ガールズ&パンツァー ~捨てられた男の娘~ 作:ニキ・ラウダ
今日は、待ちに待ったアンツィオ戦なのだが、セナは出発前みほの看病をしていた。何故ならみほが熱を出してしまったからだ。セナが、杏にみほが熱を出したので休むと一報を入れると、みほはキツそうな表情でセナに謝った。
「ごめんね?セナさん・・・こんな大事な日に。」
セナは首を横に振る。
「熱を出してしまっては仕方ありません。次の試合までにきちんと病気を治して下さい。いいですね?」
セナがそう言うとみほは微笑みながら頷いた。しかしセナは心配だった。みほは責任感が強く、優しい娘だ・・・もしかしたら無理矢理身体を起こしてアンツィオ戦に来るかもしれないし、自分が居ない間にみほに何かあったら・・・心配になったセナは母親であるかなえに電話をし、みほの看病をお願いした。かなえはOKと即答すると、10分以内でみほの部屋へと到着する。セナはかなえにみほの看病をお願いし、みほに「絶対に安静に」と言って不安そうな顔で部屋を後にした。
セナが試合会場に着くと、皆騒然としていた。それはそうだろう・・・今まで頼りにしていた隊長が熱を出してお休みなのだから。セナが到着すると沙織 優花里 麻子 華の4人が慌てた様子でセナの元へ駆け寄ってきた。
「セナちゃん!みぽりんは大丈夫!?」
沙織は心配そうに聞いたが、セナは少し微笑んだ。
「熱はありますが、大したことは無さそうです。お母様に看病をお願いしましたし、お医者様も呼んで頂けるそうなので。」
セナがそう言うと、沙織達はホッと手を撫で下ろした。
そこへ杏がセナの元へとやってきた。
「西住ちゃんの看病ありがとね。後、西住ちゃんの代わりに隊長よろしくね?」
杏が笑顔でそう言うとセナは驚いた。何故なら隊長が不在な場合、本来であれば副隊長が隊長の代わりをするのだから。杏はセナの言いたい事をわかっていたかのように説明をした。
「本来であれば副隊長である桃ちゃんが隊長の代わりをするんだけど・・・桃ちゃんは経験が無さ過ぎるし、作戦立てるのも余り上手じゃないからね~」
セナは少し不安だった・・・隊長は聖グロリアーナに居たとき紅白戦で1度経験した事はあるが、公式の試合では初めてだったからだ。杏は笑いながら「よろしくね~」と言った後、その場を離れた。
試合開始前、セナはⅣ号に乗り込む。Ⅳ号はみほ不在の為、セナが代わりに隊長兼車長となるからだ。みほの様にハッチから顔を出し、深呼吸をする。セナは今までに無い位の緊張とプレッシャーに襲われていた・・・この試合に負ければ大洗は廃校・・・そして、隊長というポジションに居座る以上、みほとまほと血縁がある自分は一部の人間から比べられる・・・色々な考えが頭を過るが首を横に振り頭の中を真っ白にする・・・自分の戦車道の師であるダージリンに言われた言葉が頭の中を過った。
「あなたは、私にならなくても良い・・・誰にもならなくて良い・・・だってあなたは、あなたですもの。やりたいように隊長をしてみると良いわ。」
そして試合開始の合図が鳴る。
この試合は殲滅戦なので、どちらかが全滅したら負けになる。セナはまず最初にハッチから身体を出し周囲の状況を確認した。相手戦車はこちらより倍の10両・・・隊列を組んで道をこちらに進んでいる・・・セナは状況を把握すると直ぐ様全チームに指示を出した。
「カメさんチームとカバさんチームは左の森に隠れて、アヒルさんチームとウサギさんチームは反対側の右の森に隠れて全車両エンジンを切って待機してください。我々あんこうチームは敵を陽動して、今から来るアンツィオの隊列ごと引っ張ります。その後皆さんはエンジンを掛けた後、後ろから一斉に敵戦車を狙い撃って下さい。」
セナが指示を出すと、桃が異議を唱えた。
「これではコソコソして隠れているみたいではないか!正面から正々堂々と迎い撃てっ!それに!当初の作戦と全く違うじゃないか!」
