最悪な状況になったなとはコウは口に出さないが深いため息を吐いた。
残弾残り僅か、エネルギーも同様なのに敵はほとんどダメージを受けてない無傷も同様の状態でおそらくあれだけの巨体だからエネルギーもまだ問題はないのだろう、もしあるなら帰れ、さっさと帰れと悪態をつきたくなるほどに最悪な状況だった。
生まれつき戦場に立つとろくなことが起きないコウでも今回ほど最悪な状況は過去にまだ10回以下ほどしか遭遇していない。だが、今回は過去に遭遇した最悪な状況の中でもまだ可愛いほうだが指折りの最悪な状況になるだろう。
何せ、味方援軍望み薄、残弾残りエネルギー補給見込みなし、敵兵器強奪不可、サバイバル不可と最悪な状況だからだ。昔、これに加え食料水分酸素不足で補給不可のときはさすがに死を覚悟したがたまたま通りかかった宇宙海賊の船が自分の機体を鹵獲してくれて、おまけに自分を連邦軍に売り渡そうとしたので隙を見て、その宇宙海賊の皆様には脱出艇(食料等なし)で行く宇宙の旅に招待させてあげたことがあった。
(逃げるという手段があるけど)
そう、まだ自分達には逃げるという手段が残されている。だがしかし、仮に逃げたとしてもアッザムは追いかけてくるだろう。
観客達や生徒達が逃げ出したのに変わらずこちらに攻撃を積極的にしてくるということは観客達や生徒達、彼らが目的ではなく、多分自分達がアッザムの目的に達成に必要だからだろう。そうでなければ、さっさと自分達なんて無視して彼らを追っていたかもしれない。
そう考えるとここからそう簡単には出られない、もし本当に自分達に用があるのなら外に出て逃げたりなんかしたから追いかけくる可能性もあるし、もしかしたら逃げたらこちらを無視して市街地に進撃する可能性もゼロではない。
そうなれば、甚大な被害が出るだろうし、下手したら市街地一つが地図からなくなる可能性もあり得る。宇宙世紀ならMAは驚異といえば驚異だったがやり方次第で簡単に撃破できる存在だったがそれはMAを簡単に破壊できるほどの火力や装備があることが前提としてのやり方だ。今みたいにろくにMAの装甲を削ることができない状態ならMAは最大級の驚異となりうる。
「さて、どうしたものか・・・・」
「策はありますの?」
はは、ないない、もう万策尽きた。
あいつの装甲を切り裂くことはやり方によっては可能だけど撃破無理だわ。
「うーん、な「あるわ」は?」
ないと言おうとしたとき、凰に遮られた。
オルコットと二人で凰を見る。
「は、今なんて?」
「あるわよ、あいつを倒す作戦がーーー」
凰は覚悟を決めた表情で言った。
「さーて、どうする気かな?」
IS学園に堂々と置いてあるテレビ局の撮影クルー専用トラックの中にはアナハイム日本支社第六課の課長内海束が現在アリーナで繰り広げられている死闘をウキウキしながら観戦していた。内海が知る限りでは神楽坂幸ほどの化け物は宇宙世紀には彼一人しか確認できていない、だいたい神楽坂幸みたいな化け物がそうそう簡単に生まれていたら世界は大変なことになっている。
だが、それはそれで面白いかもしれないと内海は考えてみた。
「課長、避難はほぼ終了したようです」
「あっ、そう、で成果は?」
「確認したところ、彼らから頼まれたIS派の人間は死んだ模様です」
「そ」
ある大臣のSPに変装してアリーナ内に潜入していた部下からその大臣を含むIS派の関係者達が無事死んだのを確認したからの報告を内海は興味なそうに返した。今回の実戦をするにあたって一応上からの許可が必要だった、すると専務を始めとした上司達はするのは別に構わないがもちろん自分達が関わったことを知られてもバラしてもいけないと言われ、さらにIS派というIS関連の法律を推進する大臣などが観戦にくるのでついでに殺せと命令された。
内海からしたら、いつかは殺すつもりだったので今更殺すのは面倒だったが命令は命令だ、従うしかない。
正直、内海は今回の実戦はアッザムを使って神楽坂幸またはコウ・カグラザカがどの様な実力を現在もちわせているのかを調べるために向かわせたにすぎない。だからIS派の人間が死のうがこの場を生きようが後で殺すつもりだったし、ぶっちゃけ興味がないので心の底からどうでもよかった。
「しかし、さすがに耐えるね〜」
「以前の実戦で戦ったISは3分ももちませんでしたからね」
「ふふ、さすがは蒼き鬼神だね〜」
「まさに化け物ですね」
以前に戦ったテロリストみたいな連中が持っていたISとそのパイロットは正直に言うと弱くはなかったが強くもなかった並程度のパイロットだった故に実戦テストにはちょうど良い相手ではあったが。
だがしかし、結果は残念なもので内海が期待したほどのデータは得られなかった。これ以上のモノを求めるとなると必然的に政府やり合うことになるがそれはまだ早い。
だけどアッザムもといモビルアーマーの戦闘データがこの先必須なので政府とやり合うにしろやらないしろ、どちらにしろやり合う予定だったコウにぶつけることにした。この相手なら最高のデータが取れると内海には自信があり、現に今取れているデータは最高のものであった。
「さて、どうする気だい?大佐殿」
「まったく、なかなかひどい作戦だな」
「じゃ、なに、やんないの?」
「いや、やるよ」
ひどい作戦なんて慣れっこだ、あぁ、慣れっこだよ、慣れっこ。
俺は間抜けにも捕まったあのクソ赤を助けるために敵艦隊に単身突撃して、単身で助け出し、単身で役に立たないクソ赤ザコを背負いながら脱出するはめになった作戦を立てた、あの女ナナイ・ミゲルを一生許さない。
他にもひどい作戦は多く経験した、ほとんどが単身突撃だけどな!!人を何だと思ってやがる!!
