我ら艦これ傭兵団   作:ヨロシサン製薬

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その1 もう人類なんて知らん

「一体なんなんだアイツらは……」

「……ホントなんなんでしょうね、司令官」

 

小笠原諸島・父島の浜辺に打ち上げられた状態でボヤく俺と、その隣で相槌を打つ吹雪。

うつ伏せのまま顔だけを横に向けると、正座した吹雪の疲れ切った表情を隠さない様子が伺える。

たぶん俺も、まるで鏡写しのような顔になっていることだろう。

 

「100回やって100回とも天寿を全う出来ないとか、クソゲーにも程があるぞ」

「しかも後半戦は、ほとんど暗殺されてましたからねぇ」

 

深海棲艦に殺されるなら、まだ自分達の力不足と納得出来る。

しかし吹雪の言う通り、最後の方は深海棲艦ではなく人の手によって殺されるのがパターン化されていた。

ちなみに俺が暗殺されると艦娘達が深海棲艦化して人類は絶滅するらしい。ざまぁ。

 

もともと俺はこの世界の住人ではなく、現代日本の大学生だった。

それが何の因果かある日突然この父島に打ち上げられた状態で艦これ世界へ転移していたのだ。

しかもゲームの中の存在だった艦娘達も一緒にである。

そこから先は一言では言い表せない程に大変だった。

 

序盤は上手く日本国に接触出来ず、牢屋の中で人類の滅亡を見させられた。

そこをクリアしても、今度は軍や政治家のお偉いさんに足を引っ張られて俺の艦娘達は実力を発揮出来ずに各個撃破され、やがて最後は日本国ごと殲滅された。

もう日本なんか知らんと欧州や米国に行っても、人の変わらない愚かさを確認させられただけだ。

 

中盤戦以降は、これまでの経験によってミスをリカバリーしてきた。

足を引っ張られることが分かっているのだから、それが致命傷にならないように立ち回ったのだ。

その戦略は一定の成果を挙げ、深海棲艦との戦いを優位に進めることが出来るようになった。

 

そこからは俺の艦娘を奪おうとする奴らとの戦いだった。

艤装を纏った艦娘のスペックは人類を遥かに凌駕するが、俺自身はただの人間だ。

防衛側が100回守っても、攻勢側が1回でも成功させれば俺達の敗北になる。

派閥争いに注力し過ぎて深海棲艦の侵攻を許してしまうこともあったし、俺の鎮守府に北朝鮮が核を打ち込んできたこともあった。

 

正直に言おう。

個人的には、もう人類がどうなろうと知ったこっちゃない。

せいぜい味噌と醤油がないと困るから日本は滅亡して欲しくない程度の気持ちだけだ。

何度も毒殺やら射殺やらされているのだから、当たり前である。

 

ではなぜ100回も人類を守ろうと悪戦苦闘をしてきたか。

それは基本的に善性を持つ俺の艦娘達を納得させるためだ。

 

「というわけで吹雪、約束の100回だ。もうわかっただろう?」

「……はい」

「そんな顔をするな。別に人類と敵対しようってわけじゃないんだ」

 

この吹雪は、右も左も分からなかった序盤の頃に海軍の手で誘拐され、解剖された経験を持つ。

その場で暴れれば連中を皆殺しに出来たはずなのに、だからこそ暴れることが出来なかった心優しい少女。

全人類のためなどと説得されて甘んじて解剖を受け入れ、それでも善性を失わない彼女が誇れないような自分になることは出来ない。

人類のために尽くす気持ちはとっくになくしてしまったが、その一線だけは死んでも守ろうと改めて心に誓った。

 

「Hey、提督ぅー! 妖精さん達が鎮守府を作ってくれたねー!」

「わかった金剛! 今そちらに向かう!」

 

流石は妖精さん。

101回目の慣れた作業とはいえ、仕事が早い。

のっそりと立ち上がった俺は、服についた砂を叩き落として吹雪に手を差し出した。

 

「これからまたよろしくな、吹雪」

「はい、司令官! こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

深海棲艦の侵攻から2年。

人類は防戦一方であり、今も世界はその生存圏を脅かされていた。

特に被害が激しいのは日本やイギリスなどの島国である。

 

日本は戦役が勃発した当初に沖縄が深海棲艦の猛攻撃を受けて陥落した結果、淡路島、小笠原諸島、八丈島などから住人を本州に避難させて小島を全て放棄した。

しかし今では九州四国北海道は本州との交通が遮断され、東京湾沿岸以外は海に面していない内陸部のみが日本人の生存圏となっていた。

 

深海棲艦に対抗出来る兵器はあるのだ。

護衛艦に積まれた5インチ砲(12.7cm砲)が命中すれば、3連装魚雷が命中すれば、奴らとて沈む。

 

しかし、その命中させるということが難しい。

深海棲艦は通常の船に比べて遥かに小さいからだ。

コンピュータ制御で砲撃をコントロールしても誘導弾を撃っても、小回りがきくサイズの敵にとっては避けるのが容易い攻撃でしかない。

散弾や機銃などでは威力が足りず、数十発は当てないと効果がなかった。

しかも奴らはそのサイズに見合わぬ強烈な反撃をしてくる。

WW2の頃と比べて劇的に進化した今の護衛艦でも、2発も食らえばダメージコントロールの間もなく沈んでしまうのだ。

 

