさんがまちがって乾燥機に入れてしまったとき、あんな感じに小さくなった気がする。

 なんでもミキサーを勘弁してもらった結果らしいが、あおいにはよくわからない。

 

 さておき――戦闘開始だ。

 

 オスプレイから夜のビル街へ飛び降りていく、パレットスーツを着たあおいたち。

 あおいが少し姿勢を崩したところを、先行していたあかねが空中で受け止めた。

 

「ありがとう、あかねくん!」

 

 つかの間の抱擁。お礼をいうあおい。胸板に顔を押し付けていろいろ堪能したかったが、それよりも先にあかねの方から離れていく。

 

「気にしないであおいちゃん! さあ、いこう!」

「う、うん!」

 

 離れていくあかねに名残惜しさを感じるものの、今はそれどころではない。

 まずは目の前のアローンを叩き潰す。ラブコメはそれからでいいだろう。

 あおいは両手に持ったハンマーをぎゅっと握り直すと、飛んで行くあかねに追従する。

 夜空を飛びながらおなか減ったなあ、とあかね。

 

「はやく帰って、ももの作った夕飯を食べたいよ」

「あかねくん、そういうフラグを立てるようなことは……」

 

 眉をひそめるあおいに、ひまわりも続く。

 

「……えんぎでもない」

「え? なにが? なんでふたりともそんな顔してるの?」

 

 よくわからないという顔をしているわかば。

 あかねは不敵な笑みをうかべる。

 

「なあに心配いらないさ。こっちには勝利の女神が3人もついてるんだからな」

 

 らしからぬキザなセリフ。

 れいの帰宅後、ももが料理を作っているあいだに見ていた洋画のセリフだった。

 その遊び心にあおいはくすりと笑う。

 

「正確には1人だよ、あかねくん」

 

 あかねのいうとおり、戦闘は終始こちらがわ優位で進んだ。

 ひまわりとドッキングしてあっさり撃破。

 たいしたことのない敵だったと、気を抜いたのがいけなかった。

 

「あぶない!」

「あ、あかねくん!?」

 

 たおしたと思ったアローンによる一撃。

 あおいを庇って、あかねはその赤い光に撃墜された。

 手足をだらりと投げ出してビル街に落ちていくあかねの姿。

 アローンはさらなる一撃を放つそぶりを見せたが、それよりも早く、大剣を振り上げたわかばが突貫した。いつにない怒りの表情。

 

「はあ!」

 

 咆哮一閃。しかしアローンの前方に展開されたバリアによって刃は通らない。それでもあきらめず追撃する。一撃必殺を信条とする本来のわかばであるならば決して行わないであろう怒りにまかせた荒々しい連撃。その怒りの矛先は敵か。己か。しかし刃は通らない。せいぜいアローンの再生をわずかに遅延させるだけだ。

 

「あおいちゃん!」

「う、うん!」

 

 わかばの叫び声に、あおいはハッと落ちていくあかねを追いかける。

 

「あかねくーん!」

 

 落ちていくあかねを捕まえようと――伸ばした右手は空を切った。

 

 

 

 

 

 

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