・・・・ふぅ、それに比べれば多少はマシだが、また単身突撃ですか、そうですか。
「死んだら化けて出てやる!」
「はっ、あんたが死んだらあたしらも死ぬから安心しなさい!」
「あ、安心できませんわ」
軽口を叩きながら、オルコットの前に試作品である大型耐熱タワーシールドを突き刺すとオルコットはそれを支え、その後ろで凰が準備に入るーーーもし、失敗したら冗談抜きで死ぬだろう。なのに、なのに気持ちが高ぶる、この心臓が破裂するほどに激しく鼓動するが荒くなる呼吸が拭いても拭いても拭ききれないほどので続ける汗がーーー最高に気持ちいい!
そうだ、そうだ、これがこれが死をかけた殺し合い・・・・あぁ、最高に。
「ゾクゾクするーーー楽しもうぜ、紫玉葱くん!」
ケンプファーで間合いを詰めていくと同時に紫玉葱、アッザムから強力なビーム砲による対空迎撃が始まる。しかし、対空迎撃にはビーム砲は適してはいない、というか基本的には実弾兵器の方が適している。
たしかにビーム砲というより光学兵器は強力で照射を続けて一種のビーム刃の様なものでミサイルなどをなぎ払いつつ、敵も撃墜出来れば最高だが実際にはそうはいかない。理由としては出力だ光学兵器をビーム刃のように照射しつづけるのには大量のエネルギーが必要不可欠でまた照射を続けれるほどの構造が必要となると余程の小さいながらも高エネルギーを生産し続けることができるバッテリーなどのエネルギーを生むシステムが必須でそれだけのエネルギーに耐え切れる機体でないとMS如きでは運用できない。
すると自然と機体は大型化し最終的にはMAか戦艦クラスのサイズで運用することになる、すると勿論そんな装備を大量生産など夢のまた夢で何よりもその1機でどれだけの資材や金を喰ってしまうのかわからないし、整備も管理も大変だ、そこらへんがMAが廃れてしまった原因でもある。だいたい何よりもただでさえエネルギー管理や維持が大変なのにそんなエネルギーを食いそうな装備をつけるよりも対空砲や対空ミサイルでも積んだ方がまだマシだろう。
ま、後の時代にはつけられてそうで困る。
失敗は許さない。迷いも許さない。
だから、ゆっくりと息を吸いゆっくりと吐く。
高鳴る心臓の鼓動を抑え、荒く吐く息を整えるーーー明鏡止水という高度な技があるが生憎未熟なあたしにはまだ早い。だから似た様なことをする、無を欲するのではなく無になる。
師匠である祖父は言った。
〝無欲とは欲である、何故なら無を欲するのだから″と。
だから無欲になるのではない、限りなく無に近づき、心臓を呼吸を整える。
目を閉じ視界を遮り、耳から入る音を遮断する、そして余計なことを言わない様に口をつぐむ、集中する集中する集中する。
たった一撃、たったの一撃のために集中する、勝つために。
凄いですわーーー。
神楽坂さんから借りた耐熱仕様の大型盾を地面に突き刺し、アッザムからの攻撃を耐える。
神楽坂はアッザムの意識を少しでも自分に向けるために攻撃を続ける、火砲のほとんどが神楽坂に集中しているが一切被弾せずに攻撃を続ける彼も凄い、だがこんな爆音や銃声で声さえも届かない騒音の中で集中し続ける鈴にセシリアは驚いていた。自分ならこんな状況下では集中なんてできないからだ。普段ならこんな絶対絶命の状況になる前に退避するなり撤退するなりを選んでしまうだろう、それは当たり前のことで非難されても言い返せれる自信があった。
いくら、国家代表候補でも例え国家代表でも死ぬときは死ぬのだ、そして誰だって死ぬのはゴメンだ。しかし、彼らは戦うことを選んだ、誰かに強制されたわけではない、脅されたわけでもない。
自らの意思で自ら進んで戦うことを選んだ、そしてオルコットはその二人を見て動いた。
(凄いですわ、本当に)
自ら戦うこと自体は簡単である、しかし他人を他者を戦わせる気にするのは並大抵の行動では人は動かない。