航空機によるミサイル攻撃は、沿岸部では有効な対策だった。

とはいえ人的被害を受けない出撃はなく、その損耗も馬鹿にならない。

また攻勢を仕掛けようと沖に出た場合は、敵空母の襲撃がある。

深海棲艦本体より更に小型な、まるでたこ焼きのような敵戦闘機に対抗する手段は機銃しかないのだが、的が小さすぎて当たらない。

こちら側の航空機はなすすべなく撃ち落されるのみだった。

 

ここ1年ほどは瀬戸際戦術で、陸軍が久里浜と金谷に配備した砲台による飽和攻撃と空軍の基地航空隊により東京湾を死守している状態である。

しかしそれも長くは続かないだろう。

なぜなら日本には資源がないからだ。

 

燃料と鉄がなければ戦えない。

控えめに表現しても今の日本は既に詰んでいた。

だとしても、日本の指導者階級に属する人々に生存を諦めるという選択肢はなかった。

 

「かねてより議論を重ねてきた、自動車および農耕車の個人所有禁止法を出すぞ」

「総理、暴動が起きますよ!」

「仕方がないだろう! それにどうせガソリンがなければ動かせないだろうが!」

 

今日の閣僚会議も喧々諤々、つまり通常運転である。

そんな中、久里浜防衛基地より緊急通信が入電した。

 

「どうした! 深海棲艦の侵攻か!」

「いえ、違います! 東京湾の海が、赤い海が色を青に戻しました!」

「なんだと! 一体なにが……、いや分かった。諸君らは引き続き警戒を厳としてくれ!」

「はっ、了解しました!」

 

受話器を置いた総理大臣は、深々とため息をついた。

何かが起きようとしている。

それが吉兆となるか凋落となるか、その一歩目を正しい方向に導くのが政治家の仕事だ。

そのためにも、まずは情報である。

彼はそのまま受話器を持ち上げると、海軍に情報収集のための艦隊を編成するよう指示を出した。

 

 

 

 

 

 

「司令官、ただいま! 今日もちゃんと海軍の人にお手紙を渡してきたわ!」

「ただいまなのです。今日もいっぱい人を助けてきたのです!」

 

太平洋側の近海を開放して2週間。

出没する頻度が劇的に下がったとはいえ、それでもはぐれ深海棲艦に絡まれて沈没しかけている日本の護衛艦などを救出し、その度にこちらの手紙を渡していた。

任務を果たしてきた第六駆逐隊の面々の頭を撫でながら、タイミングはそろそろかと考える。

 

俺が出している手紙は、おそらく海軍上層部で握りつぶされている。

この時期、内閣と陸空軍はまっとうな運営をされているのだが、初戦で有能な人材が真っ先に磨り潰されてしまった海軍はウンコなのである。

まともなコンタクトなど、到底期待出来ない。

 

「この2週間、よく頑張ってくれたな。駆逐艦のみんなは、しばらくバカンス用に整えた母島でゆっくり休んでくれ」

「えー、司令官、もっと私を頼っていいのよ!」

 

やる気を出してくれている雷には悪いが、ここから先はあまり駆逐艦達に見せたくない。

なぜなら海軍の次の一手は、まず間違いなく父島に制圧部隊を送り込んでくることだからだ。

今まではこういう状況に陥らないよう対処してきた。

しかし今回はもう遠慮をしないと決めている。

積極的に日本と敵対したいわけではないが、海軍の馬鹿共には殴ったら殴り返されるということを教育してやろう。

 

 

 

「貴様らは日本の領土である父島を不当に占拠している! 大人しく投降しろ!」

「なるほど、確かに我々は無許可で父島に拠点を置いている。しかし我々は何度も租借のための話し合いをしたい旨を伝えているし、もしそれが無理ならば大人しく父島から出ていくとも伝えている。君達に投降する謂れはない」

「……数人は確保しろ! 残りは殺せ!」

「総員、反撃を許可する」

 

金剛と榛名が目の前に立ち、銃弾から俺の身を守る。

人間が手で持てる小銃など、艤装を纏った艦娘達に通用するわけがない。

逆に艦娘達が装備する機銃は、掠っただけで人間の手足ごと持っていく。

出来るだけ殺すなと命令に付け加えなかったのは、そちらのほうがより悲惨な結果になるからだ。

 

「長門、連中の船に砲撃だ」

「いいだろう」

 

連中の乗ってきた護衛艦が慌てて出港したが、容赦はしない。

なぜならそこに搭載されている5インチ砲は、俺の艦娘達を傷つけ得るからだ。

 

「全主砲、斉射! てーッ!!」

 

長門の41cm三連装が火を噴き、護衛艦が瞬く間に大炎上して沈んでいく。

過去100回の鬱憤が溜まっているため、胸がすくような気持ちだった。

彼女の肩を軽く叩いて労い、艦娘達に生き残りの救助活動を命じる。

 

「青葉、撮れたか?」

「はい、ばっちりです!」

「じゃあグロいシーンだけ編集して、今まで撮ったものと同じように明石に渡してくれ」

「はーい、青葉了解でーす」

 

 

 

その日、NHKが何者かにジャックされた。

そこに映し出された二十歳前後の男は、自らを提督と名乗り、日本の近海を開放したのは自分達だと主張し、艦娘と深海棲艦の戦闘や護衛艦を救助している動画を公開し、海軍から銃撃を受けて反撃している場面を放映し、捕虜はすべて八丈島に置いたことを伝え、そして次の言葉で映像を締めくくった。

 

「我ら艦これ傭兵団は、海軍の不当な攻撃に強く抗議する。3日以内にNHKを通して海軍幕僚長の謝罪放送がない場合、我々との話し合いに応じる意思がないと考え、日本国に対して宣戦を布告する!」

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