high school dxd side raiser   作:特定保健用食品

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事務局への案内人は

新天地。

 新しい土地、新しい活躍の場。

 一般的に言われている『新天地』という言葉の意味はこのようなものだ。

そこで、今回は少しだけ趣向を変えてみようと思う。

構成される文字そのものの意味を紐解いて『新天地』という言葉の意味を改めて考えていくと、『新しい天と地』と表すことができる。

では、この『新しい天と地』とは一体何なのか?

僕が真っ先に考えついたのは、『天』を『空』、『地』はを『地面、地表』と表すことだ。

こうして考えてみると『天地』=『世界』と表すことは出来ないだろうか。

そして、この考えを元に仮定して、『新天地』という言葉の意味をもう一度考えてみると――

『新しい世界』と捉えることができる。

では、ここで一般的にも使用されている『新天地で頑張る』という表現の意味を考えてみる。

すると、直訳で表した場合『新しい世界で頑張る』と表現することができ、つまり『自分が存在していた世界とは異なる、新しい世界で頑張る』という意味となる。

しかし、この意味は本来の『新天地で頑張る』という表現の意味とは異なってくる。

主に『新天地で頑張る』という表現が一般的に使われる時は、例えば『新しい職業についた時』、『地元から離れて新しい土地にきた時』、『何か新しい物事に挑戦する時』などだろう。

 どの場合においても、決して僕の考えのように『異世界』で頑張っていこう、などという時に使われる表現ではない。どちらかと言えば、僕の考えには『新開拓』という表現の方が合っているのではないだろうか。

 となると、この考えは本来の意味とはかけ離れていることに他ならない。

視点を変えて『業界』などを『世界』と例えることで、本来の意味と似たようなものに捉えることも出来るかもしれないが、やはりニュアンス的にはどこか違うのは否めない。

今更ながらに、言葉というものは難しい表現方法なのだと実感する。

なぜ今になって、『新天地で頑張る』だとかいう、言葉について考えているのかというと。

それは、まさに僕がその『新天地』で頑張ろうとしているからに他ならない。

 

 

 

 

 待機用応接間にて記者たちと一悶着ありつつも、無事に会場入りを果たした僕は今、魔王ベルゼブブ様への挨拶や入学手続きを行うために、魔術学園事務局へと向かおうとしていた。

 しかし僕は今、同時にあることで困っていて、行動に移せない状況にある。

 そして、その困っているということが『事務局は一体どこにあるのだろうか?』である。

 これでは、いくら新天地で頑張ろうと意気込んでいたとしても、目的地の場所が分からない以上、頑張りようが無い。

 周りを見渡しても、案内をしてくれるような受付は見当たらず、こんな時に限って会場に配備されている案内役を兼ねた警備員もいない。

 しかし、頑張ると意気込んだ以上、こんな所でただ立ち竦んでいる訳にはいかない。

 仕方が無いので、事務局の場所を知っていそうな入学生にでも聞いてみることにしよう。

 そう考えた僕は、改めて周囲を注意深く観察してみる。

 

 周囲には――

 どうやら無事に同じ学園へ通える事になって、互いに喜び合っている少女たち。

 窓際で静かに佇んでいる、如何にも家柄が良さそうな少女。

 多くの入学生に囲まれ、はやくも入学生の中心になりつつある少年。

 ただただ、ボーっとしている少年。に、飛び蹴りをかます少年。

 様々な入学生やそれに準じた様々な集団があるが、その多くがこれからの学園生活に思いを馳せ、期待に胸を膨らませているようだった。

そんな和やかな雰囲気に包まれている会場の中で、何気なく視界に映った1つの集団に僕は目を引かれた。

 魔法使いのような幅広の帽子を目深に被った少女を5、6人の家柄の良さそうな少年グループが囲んでいる集団。一見すると、一人の少女を複数の少年が取り合っているようにも見えるが、どうも様子がおかしい。

 その集団からは晴れやかな入学式に相応しい雰囲気が、全くと言っていいほど感じられない。逆にピリピリとした緊張感を纏っているせいか、周囲の雰囲気からは浮いているように感じる。