行動だけでは人は動かない、なら何が必要かというと人を動かす力ーーーそれは。
「カリスマ」
「はい?」
モニターでコウ達を監視していた内海が呟いた。それを聞いた黒崎は内海がどう言った意味で呟いたのかがわからなかった。
「黒崎くん、カリスマだよカリスマ。人を動かす力だ」
「人を動かす力ですか」
「そ、カリスマは力だ、絶対的な力、人を動かし魅了する」
内海はかけていた眼鏡を外し、レンズを拭きながら語り続ける。
「上に立つ者が持たなければならない力、例えば自分の部下よりも能力が劣っていても幼くても魅了してしまう、黒崎くん、カリスマって種類がいくつかあるんだ」
「種類ですか?」
「あぁ、そうさ、例えばシャア・アズナルブやラクス・クラインやなどが持つのは王のカリスマだ、人々の上に立ち導き、操るのが王のカリスマ」
レンズを拭き終え、その眼鏡を眼鏡ケースにしまい、別のケースから似たような眼鏡を取り出しかける。
画面の向こうではコウとアッザムの死闘が繰り広げられていた。
「では、神楽坂幸が持つのは王のカリスマだと?」
「ん、違うよ」
「では、神楽坂幸のカリスマは?」
「彼の持つカリスマはーーー」
「ーーー準備できたわ」
集中し終えた鈴が呟く、その両手は光り輝いていた。オルコットはそれにとりあえず今は驚くことはやめ、無線に向かって叫ぶ。
「“コウ“さん、こちらは準備できましたわ!」
「はっ、おせーよ、“鈴“!」
「あら、なら待たせた分見せてあげるわ、流派東方不敗の奥義を!」
鈴は立ち上がり、青龍刀を取り出すと両手の光が青龍刀に集まり形を形成していく、それはまるで光り輝く剣のようだった。
「私の拳が光って唸るーーー」
「決めるぞ、“セシリア“!」
「はい!」
コウはビームサーベルを取り出し、そのリミッターを外し、残ったエネルギーのほとんどをビームサーベルに注ぎ込む。ビームサーベルは通常の何倍にも巨大化し、本来黄色に輝いているビームサーベルの色は不可をかけ過ぎているせいか赤黒く禍々しく光る。
コウはそれだけを持ってアッザムに突っ込む、アッザムは近付けさせまいと迎撃してくるがコウは御構い無しに豪快に回避しながら突っ込む。そしてその刃をアッザムの額らしき部分に突き刺す。激しい閃光と火花が散り、コウの雄叫びがアリーナに響き渡る。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
「貴様を倒せと輝き叫ぶ!」
「これで!!」
コウのビームサーベルはアッザムの額らしき部分を溶解させながら切り裂こうとするも途中でビームサーベルの限界がきてしまい、ビームサーベルから光が消える。コウはビームサーベルを手放すと同時に爆発寸前のビームサーベルをアッザムに向かって蹴る。それは溶解して穴が空いたところに向かって飛んでいく、そしてセシリアのビットがそれを撃ち抜くとビームサーベルは激しく爆発し、さらに大きな穴を空ける。
大きな穴を開けられたせいかアッザムはフラフラと飛び始め、ビーム砲も照準が定まらずに無茶苦茶に撃ちまくる。
そこに好機と見た鈴が接近する。
「喰らいなさい!失恋と憎しみの!!シャイニングフィンガーソード!!」
鈴のシャイニングフィンガーソードは溶解して空いた穴を突き刺し、そのままアッザムを両断する。
「失恋の一刀両断斬り!!」
両断されたアッザムは三人の後方にフラフラと飛んでいき、やがて壁にぶつかり激しい爆音と爆発を起こし、その余波で弱っていた三人を吹き飛ばし意識を刈り取った。
内海はブラボーブラボーと拍手を勝った三人に送りながら、黒崎に笑顔で先程の続きを語る。
ーーー彼が持つのはね、民や兵士をそれを従えさせる王さえも魅了してしまうカリスマ、【長】のカリスマさ。