アイアンボトム・サウンド。
それはWW2のガダルカナル島を巡る激戦で多数の艦船や航空機が沈んだ結果、海底を鋼鉄の残骸が埋め尽くしていることからその名が付けられた海域である。
そして繰り返しの時間を生きてきた俺達がどうしても突破出来ず、途中からは作戦の立案自体をさせぬよう手を打ってきた魔の海域でもある。
しかし深海棲艦との戦いというのは、俺達にとって鎮魂を意味する。
戦闘で沈んだ無念が具現化した存在である深海棲艦を打ち倒して浄化することの他に、そこには艦娘の悔いを晴らすという意味も含まれている。
なぜなら深海棲艦と艦娘は表裏一体であるからだ。
深海棲艦が浄化されて艦娘になるように、艦娘が闇落ちすると深海棲艦になってしまう。
今までも悪雨ちゃんや深通さんなど、無理な作戦で轟沈し深海棲艦に反転化してしまった艦娘達が出てしまうことがあった。
第3次ソロモン海戦で沈んだ比叡、霧島、夕立、綾波、暁を筆頭に、この海域に思いを残す艦娘達は多数いる。
彼女達の未練を断ち切るために、アイアンボトム・サウンドは避けて通れぬ海域である。
今度こそ南方海域を完全攻略して大規模作戦を成功させるのだ。
父島の鎮守府を引き払って南西諸島海域の泊地に移った俺は、早速執務室で作戦準備である。
まずは明石と間宮から、泊地の備蓄状況報告を聞く。
「各資材20万ずつ、バケツも2500個あります」
「食糧などの備蓄も十分ですし、南西諸島からの新たな仕入れルートも確保しました」
「2人とも、御苦労。これで安心して大規模作戦に専念できる」
前回の強襲偵察で南方海域の入口は開いている。
そこを哨戒して確保し、敵の増援を防ぎつつ精鋭部隊を鉄底海峡へ送り込み、制圧するのが本作戦の主目的である。
これは今まで南方海域で行ってきた一連の作戦の総仕上げとなる。
この海域には史実でいうところのヘンダーソン飛行場基地があり、空襲を避けるために夜戦でケリをつける必要がある。
夜戦は大日本帝国海軍の得意とするところだが、当然昼間よりも危険性が高い。
史実艦を思い出しながら、突破率が上がりそうな編成を組んでいった。
夜明けと共に各海域の編成を定めた俺は、全艦娘を外に集めさせた。
事務仕事をしていた大淀と共に、俺は艦娘達の下へと歩いていく。
「今までの時と違い、闘志に溢れているようだな」
「皆なかなか気合が入っています」
「それでこそ俺の艦娘というものだ」
まだ朝日も昇り切っていない薄暗い中、彼女達の目が照明灯のように輝いている。
これならば心配はいらないだろうと、大淀と顔を見合わせて頷く。
「チェック、ワン、ツー……よし。全艦娘は指定の位置に集合して下さい」
マイクを通して霧島の声が響いた。
俺は壇上に上がり、霧島へ声を掛ける。
「マイクを」
「どうぞ提督」
マイクを手に取って服にこすり、目の前の艦娘達を見渡す。
皆がこちらに注目しているのを確認して、マイクを口に当てた。
「おはよ≪ピー≫……おはよう。
ついに皆が待ちわびたアイアンボトム・サウンドを舞台とした決戦が始まる。
我らは総力を結集し、鬼級姫級に挑むことになる。
あの魔の海域であるからには、想像を絶する激戦となるだろう。
だがそれでも無理をせず、時には引く勇気を忘れるな。
勝利が欲しくて、時には無理をするかもしれない。
その気持ちは十分にわかる。だがそこで冷静になって考えてくれ。
ここで自分や仲間達が沈んでしまって、本当にそれで良いのか……と。
いつか手に入れられる勝利と、今ともに戦っている艦娘達。
どちらが大事か諸君にはわかるはずだ。
諸君はこの私が選び、丹精込めて育て、愛した艦だ。
幾多の苦楽を共にした諸君を水底に置いてきて、私がどう思うか。
提督とは何か、改めて考えてほしい。
提督は諸君らを沈める為ではなく生かすための存在だ!