 この不自然とも言える少女たちの光景は、僕が『何かあったのだろうか?』と思うには、充分過ぎるものだった。

 だからこそ、あくまで知的好奇心が旺盛な僕は、様子を窺うべく集団へと近づこうと考えた。しかし、そう考えたのも束の間、少女一人を残して少年グループはどこかへと行ってしまった。

 様子を窺う機会を逃してしまったが、当初の予定を果たすには丁度よく少女の周りにもあまり人はいないので、そのまま僕はその少女に事務局への道を尋ねることにした。

 僕に背を向け俯いている少女に近づき、声を掛ける。

「そこの大きな帽子を被ったキミ、ちょっといいかな?」

 突然のことで驚かないように、出来るだけ優しく話しかけたつもりだったのだが、僕の予想に反して、少女は「ひっ!?」と怯えたように身を強張らせ、おそるおそる僕へ視線を向けた。

 大きく見開かれたその眼は涙で潤み、怯えきっていることが一目で分かった。

 ただ話し掛けただけで、この反応は明らかにおかしい。

少女の様子と反応で、さらに僕の中で疑念が生まれた。

 さっきのグループと何かあったのかな?

 気になって仕方ないが、ここは予定を果たす方が先決だと考えた僕は、目の前で僕のことを注意深く観察している少女に改めて話し掛けた。

「驚かせてしまってごめんね。ただ僕は、少し道を尋ねたかっただけなんだ」

 すると彼女は少し俯き加減で「あ、はい。わたしで良ければ」と、答えてくれた。先程までの少女の反応を考慮すると返答がないことも考えられたが、少女がちゃんと答えてくれたことにホッとする。

取りあえずは、他の誰かに尋ねなおすという手間が省かれたこともあって「良かった、ありがとう」と、お礼を告げる。

そして、早速ではあるが尋ねることにした。

「早速で悪いのだけれど、事務局までの道を教えて貰えないかな?」

 僕の質問に対して拍子抜けでもしたかのように、少女はきょとんとした顔で僕を見つめてきた。

 そんな少女の反応に、思わず変なことを聞いてしまったかとも思った。

しかし、そんな事はなく誤解されるような言い回しをした覚えもない。

もしかして事務局の場所を知らないのでは?

ということを思いつき、不安ながらも見つめ返していると、少女が「あっ」と声をあげた。

そして、ほんのりと赤く染めた顔を俯かせながら「あ、あの。それでしたら、わたしも事務局へ行かなければいけないので、良ければご一緒にどうですか?」と、提案してきた。

思ってもいなかった、とてつもなく魅力的な提案に驚きつつも、「本当に?それは、助かるよ」と、快く少女の提案を受け入れることにした。

当面の心配は無くなったことに胸を撫で下ろしていると、少女が「では、行きましょうか」と一言だけ告げて、そそくさと歩き始めた。

そんな少女の様子は、一刻もはやくこの場から立ち去りたいと暗に言っているようなものだった。

やっぱり、さっきのグループと何かがあったみたいだ。

少女に話しかけた時までは疑念でしかなかったものが、今では確信にまで変わっていた。

良くも悪くも知的好奇心が旺盛な僕は、このことが気になってしょうがない。

 しかし、面と向かって聞いていいものか?

 少女にとって、聞かれたくないことではないだろうか?

 ましてや初対面の相手である僕に聞かれては、決して気持ちのいいものではないだろう。

 あふれる好奇心を押し込めながら、先をいく少女の後姿を眺める。

 くるぶし程まである長めのローブを纏った少女の後姿は、僕よりも背丈が高いにも関わらず、小さく感じてしまうほど縮こまっている。

周囲に対して遠慮し、どこか余所余所しく接している少女は必ず何かを抱えている。

 しかし、少女が抱えているものが何なのか、僕には分からない。

 一度気になり始めたものを気にせずにいることは難しく、どこか悶々とした気持ちのまま僕は彼女の後を付いていった。

 

 

 

 会場から一歩出ると、赤絨毯の続く豪奢な廊下が続いていた。

その廊下を少女の後につきながら真っ直ぐ進んでいくと、これまた豪奢な階段が見えてきた。そして丁度、その階段を昇ろうと差し掛かった時、今まで無言のまま前を歩いていた少女が口を開いた。

