high school dxd side raiser   作:特定保健用食品

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第0章.不死鳥の雛
雛の行方


 冥界。

 『冥府』、『冥土』、『黄泉』、『地獄』などと同一視され、死後に向かうとされている世界だと『人間界』では考えられているが決してそんな事は無い。

 『冥界』やその他に同一視されている世界も、それぞれが独立した世界として存在している。特に『冥界』と『黄泉』を比較した場合は、世界観や種族、その世界が担う役割が掛け離れており、とても同一の世界として観るには無理がある。

 しかし、死後に向かう世界という概念としては必ずしも間違っている訳ではない。

 それは、どの世界も少なからず『霊魂』という概念に関わっている役割を持っているからである。中でも『黄泉』は、まさに死後に向かう世界と言っても過言ではない。

 その理由として、人間が命を落とし『霊魂』となって初めて訪れる世界が『黄泉』であるからだ。

『黄泉』では、『霊魂』の分析を主な役割としている。

それぞれの『霊魂』が生前どのような事をしたのかを調査することで、今後の処遇を判別する。判別された『霊魂』は、分析結果を元に『冥土』、『地獄』、『冥府』と言った各世界へと送られる。

善良な『霊魂』は『冥土』へ邪悪な『霊魂』は『地獄』、そして極めて邪悪な『霊魂』や悪魔、堕天使といった人外が『冥府』へと送られるのだが、ここではこれら3つの世界についての説明は省かせて貰う。

このように各世界が、『霊魂』という1つの概念に関わりつつも異なった役割を持っているのは分かって貰えただろう。

ここで、最初に出した『冥界』について説明しておこう。

現在の『冥界』は我々のような悪魔の種族が主に存在しており、『ルシファー』、『ベルゼブブ』、『レヴィアタン』、『アスモデウス』という称号を持つ4人の悪魔の王権国家によって統治されている。

そして『冥界』という世界が担う役割は、これまでに出た『冥府』、『冥土』、『黄泉』、『地獄』以上、4つの世界の運営と統治である――

 

 

 

 

 

「そこまで」

 ここまでの説明を終えた所で、僕の教育係を務めている使用人から声が掛かった。

「もう結構ですよ」

 いつも以上に落ちつき払った使用人の声に、どこか間違えていただろうか?という一抹の不安を抱きながらも僕は聞き返した。

「どこか間違っている個所でもあったかな?」

 こと知識に関しては大きな自信が僕にはある。

 それは僕自身、知識欲が旺盛な事もあって使用人が教えてくれたことを毎日のように復習して覚えてきたからであり――。

だからこそ、最後のまとめの時には完璧に説明できるようになっていたし、今日のまとめも上手く説明できていたと僕は考えていた。

 しかし、そんな僕の考えとは裏腹に今日はそのまとめを中断された。

 失敗することを恐れているわけではないが、今まで完璧だったまとめの段階で中断されたことは、否が応にも『失敗』の2文字を連想させた。

 すぐさま使用人の様子を窺うと、僕の不安を見透かしたかのように使用人は思慮深い顔を柔和な笑みに変えて応えた。

「いえ、間違った個所などございません。むしろ、その逆です。完璧に覚えておられるので、私としましては『素晴らしい』の一言に尽きます。お坊ちゃまはお教えした事をすぐに吸収なさるので、お教えしている身としましても気持ちが良いですよ」

 一先ず、使用人からの絶賛の声にホッと胸を撫で下ろす。

 僕たちの勉強会は、『勉強内容のまとめ』を最後に行う事で終了する。

 使用人の評価が終わったことで、今日の勉強会が終了した事を悟った僕は肩の力を抜いた。使用人も勉強会中の真面目な雰囲気は取り払い、普段通りの温和な雰囲気に変わっている。

