英雄になりたいと夢を持つただの青年が、牛人によって迷宮に連れ攫われた、とある国の王女を救いに向かう物語。
時には人に騙され。
時には王に利用され。
多くの者達の思惑に振り回される、滑稽な男の物語。
友人の知恵を借り。
精霊から武器を授かって。
なし崩しに王女を助け出してしまう、滑稽な、英雄。
『アルゴノゥト』
彼の結末?
彼は次の戦いであっさりと死んでしまいましたとさ。
本当に死んでしまったのかって?
まあ、彼のことです。もしかしたら他の世界でも誰かを助けているのかも知れませんね。
――――――――――――――――――――
息を切らして全力で土蔵に走る。
後ろから赤い槍を持つ青い男が自分の心臓を穿たんと狙いを定めているからだ。
気休め程度の魔術の強化を施したポスターなど鉄パイプよりも信用出来ない。
土蔵に逃げ込んで錠前を掛ければ多少なりとも時間が稼げるはず。
「チッ、男ならシャンとしろって」
土蔵に逃げ込む自分に向けて槍の男は悪態と舌打ちをつく。
冗談じゃない。逃げなきゃ殺される。かじった程度の剣道と折れ曲がったポスターで勝てるわけが無い。
土蔵に命からがら逃げ込むが、槍の男が迫る気配を感じ、咄嗟にポスターを広げる。
ギィン、という硬質な音と共に槍の一撃を防ぐことに成功するが、唯一無二の武器が無くなる。
「詰めだ。今のは割と驚かされたぜ、小僧。しかし、分からねぇな。機転はきく癖に魔術はからっきしと来た。筋はいいのにな......じゃあ、お前が七人目だったのかね?ま、だとしてもこれで終わりなんだが」
ふざけるな。せっかく助けて貰ったんだ。助けて貰ったからには簡単には死ねない。義務を果たさなきゃ行けないのに、死んだら義務が果たせない。
こんな所で死ぬ訳にはいかない。
「平気で人を殺す、お前みたいなやつに!!!」
魔術回路が開く感覚。土蔵の隅が光り輝く。
「七人目のサーヴァントだと!?」
その声を最後に金属と金属がぶつかる擦過音と共に槍の男は土蔵の外に吹き飛ばされる。
初めに見えたのは黒。そして次に白。最後に振り返り、こちらを見る紅。そして、手に持つ短剣らしきもの。
「―――問わせてもらおう!君が私のマスターか!」
自分と大して変わらない程の身長の少年。しかし、彼は自分がしゃがんでいるせいなのかとても大きく見えた。
「ます、たー?」
「サーヴァント、道化《クラウン》。召喚に応じ、参☆上!
マスター?、ま、いいや指示を!」
何がなんだか状況が掴めない。しかし、彼に自分を助けようとする気があるのは確かなようだ。
「こんなヒョロい小僧がセイバーか?まだそこの赤髪の小僧のほうが歯応えありそうだが?」
「......君の暴言はさておき、セイバーじゃなくて、ク・ラ・ウ・ン!ここ重要!」
「そ、そうか。まあいい、クラウン、要はてめぇも聖杯戦争の参加者だろ?」
「ンー、多分!」
「多分ってなんだ多分って!!!」
クラウンの物言いに乗せられてつい、大声をあげる。
「ッ!ちっくしょうがぁ......時間切れだ。ウチのマスターが戻ってこいってよ。......とりあえずてめぇは絶対に殺す」
「ひぇっ!!あの目はマジでやる顔だ......『凄み』があるッ!」
「そりゃ殺るだろ!これ一応戦争だからな!お前マジに聖杯に知識貰わなかったのか......?......もういい、お前と話してると妙に疲れる」
持ち前の瞬足を活かしてランサーはさっさと去って行った。
その朱槍を開帳することなく。
「ふぃー、何とかなった。イヤー、良かったネ!」
「え、えーと」
「ん?マスター怪我はないか?」
今までよく見えていなかったのだが、彼がマスターの安否確認のため、振り返ったことにより月明かりに照らされて顔が露わになる。
ふわりとした白髪と月明かりを反射し、妖しく宝石のように輝く紅の瞳。そして陶磁のような白い肌。中性的な顔立ちでありどことなく頼りなさを感じる。