「あ、あのっ」

 少し上ずった彼女の声に「ん? 何かな」と僕。

「貴方は、事務局へどんな用事が?」

 至極真っ当な疑問だった。

 それでも、少女が何とかして捻くり出した差し障りない質問だということは、少女の様子を見ていてすぐに分かった。

 僕のことを窺う少女が、歩を緩めて隣に来たことを確認すると、僕は話し始めた。

「用事って言うほど大それたものじゃないけど、強いて言うなら入学手続き、かな」

「入学手続き、ですか……。入学式の当日に?」

 さも不思議そうに少女は首を傾げる。

「おかしな話だよね、僕もそう思うよ。入学式当日に入学の手続きだなんて、まったくおかしな話だよ」

 大袈裟なリアクションを交えながら、僕は話を続ける。

「でも、理由はちゃんとあるんだ」

さらに首を傾げながら「理由?」と少女。

少女の雰囲気が段々と柔らかくなってきたのを感じつつ、「どうやら、僕だけ手続きが遅れてしまったらしくてね」と答えると、少女は「そんな事もあるんですね」と変な感心の仕方をしていた。

「あと、入学するにあたって、凄くお世話になったからちょっとした挨拶にね」

 そう言って少女の方へ顔を向けると、僕のことを見ていたのか思わず少女と目があった。

 目が合うと、会場の時と同じく顔をほんのりと赤く染め、すぐさま視線を外す。

しかし、少しするとチラチラ僕の様子を窺う、というよりも僕の眼を見ている。

そんな行為が3回目を過ぎた時、このままという訳にもいかないので質問を返した。

「そういう君はどんな用事?」

「へ?あ、わたしは、その、原稿を貰いに」

「原稿?」

「はい、入学生の抱負、というか、決意のような」

 この言葉でようやく少女の言う『原稿』の意味が分かった。

「えっと、つまり入学生代表の挨拶?」

 僕の窺うような言葉に「そう、だと思います」と、少女は肯定した。

『ベルゼブブ魔術学園』では毎年、入学生の代表が挨拶を行っている。

 その入学生代表は試験での最優秀者、つまり首席がなることに決まっているため、挨拶を行うということは――彼女が首席だという証拠に他ならない。

 少女はただ平然と何気ない一言のように言ってはいるが、これはとても凄い事実だ。

現に僕も「本当に!?それは凄いよ!」と、思わず声を張り上げてしまったほどだ。

「ということは、キミが学年首席!?」

 とんでもない事実に興奮した僕は、少女に詰め寄るようにして近づき手をとって握手した。突然の僕の行動に「あっ」と声をあげて少女が驚いていたが、それも束の間、僕の言葉を否定した。

「い、いえそんな、私は次席です」

 次席?

 首席じゃなくて?

 それなら、なぜ挨拶することになっているのか?

 と、疑問はあったが興奮が頂点へと達していた僕にとっては、最早どうでもいいことだった。

 だからこそ「それでも凄いよ!」と絶賛しながら握手を繰り返していると、少女も満更でもなかったのか「そんなこと、ないですよ」と、照れながら為されるがままとなっていた。

 

 そんな僕たちへ、不意に声が掛かった。

「聞き覚えのある声が聞こえると思っていたら、やはり君だったか」

 少女を解放して声の方へ視線を向けてみると、見覚えのある男性が僕たちの方へ向かって来ていた。

 入学式なこともあってか、緑髪は綺麗に整えられ、特徴的なモノクルを右眼に付けている。以前は黒を基調とした貴族服だったが、今は白を基調とした学長服を纏った男性に向かい、僕は頭を下げた。

「お久しぶりです。魔王ベルゼブブ様」

「元気そうで何よりだよ」

 アジュカ様は初めて会った時と同じように、僕のことを興味深そうに見ながら話を続けた。

「丁度今から、君の手続きを行うところだ。発効まではもう少し時間がかかるが、入学式までには間に合うだろう。どうだい、それまでの間、君たち私と少し話でもしないかい?」

 アジュカ様からの提案に「はい、是非」僕は快く承諾する。

 僕の返答を聞いたアジュカ様は満足気に頷くと、状況に付いていけず固まっている隣の少女にも声を掛けた。

「君もどうだい?」

 改めてアジュカ様が話しかけると「あ、はい!ありがとうございます!是非、ご一緒させていただきます!」我に返った少女は全力で承諾した。

 少女の反応が面白かったのか、アジュカ様は少しだけ笑うと「それじゃ、付いてきたまえ」とだけ言い、事務局へと向かい歩き始めた。

 

