俺達のNHKジャックから2日後、父島に向けて海軍による艦隊砲の飽和攻撃が行われた。
奴らは小さな的には当てられないが、攻撃力自体は持っているのだ。
よってこの飽和攻撃も予想通りである。
当然俺達は父島を出て、駆逐艦が休暇を取っている母島へ避難済みだ。
そして今頃は長門率いる連合艦隊が海軍を食い散らかしている頃だろう。
折角妖精さん達が作ってくれた鎮守府は勿体無いが、先制攻撃をさせるというのは重要である。
いくら恨み骨髄に徹する海軍とはいえ、この時間軸ではまだ何もされていなかったからだ。
やられたらやり返すが、こちらからは攻撃を仕掛けない。
これが101回目の今回、艦娘達と話し合って決めたルールだった。
「だからって提督、挑発して向こうから手出しをさせるのもどうかと思いますよ?」
「いやいや、そんなことを言う大淀だって、微笑みを浮かべながら作戦を立案してたじゃないか」
「正直に言って私も今の海軍には思うところがありましたし……」
海軍のアホさ加減に振り回された1番の被害者は直接間接合わせて100回も殺された俺だと思うが、2番目は間違いなく大淀だろう。
なにせ海軍内では艦娘兵器派という派閥が主流であり、連中は兵器の疲労など考慮に値しないと考えていた。
そんな奴らの出撃命令に対して、艦娘のスケジュールを調整していた秘書官の大淀は何度悔し涙を流したことだろう。
そして俺が過労死した回数は、100回中何回くらいだったか……。
「それに私情だけじゃなく、話し合いのためにもまず殴りつける必要があるだろう」
「確かにそうですね」
まず力を見せないと、日本語が通じない。
それが今の海軍クオリティなのだ。
「じゃあ青葉が海軍殲滅動画を撮って帰ってくる前に、俺のパートを撮影してしまうか」
「わかりました。明石に準備させますね」
明日からの海軍に対する報復を考えると、乾いていた心が潤っていくように感じる。
延べ100年を超える我慢は、自分で思ってた以上に限界だったんだなぁと思った。
「―――幸いこちらに人的被害は0だった。よって我々の報復行為も、出来る限り人的被害が出ないよう予め砲撃時間とその範囲を宣言しよう。
我々は明日の13:00より横須賀海軍基地を更地になるまで爆撃する!
特に民間人は横須賀海軍基地の周辺からは退去することをお勧めする。砲撃が逸れた場合、市街地への着弾も予想されることから、可能であれば横須賀市から離れることだ」
再びNHKがジャックされて流された放送に、総理大臣は度肝を抜かれた。
なぜなら彼は海軍幕僚長に対して、あちらの要求通りテレビ放送で謝罪をするよう指示を出したのだから。
それがまさかの父島爆撃動画と反撃を受けての海軍壊滅動画、そして今の横須賀海軍基地爆撃宣言である。
数日前、彼らは傭兵団を名乗っていた。
つまり雇える存在だ。
深海棲艦と闘って勝てる集団が日本の戦力になるのだ。
更に彼らは日本が放棄した小笠原諸島の租借を要求していた。
これを上手く交渉に使えば、実質無料で戦力化出来たのだ。
海軍の人的被害、しかも反撃されたことによる損害など無視して当たり前ではないか。
軍としてのプライドなど、国の存亡がかかった今、何程のものか!
総理大臣は怒りに震えながら陸軍とのホットラインを繋いだ。
「陸軍の精鋭部隊を横須賀海軍基地へ送れ! 海軍幕僚長、いや軍令部の全員を逮捕拘束するんだ! 今すぐだ!」
「はっ、了解しました!」
そして秘書に車を用意させると、即座に乗り込み出掛けて行った。
目的地はもちろんNHKである。
「提督、内閣総理大臣が謝罪放送してますよ」
「まぁあの人はちゃんと損得の計算が出来る人だったからなぁ」
「それに私達艦娘に対する誠意もありましたよ。すぐに暗殺されちゃいましたけど」
「言われてみれば、暗殺された者同士でなんか親近感がわいてきたな」
「海軍の軍令部要員も全員軍事裁判にかけるって言ってますし、予想の中では最上級の結果ですね」
「じゃあ横須賀への爆撃は取りやめってことで、大和達に通達出しておいて」
「はいっ! 大和さんも内心では気が進まないみたいでしたから、きっと喜びますよ」
嫌な思い出しかない横須賀海軍基地は消滅して欲しかったが、まあ良しとしよう。
海軍の上層部が早い時期に壊滅すると、総理大臣の暗殺イベントがなくなるのだ。
大淀の言う通り、話の通じる総理がトップにいるのは俺達にとって最良の結果だろう。
逆に横須賀基地殲滅からの日本保護国化計画は、俺はすっきりするけど面倒そうなルートだし、支配者と被支配者の間で憎しみの連鎖が、なんて昼ドラのようで疲れそうだ。
それに俺達の大目標は最後まで深海棲艦と戦い抜き、暁の水平線に勝利を刻むことである。
もちろんこれまでの恨みを晴らす機会があれば逃すつもりはないが、それがメインになっては本末転倒である。
今までは同じ陣営のはずの人類に邪魔をされて達成できなかったが、縛りプレイを解禁した今回こそは、明るく楽しく世界を救って天寿を全うしてみせるのだ!
