黄金のクラージュ   作:つけ麺太郎

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一話

真夜中の暗い裏路地に、血に濡れた青年が走る足音だけが響く。彼の顔は生気を失ったように青ざめており、息は荒い。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、⋯⋯なんで⋯⋯どうして俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ!⋯⋯嫌だ嫌だ嫌だ!⋯⋯死にたくない⋯⋯」

 

 路地の行き止まりに追い込まれた青年の前に、銀色の異様な生物が姿を表す。

──青年に銀の槍が迫った。

 

 

        ◇

 

 

 繁華街はいつもの様に活気に満ちており、行商人や運送屋が巨大な亀に乗って街を駆けていく⋯⋯。

 

 この街の名はガラノス。アルケード王国の東にある商業の盛んな街であり、街中の建物の大半が綺麗な水色のレンガできていることから『青い街』とも呼ばれている。

 

「伝説の名酒、竜王殺し⋯⋯はぅ⋯⋯ついに⋯⋯ついにわたくしの物に⋯⋯」

 

 繁華街にある酒屋の店内で少女の歓喜の声が響いた。

 

 まだ少し幼いが、美しい女だ。黄金色のサラサラした長髪に、宝石の様な青い瞳、肩を露出した黒いワンピースも相まって年齢不相応の色気を醸し出している。

 

「もちろん一点物だぜ。サラのお嬢には、いつも贔屓にしてもらってるからな!⋯⋯大切に飲んでくれや」

 

 無精髭を生やした大柄な店主は、いい笑顔で彼女に酒ビンを差し出した。

 

「高級酒である竜殺しをさらに30年熟成させた幻の名酒ッ!⋯⋯絶対に⋯⋯絶対に大切に飲みますわ!」

 

 彼女はだらしなく目と口を緩ませ、酒ビンに頬釣りをしている。大層ご満悦な様子だ。

 

 彼女の名はサラ・レックレス。半年前にガラノスに越してきた17歳の少女である。

 

「マスター、今日は良いもの売っていただきありがとうございますわ。また来ますわね」

 

 酒場を後にしたサラは、再び繁華街へと繰り出した。街を歩く人々はある話題で持ち切りである。

 

──昨夜ネイビー通りで人が襲われたらしいぞ。なんでも被害者は通力者って話だ。

──最近物騒よね⋯⋯。ヴィルさんがなんとかしてくれたらいいけど⋯⋯

 

 

        ◇

 

 

「銀色の化物が、突然家の窓を割って入ってきたんです⋯⋯。通力のおかげでなんとかここまで逃げてこれました⋯⋯」

 

「その銀色の化物の詳しい見た目や特徴は分かりますか?」

 

「⋯⋯真夜中で暗かったので具体的な大きさは分かりませんでしたが、少なくとも私の体躯の三倍はありました。⋯⋯槍のような鋭い尾を持っていて、それを凄い速度で突刺そうとしてきました⋯⋯。とにかく⋯⋯とにかく恐ろしい化物でした」

 

 青年は包帯から血の滲む右肩を押さえながら、体を震わせた。右肩以外にも数ヶ所包帯を巻いている箇所があり、服もいたる所が切られたかのように破れている。

 

「ありがとうございます。次に⋯⋯」

 

 ガラノス中央街にあるアルケード軍第四師団駐屯地では、取り調べが行われていた。昨晩、ネイビー通りで襲われた被害者の青年が駐屯地に駆け込んできたのだ。

 

 腰に剣を帯びた二人の男、師団員であるロニーとトニーは今回の事件について語り合う

 

「鋭い尾を持った銀色の化物⋯⋯。間違いなく犯人は通力者ですね⋯⋯」

 

「団長が不在のこのタイミングで⋯⋯。最悪だぜ⋯⋯」

 

「団長の言いつけ通り、この件はサラさんに相談するべきでしょう」

 

「サラ!?⋯⋯あのゴリラ女にか?」

 

「こらっ!サラさんは団長の友達ですよ!だいたい女性に対してゴリラとは⋯⋯」

 

「あー分かった分かった!俺が悪かったからもうよしてくれ!⋯⋯ったく紳士振りやがって」

 

「振りじゃない!僕は紳士です!」

 

 二人が渡り廊下を歩きながら喋っていると、向かいから全身鎧の大男が近づいてくる。

 

「相変わらず仲がいいな、お前らは」

 

 大男は二人組にいつもの調子で話しかけた。

 

「「あっ副団長!お疲れ様です!」」

 

 大男の名はロック。アルケード軍第四師団にて副団長を務める男である。

 

「副団長、いつも言っていますがこんな似非紳士野郎とは仲良くないですよ」

 

「トニー!その似非っていうのを止めて下さいっていつも言ってるでしょう!」

 

 二人のいつも通りのやり取りを見届けたロックは肩をすくめた。

 

「二人ともじゃれてねェで仕事行ってきな。件のサラの所だ」

 

 

        ◇

 

 

 「ふんふんふーん♪ふふふふふーん♪」

 

 コバルト通りにある少女の家から珍妙な鼻歌が聞こえてくる。彼女はお玉で鍋の中身をかき混ぜていた。どうやら何かを煮込んでいるらしい。

 

「おーい!居るんだろゴリラ女!開けてくれー!」

 

 少女は凄まじい速度で玄関を飛びだし、トニーに飛び蹴りをお見舞いする。

 

「誰がゴリラじゃーーーッ!!」

 

「ぼべらぁーーッ!!」

 

 珍妙な悲鳴とともに、トニーはノーバウンドで十数メートル吹き飛んだ。

 

「お久しぶりぶりですね。サラさん」

 

 ロニーは何事もなかったかのように、サラに挨拶をした。




頑張って続き書きます。

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