 いつもに増してくすぐったくなるような過大評価をする使用人に、僕も負けじと“敢えて素直な”感謝の言葉を口にする。

「ありがとう。でも、僕がすぐに覚えられるのは君の教え方が上手だからさ。それと『お坊ちゃま』は止してくれないかな。僕はもうそんな歳じゃないよ」

僕もこの世に生を受けてから、もう20年になる。

 成熟した悪魔と呼ばれるにはまだまだではあるが、それでも『お坊ちゃま』と呼ばれるには歳を重ね過ぎている。

 それに僕自身、この歳で『お坊ちゃま』と呼ばれるのは流石に気恥ずかしいものがある。

「これは失礼致しました。どうも昔からの癖になっているようでして、それにライザー様も普段からお子様の容姿でいらっしゃるので、どうしても癖が抜けきらないのです」

「それじゃ、僕にも少なからず原因があるってことだね。でも魔力効率はこの姿の方が――」

 普段の僕は人間でいうと、小学生ほどの姿で過ごしている。

 確かに、これでは『お坊ちゃま』と呼ばれても仕方がない。

 いくら年齢を重ねていたとしても、姿が変わらないとなれば――

 人間と比べて遥かに寿命が長い悪魔にとっては、『お坊ちゃま』だった存在はいつまでも『お坊ちゃま』のままなのだろう。

「ライザー様がお気になさる事ではありませんよ。我々、使用人が気を付ければ良いだけのことですので、どうぞライザー様はそのままお変わりなきように」

 僕のことを思ってこう言ってくれる使用人の心遣いはとても嬉しい、だけど――

「そういう訳にもいかないさ。僕にも非があるのなら積極的に直していかないと、僕自身の成長にも繋がらないと思うんだ」

 物心がつく前から、僕は自身の成長が何よりも必要だと考えていた。

 この考えは、きっとこれからも変わらないだろう。

 なぜなら、僕が成長することで将来持つことになるであろう眷族達やフェニックス家の使用人、そして自分自身を守ることに繋がるだろうから。

「ライザー様の慢心なさらないその姿勢には毎度、感服致します。幼い頃からお傍で見守ってきた私でございますが、ご立派に成長なされて嬉しい限りでございます」

 相も変わらず、こそばゆい賛辞の言葉を述べる使用人に気恥ずかしさを覚えながらも「僕なんてルヴァル兄様たちと比べたらまだまださ。でも、ありがとう。付き合いの長い君にそう言われると、とても嬉しい。これからもよろしく頼むよ」と、僕も普段通りを心がけて返す。

「勿体ないお言葉でございます。こちらこそ、今後とも宜しくお願い致します」

 恭しく頭を下げた使用人の表情は分からないが、きっと優しい表情をしていると思う。

 

 

 

「今日でこのお勉強会も終わりでございますね」

 不意に使用人がこんな事を言い始めた。

「そうだね。初めての勉強会の時、君が緊張しすぎて何の勉強にもならなかったのは良い思い出だよ」

 僕の言葉が思いも寄らなかったのか「そ、その節は申し訳ありませんでした」使用人は反射的に謝っていた。

 しかし、すぐに続けて「初めて旦那様のご子息の教育係を受け持つ、私の身にもなって下さい!」といつもより強い語気で僕に言った。

「何を言っているのさ、君だってお父様の僧侶じゃないか。むしろ、親の眷族から直々に教えられる僕の身にもなって欲しいものさ」

 言いながら、その時の場面を思い出す。

 僕の教育係を担当するのがお父様の僧侶だと聞かされた時は、周囲からの情報で常に冷静な作戦参謀的なものを想像していた。

しかし、いざ対面してみれば「あ、あぁそのっ!お会いできて光栄、です!こ、ここ、これからラ、ライザーお坊ちゃまの、きょ、育係をつ、つとめさせて頂きます――」という、オロオロカミカミとした自己紹介から始まり、その後の勉強会も使用人が緊張から泣き始めて全く勉強にならなかった。

――本当に色んな意味で期待を裏切られたよ。

「そんなぁ!酷いです、お坊ちゃま!」

 正面から上がる非難の声。

 どうやら思っていたことが口に出てしまっていたようで、使用人は涙目で恨めしそうに僕を見ていた。

「あはは、ごめんよ。別に僕は、君に幻滅したわけじゃないんだ。今はしっかりと教育して貰っているし、君の知識にはいつも驚かされてばかりだよ」

 これは紛れもない僕の本音だ。

 事実、勉強会が進むにつれ使用人の知識量の多さを知り、素直に驚いたのを覚えている。

 内容も僕に合わせて分かりやすく説明してくれるし、間違った個所もしっかりと指摘してくれる。今の僕がこうして勉強に対して真摯に取り組み使用人を一種の目標としているのも、使用人の影響による所が多いのは明白だろう。

「さ、下げてから上げるのは卑怯です」

 面と向かって言い放つ僕の言葉に流石の使用人も恥ずかしかったのか、普段は見せることのない拗ねた反応を見せた。

 その反応に浮かれた僕は「『飴と棘』の使い分けだよ」と普段は使わない例えを使ってみるも、「それを言うなら『飴と鞭』ですよ」と即座に訂正された。

「そうだった、そうだった。また君に教えて貰ったね」

「はい、私はライザー様の教育係でございますから」

 君と話していると、本当に僕はまだまだだと実感させられる。

 君に教えて貰うことはこんなにも楽しい。

 何だか、可笑しくてたまらないよ。

 僕は今日が最後だという真実を認めないように、ただただ笑っていた。

 

