今から一年前の年明けの年始。
箒は神楽坂家の玄関でコウと向き合っていた。箒にしては珍しくかなりお洒落を着物を着ていた、コウも出かけるのか、正月とあって、元着物職人の老人夫婦に作ってもらったのを着ていた。
「コウ、年始の参拝に行こう」
「……それはいいが事前に予約入れろよ、お前」
箒はこの時はまだコウと付き合っていた。
「今から爺ちゃんと行く予定なんだけど」
爺ちゃんというのはコウの養父である神楽坂 勉である、養父である勉には箒はすでに紹介済みである。というより、箒が勝手に養父に会いに来て、付き合っていることを告げた。
この時はかなり養父は嬉しそうで、その日は村をあげての祝いが行われるほどだった。
「む、そうなのか?」
「当たり前だろ」
「むー」
箒はコウが家族想いというか養父である勉のことを大事にしていることは知っている。
捨て子同然で過去十年間の記憶がないコウを拾い、名を与え、ここまで育てたのは言うまでもなく、勉老人である、それ故にコウは勉老人をとても大事にしているのだ。
「なら、箒ちゃんも来るかい?」
そう言ったのは件の勉老人だ。
髪は全て白髪だが、まだ毛はあり、その物腰はいつも浮かべている優しい笑み同様に優しいものである。
「ワシはコウと一緒に参拝できれば、十分じゃからな」
「しかし……」
箒はチラリとコウを見る、本音を言えば行きたいだが、せっかくの家族水入らずを邪魔するのはどうかと今更ながらの良心の呵責が箒の心を揺さぶられる。
そんな箒を見て、コウは小さく溜息を漏らし、言った。
「箒、行くぞ」
「え?」
悩む箒の近くまで行き、肩を軽く叩く。
「木村師匠を迎えに行くぞ、ほれ」
コウは何気なく、箒に手を伸ばす。
箒は「え、あ、え?」と戸惑いながらもその手を握ると頬が赤く染まる。
そして、握られた手を箒は見て、自然と頬が緩む。
「あぁ、行こう!」
箒は満面の笑みで応えた。
勉老人はその光景を微笑ましそうに懐かしそうに眺めていた。
この後、コウの師匠である木村師匠を迎えに行き、村の山にある一万階段を登った先にある【鬼神神社】で行くと友人達や長門とその妹の陸奥と出会ったりしながら、箒はコウと勉老人と三人並んで参拝する。
神様への挨拶を済ませ、ご縁があるようにと賽銭箱に五円玉を投げ入れ、箒はお願いことをした。
(来年もコウと一緒にーーー)
「……」
そこで夢が覚めた。
見渡すと見慣れた部屋に、隣のベッドは今日も空、箒のベッドサイドに飾ってあるコウと自分の写真に自分の机には私物がある。間違いなくここは自分の部屋だと箒は認識する。
箒はゆっくりとベッドから降り、床で爆睡しているルームメイトの【比叡 天子】を踏まないように気をつけながら、朝練の準備を始める。
「……コウ」
(来年もコウと一緒にーーー)
「叶わなかったな」
箒はそう鼻で笑い、いつものように準備を済ませ、いつものように。
「コウ、朝勃ちしてるか?」
「朝から頭大丈夫か、お前?」
いつものように巫山戯、コウに叩かれ、コウと一緒にいる幸せを箒は噛み締め、何度も咀嚼した。