俺の親友が女の子になってしまった件 作:勝機を零した、掴み取れん
「……優くんはさ、本当にずっと僕の隣にいてくれる?」
士郎の部屋で一緒に遊んでいた時だった。突然、そんな質問をされた。
俺は少し悩んでしまった。元々、過去の事を引きづったままの士郎を支えるため、そのためなら俺はずっとあいつと一緒にいる。そう約束した。
だけど、物事に絶対はない。時が経てばあいつが自分で克服する日も来れば、俺以外の支えを見つけられるかもしれない。だから、ずっとと、ハッキリ答えることは出来なかった。
「確かに、俺はお前と一緒にいるとあの日約束した。だけど……ずっと居られるかは……わからない」
俺は素直に自分の心の内を答えた。
──それが、あいつの治ろうとしている心に再びヒビを入れてしまった。
「……ふぅん。やっぱりそうだったんだね……」
「……士郎?」
「やっぱり優くんは僕の隣にいてくれないんだよね……だってさぁ!」
「……っ!?」
両肩を強い力で押され、視界が部屋の天井へと変わる。そして、その天井はすぐに士郎の顔に覆われた。
「……どうしたんだ? 士郎」
悪魔のような笑みを浮かべ、光が宿ってない虚ろな瞳を見せる士郎の顔に、俺は一瞬恐怖を覚える。
「……優くんさ、最近。クラスの女の子とよく話してるでしょ?」
「あの子の事か? それは向こうから話しかけくるからな。無視する訳にもいかないし、それくらい別にいいだろ」
「良くないよ。多分あの子は優くんの事が好きなんだよ、狙ってるんだよ。だから、もうあの子とは関わらないでよ」
「そんな事わかるわけないだろ? もしそうだとしても俺は別に付き合う気もない」
「……わかるよ。僕だって同じなんだから」
「……?」
床で横になった俺を囲うように四つん這いの状態になっている士郎が徐々に身体を下げ、俺の方に近づいてくる。
「ねぇ、優くん。僕は君が好きなんだ。ずっと前から、アツヤやお父さん、お母さんを失った僕を守ってくれる前から」
「もう僕には君しかいないんだ。だから誰にも取られたくない。僕だけのものにしたかった。でも、僕達は男同士だった」
「男同士でも付き合う事、結婚することは出来るかもしれない。けど、それは君は気持ち悪いと思うかもしれないし、周りも認めてくれないと思う」
「でももし、僕が女の子に。優くんにとって非の打ち所のない、僕以外の友達を必要としないくらいの女の子になれたとしたら。僕は本当の意味で、君の隣にずっと、一生一緒にいてくれるかな?」
狂気に満ちた言葉の羅列。本当なら拒まなければいけないのに、それが出来なかった。
これを拒めば士郎は本当に二度と治らないくらいに壊れる。そして、それ以外に良い方法が思いつくことが出来なかった。
「……何も言わないなら承諾、ということでいいのかな? ありがとう、優くん。じゃあ、誓いのキスをしようね。ずっと、こういうことしたいと思ってたんだ」
そう言って士郎は自分の身体を俺の身体に重ね合わせる。
そして、俺の視界は真っ暗になった。
「……ここは」
暗闇から目を覚ますと、そこにはさっきと同じ景色が見えていた。
「……あっ、優くん起きたんだね」
そう言いながら部屋の扉から士郎が入ってきた。
「……士郎。俺は……確か」
そうだ。今日は士郎と買い物に出かけた翌日だった。それで朝からあいつの家に来てて……気づいてたら寝てたんだった。
「悪い。勝手に寝ちゃってたみたいだ」
「ううん、大丈夫だよ。ぐっすり眠ってたから起こすのもあれだと思ってさ。きっと疲れてたんだよ」
「……いきなり性別が変わって疲れてるのはお前の方なのにな」
さっきのあれは夢で良かったのか。それにしては生々しく、俺はどこかであれと同じ事をされていた?
それに、あの時の士郎の姿は男の時だった。
考えれば考えるほど頭が混乱していく。
「……大丈夫? やっぱりもう少し休んだ方が」
「いや、もう十分休めた。お前にばっかり迷惑をかけたくない」
「だから大丈夫だって。優くんにはこんな僕に色んな相談に乗ってくれてるんだから迷惑だって思うわけないよ」
士郎はそう微笑んで俺の隣に座り込んだ。
結局、1日経っても士郎が元の姿に戻ることは無かった。
もっと時間が経てば戻るかもしれないという可能性はあるが、女の子になったのが原因不明なら戻る方法も同じだろう。
多分、このままの状態で学校に行くようになるのはほぼ確定になってしまう。後の判断は先生達に任せるしかない。
とはいえだ……。
「あっ! 見てよ優くん。前に流行った、たわわチャレンジ! なんてね」
やっぱり士郎は女の子になった事にショックを受ける所か、嬉しそうだ。
自分の胸の上にに携帯を乗せて、得意げな表情を俺に見せる。携帯は全く落ちる様子もなく、とても安定している。
「……このまま士郎は女の子のまま過ごすことになるのかな」
「……優くんにとって、僕は男の子のままが良かった?」
士郎はさっきの楽しそうな顔が一変して悲しそうなものになる。
「……まあ、急に今まで一緒にいたやつが性別変わると流石に戸惑うよ。男と女の生活とか、価値観なんて全然違うんだし。でも、慣れれば問題ないさ」
「良かった……。じゃあ、まだ2日しか経ってないけど今の僕をどんな風に思ってる?」
なんかグイグイ来るな……。まあ嫌いではないけど。
「そうだな……。凄く、変な感じがする」
「変な感じ?」
「ああ。こうして話してるのもなんか、士郎なのに、まるで普通の知らない女の子と話してる気分」
「それって……僕の事を女の子として見てるってこと?」
「……多分、そういう事だと、思う」
なんでこんなこと対面で言ってしまったのだろう。恥ずかしさで顔が熱い。
「……ふーん。じゃあ、このまま僕と恋人になっても大丈夫そうだね」
「……? 何か言ったか?」
「ううん。何も言ってないよ。明日から学校、上手くいけるといいね」
「……そうだな」
そう言って天井を見上げる。
明日からも更に、今まで考えられなかった生活が始まる。
士郎だって不安でいっぱいのはずだ。それを何とかしていくのが俺の役目でもある。その時はそう思っていた。
本当に心配しなくてはいけなかったのは自分の身体と士郎との関係という事に気づくにはもう少し先だった。