 

 

 

 

 和やかな雰囲気に包まれた一室。

 突如として低く唸るような鐘の音が鳴り響いた。

 音の発信源は、この部屋に備え付けられている柱時計からのものだ。

使用人は時間を確認すると、話を切り出した。

「おや、もうこんな時間でしたか……。では、これにて、最後の勉強会は終わりに致しましょう。今までライザー様の貴重なお時間を私に割いて頂き、本当にありがとうございました。それではライザー様、お疲れの所申し訳ございませんが、旦那様がお呼びになっていますので来客用のリビングへお急ぎ下さい」

 時間というものは非情だ。

 いくら僕が「まだ続けていたい」と願ったとしても、刻一刻とたしかに時を刻んでいく。しかし、同時に理解していた。

 僕もこのまま同じ場所で立ち止まっているわけにはいかないのだと。

 僕には、まだ学ばなければいけないこと、やらなければいけないことがあり、名誉あるフェニックス家に生まれた悪魔として誰よりも成長しなければならない。

 これは、僕の教育係でもあり、お父様の僧侶でもある使用人――アモンと約束したことでもある。

 名残惜しいが、この約束を果たすためにも僕はアモンへと笑顔を向け「分かった、すぐに向かうよ。今までありがとう」今日までのお礼を告げると部屋を後にした。

「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」

 扉が閉まる直前、確かに聞こえた使用人の優しい声に背中を押され、弾んだ気持ちを抑えきれず半ばスキップの状態でお父様の待つ来客用のリビングへと僕は向かった。

 

 

 

 

 

 厳かな装飾が施された扉を軽くノックすると「ライザーだな、入りなさい」中から聞きなれたお父様の声が聞こえた。

「失礼いたします」と、一言だけ口にして僕はゆっくりと扉を開き、中へと足を踏み入れた。

もちろんリビングの中には、待ち侘びていたかのように両手を広げこちらへ歩いてくるお父様ともう一人。細微にまで美しい不死鳥の装飾が施された来客用のソファに見知らぬ男性が座っていた。

最上級悪魔のみが着ることを許されている貴族服なことから、この男性がただ者ではない事は一目瞭然だった。だがしかし、僕にとってもっと他に気にかかったことがある。その男性の容姿、特徴的な緑髪と右眼だけに付けている装飾されたモノクルには寸分違わず見覚えがあった。

目の前の事実からくる余りの衝撃に、僕はその場で固まってしまった。

「何を惚けているのだ、はやくこちらに来て座りなさい」お父様に促されて我に返った僕は、すぐさま近くのソファに腰を下ろす。

満足そうに頷いているお父様を横目に、僕は正面に座る男性を注意深く観察していた。

 僕の視線に気付いたのか男性も興味深そうに僕のこと見ると「初めまして、君がライザー=フェニックス君だね」と話を切り出した。

「急にお邪魔して申し訳ない、何分こちらにも時間の猶予があまりないものでね。フェニックス卿にお願いして急遽、こういう場を用意させて貰った」

「はい、存じ上げております。それで、貴方様のようなお方が僕に何か御用でしょうか?」

 僕の物怖じしない返答に対して、満足げに頷くと男性は足を組み直し「まあなんだ。お互い初対面なのだし、取りあえずは自己紹介から始めようじゃないか」と、自己紹介を始めた。

「私の名はアジュカ=ベルゼブブ、君も知っている通り四大魔王の1人だ。今後とも宜しくお願いするよ」

 そう言ってアジュカ様は右手を差し出してくるが、恐れ多いため丁重にお断りさせて頂く。

 そして、僕自身も自己紹介するべく失礼が無いよう片膝を地に付け、忠誠を誓う騎士のような姿勢をとり「魔王様が直々に僕の元を訪れてくださるとは、誠に光栄でございます。改めまして、72柱フェニックス家が二男、ライザー=フェニックスと申します。以後、お見知りおきを」深々と頭を下げる。

 王室行事でもないただの会談で、この対応は少々大袈裟かとも思ったが相手は現魔王の1人だ。礼儀を弁えるのに越したことはないだろう。

しかし、流石に仰々しくし過ぎたのかアジュカ様は苦笑いを浮かべながら「そう固くならないでくれたまえ、ここには魔王として来たわけでは無いのだから」と、僕にソファへ座るように促した。