たとえ負けたとしても笑顔で君達を出迎えよう。
敗れ、傷ついた君達にこう声をかけよう。
また行けばいいから、気にするなと。
抜錨!
暁の水平線に勝利を刻みに行くぞ!」
俺の喝に呼応して、大気の揺れるような艦娘達の歓声があがる。
それをドヤ顔で眺めた俺は、壇上を降りて霧島にマイクを返す。
「さあ、開戦だ!」
「第一艦隊いつでも出撃可能です」
「はいっ! こちら準備は全て完了して後は提督の指示を待つだけです!」
大淀の背中から、サボ島へ出撃予定の青葉がチョコチョコと寄ってきた。
そして旗艦で忙しいはずの彼女はなぜか俺にインタビューを始めた。
「提督。前回までずっと無念の撤退でしたが、自信の方は?」
「そうだな……これまでは悔しい思いをしたが、俺の艦娘達ならなんとかしてくれるさ」
だからワレアオバだけはやめてくれよ、と俺は彼女の顔を見つめるのだった。
探照灯を照射した榛名に、敵艦隊の攻撃が集中する。
いくら高速戦艦でも夜間の砲撃を回避することは難しい。
しかし彼女は次女譲りの気合いで、なんとか致命傷だけは避けていた。
「Heyハルナー、あまり無理しちゃNoなんだからネ!」
「榛名は、大丈夫です!」
榛名が一手に砲撃を引き受けているということは、他の艦娘達は狙い放題の打ち放題。
ヘンダーソン基地の守備部隊に次々と命中する。
「ナンドデモ、ミナゾコニ、シズンデイキナサイ……」
「また来世で。さようなら」
夜戦で開始された戦闘が昼戦に変わった頃。
妙高の放った三式弾が飛行場姫に直撃し、彼女を永遠に沈黙させた。
「お姉さまから入電! 敵飛行場の撃滅を確認!」
「流石ね。よーし、霧島艦隊も出撃します」
金剛艦隊が作戦を完遂した今、鉄底海峡への進撃を阻んでいた敵の基地航空隊はもういない。
今度こそ鉄腕海峡を抜けるのだ。
「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」
「突撃するんだから!」
敢えて夜間に渦潮を直進することで南方棲戦鬼を避け、露払いの駆逐艦達が意表を突かれた敵艦隊に躍り掛かる。
水雷戦隊伝統の夜戦、その狙い澄ました雷撃で敵最終阻止線を食い破った。
パックリと口を開けた敵防衛ラインの綻びに全速で突っ込み、遂に鉄底海峡を抜けたかに思えた霧島艦隊だったが、やはりこの海域は甘くない。
そこに待ち受けていたのは超弩級戦艦の戦艦棲姫と装甲空母姫2体を擁する敵艦隊である。
「ちっ、完全に作戦が悪いのよ……」
前段作戦による航空戦力の撃滅と夜戦での鉄底海峡突破を考えて編成されたこの艦隊には空母がいない。
だからあっさりと制空権を奪われ、大井が愚痴を零す。
艦隊の頭脳を自任する霧島が選んだ作戦は、ノーガードでの殴り合いだ。
マイクチェックの時間だオラァと言わんばかりに撃ちまくる霧島。
史実では三式弾だった砲弾も、一式徹甲弾に換装済である。
「どうして? 私の戦況分析が……」
「お姉さま譲りの装備をこんなに……」
しかし制空権の喪失は如何ともしがたく、霧島艦隊は昼戦で押し込まれてしまう。
戦闘が夜戦に移行した頃には、戦況の不利は明らかだった。
誰もが諦めて撤退を考え始めた時、ソロモンの鬼神が目覚めた。
「綾波が、守ります!」
最新鋭の試製61cm六連装酸素魚雷を積んだ綾波の一撃が、戦艦棲姫の横腹に突き刺さったのだ。
艦船でいうところの火薬庫に命中したのだろうか、ほぼ無傷だった戦艦棲姫が何かを言い残すことすら出来ず、あっけなく轟沈してしまった。
「や~りま~した~」
「よ、よく、出来ました……」
殺りました?
可愛い声で凄いセリフを吐く綾波に、霧島は震えながら称賛の言葉を口にした。
こうして一連の大規模作戦は、艦これ傭兵団の勝利で幕を閉じたのであった。