「会談の場所は八丈島で。阿武隈の第一水雷戦隊は周辺警護、神通の第二水雷戦隊は総理大臣を迎えに行って、そのまま島まで護衛するよう通達してくれ」
「わかりました。提督は明石のところに急いでください。こちらが反応を見せるまでテレビで謝り続けるつもりですよ、総理大臣」
「まぁ俺達が横須賀を攻撃したら、その後の関係なんてありえないもんなぁ。そりゃ必死になるでしょ」
「わかっているなら早く行って下さい! 総理大臣が可哀想ですよ!」
総理大臣の目の下の隈に同士的な感情を覚えている大淀だった。
総理大臣との会談の成果は、80点といった所だろうか。
こちらの要求である小笠原諸島の租借、日本領海の自由な航海権、日本との交易権、指揮権の独立と不介入などは飲ませたが、その代わりに日本海側を含む日本近海の開放と定期的な討伐を約束させられた。
日本海側はリ地域が鬱陶しいから開放する気はなかったのだが、今回は別に日本国に所属するわけじゃないから連中への忖度たっぷりな命令に従う必要もない。
自縄自縛もいいところだと思うが、まぁ総理のお手並み拝見といこう。
日本各地へ鎮守府を開いて戦力を分散させることは、断固として拒否した。
そう、これこそが過去の戦闘で最も足を引っ張られた要因なのだ。
舞鶴や佐世保や横須賀や大湊に艦娘を配置することは戦略的に正しいが、戦術的には大愚策なのである。
なぜなら艦娘は俺の指揮下から離れると著しく性能が下がるからだ。
リトライ後半は過去の経験からタイミングが分かっていたため、その度に各地へ移動して艦娘達を俺の指揮下に置いた状態で戦闘を行わせていたが、距離の壁が突破出来ずに沈めてしまった艦娘も最後までゼロにはならなかった。
今回こそ、俺の艦娘達は誰1人として轟沈させない。
そんな俺の気迫を感じ取ってくれたのだろう、総理は自身の考えに固執することなく、戦力分散案を放棄してくれた。
というわけで、これから日本とはウィンウィンの関係を築いていきたいと思う。
ただし海軍てめーはダメだ。
そういえば日本政府への要求のうち、俺の趣味に走った部分もある。
NHKの放送枠を週に1回1時間だけ貰ったのだ。
現代日本での学生時代、ユーチューブという動画サイトがブームだった。
残念ながらこの世界では電気が足りないためネット文化は廃れていたが、その分テレビの影響力が非常に高い。
だからユーチューバーのテレビ版をやってやろうと考えたのだ。
あれ、それってただの芸能人では……?
真面目な話、艦娘の認知度と人気を上げたいという考えもある。
兵器だから戦って当然と考えている奴らのために艦娘の命を懸けさせたくはない。
艦娘に親近感を持ってくれる人達が大勢いるならば、今底辺付近を彷徨っている俺のモチベーションがあがるだろう。
というわけで記念すべき第一回目の放送は「ボノたん世界を釣る」である。
「ハローワールド。君達タンパク質はとっているかい? 大豆だけじゃ物足りない諸君に朗報だ。我々が開放した海には魚が戻ってきているぞ」
「なによ、その恩着せがましい言い草。このクソ提督!」
「さて、今日は艦これ傭兵団きっての釣りの名人、第七駆逐隊のボノたんがF装備で魚釣りのコツを伝授してくれるぞ」
「ボノたんって言うな!」
このあと滅茶苦茶サカナ釣った。