 改めてソファに座りなおし「と、申しますと」聞き返すと、不敵に微笑んだアジュカ様は僕とお父様を見渡し言った。

「今回は魔術学園の学長として、ライザー君をスカウトしに来たのさ」

 このアジュカ様の発言に、驚きを抑えきれず唖然とした顔をしていたと思うが、それ程この発言は僕にとって意外なものだった。

 アジュカ様が設立した『ベルゼブブ魔術学園』。

 冥界中から高評価を得ているその学園に入学するのは、いくら家柄が良く魔術に秀でていたとしても難関と称されるほどで、もし入学することができれば将来は安泰だと専らの噂だ。

 だからこそ、そんな誰もが憧れる学園へ、アジュカ様本人が僕をスカウトに来ているこの状況が信じられなかった。

 唖然としている僕たちを横目に、アジュカ様は何やら鞄を探ると1冊の紙束を取り出した。

「『魔力伝達の効率化を目的とした魔術回路の構築』この論文は君が書いたものだろう?ライザー君」そう言ってアジュカ様が机の上に広げたものは、紛うことなく僕が書いた論文だった。

 広げた論文を僕たちにも見えるようにぺらぺらと捲りつつ、アジュカ様は興奮気味に話を続ける。

「私も読ませて貰ったのだが、ここまで完璧で素直で元々この世に存在していたかのように理論整然と書かれた論文は見たことが無かった。私も今まで生きてきて多種多様な論文を読んできたが、この論分以上に素晴らしいと感じたものはない。とてつもないカルチャーショックを受けたよ」

 少年のように瞳を輝かせながら論文を捲る今のアジュカ様は、まるで自分が魔王であること学長であることを忘れているようにお話になっていて、心から感激していることがひしひしと伝わってきた。

「とくに魔術回路の構築に関しては鳥肌ものだった。なぜ今までそうしていなかったのか不思議に思ったくらいさ。思わず論文を呼んだ直後に、学園の魔術回路の構築を全て書き変えてしまったよ」という、冗談のような話もアジュカ様の様子を見る限りでは、不思議と冗談には聞こえない。

 今まで捲っていた論文を机に置いたアジュカ様が、不意に僕を見た。

 あまりに凄まじい眼力に思わず身構えてしまったが、その眼は実に誠実なものだった。

「そして、最後の回路を書き変え終えた時にふと思いついたのさ。君を学園へ入学させようとね。ここまで、私の心を揺さぶる論文を書くくらいだ、きっと学園でも凄まじい研究、発見をしてくれる。私はそう確信している、是非、我が『ベルゼブブ魔術学園』へ入学して貰えないだろうか?」

 いつの間にか、僕の正面には入学願書が置かれており、お父様の承諾印もすでに押してある状態だった。

 これは即ち、お父様とお母様は入学に賛成してくれていることに他ならない。

 僕自身も論文を書きあげるほど魔術への関心があって、冥界の発展に役立てたいと思っている。

 だとしたら、せっかくのアジュカ様の厚意を断る理由など微塵もない。

 未だに僕を見つめ続けているアジュカ様に向かい直し「是非、入学させて頂きたいと存じます」はっきりと告げた。

 僕の言葉を聞くや否や、言質のとれた入学願書を手に取り満足げな表情でアジュカ様は言った。

「君ならば快く承諾してくれると思っていたよ。さあ、そうと決まれば一刻も早く手続きを行わなければいけないね。急で悪いが、私はこれで失礼させて貰うとしよう」

 そう言い、アジュカ様はすぐさま転移魔法陣を展開。「それでは、学園で待っているよ。ライザー君」と、言葉を残すと嵐のように去っていった。

 後に残された僕とお父様。

ブリキ玩具のようにゆっくりと顔を見合わせると、盛大に笑った。

ひとしきり笑った後、いつも以上に上機嫌な「おめでとう、ライザー!流石わたしたちの息子だ!」という言葉に、僕も「はい、お父様!」満面の笑顔で返した。

 こうして僕は今年の春から晴れて『ベルゼブブ魔術学園』へ入学することが決まった

 




特定保健用食品です。
厚生労働省からの許可は出ていません。

はい、詳しい内容と諸々の説明は活動報告に書かれていますので
よろしければ活動報告の方へどうぞ。
西暦2014年1月16日修正。
西暦2014年7月24日修正。

(総文字数6826文字)
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