 

 

 アジュカ様の案内で事務局へとやってきた僕たちは、手続きが終わるまでの間、事務局内に用意された応接スペースにて話すことにした。

「ようこそ、我が魔術学園へ歓迎するよ」

 ソファへ座るなり掛けられたアジュカ様からの歓迎の言葉に、僕と少女は「「ありがとうございます」」同じくソファへ座りながら、お礼を述べた。

「改めて、自己紹介といこうか。学長のアジュカ=ベルゼブブだ。学園でのことは何でも聞いてくれたまえ」

 次は君たちの番だ、と言わんばかりに僕たちを見つめてくるアジュカ様の意を酌み、僕たちも自己紹介することにした。

 そういえば、まだ少女と自己紹介をしていなかったと、今頃になって気が付いた。

少女の方へ視線を向けると、どうやら僕と同じことを思っていたのか、気まずそうに僕の眼を見つめていた。

「お先にどうぞ」

 レディファーストではないが、何気なくそう言ってみる。

すると思いのほか素直に、アジュカ様同様、少女は簡単な自己紹介を始めた。

「わたしはユーベルーナ=クトゥグアと申します。以後お見知りおきを」

 初めて彼女の名前を聞いた。

 しかし、僕にとって『ユーベルーナ=クトゥグア』という名前はとても聞き慣れたものだった。

 僕が『魔力伝達の効率化を目的とした魔術回路の構築』という論文を書き上げるに辺り、参考にした論文がある。

 『火炎魔法に関する新たな魔力伝達理論』という論文なのだが、何を隠そうこの論文を書いた人物が『ユーベルーナ=クトゥグア』その人だった。学会で取り上げられることが無かったため、少人数にしか知られていなかった。偶然にしろ、この論文を手に取り読むことが出来たのは、僕にとって奇跡としか言いようが無い。

 初めて心の底から素晴らしいと思った。

 そして思った。

この論文を書いた人物は、紛うこと無き天才だと。

 特に、火炎魔法に関する知識や技法については感服ものだった。

 僕自身、フェニックス家出身だということもあり、火炎魔法に関しては多少なりとも自身を持っていたのだが、この論文を読むことで今の自分が、どれだけ未熟で無知な存在なのかを認識した。

 少し大袈裟かもしれないが、今の僕があるのはこの論文のおかげだと言ってもいい。

 この論文に出会えたからこそ、未熟で無知な自分に満足することなくフェニックス家の能力を高めようと努力できた。『ユーベルーナ=クトゥグア』という目標に近づこうと、日々、勉強を怠らず知識を深めることが出来た。

そこまでの影響を僕に与えた論文を書いた人物が、年端もいかない僕の隣に座っている少女だと知った今、思わず「は、ははっ」と乾いた笑いが漏れてしまった。

まさか、こんな素晴らしい論文を同世代の少女が書いたとは思ってもいなかったため、僕にとって目の前の事実は衝撃的すぎた。

あまりに衝撃的過ぎて気絶しそうだ。

しかしそんな僕に比べ、少女は何食わぬ顔で「次は貴方の番ですね」と笑いかけてくる始末。邪気のないその笑顔を見ていると、衝撃を受けて動揺している僕がとてつもなく馬鹿らしく思えてきた。