「どうした?私の顔をそんなに見つめて......ハッ!?もしやこれが禁断のアレと言うやつ......?マスター......すまない。私にそんな趣味はないんだ......」
「なんでさ!俺だってそんなのに興味はないよ!」
丁寧にした描写もぶち壊しである。
騎士王とイチャコラする予定だったのに予定外のウサギがでてきた上に勝手にBL路線へと変更されせられたら流石の士郎も憤然たるやといった所だろう。
「あと、よく分からないけどマスターって呼ぶのは辞めてくれないか?俺の名前は衛宮士郎だ」
「分かった、シロウでいいかな?私のことは......うーん、そうだな......クラウンと呼んでくれ!」
真名は名乗らない。そこに何か意味があるのかないのかは分からないが、今は名乗らないようだ。
「と......あー、行きたくないなー......」
「......?」
「外に敵が......」
「外って......この家のか?アイツみたいな奴か?」
「多分そうだね。けど私自身今はほぼ非戦闘員だからね。出来れば関わりたく―――ッ!!」
何者かが月を背にして手に持つ双刀をクラウンに叩きつける。
間一髪、それを防ぐも、そのまま体制を崩してしまう。
「なんだ?彼女じゃない......?......まあ、いい。敵であることは変わらん」
「待ちなさい、アーチャー」
少女の声が聞こえたと思うと刃を振り上げていた赤色の男は止まり、クラウンから距離をとる。
「遠坂!?」
「こんばんは、士郎くん。......あなたもマスターだったのね......助けて、損したわ。これも計画通りって所かしら?」
冷たい目をこちらに投げかける。
「どういう事だ......?待ってくれ!何が何だか全く分からないんだ!」
「どういうこと?」
――――――――――――――――――――
「なるほど、そういう事ね」
突如現れた赤い服の男を連れたクラスメイトが現れ、絶賛混乱中の士郎は何とかしどろもどろになりつつも説明した。
「分かったわ。聖杯戦争について説明してあげる。家に上がらせてもらうわね」
□衛宮邸□
一通りの説明を遠坂がし終え、クラウンに問いを投げかける。
「......さて、衛宮君から話を聞いた限りじゃあなたは万全じゃないみたいね?セイバー......よね?」
「美しいお嬢さん!私のことはクラウンと呼んでくれないか?」
「え、えぇ......」
引きつった笑いを浮かべる遠坂。
そして急須からお茶が無くなったので丁度いいとばかりにお茶を淹れる為にやかんを取りに立ち上がる。
「質問の答えを返そう。私は確かに彼からの魔力供給を受け取っていない。シロウがマスターとして正しく成立してないからね」
「......驚いたわ」
「おい、何の話をしてるんだ遠坂」
「サーヴァントはね、マスターからの魔力の供給を受けることで存在していられるの。だけど半人前の衛宮君からは魔力の提供を受けられないからこの先困るってこと」
お茶を淹れながら説明する遠坂。
「あ、衛宮くんも飲む?」
「いや、いい......」
「......でも、あなたが正直に話してくれるなんて思わなかった」
「......私は女性には嘘はつかないと決めているからね!」
自信満々に言い放つクラウン。それは意味があってかなくてか。
さて、それはさておき、遠坂は彼からはなんの覇気も威厳も感じることは出来なかった。むしろアーチャーを引き当てて良かったとさえ若干思っていた。
「ところで......さっきのクラウンってクラス名は何なの?」
「説明しよう!【クラウン】とは私だけのクラスだ!そして私以外は名乗れないクラスだ!」
「......?どういうこと?でも、確かにセイバーにしては近接戦にも妙に弱い気が......」
「グフッ!えーと......お嬢さん......それは心にダメージが......」
「私は遠坂凛。遠坂家の六代目当主よ!」
目の前で繰り広げられる茶番に何やらよく分からないことに巻き込まれてしまったな、と深くため息をつく士郎であった。
アルゴノゥトの口調こんな感じで合ってますかね......?