桃の意見にセナは優しい口調で、返答をした。
「相手は全国大会出場校ですし、どんな出方をしてくるかわかりません。それに・・・私は会議の時は桃ちゃん先輩により、会議室に出入り禁止になっており作戦全体を把握することが出来ませんでした。みほさんより大体の作戦の内容を聞きましたが、どれもみほさん以外では成り立たないような内容でした。それに、優花里さんが持ってきたビデオも見ることが出来ていない私に同じ作戦を行える可能性はかなり低いです。」
桃はいつもと感じが違うセナに戸惑った・・・優しい口調だがいつもよりピリピリとした感じだったからだ。桃は渋々作戦を了承した。
全車両所定の位置に待機し、しばらく敵戦車を待つと、遠くから戦車の走行音が聞こえてきた為、セナはⅣ号のメンバーに指示を出した。
「麻子さんは、いつでも発進できる状態にしておいてください。」
「ほーい」
「華さんは砲塔を後ろに向けて、直ぐ迎い撃てるように準備を・・・」
「わかりました。」
「優花里さんはいつでも装填出来るように構えて置いてください。」
「はい!」
「沙織さんは、全チームに直ぐにエンジンを掛けて発進できるように指示を送って下さい。」
「オッケー!」
セナはハッチから顔を出し目を瞑る・・・ありのままの自分で戦う為に、みほに勝利を絶対に持って帰る為に・・・セナは髪を結んでいるヘアゴムをゆっくりと外し口に加えた後、ポケットに入れる・・・ヘアゴムを外したセナの姿を見たⅣ号の全員は驚いた・・・まるでいつも見ている"みほ"本人に見えたからだ。
後方から敵戦車が見えた。P40の重戦車を筆頭にカルロ・ヴェローチェCV33の小さな戦車9両がこちらに向かっており、P40から装填音が聞こえたセナは麻子に指示を出した。
「麻子さん!ゆっくりと速度を上げて前進してください!」
「りょうかい・・・」
麻子はゆっくりと速度を上げ前進させると、敵の全車両が速度を上げ砲撃しながら、一斉にこちらへ向かって来た。セナの作戦はⅣ号を囮にして全車両を引き付け、森に隠れた4両を後方から回り込ませる事で、包囲網を作り、前方に塞がっている岩で通せんぼした後に、一気に叩くというものだ。エンジンを切り森の中に待機させたのはエンジン音で敵に気付かれるのを防ぐためである。
その光景を観客席から見ていた、聖グロリアーナのダージリンとオレンジペコは、祈る様にセナの戦いを見つめていた。オレンジペコは落ち着きが無くソワソワとしている。
「ペコ・・・あなた落ち着きがありませんわよ?」
ダージリンは平然とした口調でそう言ったがオレンジペコがダージリンの間違いを指摘した。
「ダージリン様も、ケーキをスプーンで食べてますよ?」
ダージリンは自分の犯した間違いに気付くと、直ぐに手に持っているスプーンをフォークに変えた。彼女達が不安に思うのは無理もない・・・セナが隊長をしたのは聖グロリアーナに居た頃に一回だけなのだから。
しかし、そこまで心配する必要は無かった。
セナは、アンツィオの全車両が各チームを待機させている場所を通過した所を見計らって、各チームに指示を送った。
「カメさん!ウサギさん!アヒルさん!カバさんチーム!全員出動!後方から狙い撃って下さい!」
アンツィオでは、後方からいつの間にか出てきた敵車両に困惑していた。隊長であるアンチョビと呼ばれる少女はセナの腕に驚いている。何故なら西住流が居ない大洗になら勝てると踏んでいたからだ。
「なにぃっ!?森の中に4両も待機していたのか!?西住流が居ないのに何でこんなに強いんだ!」
その光景を見た蝶野も驚いていた。
「あの娘が、隊長をしているのを初めて見たけど・・・みほさんやまほさんとはまた違うタイプの戦い方をするのね・・・」
セナは猛烈な吐き気に襲われていた。常に神経を集中させ音を聴いていたからだ。しかし、ここで倒れてはチームの指揮は誰が取るのか?と思ったセナは無理矢理吐き気を抑え込みながら、指示を出す。