思考することも億劫になってきた僕は、思ったことをそのまま呟くことにした。

「次席なのも頷ける」

 僕の独り言のような言葉に、少女が思い出したかのようにアジュカ様へと向きなおり質問を始めた。

「あ、そういえばアジュカ様。質問なのですが、なぜ次席である私が挨拶を行うことになっているのでしょうか?」

 このことについては僕も気になっていた。

 今まで1つの例外もなく首席が行っていた挨拶を、なぜ今回に限って次席である少女が挨拶を行うことになっているのか。

 僕がアジュカ様へと視線を向けたと同時に、アジュカ様は話し始めた。

「それについては申し訳ない限りだ。どうしても首席の子に頼める状況では無くてね。急遽、次席である君にお願いすることにしたのだよ」

 腑に落ちないながらも「そうなのですか」と無理やり納得した少女は、さらに質問を繰り返す。

「ではもう1つだけ教えて頂けませんか? その首席の方というのはどなたなのでしょうか?」

 本来ならば誰々が首席だ、とかいう情報は入学生全員に知れ割っている筈のものだ。

 しかし、今回だけに限ってその情報が学園側から発表されることは無く、入学式当日である今も、誰が首席であるのかを知っている者は、誰一人としていなかった。

 それに、超難関校であるこの学園の首席が誰なのか、知りたいと思うのは入学生であれば当たり前だ。特に隣で身構えている少女に至っては、唯一自分を超えた人物が誰なのか余程気になっているようで、らんらんと瞳を輝かせながらアジュカ様を見つめている。

 そして、話しあっているこの場でただ一人だけその真相を知っているアジュカ様は、少女の様子がよほど面白かったのか、笑いをこらえながら言った。

「どなたも何も君の隣にいるじゃないか。彼がそうだよ」

 そう言って僕へ視線を移すアジュカ様。

 何の前振りもなく告げられた真相にまたもや僕の口からは乾いた笑いが漏れ、待ち望んでいた少女に至っては、信じられないといった様子で僕へと視線を向けた。

「そんな反応を示すってことは。もしかして、ユーベルーナくんは彼の名前も知らなかったのかな?」

 未だに驚きを隠せていない彼女が、さも不思議そうに首を傾げたのを見て肯定と受け取ったのかアジュカ様は続けた。

「だとしたら、今すぐに彼の名前を聞くことをお勧めするよ。私が説明するよりも遥かに効率よく、彼が首席である理由が理解できるだろうからね」

 アジュカ様の予言じみた言葉に触発されたのだろう。

改めて僕へと向きなおった少女は「貴方の名前は何ですか?」と詰め寄ってきた。

私、気になります!

といった感情がありありと伝わってくる少女の瞳に、若干うろたえながら僕は答えた。

「ラ、ライザー=フェニックスです」

「!?」

 僕の名前を聞くや否や、声にならない驚きの声をあげた少女は鬼気せまった様子でさらに僕へ詰め寄ってきた。

「あ、あなたが、あのライザー=フェニックス様ですか!?」

「あの、っていうのは分からないけれど、僕はライザー=フェニックスだよ」

「フェニックス家のご子息で?」

「うん」

「『魔力伝達の効率化を目的とした魔術回路の構築』を書いた?」

「そうだね。確かに、その論文は僕が書いたものだよ」

「次期魔王候補とまで噂されている、あのライザー=フェニックス様?」

「魔王候補だなんて、僕なんかまだまださ」

 僕がそう答え終えると、さっきまでの勢いは何処へやら、少女はソファに座りなおすと納得したように何度も頷いていた。

「どうやら納得できたようだね」

 僕たちが鎮静化したのを見計らったように、アジュカ様が声を掛けてきた。

「いやはや、面白いものを見させて貰ったよ。入学式の当日に、入学生首席と次席の初対面に出くわすとは思ってもみなかったよ。それに、君たちや入学生たちには悪いと思っていたのだが、私自身つい先程まで誰が首席なのか分かっていなかったのでね。発表しようにも出来なかったのだ、許してくれたまえ」

 悪びれもなくそんな事をいうアジュカ様は、悪戯に成功した子供のように無邪気な顔をしていた。

「それに、親しそうに手まで握り見つめ合っていた君たちが、自己紹介もまだしていなかったとは思わなかったよ」

 アジュカ様のその言葉で僕は忘れかけていた、あの時のこと思いだした。

 今更になって、あの時の感情的な行動に恥ずかしくなってきた僕は、少女の様子を確認する。すると、少女も同じことを思ったのか、僕のことをちらちらと窺っていた。

 その様子がまた面白かったのか、アジュカ様は笑いだし「今年は楽しくなりそうだ」と呟いた。

 




特定保健用食品です。
厚生労働省からの許可は出ていません。

はい、詳しい内容と諸々の説明は活動報告に書かれていますので
よろしければ活動報告の方へどうぞ。

誤字、脱字などがありましたらお知らせください。

西暦2014年7月24日修正。

(総文字数8083文字)
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