「麻子さん!前方に岩が壁になる形で塞がっています!岩の直前で急旋回して森の中に入って後方に回り込んで下さい!」
「わかった・・・」
セナは後方の4チームにも指示を出す。
「皆さん!前方に岩がありますので、ゆっくりとブレーキを掛け停止した後、一斉砲撃!」
麻子はⅣ号を急旋回させると、森の中を通り後方へ周り込んだ。急に現れた岩の壁にP40は急ブレーキを踏んだが、玉突き式にコツンコツンと後方から来ているCV33が追突し身動きが取れなくなった。そして、セナが全チームの砲手に指示を出す。
「撃てっ!」
5両から一斉砲撃された弾は、容赦なくアンツィオの戦車10両を戦闘不能にし、アンツィオ戦を見事突破した。
大洗陣営に帰ると、そこには熱さまシートをおでこに付けたみほと、セナの母親であるかなえが待っていた。みほが居る事にみんな驚いていた。セナは一目散にみほの元へと向かった。
「もうっ!安静にしててって言ったじゃないですかっ!」
セナは頬を膨らませ怒っており、みほは申し訳なさそうにセナに謝った。
「ごめんね?でもどうしても皆が心配だったから・・・」
みほの言葉にかなえも呆れた表情を見せた。
「この娘・・・セナと一緒で、頑固で言う事を聞こうとしないんだもの・・・だから、お父さんと一緒にお医者様を連れて、試合を見に来たのよ・・・」
セナはオデコに手を当てて呆れていると、アンチョビがセナの元へやって、セナの手をブンブンと振った後に抱きついた。
「いや~今年こそは勝てると思ったんだけどなぁ~」
「いえ・・・私も経験不足でしたので、良い経験になりました。」
アンチョビはセナを見ると、首を傾げた。
「お前・・・どっかで見た事があるなぁ」
アンチョビがそう言うと、カルパッチョと呼ばれる金髪の美少女がアンチョビの元へとやってきた。
「ほら、中学の時に一部で有名だった、あの走るコンピューターですよ。」
アンチョビは走るコンピューターというワードを聞いた瞬間腰を抜かした。
「走るコンピューターだってー!?あの!聖グロリアーナの!?そりゃあ勝てない訳だぁ・・・よし!お前ら!宴の準備だ!」
アンチョビがそう言うと、アンツィオの生徒達が沢山の食料と調理器具をトラックから持ってきて料理を始めた。それを見たみほとセナは首を傾げた。
「「何が始まるんですか?」」
セナとみほが口を揃えてそう言うと、アンチョビはふんっと笑って大洗の生徒達を見た。
「諸君!試合だけが戦車道じゃないぞ!勝負を終えたら!選手スタッフを労う!これが!アンツィオの流儀だ!」
そしてアンツィオ校によるパーティーが始まった。みほはかなえと医者同伴でパーティーを無理せず楽しんでいる。
セナは木陰に腰を掛け、ケーキと紅茶を味わっていると、ダージリンとオレンジペコがやってきた。
オレンジペコはセナに抱き付きたくてウズウズしているようで、セナに勢い良く抱き付くと、セナの顔が真っ赤になった。
「はわわっ///」
「セナの匂い!セナの感触!」
オレンジペコの状態を見たダージリンは呆れた。
「ペコ・・・淑女らしくありませんわよ?」
「ダージリン様!今日くらい良いじゃないですか~」
オレンジペコは、セナの可愛さに魅了され、惚気ている。ダージリンは笑いながらセナの頭を撫でた。
「セナ良く頑張ったわね。」
セナは少し笑うとダージリンにお礼を言った。
「いえ・・・ダージリン様が昔、紅白戦の時に頂いたお言葉のお陰で自分を見失わず戦う事が出来ました。ありがとうございます♪」
セナが満面の笑顔を見せるとダージリンの顔が赤くなった。ダージリンはコホンと咳を払うような仕草を見せた後、帰ろうとしないオレンジペコの手を無理矢理引っ張りながら帰って行った。
その後、桃がセナに今までの仕打ちを謝りに来て、この日の戦いは幕を閉じた。
アンチョビの声が爆走兄弟レッツ&ゴーの星馬豪の声に聞こえて仕方ない(笑)